26:生命の波動
『騎士のソニア 【26:生命の波動】』
ソニアが倒れている。状態が定かではないが、動いていないのは分かる。
―グググ…!!!―
(皆)「…!!!」
全員が、全身の力をいつもより強めた。
(ヤチェリー)「ソニア…!」
ヤチェリーは前かがみになり、ソニアの元まで行こうとしている。
―ガシッ!―
リットリオの手が強く、肩に乗った。
「待て…。奴も怪我をしている。全員でやるが、逃げることも考えておけ。」
―ポタポタ…。―
オニキスは身を包むローブをしている。
虫食いのようになっている服の穴から皮膚が見えており、血が滴っている。
決して重傷ではないが、軽傷でもない。
「…奴と同じように、判断を誤る気か。関わるべきではなかったのだ。互いにな…。」
ーーーーー
「さっきと同じようにやるだけだ。」
―シュン…!―
ニト&リル。彼らとの戦いでやったように、闇を纏い動く。
―オオオオオ…!!!―
(オニキス)「ッグ…!体が重い…。」
―ダン…!ザン…!ズサン…!―
ヤチェリーの重い一撃が顔に。風花の素早い攻撃は、二回胸に傷をつけた。
―ボタボタ…!!!―
(オニキス)「ッグ…。」
―ボォォォォ…!!!―
(ポゼ)「…!!!」
怯んだオニキスへと、高熱のブレスを放つ。
ソニアの姿を見てから、生かして戦うという選択が、
脳から薄れてしまっていた。
そうでなければ自分達も、ああなってしまう。
―ジュウウウウウ…!!!―
ポゼが放ったブレスにより、オニキスがいた周囲は焼け焦げた。
臭う煙が森に漂う。
(ポゼ)「ソニアは…。」
(ヤチェリー)「見に行く…!」
煙の向こう。ソニアの向こうに急ぐ…。
―フォ…!!!ダン…!!!―
(ヤチェリー)「ッグ…!」
―ドン…!!!―
ヤチェリーが勢いよく、木まで吹き飛んだ。
(皆)「…!」
「煙から離れろ…!!!何か見えた…。」
「僕は当てたはず…!引火させないように撃ったのがまずかったの…?」
「魔人ではないかもしれませんが…。」
煙が段々と薄膜になっていく…。不確かだった姿は朧気に見え始め…。
(???)「残念だったな…。」
―シュン…!―
煙の中からそう声が聞こえた。その一瞬。
黒く黄金の刻印が入った大剣が、風花の前に現れた。
―ギン…!!!―
(風花)「ッ…!重い…!」
―ブォン…!―
反応が間に合った風花だが、相手の力に敵わなず吹き飛ばされた。
―フォォォ…。―
その薙ぎ払いで、煙が晴れた。木々が溶けその空いた位置から、
満月が見える。
(魔人:黒金狼・オニキス)「ハァ…。」
人ではない。人型で、黒金に光る毛並みが揺れ、腕が複数生えている。
だが、大剣は一本しかないようだ。
「どうせ消えてしまう命に、少し教えてやろう…。
魔人は皆、姿を変化出来る…。」
「…ポゼ。どうやら俺達は、だいぶ運が悪いらしい…。」
「死ぬ間際、火の中から黄金の月光が見えた…。幸運だ。今宵、満月の夜…!ッグググ…!!!血が渇く…。命…!!!」
―バン…!!!―
筋肉隆々に変化したオニキスは地面を強く蹴った。
―シュウウ…。―
リットリオは闇を纏うが…。
―ググ…!!!―
(リットリオ)「ッグ…!」
オニキスの爪が、スーツを貫き食い込む。
「無駄だ。月光は平等に照らしている…。」
―ブォン…!―
そのまま投げ捨て、ポゼの元へ向かう。
(ポゼ)「(ブレスはみんなを巻き込む…。けれど、肉体戦で動きについていける気がしない。…掴む。それしかない…!)」
―バサァ…!―
翼を勢いよく広げる。
「逃げれるだろうに…。覚悟は決まっているようだな…!」
「逃げないよ。あの人だって、逃げなかったから。」
―シュン…!ザン…!スッ…。―
オニキスは素早く動き、確実にポゼに傷をつける。
ポゼは攻撃をくらい痛みがあるのに、表情一つ崩さずオニキスの後隙を狙う。
(ポゼ)「…ッ。」
「頑丈だな…。だが、限界だろう…!」
―バッ…!!!グサッ…!!!―
より強く地面を蹴った力は加速を生み、ポゼの胸へと剣が深く刺さった。
―ガシッ…!!!―
(オニキス)「…!?貴様…。」
―ボタボタ…!―
(ポゼ)「ッグ…!!!ハァ…!僕がここでやらなくて、誰がみんなを助けるんだよ!!!」
―ッググ…!!!―
ポゼは掴んだオニキスを掲げ、握る力を強める。
オニキスは刺さした剣から力を抜かず、更に刺し込んでいく。
―ギュイーン…!!!ブォォォォォォォォ…!!!!!―
―グググ…!!!グサッ…!―
(ポゼ)「ッグ…!」
(オニキス)「ッグ…!」
―フラッ…。―
両者、力が抜け…。
―バタッ…!!!―
地面に倒れ込んだ。
―フォォォ…。ー
その後、しばらく静寂が広まり…。
―スッ…。―
―グォォォォォォォ…!!!―
力強い魔人の声が、森に響いた。
その声を聞いて、立ち上がる者はいなかった。
「ハァ…。戦いのため、生まれた命…。この星を消すため、存在する…。」
オニキスは周囲を見渡した。倒れ込んだ、ヤチェリーの姿。
頭から血が流れている。意識がないようだ。
「ソニアと言ったな…。悪の名のもと、絶望を…。」
―スタッ…。スタッ…。―
オニキスはジグザグな足跡をつくりながら、ヤチェリーの元へ歩く。
「…捧げよう。いつか戻る"悪"に。」
―スッ…。―
強靭かつ鋭利なオニキスの手が、ヤチェリーに触れた。
―ファァァァァァァァ…!!!!!―
その瞬間、蒼い光が爆発した。
―ヂュミミミミミミ…!!!!!―
(オニキス)「…!」
オニキスは手を止め、後ろを見た。殺意を感じたからではない。
あまりにも純粋な思いが、恐ろしかったから。
優しさは、自身の過去を否定する。だがそれは、助けられることである。
(ソニア)「手を、離せ…。」
ソニアの体は蒼く発光しており、その光は、周囲の生命に影響を与えている。木々は柔軟に姿を動かし、草木は鋭利に頑丈に。
地面は揺れ、友を動かし一箇所に集めた。これこそ、"波動の力"。
"生命に影響を与える力である"。身体能力、他者の精神。自然。そして…。
「なぜ、胸の傷が消えている…。」
ソフィーナと同じ姿とは、倒れているだけでなく、
胸に穴が空いた姿を指していたのだが今、その穴は完全に消えており…。
―グサッ…!―
膝をつき、地面に剣を刺す。流動する波動は動く地面を止めた。
(ソニア)「…実際に体験して、理解した…。お前達は、過去に囚われてる…。」
(オニキス)「…私に言ったな。自分の故郷は、我々魔人が滅ぼしたのだと。…心当たりがある。その光景も、お前の力も。だが滅ぼされ、殺されたのなら、なぜ歩み寄る?憎しみを抱き、殺しに来い。それが正しい選択だ。」
「憎んだ…。何回も。けれど、一つの言葉でそれは、変わったんだよ…。」
ソニアは優しい目をしている。オニキスは蒼く光るその目をじっと見つめた。言葉も輝いて入ってくる。とても優しい感覚だ。
(オニキス)「(気味が悪い…。)」
自分が幸せになるということ。
それがあまりにも、オニキスにとっては気持ちが悪かった。
魔人という存在が、許されていいはずがないと、思い続けているから。
「憎しみは人を守りたいと思う、力になったんだ…。」
「ハッキリと、言ってやろう…。…古代、この星を創造した神がいたそうだ。お前のように、気味の悪い優しさをバラ撒く"善たる神"が…。その"神に使える騎士達は、お前のように、蒼く輝く力を持っていた"という…。」
(ソニア)「…。」
「我々はその逆だ。"相反する悪しき神により創造された"、殺戮のための種!!!"魔物"も、"絶滅した魔法使い"達も。幽閉され、散り散りになった"悪魔"も。」
気味が悪い。だから、突き放す事実を述べた。味方と敵の関係だということ。善と悪は、決して交わるべきではないこと。
「…憎しみは消えたんじゃない。傷は今もある…。でも、変化した。その理由は、旅をして得たんだ。色んなことを知ったよ…。今もまた。…なぁ、"上"がいるんだろ?」
それでも尚、歩み寄るソニアの姿勢。
「どうだっていい…。上も下も…。細々と暮らす、魔人の歴史の方が長いのだ…!今になって、どう治す!?ハァ…!!!ハァ…。…宇宙から落ちてきた、生物の存在を知った…。不死の心臓。確かに生きている…!我ら魔人の特性上、決してありえないことが起きた…。だが…!!!今となっては、必要ない…。…分かるだろう。周りが死に絶え、自分達だけが生き残ること…。」
全てを否定した。つもりで話した。けれど少し、本音が零れてしまう。
「だからこそ…!」
「薄っぺらな優しさなど必要ない…!!!」
オニキスは興奮した状態で、自身。魔人の気持ちを叫んだ。
その気持ちに本心はない。心を阻む悪が創った、"魔人の理"は強大だ。
「…タイダルもきっと、俺と同じ気持ちだ…!!!気持ちのこもっていない感情を、与えたりしない!!!うざったくても構わない!!!無理やりでも、渡してやる…!!!」
―ヂュミミミミミミ…!!!!!―
波動は強く光を放ち…。かつての言葉が聞こえる。
―ソニア。お前はきっと、全てを守るのだな…。―
「聞こえてぞ…。サン。」
―怖かったの…。―
「俺にもある。怖いこと。」
彼の声。種族全体の声も。
―"我々に、希望の光を…"―
「…!思いは受け取った…。」
―バッ…!!!―
力を振り絞り、剣を構え立つ。勝とう。この戦いが、この旅最後の戦いだ。
(波動の騎士:ソニア)「俺は騎士だ…!!!この場にいる全員、死なせず守りきる…!!!」
(オニキス)「ッ…!!!」
ーーーーー
(オニキス)「…!!!」
―ダッ…!!!―
オニキスは地面を強く蹴り、ソニアに近付く。
…体力がもうない。短時間で決めなければ、勝てない。
―ヒュヒュン!!!バババ…!!!―
踊るように、地面に生えた草がオニキスを攻撃する。
―ザン…!ギン…!―
(オニキス)「ッチ…!」
斬りつつ近付くも、草の個体によれば足を縛り邪魔をする。
斬ってもなお異常成長し、復活する。
「厄介だ…。生命との共鳴…!!!」
(ソニア)「…!時間は稼げた。」
オニキスの動きを止める間、ソニアは波動を溜めていた。
それは自身のみならず、周囲の植物から吸収する方法でも。
―ッグ…!ヂュゼミミミミミミミミ…!!!!!―
全身の輝きは最高峰に達した。この先、これ以上ないほどに波動が溢れる。
―バッ!!!―
ソニア、オニキス。両者一歩踏み込む。
―ダダダ!!!―
二本、残していた木が素早く、オニキスの進行方向を攻撃した。
その状態で木々は止まり…。
―ヂュゼミミミミミミミミ…!!!!!!!―
音、視野で分かる。木々を斬り、来る。
―バッ…!!!―
(オニキス)「来い…!!!」
―ザン…!!!―
―バオオオオオオオオオオオオオ…!!!!!!!―
二人の剣が勢いよくぶつかった。
その衝撃で、ソニアが纏った波動は、天へ大地へ。
少し離れた海までも流れた。
その日の夜。オーシャン周辺では、蒼く光る粒が見えたと言う。
(オニキス)「…。」
―シュウウウ…。―
オニキスの変身が解けた。
―ポワポワ…。―
周辺にいた全てに、波動が浸透していった。
(ソニア)「ハァ…。ハァ…。意識が…。」
―スッ…。―
(リットリオ)「限界の中、戦っていたな。」
(ポゼ)「立てる…?」
(風花)「えぇ。私がヤチェリーを運びます。」
「無理しないでね…。」
「きっと、一番軽傷のはずです…。リットリオ、あなたは無理をしますから…。」
「…戻るぞ。ここは危険だ。」
―ザッザッ…!!!―
(オニキス)「…。」
(魔人)「ググググ…!!!」
ソニアの波動は、何者も区別せず広がった。それは本人の意思であったから。
(オニキス)「…追うな。ッグ…!…あれが、勝者の特権だ…。」
―ザッ…。ザッ…。―
(リル)「オニキス…。」
「…?…!!!喋れるのか…?」
(ニト)「急にね…。」
「少し、だけかもしれないけど…。違和感は、ない。」
「(時間をつくったのか…。自身の力で…。だがそれほど長くは続かないだろう…。)」
(ニト)「これからどうする?」
(オニキス)「…全て、私の思い込みだった。だから、静かに生きていこう。これからも。いつか来る、確実を信じて。…待っている。救いの時を。我々が、人として生きていけるその時を。…すでに、その片鱗を体感した…。」
―チュン…!チュン…!―
優しく暖かに光る朝日を浴びながら、帰ろう。




