11 : ヒーロー
『騎士のソニア 【11 : ヒーロー】』
ヒーローリットリオに出会ったソニア達。
「それで、どうやって探すの?」
小竜であるポセ。
人より鼻はいいが、路地裏から対象の存在を認識出来るほど、
優れてはいない。
「簡単だ。俺に出来ないことはない。」
夜に潜めるよう、漆黒のスーツを全身に着ているリットリオが、自信気に言う。
「なにそれ。」
―ドォォォォ…―
「俺の力だ。見ていろ。」
闇は地面を擦るように進み、悪へと入っていった。
「依頼のことを話せ。相手は誰だ?何者が、化身の情報を狙っている?」
(悪)「ッグ…!」
抵抗しているようだが、入り込んだ闇が身体を蝕み…
「"ブラック・ロワ"だ…」
「知ってるか?」
"ブラック・ロワ"。
闇が悪に“吐かせた”その言葉は、聞き馴染みのないものであった。
沈黙が続く中…
「確か“表大陸周辺の、小島の一つにそのような街名”があった気がします。」
「…。他に依頼を受けた奴は?」
「…全部だ。奴らは、あんたの存在を知ってるぞ…」
(ソニア)「全部って…」
「全部は全部だ。ネオの裏全てに流したんだろう。とりあえず俺が…。
いや、ほれ。」
―チャラン…。―
リットリオが闇の中、何かを投げた。ソニアはそれを取ったが、何かはよく見えない。
「王に会え。化身が危ういと、ネオに危機が迫っていると伝えろ。
あいつらも、少しはやれるだろう。俺は先に動く。」
そう言い、瞬きしている頃にはいなくなっていたリットリオだった。
ひとまず取ったものを見ようと、点滅する街灯へと移動した。
「…?これは…」
ソニア達が見てもよく分からないメダルのようなものだったが…
「“ネオ・ランド・シティ王家の紋章です”。彼がこの証を盗んでいないのなら、“ヒーローリットリオ”はその血筋であるかと。」
(皆)「…!」
―ハイ・タワー
―バッ!!!―
(天空騎士)「止まれ!!!旅の者か?何用だ…!」
「私が。…“ラキエル”王に会いに来ました。証がここに。」
「…!ありえない…。だが、本物だ。…。」
―ザッ!!!―
タワーの入口を警備する騎士達が、体勢を戻した。
「案内致します。」
ーーーーー
―トントン。―
(ラキエル)「何用。」
「客人様でございます。」
「…。分かった。」
「失礼します。」
―ギィィィ…。―
「では。」
―バタ…。―
「君達…。旅の者か。この国のなりではない。」
「色々と事情があるのです。」
「…座ってくれ。暇なのだ。私の仕事はさほどなくてね。」
警戒しつつも、出迎えてくれたラキエルに、事の詳細を話した。
ーーーーー
「リットリオが?」
「彼がこれを授けてくれました。王に会いに行けと。」
「悪いが、模造品だと見える。正直本物にしか見えないが、そうでなければありえないんだ。」
「本物じゃないの?どういうこと?」
「本物はここにしかない。」
―キラッ!―
そう言い、机に置かれた王家の紋章が刻印された、小盤を見せてきた。
その後自分達が貰ったものを見てみるが、やはり本物と同じにしか見えない。
「証を持っているのは、そもそも私だけだ。妹達はまだ持つ年齢ではないし、父母と、弟はもういない。だからこれだけだ。」
「死んだ…」
ソニアは言うつもりなどなかった。
ラキエルの何とも言えない顔や、“もういない”という言葉が、
思った言葉を出してしまった。
「…。“血の夜だ”。ネオであった、昔の大事件だ。」
ラキエルは悩んでいるようだったが、その夜について話し始めた。
「父母。民衆がその事件の被害者だ。金目の悪達が、多くを殺したよ。」
血の夜とは言わば、金銭を狙う者達が一斉に動いた、事件であった。
「制圧は出来たのか?」
「あぁ。犠牲は多かったが、全員。即刻死刑であったが、決行されることはなかった。」
(皆)「…?」
「“誰かが殺した”。その後、弟が消えた。」
「まだ、生きてるかもしれないよ。」
「もう十何年か前のことだ。下手な期待はしていない…。」
「誰かが殺したっていうのは、リットリオがやったのか?」
「いや。リットリオはその頃、存在していないし、私でもなければ騎士でもない。」
ラキエルがそう語り終えた“血の夜“の話にオチはなく、不思議な余韻を残して終わった。
「空気を悪くしてしまったな。」
「いや、俺の方だ。言うつもりじゃなかった。」
「そうか?あぁ言う言葉が出るのは…。いや、本題に戻ろう。化身の件。
我々も動く。彼は私達にとって、大地たる父だ。」
「俺達も動いていいか?」
「多くの人を見てきた勘だが、悪い印象を感じない。
それと、嵐咲の血にも期待している。」
「…。気付いていたのですか。」
「世間は君の顔をまだ知らないが、私は知っている。君は覚えていないだろうが、まだ満足に喋れなかった頃、私と弟と会っているんだよ。」
「…。」
昔、嵐咲城にて風花と会っていたラキエルと弟である王子。風花は昔の記憶を歩いてみるが、モヤがかかったように思い出せなかった。
「あの件で、自分を責めていたりしないか?」
「…!」
ラキエルは自身の経験と考えを話してくれた。
「力に悩むのなら、可能性を信じてみるといい。力に限りはなく、どんな力も君のものになりうる。…今回の件、確実に止めよう。あの悲劇は二度と…。」
ラキエルとの対談。
謎が残るままだが風花にとって、親を亡くし王権をもったラキエルの言葉は、風花の可能性を開くものであった。
地に落ちた思考から引き上げてくれるのは他人である。
そこから自分を変えるのは自分である。
あとは信じて進んでみよう。
―ギィィィ。バタン…。―
「…。やはり本物だ。生きて、いるのか?“マンティーエル”…。」
ーーーーー
ハイ・タワーを出たソニア達。建物の隙間。暗い場所だが、よく見ればリットリオがそこにいた。手を動かし、どうやら呼んでいるようだ。
「どうだ?いけただろう。」
「あぁ。動いてくれる。…色々と聞きたいことがあるんだが…」
「話しはあとだ。大体の居場所は掴めた。だが、もう必要ない。」
(皆)「…?」
―バサッ!―
そう言いリットリオは、拘束した一人の男を持ち上げ、目の前に投げてきた。
「さっきからずっと同じことを言っている。」
「“もう遅い…。既に来ているぞ…!!!”」
(皆)「…!」
「念の為確認してきた。ネオの管理施設に侵入してな。何やら高速の物体が一つ接近している。それと…」
リットリオが話をやめた。
―シュウウウウ…。―
「霧だ。ネオ全体に少しづつ広がっている。既に足は見えづらい状態だ。
そして、こいつの言葉。」
「もう遅い…。既に、来ているぞ…。」
―ドオオオオン…!!!!!―
何かが、ネメシスへとぶつかったのだろう。足が激しく揺れる。
そして霧が濃くなった…。
“もう遅い。既に来ているぞ。”




