18:太陽たる希望の光
『騎士のソニア 【18:太陽たる希望の光】』
冥火たる白炎を操れるようになり、巨体な姿へと変化したポゼ。
ポゼの背に乗り、始まりの地であるタイダル・オーシャンへと向かう。
空から見える景色は、今までの旅を想起させるものであった。
生死が関係した祭り。正義が光る街。王の器を知った風。
緩やかに動き始めた流砂。強力な友との出会い。
そして、はじまりの海。
―タイダル・オーシャン―
―スタッ…。スタッ…。―
少し懐かしく感じる景色を、みんなで歩く。
(ソニア)「どうだ?」
(ヤチェリー)「懐かしい…。変わってないや。…いい意味だよ?」
城前へと着いたソニア達。その姿を見る者がいる。
「ッフ…。来たか。…ここだ!!!」
(皆)「…!」
声の方を見る。窓から顔を見せるタイダルの姿があった。
(ソニア)「…!おーい!」
(タイダル・オーティス)「昔を思い出すな…。」
(ヤチェリー)「入っていい?」
「あぁ。中で待ってる。」
ーーーーー
―ギィィィ…!―
青を基調とした王室。外で煌めく空と水の光が、窓から立ち込める。
「好きに座ってくれ。」
―ボフッ…。―
横長の椅子に五人で座った。向かい合う形で、タイダルと話し始める。
「久しぶりだな、ソニア。…顔つきが変わった。力の扱い方も、身についた所か。」
「本当か?…力は研究中だ。まだ、慣れないところがある。」
“波動”の変化にソニアは気づいている。反応がよくなったり。
瞬発力や斬撃として飛ばせることを。
だが、完全にコントロールできているわけではなかった。
「ヤチェリー。戻ってきたようだな。」
「まぁね。」
二人の会話は淡白だ。お互いを信用し、本音を別の言葉に乗せて話している。きっと、思いの内は伝わっているんだろう。
「…色々なことがあっただろう。全てが終わったあと、是非聞かせてくれ。
いつになっても、そういった話は好きなんだ。」
タイダルは旅話を聞く気持ちを抑え、目の前の問題へと話題を移した。
「現在、表大陸を脅かしている事件。“竜の里”から始まったとされるこれら。」
(ポゼ)「あれ?知ってるの?」
「俺の国だ。騒がしい周囲の差など分かるさ。」
「風雷の国々でも被害が出始め、火にもそれは訪れた。」
(リットリオ)「そうだ。…気になってることなんだが、死者は出たりしたか?」
「暫定死者は、風の化身:エンクだけだ。怪我人は多いがどれも軽傷。すぐ治るレベルだという。」
「やはり、物を奪うのが目的だと言えますね。」
「国々は被害に遭っている。莫大な被害がないとはいえ…。危険だ。そこで…。」
―ダン!!!―
タイダルは表大陸の大陸地図を広げた。
「赤く囲ってある小島。ここが“ブラック・ロワ”。奴らの拠点があると思われる。」
「船で行くんだろ?…でも、何日かかかるよな?」
「安心しろ。数時間で到着できる。お前達も準備ができ次第、浜辺に来い。
俺とソニア一行。騎士を少数引き連れ向かうぞ。」
<”ブラック・ロワ”>
―タイダル・オーシャン浜辺―
―ザアァァ…。サァァァ…。―
静かに波打つその海の中、それはいる。
(水の化身:タイダルぼっち)「ぼぉぉぉぉ。」
タイダルぼっちと言われる水の化身は、風葉亭にて古来から伝わる”妖怪”の一種に似ていることからそう名付けられた。
「ぼっちを連れて行く。こいつが推進力だ。」
「ぼぉ。」
「俺と同じように、水の化身もスーツを着ているのか。」
(ソニア)「昔からな。」
「劣化しないのか気になるけど。」
タイダルぼっちは巨大な身体を、布素材だと思われるもので包んでいる。だがそれは濡れることがなく、劣化もせず着ているようだ。故に不思議話として、オーシャンでは話題に上がる。
「さぁ、覚悟が出来た者は乗れ!!!向かうのは敵地だ!追い詰められた相手が、今までと同じように殺しを避けるとは限らん!奴らは手練だ。油断はするな。」
騎士もソニア達も、言葉を発することなく船へと乗る。
覚悟は、すでに出来ている。
―ザァァァ…!!!―
ぼっちが浅瀬に待機してある船を引く。
そして後ろに着き、船の安定感を保たせながら、海をスピードよく進む。
―ブラック・ロワ―
ブラック・ロワが視認出来る海域へと着いた。
辺りは少し霧がかかり、緊張感が増す。
「見えるか?」
(騎士)「確認します。」
「ソニア。何か分かるか?」
―ヂュミミミ…。―
「いや、何も感じない。」「…人気がありません。」
騎士とソニアは続けて言った。
霧に包まれたその街は、異様な静けさでそびえ立つ。
「すぐ戦闘に入れるよう構えておけ。…上陸する。」
―ブラック・ロワ海岸―
「ぼっち。お前はここに残れ。逃げた時はお前に任せる。」
「ぼぉ。」
(ソニア)「どう探す?」
「…。俺は一人でいい。騎士達、ソニア達で進め。それと、こういったところでは常に警戒しておけ。確実に安全だと分かるまで、気を抜くな。一瞬でもっていかれることもある。」
ソニア達。騎士一同。タイダル。この三手に分かれ、薄く広がる霧の中を慎重に進む。
「本当に誰もいないな…。」
(リットリオ)「ソニア、家だ。」
―バキッ…。―
リットリオが差す方向には木造の家があった。かつては温度があったと思われるその家は、着実と崩壊の音を出していた。
―ギッ…。―
(ヤチェリー)「開かないの?…もう殴って入ろう。」
―ダン…!!!―
木の扉を吹き飛ばして中に入る。
「ほとんど残っていませんね…。」
ほとんど。とは大事な物などはなく、家具だけある状況だ。
(ポゼ)「ボロボロだね…。」
「なんか分かるか?」
(リットリオ)「…。こういった場所に入ることがある。分かるか?埃だとか、虫がいないだろう。人がいるということだ。奴ららなのかは分からんが、この家に出入りし、掃除をしている者がいる。」
一同が寂しく静まる空間を眺めていた…。
―ドオオオオンンン!!!―
(皆)「…!!!」
「騎士達の方向…!」
―ッダ…!!!―
ソニアがいち早く音の方向、騎士達が向かった場所へと急ぐ。
あとに続き残りの4人も追う。
(ポゼ)「ッグググ…!!!」
(リットリオ)「気負いすぎるなよ。」
「…うん。」
―ブラック・ロワ中心部―
―ダッ…!!!―
音がした場所が見えてきた。声も聞こえる。
(タイダル)「動くな。」
(騎士)「…っ。」
騎士の半数は制圧されていた。
(ブラックソード)「…。」
「黒鎧。お前に酷似した奴はどこだ?」
「確実に来る。お前達が来たならば。」
ブラックソードは騎士達数人を抑えている。
脚に怪我を負わせており、逃げるには治療が必須だ。
「炎王にやられたと見えるな。」
タイダルは全員に言った。薄い霧の中、その中でも濃度が濃い場所。
オメガはそこから、タイダルの頭へと狙いを定めていた。
―サァァ…!!!―
「…気付いた時の作戦はあるようだが。」
―ギン…!ザォォォォン…!!!―
オメガとは別方向に待機していたハザキ。タイダルとの鍔迫り合いが起きるが、自身より高圧に纏わせられる水の斬撃で吹き飛ばされた。
―ザザザッ…!!!―
(ハザキ)「ッグ…。」
「焦るなハザキ…。」
そう言うブラックソードだが、時間が経った今でも火傷の痛みが引いていない。それに、捨てた鎧部分が足りていない。
オメガもグァンザに搭乗していない。
「タイダル!!!」
「ソニア達…。来たか。」
中心部に着いたソニア達。今の三人相手に抑えられるほど弱くなどない。
旅を経て強くなったから。
―カッ…。カッ…。―
霧の奥。足音が響く毎に、雲が晴れ、霧もなくなってきた…。
―ヂュミミミ…!!!―
波動が強く知らせる。異様な気配。様々なものが混ざり合った、歪な感覚が。
(黒鎧の男…?)「やはり、いつかはバレてしまうものだな。」
「ソニア。」
「タイダル。俺達に、やらせてくれ。」
タイダルは、自分が黒鎧の男と戦うと提案しようとした。
だが、それを遮るソニアの言葉。各々の目や背中を見て。
「分かった。周りは全て俺がやる。お前達の気を途切れさせない。
…託したぞ。」
「…。お前達か。何人か増えたな。姿も変わったか。」
(ソニア)「お前も…。その姿はどうした…。」
黒鎧の男。そう呼び始めたが、今や黒鎧は部分的にあるのみ。
ない部分からは、竜の鱗。荒々しく変化した腕が。
甲冑からは角が剥き出しになっている。
もはや、ただの人間ではないようだ。
「あるべき姿になっただけだ。」
(リットリオ)「それがあるべき姿か?竜野郎。…ありのままの姿こそ、愛される姿なんだがな。」
「何と言われようと…。」
―ジュウウゥ…!フォォォォ…!!!―
少量の火が、男の身から出ている。その火だけでは、大した威力にはならないが…。
―ビョオオオオオ!!!!!―
烈風に乗った火は強烈な温度でソニア達へと向かう。
「みんな!」
―バサッ…!!!―
ポゼは翼をソニア達へ覆いかぶした。その翼がなくなった時、男の顔が半分だが見えた。
―カラン…。―
甲冑の半分が落ちる。
「退くつもりなどない。…俺は”サン”。」
(サン)「ブラック・ロワの、希望の光だ…!!!」
ーーーーー
―ザォォォォンンン!!!―
烈風と火を纏う最上の槍を振るい、辺りの木々が揺れる。
(皆)「…!!!」
「どうだ…!これが烈火の力…!」
揺れる火が辺りに降り注ぐ。
―ボォ…!ボォ…!―
進まなくてはならない。強く風が吹き、身を焼く火が襲うとしても。
「その力、見覚えしかありません…!返してもらいます…!!!」
―ザン…!!!―
風花は、エンク&エンタへと放った斬撃を、サンに放った。
―ギギギギギ…!!!―
サンは斬撃を受け止めている。
「返すさ…。だが、まだ早い…!!!」
―ズザン…!!!―
軌道をズラされた斬撃はサンの後ろに逸れた。だが、時間は稼げた。
すでに距離は近い。
(ヤチェリー)「破壊の跡を見ると、昔を思い出す…!!!」
―ダン…!ダン…!―
ヤチェリーはサンの槍を交わし拳を当てる。
「昔か。全員が共通してもつもの。だがその大きさ、全員が同じとは限らない。」
―スッ…!!!―
槍を構える。
(リットリオ)「遅いな。」
―ドォォォォ…!!!―
「過去で正当化する気か。覚悟があるならいいが、重さを簡単には語るなよ。」
「ッグ…。」
闇はサンに命中し怯んだ。
「覚悟はある…。ずっと、この中に…。」
―フォォォ…!!!―
再び槍を構える。
「食らわせてやれ。ポゼ。」
(ポゼ)「…!」
(サン)「ッ…!!!」
―ギュイーン…!!!ブゴォォォォォォォォォ!!!!!―
豪火と烈風が激しくぶつかり合い、周りの木々に移るほどに広がる。
―ファァァ…。―
火と風が止み…。
―ザッ…!ヂュミミミ…!!!―
(サン)「…早い。後ろか…!!!」
―バチバチ…!!!ギギギギギ!!!!!―
赫と蒼がぶつかる。
「ここで止める…。託されたんだ、俺は!!!」
「ッグ!!!」
纏った波動はより強く光り、サンの膝をつかせる。
「ッ…!人の気持ちに敏感なようだな…。破壊された街並みを見るのは、特に好きではないのだろう…。だがな…」
―ブォォォォ…!!!!!―
烈火と烈風が舞う。風はより鋭く、火は火力を増して。
「ッな…!」
ソニアは大きく後ろに倒れた。
―バタッ!!!―
(サン)「託されたのは俺もだ。」
―ビョォン!!!―
そう言い残し、サンと名乗った男は瞬時に跳躍し消えてしまった。
「ックソ…。」
「逃げたか。…何か目的があるようだな。」
「ぼっちが何かするでしょ。一人で背負わないで。」
ーーーーー
タイダルは圧勝であった。だが、その勝利には違和感がある。
(タイダル)「怪我は治さないのか?」
―バチ…。―
(オメガ)「…。」
「話さないのか。奴は、逃げたのか…。」
ーーーーー
高速で飛行するサン。
(タイダルぼっち)「…。」
―ザァァァァァァ…!!!―
ぼっちはサンを追うように高速で海を泳ぐ。
オーシャンの浜辺へと着いた。
サンが向かった先は表大陸。タイダル・オーシャン国内。
霧が濃く立ち籠む迷いの森。その中にサンは入っていった。
「…。ぼぉ…。」
ブラック・ロワで起きた戦い。それは不完全さを残し終わった。
サンの行方を知らせるため、ロワへと戻るぼっち。
託された思いの対決は、サンの方が強いと言える。
何が、サンを強く動かすのだろう。
何を求め、国々を襲ったのだろう。
霧が晴れた街。ソニア達は、過去を知るべく探索をする…。




