2:旅立ち
『騎士のソニア 【2:旅立ち】』
―6年後―
―水の国:タイダル・オーシャン―
―チュン!チュン!―
さえずりが聞こえる。空の光が、広場の噴水を光らせる。
(ソニア)「…。」
―スッ。―
(「強くなりたい。」ヤチェリー)
「ヤチェがいなくなって、随分経つ。俺も行こう。…行ってきます。」
ヤチェリーの手紙も、家族写真も、帰る場所として、家に残しておく。
―王宮―
(タイダル・オーティス)「行くのか?」
「色んなものを見に行くよ。父がもってた、“波動”の力を知ってみたい。」
―ヂュミミミ!!!―
父ソフィーナがもっていた、“蒼く輝く力”。
子であるソニアにも、その力は発現した。
力の性質にあった名として、“波動”と呼ぶとタイダルは言っていた。
「ヤチェの行方だって。“あの日”のことも…。」
「行ってくるといい。俺は帰りを待ってるぞ。」
「行ってくる。」
―スッ…。―
「あ、“夢”も叶えるぞ。」
「そうか?なら尚更、帰りが楽しみだな。」
―ファサアアア!!!―
水の香りをのせた風は、ソニアの旅路に吹いている。
さらばオーシャン。しばしの別れだ。
「さて、どんな風に進んでいこうか…。そうだ、国を回っていこう。最初は…。」
<“土砂の国:マリア”>
土砂の国へとオーシャンから向かうには、いくつかの方法がある。
ソニアは洞窟を通る近道を選んだ。
―竜の里―
―ドオオオオンン!!!―
爆音が、辺りの草原に響いた。
「…!今の、“竜の里”の方か?下手に近づかない方がいいって聞くが…。」
―ブオオ!!!―
「火!中で何が…!門の前。…!!!」
そこそこのガタイのソニアが、全力で門を開けようとしたが、びくともしない。
この門は人を通さない。
竜と竜人の里だと誇示する、鉄壁の門なのだ。
―ドゴン!!!―
「…!!!」
門に何かが勢いよく当たった。
潰される前によけられたのは、“波動”のおかげなのかもしれない。
「…竜!おい!この傷は…」
(竜)「人間か…。」
―ブオン!!!―
また何かが勢いよく飛んできた。だがそれは…
―ガシ!―
「…小竜か?」
(???)「づぅ…。いて…。」
「何が起きてる?」
「…!人…!?君も襲いに来たの!?」
「俺は一人だ。旅中の、ただの人間だ。」
「とりあえず戻らないと!」
「…!待てよ!」
「人の子…。あの子を守ってやってくれ…。まだ幼くも、君と同じ、正義溢れる子なのだ…。」
「…。」
―ソニア。守る意味を探すんだ。―
「頼む…。」
―バッ!―
ソニアにとって、迷いはなかった。
父と同じ背中が、竜からは感じられたのだろうか。
「名前は!」
「…!?」
(小竜:ポゼ)「ポゼ…!」
「俺はソニアだ…!行くぞ!!!」
―――――
(暴走竜)「ギャオオオ!!!」
「あいつか…!…子供?」
「油断しないで!みんなそれでやられてる!」
(ミア)「私を守って…」
―サッ!―
(サドラ)「グウウ!」
「狼か…!」
「みんな、行くよ…」
「今、助けるから!」
―――――
「グオオ!!!」
サドラ達が、狩りの連携が如く、ソニアに襲いかかる。
―ザン!スッ、ズサ!―
タイダルとの訓練で積んだ身のこなしで、サドラ達を斬っていくが…。
「数が多い…!ポゼ!」
「任せてよ!」
―ギュイーン!フオオ!―
小竜の火力でも、十分なタイミングを稼げた。
―スッ!ヂュミミミ!!!―
暴走竜へと、ソニアが踏み込む。父があの日やったように、蒼を纏い…。
「無駄だよ。」
「そうか?」
―ザン!―
傷は浅く、だが竜は倒れた。
「なんで…」
「さぁな。色んな力が、これにはあるんだ。」
―ババッ!!!―
(二人)「…!」
「速いな。」
「ごめんよ。あんまり抑えられなかった…」
その少女は戸惑いながらも、生き残ったサドラに連れられ、里から去っていった。
―――――
「少しいいか?」
「君か。」
「あの子は何だったんだ?」
「分からないな。人との関わりは少ない。恨みを買うような覚えもない。だからまったく分からないのだ。」
「だが、幻術のような“赤い霧”のようなものを使っていた。それと、“血を採られた”と言っている者たちがいたな。」
「幻術使いで、血を採る…。」
「人の子。里を助けてくれたこと、感謝している。」
…視線を感じる。不安と希望が混じる、不完全な目線達が。
「…君を警戒しているな。」
「それもそうか。そろそろ出ていくよ。」
「…君は、」
「…?」
「世界を歩んでいるのか。」
「まぁ。」
「なら、あの子を連れていってはくれないか?外の世界に憧れをもっているんだ。」
―――――
―スタッ。スタッ。―
「…。」
―バサ!バサ!―
「ソニア!聞いたよ!もう、行くんだね。」
「…。僕も…。…」
「来いよ。」
「…。」
「強くなるんだろ?」
「…!なるよ、強く!君みたいな人の翼に、僕はなりたいんだ!!!」
少し寄り道をしたソニア。
その前と比べ、羽音がする、少し賑やかな隣が増えた。行こう。
<“土砂の国:マリア”>




