24:魂の解放
『騎士のソニア 【24:魂の解放】』
(アメガミ)「…!」
(スズナリ)「…!」
―ズサン…!ドン…!―
霊体のような二体は、ルナの感情に呼応するように激しく暴れている。
(ソニア)「終わったぞ…!」
(リットリオ)「手をかせ。奴ら、何やっても効かないようだ。」
「実体がないのだと思います。」
「魂ってことか…。俺の力なら、やれるかもしれない。」
サンを倒したソニア。状態が不安定なルナを止めるため戦闘に入る。
力が抜け座り込んだルナもまた…。
―スッ…。―
ルナは大鎌を手に持った。
(ルナ)「あなた達も、みんなを殺すの…?」
―――――
(アメガミ)「…!」
(リットリオ)「…!」
―ドォォォ…!!!―
闇で巨大な斧を抑えるリットリオ。
抑えが外れてしまえば、巨大な斧が振りかざされる。
「ソニア…!ルナを狙うしかない!」
「あぁ!」
(スズナリ)「…!」
(風花&ヤチェリー)「…!」
―ギギギギ…!!!―
先行するソニアからルナを守るため、近付くスズナリだが。
「どうかお願いします!」
「任せろ!」
サンとの戦いで、波動は更に進化していた。
ソニアはその力の効果を、直感的に感じ取りサンへと放った。
「(波動。相手の肉体、命に影響を出せるはずだ…。)」
―ヂュミミミ…!!!―
剣に波動を纏わせ、ルナを狙う。
(ルナ)「…!」
ルナの過去は刺激されていた。今もまだされ続けている。
その刺激が限界を超えたのなら…。
―ギュアァァァァァァァァン…!!!―
(ソニア)「…!吸収か!?」
ルナは白紫の光を浴びはじめた。
(ポゼ)「…。」
ポゼは戦いの全体を見通しており…。
「…これは!」
―バサッ!―
ソニアの元へ急ぐ。
ルナは魂からくるであろう力を、大鎌へと集中させている。
ロワの人々。その魂による力の集中。
(ソニア)「いや違う…!」
(ポゼ)「ソニア…!」
―ドスッ!
―
ポゼはソニアに激突し、攻撃範囲から出るようにそのまま二人は倒れ込んだ。
―ギュミミ…!ザォォォォォォォォ…!!!―
―ゴゴゴゴゴ…!!!バキバキ…!!!―
(皆)「…!」
その斬撃から、全員生き残っている。だが館の半分は崩壊し、切れている。
ルナが放った光波によって。
(ルナ)「ハァ…。ハァ…。」
ルナの精神は極限に達している。が、あの威力。疲労している。
(ソニア)「…。」
―カラン…。スタッ…。スタッ…。―
ソニアは剣を置き、慎重にルナへと近付いていく。
―ヂュミミミ…。―
波動を手に纏わせ…。
―スッ…。ピタ…。―
膝をついているルナの手に重ねた。波動は優しく、ルナの体へと流れていく。
―ポワポワ…。―
(ルナ)「ごめんなさい…。みんなが死んで、怖かった…。
生き残るため、対抗する力を得るために、ロワへ行ったの…。」
懺悔するかのように語るルナ。魂吸族は魂を吸い食料とする。
また、力にもするのだ。
―スッ…。スタッ…。―
(リットリオ)「お前…。限界だろうに…。」
(サン)「…ッグ!」
サンは力を振り絞りルナ達の元へ少しだけ近付いた。
「ダメだな…。進めそうにない…。せめて、言わなくては…。
お前が、何かから恐怖を感じるというのなら、ロワは守るだろう。
あそこは、そういう場所だった…。偏見も差別もない…。だから頼む…。
“普通に生きていた”だけなんだ…。俺達は望む。魂の解放を…。」
(ルナ)「…。…!」
―バタ…!!!ビチャア…。―
サンは倒れた。血を吐きながら…。
(皆)「…!!!」
―――――
館の外へと出たソニア達。
館の火はヘリヌスの風起こしで消し、森林火災とはならずに済んだ。
「…。大丈夫でしょうか。」
「ポゼ達を待つしかない。リットリオが言ってたろ?
ネオは表大陸において技術が一番高いって。医者を信じよう。
サンも、エンクも救うってな。」
―バサバサ…!!!―
(ヤチェリー)「…!どうだったの?」
あの後冥火竜へと変化し、サンとリットリオを乗せ、ネオへと飛んだポゼ。
(リットリオ)「サンは生きている。エンクの心臓も、鼓動があるようだ。
厳重に保管し、早急に向かうと言っていた。」
(風花)「フッ…。」
風花の迷いもまた、この場で晴れたことだろう。
(ヘリヌス)「フム。まずはありがとう。この言葉は、先に伝えなければならない。…ルナよ。君はどうだ?」
「解放、するよ。」
(リットリオ)「この二体はどうなるんだ?ずっと気になっていたんだが。」
「別に大丈夫。その子達は、私の故郷で作ったものだから。
魂も、人のものではないよ。」
アメガミとスズナリ。
今はもう言葉を発しないが、ルナに従っているということは、
生前の魂と仲が良かったのだろう。
(ポゼ)「本当にいいの?生きていくために必要なことでしょ?
死んじゃう、よね…?」
「それもそうだけど…。やっぱり、人が傷付くのは嫌だから。
この考えが、もっと早く出せたらよかったね…。」
「…。その考え、俺もあるよ。」
自身の考えが膨大になり、処理できず、周りが見えなくなってしまうこと。
「ほんと?」
「俺と…。」
「私。」
「…なんだけど、タイダルって奴に救われたんだ。友達だけど、実質親みたいなものだな。あいつには本当に感謝してる。村がなくなった俺達は、あの後荒んでた。それを正してくれたのは、タイダルなんだ。」
(ルナ)「それが、あなた達の…。」
(ヘリヌス)「オーティスか。」
ソニアとヤチェリーは、ヘリヌスに聞こうとした。"タイダルの正体"とは。
出会った時から見た目が変わらず、様々な事を知り尽くしているタイダル。
だけれどもやめた。
タイダルが何者であっても、二人にとっては友であり親だから。
(ソニア)「解放、もうするか?」
「うん。もったいぶらずに、もうやろう。」
(ポゼ)「…。魂を吸うの、人じゃなきゃダメなの?」
ルナが吸った魂を解放する。それは空腹状態になり飢餓になるということ。
死が近くに訪れる。
「…でも、人以外にいないよ。動物は魔物に殺されていったらしいから、もうほとんどいないし。魔物の魂は好きじゃない…。あれは吸っちゃダメ…。悪意で満ちてるから。」
悪へと堕ち、力を得たいのなら吸ってもよい。
が、ルナにとってそれは死そのもの。
わざわざ恐怖へ向かう方が、ルナにとっては死よりも怖いことなのだ。
「ルナよ。サン。あるいは私の友人に聞いてみよう。彼は言ったのだろう。
彼のような人物は覚悟がある。守ると言ったのなら、助けてくれるはずだ。」
「ありがとう、ヘリヌス。…じゃあ、みんな。やるよ。」
―シュワァァァァァァァァァァ…!!!―
入る時は朝だった森。今や晴天の夜。
光り輝くロワの魂達は、ルナの胸元より元の場所へと羽ばたいていく。
―ポワポワ…。―
戻っていった魂達。だがひとつ、動かないものがある。
(皆)「…?」
「戻らないの…?」
ルナは不思議そうに語りかける。
―ポワポワ…。シュウウ…。―
その魂は、ロワへと戻ろうとせず、ルナの胸元に入っていった。
(ヘリヌス)「戻らない魂…。」
(ソニア)「どうしてだ?」
(ルナ)「…?」
ルナは分からなかった。
その声はいつも、数多くある魂達の声と、重なって聞こえていたから。
だが今、一つの魂は語りかける。
(???)「ここで、私はいいよ。もう、戻る場所はないから。ここで、あの子の姿を見させて。」
「…。あなたがいいのなら…。みんな。しばらくの間は大丈夫。」
その魂はルナの元へと入った。
その者の寿命が、どれほどあるのかは分からないが、
それが切れるまでは生きていける。
「そうか。…よかったな。」
魂の質が分かるルナ。ミアから話を聞いていたソニア達。
何となくだが、残った魂が誰かは分かる気がした。
晴天の夜を背に歩いていく魂たちを見送る…。
―グオオオオオオオオオ!!!!!―
空気を破壊する咆哮が、森に響いた。
その場にいた何人かは、記憶に染み込んでいる声。
(ソニア)「今の…。」
「…"魔人"だ。最近、よく声が聞こえるようになった。
きっと、次世代が産まれてきていたのだろう。」
(ソニア)「…ヘリヌス。俺は行きたいよ。」
魔人。その危険性は知っている。魔人の声は、かなり近くから聞こえた。
力を失った今のルナが、相手を出来るとは思えない。
「…前提として、戦闘は避けるんだ。私から落ちた機械の一部を持っていきなさい。何かあれば破壊するんだ。その合図で、森を破壊する。」
「望んではないだろ?そうならないよう頑張るさ。」
「…気をつけて。」
(ソニア)「行くか?」
(皆)「…。」
全員は静かに同意した。すでにここは魔の森。
何処から見られていてもおかしくない。
「無事戻る。」
「待っている。」
―スタッ…。スタッ…。―
ヘリヌスとルナは、消えていく姿に、思いを宿しながら見送る。
「魔人…。人と魔物を歪に合わせた、戦いのための特攻種。気をつけよ。
それは、“悪の意志”の塊だ。」
霧がかりの森。その奥に進んでいく…。
<“魔境”>
こんばんは、深緑です。
評価などもらえて、とても嬉しく思います。
今後伸びていくかは分かりませんが、あのような感覚は、忘れずに生きていきたいですね。
いい経験を、すでにさせてもらいました。
さて、騎士のソニア。完結までもう少しになります。




