17:火の一族
『騎士のソニア 【17:火の一族】』
―数日後―
―チュンママァァァ!!!―
爆音で鳴く鳥類が、朝を知らせる。
(ソニア)「ッ…。」
(リットリオ)「起きたか。」
「…。どうなった…?」
目を覚ましたソニア。ソニアとリットリオは、宿の中にいた。
―シャッ!!!―
窓のカーテンを開けて、先に起きていたリットリオが言う。
「奴らは逃げたそうだ。」
「街が…。」
「奴らの目的だが、情報整理の末、達成はされたようだ。だがそれも極小。
ほとんど失敗と言っていいらしい。」
「他のみんなは?」
「生きている。カリデュピスは修理に時間がかかるそうだが、無事だと言っていた。」
「そうか、よかった。」
「怪我が治ったあと、来てほしいとゼノが言っていた。今は治せ。俺もそうだが、全員酷くやられている。」
「…。骨、折れてるレベルだよな。」
「あぁ。」
「案外大丈夫なんだが…。」
「それはあいつの…」
ーーーーー
(ポゼ)「ゼノ。」
「ハハッ…!まずは一人か?やったな。」
「うん。」
「身体には慣れたか?力はどうだ?」
王宮の庭に現れたポゼ。3階にいるゼノと目を合わせてポゼは話す。
「慣れたかな。ただ、なんでこうなったかはよく分からなくて…。」
小竜であったポゼだが、今やその面影はなく。成人とまではいかないが、
身体は巨大かつ強靭になった。
「火だ。火は人体に影響をもたらす。トスの火が、お前の中で巡った。
あの時間、サンドラという巨狼へと攻撃するまでの間に。本来時間をかけ、
可能性を秘めた者がなるものだが…。その竜の進化を“覚醒”と呼ぶ。」
「覚醒…。これって、無限なんだよね?」
「お前の身体に異常がなければ。何しろトスの火は、急激にお前の身体を進化させたんだ。トスが抜けた今、加速して進化するようなことはない。
だから今無事なら大丈夫だ。…素質がある。ポゼ。お前にはな。」
「僕に?」
「あぁ。カリデュピスだが、時間が遅ければ死んでいた…。火が消える前、
修復に入れたのは、お前の力あってだ。そこで一つ、提案だ。」
「…?」
「特に力が強くなるわけではない。名を得る気はないか?“冥火竜:ポゼ”。」
「名前…。」
―火の祭壇―
ルボトス王宮の裏山。今のポゼでも、余裕で入れる大きな岩があった。
―ギギギギギギ…!!!―
正確に言うならばそれは岩でもあるが、巨大な扉であった。
暗く広がる岩の道。天井は高く、奥行は長い。横幅は広い。
岩の柱に立てかけられた火が、小さく揺れている。
「ここは…」
「祭壇だ。」
「火は消えないの?」
「トスの火だ。奴が死んだ時、ここにある火も消える。」
ポゼは辺りを見渡した。薄くだが、壁に掘られている絵が見えた。
「ねぇ。壁に絵があるの?」
「よく見えたな。そうだ。絵がある。俺が生まれるより遥か昔から、この祭壇はあると思う。ルボトスに残っている書籍から読み解くならば、"初代炎王の時代"。」
「…それって何年前?」
「さぁな。」
―ボォ!!!―
祭壇の前へとついた。その両脇にある火は強く燃えている。
正面の絵を見れるように。
赤茶色の岩壁には、神々しく描かれた男の姿があった。
「世界には"神"と呼ばれる存在がいたそうだ。」
「この世界に?」
「あぁ。俺の妄想だが、"この世界の外"にもいるのではないかと思う。」
「…?」
「俺が今から話すことは、先代の炎王から聞いた話だ。…この壁に描かれた存在は、"始炎神:グラン"と言い、語り継がれている。グランは宇宙へ行き、星になった。そして、宇宙を照らす火の星が生まれたという。朝と昼が訪れるのは、その影響だ。そしてグランが星になった後、朝と昼が生まれたように、"火が生まれた"。それはグランを祖とした力。そして火に惹かれ、火を宿した者を"火の一族"と呼ぶ。火の一族はそれぞれが、祖たるグランの名を証として刻んでいる。」
「ゼノにもあるの?」
(炎王:ゼノ・グランオー)「"グランオー"だ。グランの名をつけるというのは、そういったファン文化だと思ってくれればいい。興味があるならつけてみろ。火を扱う者は、そう呼ばれる価値がある。」
「…やってみたい。興味があるよ。自分は変わったんだっていう、証拠として。刻んでおきたい。」
「そうか。ならば、何と名乗る?」
炎王ゼノが語るは、"神"と呼ばれる存在であった。
ポゼが特に惹かれのは、名をつけるという行為。
やはり何かに惹かれる者は、火を宿す運命にあるのだろう。
ーーーーー
―ブォォォォ!!!―
石へと刻んだ名を、強く燃える火の中に落とした。
(冥火竜:ポゼ・グランク)「…。」
「いい名だ。もしかしたらお前と、同じ名をもつ者がいるかもしれん。それほど一族は多いということだ。」
「それでも構わないよ。」
「…成長したな。これでお前も火の一族だ。例え血が繋がっていなくとも、
一族はグランの名で結ばれている。誇るがいい。グランの名を。」
"グランク"と名付けたその名前を刻み、祭壇をあとにする。
祭壇に入る前と比べ、何やら重さを感じる。
だがその重さはプレッシャーでなく、勇気の重さだと感じた。
―数日後―
宿を出たソニア達。初めて会ったかのように思える友と再開した。
(ポゼ)「やぁ、みんな。」
(ソニア)「すごいな、ポゼ…!飛べるんじゃないか?」
「急にでかくなって不便じゃない?」
「それなんだけどね…」
―ボオン!!!―
ポゼの身を火が包んだ…。その中から現れたのは見知った友の姿であった。
「小さくはなれるんだ。一応ね。ただ、またあの大きさになるために、
火を加速させなくちゃだから、体力を使うんだけど…。」
「遅くて構わん。身へくるダメージを考えておけ。遅く加速させれば害はないと、ゼノが言っていただろう?」
「なら、また建物に入れますね。」
「そうだね。でもこれが許されるのは、普通に成長する時間までらしいけど。」
「雑談は終わりだ。ゼノへ会いに行くぞ。」
ー王宮ー
「来たか。元気そうでなによりだ。…お前達の力を借りたい。」
(リットリオ)「見つけたか?」
「リットリオから聞いた、"ブラック・ロワ"という名。」
(リットリオ)「ネオに依頼をバラまいたのは、確実にあいつらだ。」
「言葉を聞けるほど傷が治ってないが、厳重に捕縛したサンドラ。
学者達に毛を調べさせた。結論は…。奴らは"ブラック・ロワ"にいる。」
(皆)「…!!!」
「そこで、俺も行きたいところ何だが、あの大狼が暴れては困る。
だからお前達に頼みたい。」
(ソニア)「俺たちでやれるか?」
「"タイダル"王へと連絡をしておいた。返事もきている。ロワへ行くには、
海を渡っていくべきだ。そしてロワへと一番近い場所が、オーシャンだ。」
(ヤチェリー)「行く。」
(ポゼ)「僕は忘れない。」
(リットリオ)「代償の罪は軽くない。」
(風花)「返してほしいものがあります。」
(ソニア)「行かない理由がない。」
(炎王:ゼノ)「なら、行ってこい!お前達ならば成せる!必ずな!
出会えて良かったぞ…!!!」
ゼノへと別れを告げ、ルボトスを離れるソニア達。
火をゆっくりと加速させ、姿を変化させる。翼を広げ、背に乗ろう。
行こう。故郷たるオーシャンへ。
<“水の国:タイダル:オーシャン”>
―ブラック・ロワ―
―ドックン!!!ドックン!!!―
(黒鎧の男)「…!!!」
鎧を脱いでいる男は、ベットで目を覚ました。
(オメガ)「おはようございます。最終調整、終わりました。」
「身が軽い…。だが…。ッグ…!!!」
―ボタッ!!!―
男が吐いた血は、混ざった色となっていた。
竜の血を身体へと流した。その力は火を生む力になる。
神の心臓を移すには、膨大なエネルギーが必要だ。神の雷をエネルギーへと変換させる。
そして最後の一つ…。
(ブラックソード)「大丈夫か?」
「ハァ…。あぁ…。先は長くない…。早く行かなくては…。」
(ハザキ)「待て。」
―スッ…。―
最上たる黒槍を、ハザキが渡した。
「…。」
(ハザキ)「槍だけだ。作れたのは。」
「オメガから聞いた…。サンドラは逃げてれなかったそうだな…。」
(ブラックソード)「あぁ。ミアが部屋から出てこない。」
「…ミアへ会いに行く。それが終わったら、俺は行く。次などない。
"自らの命を懸けた、挑戦"だ。」




