15:あなたに聞こえる声
『騎士のソニア 【15:あなたに聞こえる声】』
蒸し暑い夜…
(ソニア)「ッグ…!」
―繧ス繝九い繝、繝√ぉ繝ェ繝シ蜉ゥ縺代※豁サ繧薙□谿コ縺輔l縺…!!!―
ぐちゃぐちゃな言葉と記憶が夢に出る…。
いつもより長い夜を過ごし、いつもより早い朝を迎えた。
汗ばんだ布団の上、目を覚まし考える。
「乗り越えた気でいた…。ただ、時間が過ぎていただけで…。
“冥火祭“。そこにいけば…。」
ーーーーー
―チュンママァァァ!!!―
いつも通りなら笑えていたかもしれない。
そんな爆音で鳴く、ルボトス周辺に生息する鳥類が朝を知らせる。
「“冥火祭”へ行こう。」
「本気か?」
「俺なりに考えた。行けば死に対して、何か得られるかもと思って。」
「私も行きたい。ソニアと同じ考え。」
「行きましょう。後悔しないためにも。」
「自分で決めたことならば。」
「僕も!」
「ありがとう…。変に気遣いさせたな…。」
「…?」
冥火祭へと参加することにしたソニア達。
ただリットリオは、ソニアに対して少し違和感を抱いた。
あの時の声が聞こえていたのだろうか?
それとも態度に出ていたのだろうか。
―ヂュミミミ…。―
リットリオは目を細めて見た。ネオで見た、ソニアが纏った光。
薄っすらだが、ソニアが“波動“を纏っているように見えた。
「(…常に纏っているのか?)」
―ルボトス:広場―
―ガヤガヤ!!!―
人が円の形に集まり、その中にソニア達もいる。円の中心に何か見えた。
「あれはなに?」
「“器”だな。召喚するという、“火の化身:トス”を。それが開演の合図だ。」
―スタッ…。スタッ…。―
(ソニア)「…“炎王“。」
(ゼノ)「皆…!見よ…。」
炎王ゼノが現れ、自身の大剣を掲げた。そして…。
―ブォォォォォォ!!!―
(火の化身:トス)「…!!!」
器より火の化身トスが現れた。巨大な火そのものであるトスは、冥火“である白い炎を空へ捧げた。
その白い炎が天へと送られる。それが冥火祭の“開炎“の合図だ。
「冥火祭、開演だ…!!!」
今年も始まる。死者へと送る火の祭りが。
ーーーーー
(ハルドピサラ)「待て、今行くのか?」
「あぁ。上から見えた。」
「まだやることがあるだろう…。」
「間に合うようにする。」
(カリデュピス)「ハルド。ゼノを理解出来ていませんね。」
「一人で行くのは信用ならん。」
「…。私が行きます。やれることはやっておいてください。」
ーーーーー
―スタッ…。スタッ…。―
亡き者へ送る言葉を書き、冥火で天へと送る。気球機構のそれは“天思”と呼ばれる。天思へと言葉を書くため、移動しようとしたソニア達だが、何やら近付く足音が聞こえる。
(ソニア)「…みんな。」
(皆)「…?」
「足音だ。一人こっちに来る。」
「足音など、人の声で聞こえは…」
(ゼノ)「…。まるで、待っていたかのような気だな。驚かせようと思ったが…。お前達だな…!!!話しは聞いて見たぞ。」
「炎王自ら何の用だ?」
「ヒーローリットリオ。そして旅人達。ネオを救った英雄達よ。俺は興味あるものに惹かれる性格だ。知ってるか?お前達の活躍。」
(皆)「…。」
(カリデュピス)「急に話しては、引かれてしまいますよ。」
「そうか?待て、慌てるな…。そうだな、異色なパーティーに提案だ。俺が今まで生きてきた感覚なんだが、心に宿す火が何となく分かるんだ。俺には見えるぞ…。強く燃える心の火が。」
(皆)「…。」
「だが…。名前はなんと言う?」
「ソニアだ。」
「揺れているな。ここで消えてしまうこともありえる。」
「…!」
「ハァ…。距離が近いのが、あなたの悪さですが…。」
「冥火祭、書く言葉は決めたか?」
「…正直、自信がない。納得のいくような言葉が、思いつかない…。」
「…君もだな。」
(ヤチェリー)「…!そうだよ…。」
「そうか。ならば、“生命の意義”を探しに行くか?冥火祭の時間はまだある。」
「意義…?」
「何をするんだ?」
ソニア達の前に現れた、炎王ゼノ。自身の経験から、ソニアとヤチェリーの揺れを見破った。
亡き者へと送る言葉が思いつかないソニアとヤチェリー。
言葉もそうだが、この傷との向き合い方も、幼い二人には分からないことであった。
「“生命を狩る”。強制はしない。」
ソニアとヤチェリーは一瞬戸惑った。自分が何の命を奪うのかを。だがゼノの目や言葉には、今まで何度か感じたことがある、確信があった。
「やる。」
重なった二人の声。
「なら決まりだな。安心しろ、人は殺さない。」
「ゼノ。今日は、眠れないと思ってください。それを承知ならば、止めません。」
「ハッハッ!!!安心しろ。俺は遅れない。…“ギルド”へ行くぞ。着いてこい。」
ゼノは豪快な自信でソニア達を引き連れギルドへと向かった。
(風花)「…いいのですか?」
「言っても無駄ですから。恥ずかしい所を見せましたね。あなたも彼と同じ王だと言うのに。ですが大丈夫です。だから行ってきてください。ゼノは何かを考えています。あなた達が、答えを得られる何かを。」
―ギルド―
―バン!!!―
ゼノはギルドの扉を躊躇なく開けた。
ギルド。そう呼ばれる場所は、古い時代。
魔物と呼ばれる存在が出現してから、人の命を守るため、当時の炎王が創設した戦士達の集いの場なのである。
「入るぞ!!!」
(戦士)「…炎王様!!!」
受付へと肘を置き、前のめりにゼノが言う。
「何かあるか?依頼を受けたい。」
(受付嬢)「…お待ちください。」
そう言い、受付嬢はすぐ取れる依頼書ではなく、裏に行き依頼書を持ってきた。その紙は少し色褪せており、依頼発行から時間が経っているのが分かる。
「こちらはどうでしょう?」
「見よう。…どうだ? 」
ゼノは依頼書を見せてきた。“巨竜”の討伐だ。
「平和だった草原に、巨竜が棲んでしまったらしい。しばらく時間が経っているが、更新されている。今も生きていると言える。」
(ヤチェリー)「殺すの?」
「あぁ、命は不条理なものだ。平等ではない。」
(ソニア)「行こう。」
「報酬を用意しておいてくれ。すぐに戻る。」
―シュラクザーノ燃草原―
以前は緑が広がり美しい景色だった草原に、面影はない。
ルボトスから遠く離れた、田舎である草原。
そこにある村は放棄され、他生物の気配は微塵も感じられない。
(リットリオ)「人は生きているのか?」
「ルボトスにいるとの事だ。」
「進めるでしょうか?」
風花が言うそれは確かな言葉だ。
草原の至る所に、消えず残っている火が広がっており、
常に草木が燃え、付近の空は黒く澱んでいる。
「俺がいなければ無理だろう。さぁ、行くぞ。」
ゼノのあとについて行く。燃える火の合間合間を通って。
「ここから先、必ず戦いが起こる。迷っていては命が危うい。いいか?自分達の行いを正当化させるんだ。人が生きていくうえで、こういった存在は消さなければならない。でなければ、人間は滅ぶ。…準備はいいか?俺が道を切り開く。」
草原を進み、エグれている地面を下っていった。
巨竜の低い声が聞こえる…。
―グググ…!!!―
―ザッ…!!!ドオオオオオ!!!!!―
ゼノは大剣を振りかざし、巨竜が囲んでいたであろう岩を破壊した。
「構えろ。…もう巣の中だ。」
―ギョロ…!―
巨竜は寝ていた。だが、自分の身を狙うものがいる。
(巨竜)「…グオオオオ!!!」
―キュウウウ…!―
「後ろに何かいるけど…」
(ポゼ)「子供だよ。」
「下がってもいいぞ。」
「ううん。大丈夫。」
ポゼは分かっていたし、聞こえていた。巨竜と小竜の言葉が。
だがそれでも、ソニア達と共にいる。
「グオオオオ!!!」
ーーーーー
―ザン!!!―
ゼノは大剣を軽く振り、巨竜を討伐した。
正直、ゼノ一人で良かった。だが、ソニア達がこの場にいるということが、重要なのだ。
―ヴヴヴヴ…!―
「その子はどうするの?」
「いい運命はない。この年齢で親がいなければ、自然下で生きてはいけない。このまま放置してもいいが、業者に持ってかれるのもまた危険だ。人を脅かす存在になりうる。」
「なら、俺がやるよ。」
―ッグ…!―
(皆)「…。」
ソニアは剣を握った。
いつもより強く、手から力が抜けないように。
目はより鋭く、対象を見ていられるように。
―ザン!!!―
草原に棲まう巨竜は討伐された。
自然は回復し、生物達も戻ってくるだろう。
人もまた、この場に戻ろうと思うかもしれない。
ソニア達は静かな沈黙を続け、草原をあとにした。
―ルボトス―
―ファサァ…。―
今度はソニアが、宿のデッキへと行こうと…。
「…。」
思ったが、ヤチェリーがいた。
死に対する答えは得られていたが、正解なのかは分からない。
ソニアは足音が出ないよう静かに下がり、宿から出た。
特に行くところを考えず、街を歩んでいく。
「…。」
腰をつき、空を見た。星降る夜だ。あの日と同じ。
「眠れないか?」
「炎王…。」
「仕事は終えた。あの後、あまり話すことができなかったな。だから探していた。」
「炎王も、誰かを亡くしているの?」
「…ヤチェ。」「君も来たか。」
「気づかないと思った?いつから知ってると思ってるの。」
ヤチェリーは知っている。ソニアの歩き方を。
「あるさ。俺は、親を知らない。」
(二人)「…!」
「父と友であったというゴーレムの“ハルドピサラ”。母が作り、火を吹き込んだ“人形のメイド隊”。そいつらに育てられ、ここまで老いるほど、生きてきた。親の温かさを知らない俺が、君達と同じ視線に立つことは出来ない。だが、あいつらを失うと考えると…。人を亡くして、何が辛い?」
(二人)「…。」
二人は迷った。自分の中にある言葉は、正直なものであるが、幼稚なものであると思ったから。
「正直でいい。誰もが思うことだ。俺もまた…。」
「“会いたいよ”」
「そうだな。」
ある日突然、襲われた村。そして死んだ、親を含める村人達。
何者も、突然死んでしまう。巨竜も、人も。
「恨み辛みは永遠だ。“人から人に伝わってしまう悪いもの”。優しさというものは、“人から人に伝わる良いもの。”どちらも伝播するが、もたらすものが違う。死者の声が届くことはない。だから会いたくなる。
だが、その先に行ってはならない。そうなる前に生きている者が背中を押す。いいか?命の終わりは、次への希望。全ての生命は託されて今を生きている。故その命、無駄にすることなかれだ。若者よ。思う存分、生きてみよ。恨みも優しさも、君達次第だ。」
ゼノには見えていた。二人に宿る大きな炎。
白と黒が混ざる異色の炎は、どちらの色にもなりうる。
この死に対する答えが出るのはまだ先だが、送る言葉は決まった。
あなたに送る…。
“会いたいと”




