27:騎士のソニア
『【27:騎士のソニア】』
サンとルナ。魔人達との連戦を制したソニア達。
旅を終え、各々が自身の故郷へと戻り、数日が過ぎた。
―タイダル・オーシャン―
城内の一室にて治療を受けているソニアとヤチェリー。
戦いで負った傷は不思議と、血痕だけを残し癒えていると医者は言っていた。
―ギィィィ…。―
(タイダル・オーティス)「怪我は大丈夫そうだな。」
(ソニア)「まぁ、そんなに酷くなかったからな。…体力を戻す方がキツかったぞ。」
(ヤチェリー)「ねぇ、タイダル。」
タイダルは少しの間、下を向いていた。
「…お前達が思う、全てに答えよう。元より、いつか話す気でいた。」
ーーーーー
「ロワの人達はどうなった?ルナが魂を解放したんだが…。」
「魂は元の人へと戻って行った。失われた時間は長いがそれでも、あの地の人々は生きていくのだろう。それが、善意で成り立つロワという場所だ。…ちなみにだが、館の主達は森を離れた。今や陽の下、あの場所にいる。」
「ちょっと不安だけど。」
(ソニア)「でも、サンは言った。あとは本人達の問題だ。」
「そうだな。俺達が、あの関係に割り込む事はない。」
「ていうか、サン達はロワに戻れたの?…私達は理由を知ってるけど、大半の人達は知らないわけで。」
サン達。悲劇の過去をもつが、表大陸を襲撃した存在だ。
「表大陸の王達を集め、ネオ・ランドにて会談をした。…結論を言うのなら、奴らは”有罪”だ。」
(ソニア・ヤチェリー)「…。」
「だが、犠牲者はエンクだけという話をしたな。それぞれの国々で再調査をした結果、誰一人死んだ者はおらず、後遺症を負った者もいない。思えば、避けていたのだろうな。…エンクも復活し、火の国のメイド隊も、意識を取り戻した。だがこれから先、奴らの被害を受けたことで、精神が傷ついた者が出てくるかもしれない。そして破壊されたもの。”それら全てを賠償”する。」
「それって…。可能なのか?」
「王達は無茶を言い、言ったわけではない。奴らが自らの過去を話し、俺も情報を提示した。風葉亭次期王…。いや、今や王が旅で見たサン達。その考えの結果として、ロワを俺の管理下に置くこととなった。管理下に置くということは、俺の贖罪でもある訳だが…。」
「管理下に置いて何かさせるの?大量の金なんて返せるの?」
「あぁ。ロワを交易の場とする。…金で全てが消える訳ではないこと、奴らは知っている。だからこそ昔のように、人々のため生きていくと決めていた。」
「そうか。心配は、必要なさそうだな。…。」
そこからしばらくの間。部屋は沈黙であった。
まだ、話さなくてはならないものがある。誰が、その言葉を言うのか。
「タイダル。俺は昔、お前に聞いたな。”村を滅ぼしたのは誰だ”って…。旅で得た答えがある。それを、結論付けたい。"魔人"とはなんだ?”神"とはなんだ?」
「…。魔人。神。それらは…。」
―ブラック・ロワ―
―スタッ…。スタッ…。―
(騎士)「歩けるのか?」
(サン)「自分の足で歩きたいんだ…。本当に…。本当に…。 …!!!」
(人々)「―ワァ…!ワァ…!ガヤガヤ…!!!―」
「ロワ…。俺の故郷…。」
(ブラックソード)「戻ったか、サン。…。」
(ルナ)「…。こんばんは…。」
(ハザキ)「怖いか。外の世界が。」
(ルナ)「…。やっぱり私には…。」
(ヘリヌス)「ルナ。外に行きたいと言ったのは君の意思だ。…どちらだ?本当に嫌なのなら、この星を離れ、宇宙へと行くことも出来る。散り散りになった同胞達を探し旅立つか?」
(サン)「ここにいろ…。人には帰る場所が必要だ…。行くべき場所も…。そのどちらもないというのなら、ロワを家にしろ…。いいか、ルナ…。ここは君が、居ていい場所なんだよ。」
(ハザキ)「…故郷を追放された無法者の私でも、ここに居ていいと言った奴がいる。」
(ブラックソード)「戦争で国が滅びた。守る人も、大切だった人もいなくなってしまったが、新しく場所が出来た。守りたいと思う存在も、大切な存在も、また新たに出来たんだ。」
(ルナ)「ロワにいても、いいですか…。」
ルナは下を向き、震えて話す。今日は晴天。地を照らす光。
「望まれる存在になれるはずだ。…俺達は傷を負っても生きたいと思った。でも世の中には、そうは思えなくなった人もいる。」
「魂…。」
(オメガ)「サンは考えていました。あなたに負担なく、魂を吸わせ続ける方法を。」
「…痛みを知っているのなら、なれる。どうだ?…”優しい死神”になる気はあるか?」
―スッ…。―
少しやつれ細くなってしまったサンの手。けれど、その手にも。
彼にも太陽の暖かさが残っている。
―バッ…!―
暖かい手を握った。どちらの手も暖かい。
―ドスドス…!!!―
(ミア)「サン…!」
(サンドラ)「…お互い傷を負ったようだな。」
「動いて大丈夫なのか?」
「構わんよ。傷を負ってこそ強くなる。それが獣だ。…任せるがいい。力は得意ごとよ。」
「サン。休んでいてください。あなたは救ったのです。」
「あぁ。じゃあ、見ておくよ…。この景色、昔にあったもの…。これから生まれていくものを。」
新たに加わった者達。活気が戻ったロワの街。
ここから先、この街は生まれ変わる。それまでの景色を見ていこう。
それからの景色も、同じように。
「(“探しに行くよ…。二人共。それで、全てを取り戻すんだ”。)」
―タイダル・オーシャン―
「…魔人から、話すとしよう。魔人とは、神の造物。化身と同じように、神が創造したもの。星も、人も、魔物も。あとの全ても。全ては神、正確に言うのなら”神人”が生んだ。」
「…!」
「魔人は人と魔物を無理やり合わせた生物。だから寿命が短い。魂吸族を襲ったのはそのためだな。が生物の定め。繁栄からは逃れられない。魔人と吸魂族。そこから繋がる連鎖は全て、俺のミスで起きたこと。外星の存在を知らなすぎたことも、憧れの真似事で魔人を助けたこと。悪いが、俺のミスで起きたことだ。」
「タイダル。それは、邪魔な優しさだったか?」
「…。」
「俺はそう思えない。お前が考えて出した答えだったんだろ。真似事じゃなくて、自分が信じたことのはずだ。」
「…。俺が教えを受けるとはな。」
「…全部一人が創ったわけ?」
「覚悟があるのなら話そう。覗くべきではない深淵だが、どうする?」
「聞かせてくれ。」
「古い、昔。”悪の神”がこの星を呪った。動物を見た事があるだろう?」
「鳥とか…。」
「そうだ。昔はもっといた。だが魔物やその他の存在が、その神によって生み出され、あらゆる生命を狩り始めた。そして、大戦が始まるわけだ。化身や当時の人々。この星の創造主にして、化身の達の生みの親。”善の神”。その他勢力も仲間とし、戦った。」
「勝ったんだよな。今の世界を見るに。」
「…。そうだな。」
「失ったものも多いんだろうけど、残ったものもあるんだね…。」
「魔人を正しい命にさせる力。探したが見つからない。そういった力もあったらしいが、悉く残っていないんだ。」
「じゃあ、探していこう。もう、一人じゃないぞ。」
「あぁ。…共にな。」
タイダルは真実を話した。かつてこの星で起きた大戦。
その戦いの末残ったものを。
「…魔人を助けたいと思ったのはなんで?」
「…。尊敬している人は、必ずそうした。…あの人は、そういった人なんだ…。」
タイダルは悲しい顔で、話していた。…その過去だけは掘り返さずにした。
それは誰にでもある、本人だけの記憶だから。
―その日の夜…。―
―フォォォ…。―
涼しい夜風がオーシャンに吹く。
(タイダル)「どれほど生きようと、失うことは慣れないな。失敗も多くしてしまう。…やはり、あなたになることは出来ないか。…”波動が目覚めた”。奴の存在に呼応して。ソフィーナに波動が目覚めてから数年…。”奴の復活”が いよいよ…。だが、この時代ならば。どうか、見ていてくれ。…”ガラハハ”よ」
―風葉亭―
嵐咲城の一室。そこに彼女はいる。
(風花)「…。」
「風花様。こちらもお願いします。」
―ドサッ…!―
置かれたのは紙の束。
「交易場となるロワの書類ですか…。多いですね。」
「表大陸の流通を担うことになりますから。」
「(…。皆様。お元気ですか?…王としての役割は、映えがいいものではありませんが、国を維持する頂き。)」
(エンク)「グォォォォォ…!!!」
「(今も彼は優雅に、空を駆けています。あなた達も、きっとそうですから。甘えることなく、精進していきます。)」
―ネオ・ランド・シティ―
「ハハッ…!!!逃げるぞ…!!!」
―ブォン…!!!―
魔改造メカ車が、ネオの中央大道路を爆走している。
―バサァ…!―
(騎士)「逃がさんぞ…!!!」
それを追う、天空騎士達。それを見る、闇の視線…。
(リットリオ)「…天空騎士団。俺のいない間に怠けたようだな。見せてやろう。ヒーローの力。」
―竜の里―
竜の里。大木が無数になり、それらを繋ぐ木の道。
そんな里は、ここ最近、少し狭くなったようだ。
(ポゼ)「…。」
「ポゼ坊。見ない間に、随分大きくなったねぇ。」
「…竜人のばあや。久しぶり。」
「里を引っ張る気は無いのかい?断ってしまうとは。」
「僕にはまだ早いよ。…世界を見ていたいんだ。まだ全然、生きてもいないし。」
「なら世界をたくさん、見ていくんだねぇ。」
「うん。…僕はあと、何千年生きるのかな。…新しい出会いもあるんだろうね。別れだって、絶対に…。」
―サナ村跡地―
―スタッ…。スタッ…。―
(ソニア)「…。」
―パサッ…。―
一輪のハマユウ。置いた先は、家族を含めた村人達の墓。
―スッ…。―
芝生の上に座る。
「久しぶり。…色々あったんだ。…旅をしてから、本当に色々と。」
ソニアは話し始めた。墓に向かって話すのではなく、人に話すように。
―サァァァ…。―
暗い波打つ音が聞こえる。
(ヤチェリー)「ここにいたんだ。…もう夜だよ。」
「…時間が経つのは、早いな。」
―サッ…。―
「また来るよ。…帰るか。」
「うん。」
「…今日の飯なんだ?」
「帰るまで言わないよ。」
後ろを向いたのなら、何か見えたのだろうか。けれど、振り向く必要は無い。お互い隣を見て、前へ歩くのが好きなんだ。
―タイダル・オーシャン(数日後)―
オーシャン城内の一室。
―カチャ…。―
そこで金属が鳴る音が聞こえる。
―スッ…。―
衣類が揺れる軽い音も。
―ギギギ…!!!―
(タイダル)「似合ってるな。お前専用の鎧だ。」
(ソニア)「…。重くない。動きやすいな。」
「防御の心配はいらない。最高峰の鉱石だ。…それで?その鎧を来て、やるのか?」
「言ったろ?夢も叶えるって。」
「ならば宣言しろ。ソニア。お前は何になる?」
(波動の騎士:ソニア)「”波動の騎士”。」
「…騎士ソニア。俺の騎士を授ける。好きに使え。」
「…!じゃあ…。」
(タイダル)「部下が出来たな、騎士団長。となれば…。…ッフ。団名は重要だぞ。」
「…。”波動の騎士団”…!」
騎士ソニアの誕生。波動の騎士団結成である。
ー『騎士のソニア【Fin】』ー
―2年後:表大陸―
―ガタン…!―
自動カラクリ車に乗った。
(運転手)「”狩人”さん?」
(???)「…?」
「目的地はどこです?」
「あぁ、すまない。少し、考え事をしていた。」
(狩人:ディポラティア)「…。」
―つづく…。―
こんばんは、深緑です。ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。
これで騎士のソニアは完結となります。
騎士のソニアのテーマとしては、”強さ”と”普通に生きている”という二つを軸につくりました。
普通に生きていただけで、降り注ぐ不幸。そんなキャラクター達が、不幸からどう道を正し、進んで行くかを書いたつもりです。
第一話のあとがきにて話しましたが、趣味で書いていた話になります。なので軸はすでにあるのですが、小説として書くとなんやかんや時間がかかりました…。
しばらく間を開けてから、新たな話を投稿していくので、あしからず。
ちなみにですが、”地続きの話”です。騎士のソニアを読んだ前提で進んでいきますので。
ということで、次回作で会えたらとても嬉しく思います。
ここまで読んでくれた方。本当にありがとうございます。
またお会いしましょう。以上、深緑でした。




