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騎士のソニア  作者: 深緑蒼水


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18/27

18:太陽たる希望の光

『騎士のソニア 【18:太陽たる希望の光】』


冥火たる白炎を操れるようになり、巨体な姿へと変化したポゼ。

ポゼの背に乗り、始まりの地であるタイダル・オーシャンへと向かう。

空から見える景色は、今までの旅を想起させるものであった。

生死が関係した祭り。正義が光る街。王の器を知った風。

緩やかに動き始めた流砂。強力な友との出会い。

そして、はじまりの海。


―タイダル・オーシャン―


―スタッ…。スタッ…。―

少し懐かしく感じる景色を、みんなで歩く。


(ソニア)「どうだ?」

(ヤチェリー)「懐かしい…。変わってないや。…いい意味だよ?」


城前へと着いたソニア達。その姿を見る者がいる。


「ッフ…。来たか。…ここだ!!!」

(皆)「…!」


声の方を見る。窓から顔を見せるタイダルの姿があった。


(ソニア)「…!おーい!」

(タイダル・オーティス)「昔を思い出すな…。」

(ヤチェリー)「入っていい?」

「あぁ。中で待ってる。」


ーーーーー


―ギィィィ…!―

青を基調とした王室。外で煌めく空と水の光が、窓から立ち込める。


「好きに座ってくれ。」


―ボフッ…。―

横長の椅子に五人で座った。向かい合う形で、タイダルと話し始める。


「久しぶりだな、ソニア。…顔つきが変わった。力の扱い方も、身についた所か。」

「本当か?…力は研究中だ。まだ、慣れないところがある。」


“波動”の変化にソニアは気づいている。反応がよくなったり。

瞬発力や斬撃として飛ばせることを。

だが、完全にコントロールできているわけではなかった。


「ヤチェリー。戻ってきたようだな。」

「まぁね。」


二人の会話は淡白だ。お互いを信用し、本音を別の言葉に乗せて話している。きっと、思いの内は伝わっているんだろう。


「…色々なことがあっただろう。全てが終わったあと、是非聞かせてくれ。

 いつになっても、そういった話は好きなんだ。」


タイダルは旅話を聞く気持ちを抑え、目の前の問題へと話題を移した。

「現在、表大陸を脅かしている事件。“竜の里”から始まったとされるこれら。」

(ポゼ)「あれ?知ってるの?」

「俺の国だ。騒がしい周囲の差など分かるさ。」

「風雷の国々でも被害が出始め、火にもそれは訪れた。」

(リットリオ)「そうだ。…気になってることなんだが、死者は出たりしたか?」

「暫定死者は、風の化身:エンクだけだ。怪我人は多いがどれも軽傷。すぐ治るレベルだという。」

「やはり、物を奪うのが目的だと言えますね。」

「国々は被害に遭っている。莫大な被害がないとはいえ…。危険だ。そこで…。」


―ダン!!!―

タイダルは表大陸の大陸地図を広げた。


「赤く囲ってある小島。ここが“ブラック・ロワ”。奴らの拠点があると思われる。」

「船で行くんだろ?…でも、何日かかかるよな?」

「安心しろ。数時間で到着できる。お前達も準備ができ次第、浜辺に来い。

 俺とソニア一行。騎士を少数引き連れ向かうぞ。」


    <”ブラック・ロワ”>


―タイダル・オーシャン浜辺―


―ザアァァ…。サァァァ…。―

静かに波打つその海の中、それはいる。


(水の化身:タイダルぼっち)「ぼぉぉぉぉ。」


タイダルぼっちと言われる水の化身は、風葉亭にて古来から伝わる”妖怪”の一種に似ていることからそう名付けられた。


「ぼっちを連れて行く。こいつが推進力だ。」

「ぼぉ。」

「俺と同じように、水の化身もスーツを着ているのか。」

(ソニア)「昔からな。」

「劣化しないのか気になるけど。」


タイダルぼっちは巨大な身体を、布素材だと思われるもので包んでいる。だがそれは濡れることがなく、劣化もせず着ているようだ。故に不思議話として、オーシャンでは話題に上がる。


「さぁ、覚悟が出来た者は乗れ!!!向かうのは敵地だ!追い詰められた相手が、今までと同じように殺しを避けるとは限らん!奴らは手練だ。油断はするな。」


騎士もソニア達も、言葉を発することなく船へと乗る。

覚悟は、すでに出来ている。


―ザァァァ…!!!―

ぼっちが浅瀬に待機してある船を引く。

そして後ろに着き、船の安定感を保たせながら、海をスピードよく進む。


―ブラック・ロワ―


ブラック・ロワが視認出来る海域へと着いた。

辺りは少し霧がかかり、緊張感が増す。


「見えるか?」

(騎士)「確認します。」

「ソニア。何か分かるか?」


―ヂュミミミ…。―

「いや、何も感じない。」「…人気がありません。」


騎士とソニアは続けて言った。

霧に包まれたその街は、異様な静けさでそびえ立つ。


「すぐ戦闘に入れるよう構えておけ。…上陸する。」


―ブラック・ロワ海岸―


「ぼっち。お前はここに残れ。逃げた時はお前に任せる。」

「ぼぉ。」

(ソニア)「どう探す?」

「…。俺は一人でいい。騎士達、ソニア達で進め。それと、こういったところでは常に警戒しておけ。確実に安全だと分かるまで、気を抜くな。一瞬でもっていかれることもある。」


ソニア達。騎士一同。タイダル。この三手に分かれ、薄く広がる霧の中を慎重に進む。


「本当に誰もいないな…。」

(リットリオ)「ソニア、家だ。」


―バキッ…。―

リットリオが差す方向には木造の家があった。かつては温度があったと思われるその家は、着実と崩壊の音を出していた。


―ギッ…。―


(ヤチェリー)「開かないの?…もう殴って入ろう。」


―ダン…!!!―

木の扉を吹き飛ばして中に入る。


「ほとんど残っていませんね…。」


ほとんど。とは大事な物などはなく、家具だけある状況だ。


(ポゼ)「ボロボロだね…。」

「なんか分かるか?」

(リットリオ)「…。こういった場所に入ることがある。分かるか?埃だとか、虫がいないだろう。人がいるということだ。奴ららなのかは分からんが、この家に出入りし、掃除をしている者がいる。」


一同が寂しく静まる空間を眺めていた…。


―ドオオオオンンン!!!―


(皆)「…!!!」

「騎士達の方向…!」


―ッダ…!!!―

ソニアがいち早く音の方向、騎士達が向かった場所へと急ぐ。

あとに続き残りの4人も追う。


(ポゼ)「ッグググ…!!!」

(リットリオ)「気負いすぎるなよ。」

「…うん。」


―ブラック・ロワ中心部―


―ダッ…!!!―

音がした場所が見えてきた。声も聞こえる。


(タイダル)「動くな。」

(騎士)「…っ。」


騎士の半数は制圧されていた。


(ブラックソード)「…。」


「黒鎧。お前に酷似した奴はどこだ?」

「確実に来る。お前達が来たならば。」


ブラックソードは騎士達数人を抑えている。

脚に怪我を負わせており、逃げるには治療が必須だ。


「炎王にやられたと見えるな。」


タイダルは全員に言った。薄い霧の中、その中でも濃度が濃い場所。

オメガはそこから、タイダルの頭へと狙いを定めていた。


―サァァ…!!!―


「…気付いた時の作戦はあるようだが。」


―ギン…!ザォォォォン…!!!―

オメガとは別方向に待機していたハザキ。タイダルとの鍔迫り合いが起きるが、自身より高圧に纏わせられる水の斬撃で吹き飛ばされた。


―ザザザッ…!!!―

(ハザキ)「ッグ…。」

「焦るなハザキ…。」


そう言うブラックソードだが、時間が経った今でも火傷の痛みが引いていない。それに、捨てた鎧部分が足りていない。

オメガもグァンザに搭乗していない。


「タイダル!!!」

「ソニア達…。来たか。」


中心部に着いたソニア達。今の三人相手に抑えられるほど弱くなどない。

旅を経て強くなったから。


―カッ…。カッ…。―

霧の奥。足音が響く毎に、雲が晴れ、霧もなくなってきた…。


―ヂュミミミ…!!!―

波動が強く知らせる。異様な気配。様々なものが混ざり合った、歪な感覚が。


(黒鎧の男…?)「やはり、いつかはバレてしまうものだな。」

「ソニア。」

「タイダル。俺達に、やらせてくれ。」


タイダルは、自分が黒鎧の男と戦うと提案しようとした。

だが、それを遮るソニアの言葉。各々の目や背中を見て。


「分かった。周りは全て俺がやる。お前達の気を途切れさせない。

 …託したぞ。」

「…。お前達か。何人か増えたな。姿も変わったか。」

(ソニア)「お前も…。その姿はどうした…。」


黒鎧の男。そう呼び始めたが、今や黒鎧は部分的にあるのみ。

ない部分からは、竜の鱗。荒々しく変化した腕が。

甲冑からは角が剥き出しになっている。

もはや、ただの人間ではないようだ。


「あるべき姿になっただけだ。」

(リットリオ)「それがあるべき姿か?竜野郎。…ありのままの姿こそ、愛される姿なんだがな。」

「何と言われようと…。」


―ジュウウゥ…!フォォォォ…!!!―

少量の火が、男の身から出ている。その火だけでは、大した威力にはならないが…。

―ビョオオオオオ!!!!!―

烈風に乗った火は強烈な温度でソニア達へと向かう。


「みんな!」


―バサッ…!!!―

ポゼは翼をソニア達へ覆いかぶした。その翼がなくなった時、男の顔が半分だが見えた。


―カラン…。―

甲冑の半分が落ちる。


「退くつもりなどない。…俺は”サン”。」

(サン)「ブラック・ロワの、希望の光だ…!!!」


ーーーーー


―ザォォォォンンン!!!―

烈風と火を纏う最上の槍を振るい、辺りの木々が揺れる。


(皆)「…!!!」

「どうだ…!これが烈火の力…!」


揺れる火が辺りに降り注ぐ。

―ボォ…!ボォ…!―

進まなくてはならない。強く風が吹き、身を焼く火が襲うとしても。


「その力、見覚えしかありません…!返してもらいます…!!!」


―ザン…!!!―

風花は、エンク&エンタへと放った斬撃を、サンに放った。


―ギギギギギ…!!!―

サンは斬撃を受け止めている。


「返すさ…。だが、まだ早い…!!!」


―ズザン…!!!―

軌道をズラされた斬撃はサンの後ろに逸れた。だが、時間は稼げた。

すでに距離は近い。


(ヤチェリー)「破壊の跡を見ると、昔を思い出す…!!!」


―ダン…!ダン…!―

ヤチェリーはサンの槍を交わし拳を当てる。


「昔か。全員が共通してもつもの。だがその大きさ、全員が同じとは限らない。」


―スッ…!!!―

槍を構える。


(リットリオ)「遅いな。」


―ドォォォォ…!!!―


「過去で正当化する気か。覚悟があるならいいが、重さを簡単には語るなよ。」

「ッグ…。」


闇はサンに命中し怯んだ。


「覚悟はある…。ずっと、この中に…。」


―フォォォ…!!!―

再び槍を構える。


「食らわせてやれ。ポゼ。」

(ポゼ)「…!」

(サン)「ッ…!!!」


―ギュイーン…!!!ブゴォォォォォォォォォ!!!!!―

豪火と烈風が激しくぶつかり合い、周りの木々に移るほどに広がる。


―ファァァ…。―

火と風が止み…。


―ザッ…!ヂュミミミ…!!!―


(サン)「…早い。後ろか…!!!」


―バチバチ…!!!ギギギギギ!!!!!―

赫と蒼がぶつかる。


「ここで止める…。託されたんだ、俺は!!!」

「ッグ!!!」


纏った波動はより強く光り、サンの膝をつかせる。


「ッ…!人の気持ちに敏感なようだな…。破壊された街並みを見るのは、特に好きではないのだろう…。だがな…」


―ブォォォォ…!!!!!―

烈火と烈風が舞う。風はより鋭く、火は火力を増して。


「ッな…!」


ソニアは大きく後ろに倒れた。

―バタッ!!!―


(サン)「託されたのは俺もだ。」


―ビョォン!!!―


そう言い残し、サンと名乗った男は瞬時に跳躍し消えてしまった。


「ックソ…。」

「逃げたか。…何か目的があるようだな。」

「ぼっちが何かするでしょ。一人で背負わないで。」


ーーーーー


タイダルは圧勝であった。だが、その勝利には違和感がある。


(タイダル)「怪我は治さないのか?」


―バチ…。―

(オメガ)「…。」


「話さないのか。奴は、逃げたのか…。」


ーーーーー


高速で飛行するサン。


(タイダルぼっち)「…。」


―ザァァァァァァ…!!!―

ぼっちはサンを追うように高速で海を泳ぐ。

オーシャンの浜辺へと着いた。

サンが向かった先は表大陸。タイダル・オーシャン国内。

霧が濃く立ち籠む迷いの森。その中にサンは入っていった。


「…。ぼぉ…。」


ブラック・ロワで起きた戦い。それは不完全さを残し終わった。

サンの行方を知らせるため、ロワへと戻るぼっち。

託された思いの対決は、サンの方が強いと言える。

何が、サンを強く動かすのだろう。

何を求め、国々を襲ったのだろう。

霧が晴れた街。ソニア達は、過去を知るべく探索をする…。

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