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騎士のソニア  作者: 深緑蒼水


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15/27

15:あなたに聞こえる声

『騎士のソニア 【15:あなたに聞こえる声】』


蒸し暑い夜…


(ソニア)「ッグ…!」


―繧ス繝九い繝、繝√ぉ繝ェ繝シ蜉ゥ縺代※豁サ繧薙□谿コ縺輔l縺…!!!―


ぐちゃぐちゃな言葉と記憶が夢に出る…。

いつもより長い夜を過ごし、いつもより早い朝を迎えた。

汗ばんだ布団の上、目を覚まし考える。


「乗り越えた気でいた…。ただ、時間が過ぎていただけで…。

“冥火祭“。そこにいけば…。」


ーーーーー


―チュンママァァァ!!!―


いつも通りなら笑えていたかもしれない。

そんな爆音で鳴く、ルボトス周辺に生息する鳥類が朝を知らせる。


「“冥火祭”へ行こう。」

「本気か?」

「俺なりに考えた。行けば死に対して、何か得られるかもと思って。」

「私も行きたい。ソニアと同じ考え。」

「行きましょう。後悔しないためにも。」

「自分で決めたことならば。」

「僕も!」

「ありがとう…。変に気遣いさせたな…。」

「…?」


冥火祭へと参加することにしたソニア達。

ただリットリオは、ソニアに対して少し違和感を抱いた。

あの時の声が聞こえていたのだろうか?

それとも態度に出ていたのだろうか。


―ヂュミミミ…。―


リットリオは目を細めて見た。ネオで見た、ソニアが纏った光。

薄っすらだが、ソニアが“波動“を纏っているように見えた。


「(…常に纏っているのか?)」


―ルボトス:広場―


―ガヤガヤ!!!―


人が円の形に集まり、その中にソニア達もいる。円の中心に何か見えた。


「あれはなに?」

「“器”だな。召喚するという、“火の化身:トス”を。それが開演の合図だ。」


―スタッ…。スタッ…。―


(ソニア)「…“炎王“。」

(ゼノ)「皆…!見よ…。」


炎王ゼノが現れ、自身の大剣を掲げた。そして…。


―ブォォォォォォ!!!―


(火の化身:トス)「…!!!」


器より火の化身トスが現れた。巨大な火そのものであるトスは、冥火“である白い炎を空へ捧げた。

その白い炎が天へと送られる。それが冥火祭の“開炎“の合図だ。


「冥火祭、開演だ…!!!」


今年も始まる。死者へと送る火の祭りが。


ーーーーー


(ハルドピサラ)「待て、今行くのか?」

「あぁ。上から見えた。」

「まだやることがあるだろう…。」

「間に合うようにする。」

(カリデュピス)「ハルド。ゼノを理解出来ていませんね。」

「一人で行くのは信用ならん。」

「…。私が行きます。やれることはやっておいてください。」


ーーーーー


―スタッ…。スタッ…。―


亡き者へ送る言葉を書き、冥火で天へと送る。気球機構のそれは“天思”と呼ばれる。天思へと言葉を書くため、移動しようとしたソニア達だが、何やら近付く足音が聞こえる。


(ソニア)「…みんな。」

(皆)「…?」

「足音だ。一人こっちに来る。」

「足音など、人の声で聞こえは…」

(ゼノ)「…。まるで、待っていたかのような気だな。驚かせようと思ったが…。お前達だな…!!!話しは聞いて見たぞ。」

「炎王自ら何の用だ?」

「ヒーローリットリオ。そして旅人達。ネオを救った英雄達よ。俺は興味あるものに惹かれる性格だ。知ってるか?お前達の活躍。」

(皆)「…。」

(カリデュピス)「急に話しては、引かれてしまいますよ。」

「そうか?待て、慌てるな…。そうだな、異色なパーティーに提案だ。俺が今まで生きてきた感覚なんだが、心に宿す火が何となく分かるんだ。俺には見えるぞ…。強く燃える心の火が。」

(皆)「…。」

「だが…。名前はなんと言う?」

「ソニアだ。」

「揺れているな。ここで消えてしまうこともありえる。」

「…!」

「ハァ…。距離が近いのが、あなたの悪さですが…。」

「冥火祭、書く言葉は決めたか?」

「…正直、自信がない。納得のいくような言葉が、思いつかない…。」

「…君もだな。」

(ヤチェリー)「…!そうだよ…。」

「そうか。ならば、“生命の意義”を探しに行くか?冥火祭の時間はまだある。」

「意義…?」

「何をするんだ?」


ソニア達の前に現れた、炎王ゼノ。自身の経験から、ソニアとヤチェリーの揺れを見破った。

亡き者へと送る言葉が思いつかないソニアとヤチェリー。

言葉もそうだが、この傷との向き合い方も、幼い二人には分からないことであった。


「“生命を狩る”。強制はしない。」


ソニアとヤチェリーは一瞬戸惑った。自分が何の命を奪うのかを。だがゼノの目や言葉には、今まで何度か感じたことがある、確信があった。


「やる。」


重なった二人の声。


「なら決まりだな。安心しろ、人は殺さない。」

「ゼノ。今日は、眠れないと思ってください。それを承知ならば、止めません。」

「ハッハッ!!!安心しろ。俺は遅れない。…“ギルド”へ行くぞ。着いてこい。」


ゼノは豪快な自信でソニア達を引き連れギルドへと向かった。


(風花)「…いいのですか?」

「言っても無駄ですから。恥ずかしい所を見せましたね。あなたも彼と同じ王だと言うのに。ですが大丈夫です。だから行ってきてください。ゼノは何かを考えています。あなた達が、答えを得られる何かを。」


―ギルド―


―バン!!!―


ゼノはギルドの扉を躊躇なく開けた。

ギルド。そう呼ばれる場所は、古い時代。

魔物と呼ばれる存在が出現してから、人の命を守るため、当時の炎王が創設した戦士達の集いの場なのである。


「入るぞ!!!」

(戦士)「…炎王様!!!」


受付へと肘を置き、前のめりにゼノが言う。


「何かあるか?依頼を受けたい。」

(受付嬢)「…お待ちください。」


そう言い、受付嬢はすぐ取れる依頼書ではなく、裏に行き依頼書を持ってきた。その紙は少し色褪せており、依頼発行から時間が経っているのが分かる。


「こちらはどうでしょう?」

「見よう。…どうだ? 」


ゼノは依頼書を見せてきた。“巨竜”の討伐だ。


「平和だった草原に、巨竜が棲んでしまったらしい。しばらく時間が経っているが、更新されている。今も生きていると言える。」

(ヤチェリー)「殺すの?」

「あぁ、命は不条理なものだ。平等ではない。」

(ソニア)「行こう。」

「報酬を用意しておいてくれ。すぐに戻る。」


―シュラクザーノ燃草原―


以前は緑が広がり美しい景色だった草原に、面影はない。

ルボトスから遠く離れた、田舎である草原。

そこにある村は放棄され、他生物の気配は微塵も感じられない。


(リットリオ)「人は生きているのか?」

「ルボトスにいるとの事だ。」

「進めるでしょうか?」


風花が言うそれは確かな言葉だ。

草原の至る所に、消えず残っている火が広がっており、

常に草木が燃え、付近の空は黒く澱んでいる。


「俺がいなければ無理だろう。さぁ、行くぞ。」


ゼノのあとについて行く。燃える火の合間合間を通って。


「ここから先、必ず戦いが起こる。迷っていては命が危うい。いいか?自分達の行いを正当化させるんだ。人が生きていくうえで、こういった存在は消さなければならない。でなければ、人間は滅ぶ。…準備はいいか?俺が道を切り開く。」


草原を進み、エグれている地面を下っていった。

巨竜の低い声が聞こえる…。

―グググ…!!!―


―ザッ…!!!ドオオオオオ!!!!!―

ゼノは大剣を振りかざし、巨竜が囲んでいたであろう岩を破壊した。


「構えろ。…もう巣の中だ。」


―ギョロ…!―


巨竜は寝ていた。だが、自分の身を狙うものがいる。


(巨竜)「…グオオオオ!!!」


―キュウウウ…!―


「後ろに何かいるけど…」

(ポゼ)「子供だよ。」

「下がってもいいぞ。」

「ううん。大丈夫。」

ポゼは分かっていたし、聞こえていた。巨竜と小竜の言葉が。

だがそれでも、ソニア達と共にいる。

「グオオオオ!!!」


ーーーーー


―ザン!!!―


ゼノは大剣を軽く振り、巨竜を討伐した。

正直、ゼノ一人で良かった。だが、ソニア達がこの場にいるということが、重要なのだ。


―ヴヴヴヴ…!―


「その子はどうするの?」

「いい運命はない。この年齢で親がいなければ、自然下で生きてはいけない。このまま放置してもいいが、業者に持ってかれるのもまた危険だ。人を脅かす存在になりうる。」

「なら、俺がやるよ。」


―ッグ…!―


(皆)「…。」


ソニアは剣を握った。

いつもより強く、手から力が抜けないように。

目はより鋭く、対象を見ていられるように。


―ザン!!!―


草原に棲まう巨竜は討伐された。

自然は回復し、生物達も戻ってくるだろう。

人もまた、この場に戻ろうと思うかもしれない。

ソニア達は静かな沈黙を続け、草原をあとにした。


―ルボトス―


―ファサァ…。―


今度はソニアが、宿のデッキへと行こうと…。


「…。」


思ったが、ヤチェリーがいた。

死に対する答えは得られていたが、正解なのかは分からない。

ソニアは足音が出ないよう静かに下がり、宿から出た。

特に行くところを考えず、街を歩んでいく。


「…。」


腰をつき、空を見た。星降る夜だ。あの日と同じ。


「眠れないか?」

「炎王…。」

「仕事は終えた。あの後、あまり話すことができなかったな。だから探していた。」

「炎王も、誰かを亡くしているの?」

「…ヤチェ。」「君も来たか。」

「気づかないと思った?いつから知ってると思ってるの。」


ヤチェリーは知っている。ソニアの歩き方を。


「あるさ。俺は、親を知らない。」

(二人)「…!」

「父と友であったというゴーレムの“ハルドピサラ”。母が作り、火を吹き込んだ“人形のメイド隊”。そいつらに育てられ、ここまで老いるほど、生きてきた。親の温かさを知らない俺が、君達と同じ視線に立つことは出来ない。だが、あいつらを失うと考えると…。人を亡くして、何が辛い?」

(二人)「…。」


二人は迷った。自分の中にある言葉は、正直なものであるが、幼稚なものであると思ったから。


「正直でいい。誰もが思うことだ。俺もまた…。」

「“会いたいよ”」

「そうだな。」


ある日突然、襲われた村。そして死んだ、親を含める村人達。

何者も、突然死んでしまう。巨竜も、人も。


「恨み辛みは永遠だ。“人から人に伝わってしまう悪いもの”。優しさというものは、“人から人に伝わる良いもの。”どちらも伝播するが、もたらすものが違う。死者の声が届くことはない。だから会いたくなる。

だが、その先に行ってはならない。そうなる前に生きている者が背中を押す。いいか?命の終わりは、次への希望。全ての生命は託されて今を生きている。故その命、無駄にすることなかれだ。若者よ。思う存分、生きてみよ。恨みも優しさも、君達次第だ。」


ゼノには見えていた。二人に宿る大きな炎。

白と黒が混ざる異色の炎は、どちらの色にもなりうる。

この死に対する答えが出るのはまだ先だが、送る言葉は決まった。

あなたに送る…。

“会いたいと”

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