8.ゼロフォーの指示は的確だ-この娘はまるで戦術コンピューターだ-
全48話予定です
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ゼロフォーの指示は的確だ、そうスリーツーは考えていた。それは前回の旧イエメン戦でハッキリと分かった話だ。
――この娘はまるで戦術コンピューターだ。
と。それほど的確に指示を出してくるのである。
だから、
[敵を一体、おびき出します]
と思考伝達して来た時には[ああ、この娘には何か策があるのだろうな]と直ぐに分かったし、それは実行に移るのだろうから会敵の用意をしておかないと、というくらいに考えが回るのである。
[合図したらターゲットに一斉射して]
と言われ、しばらく、ほんのしばらくして爆発音と共に敵レイドライバーが視界に現れた時は、
――ああ、この娘が敵でなくて本当によかった。
と心から思いながら、
[撃ちます]
そう言ってマシンガンのトリガーを引いていた。そして恐らく味方が一斉射したのだろう、敵に次々と弾丸が当たっていき、相手が遮蔽に戻った時は、
――あれでは戦闘能力を残しているかどうか。
それくらいには考えをしたのだ。
だが、そう考えながら、先ほどの通信を反芻してもいた。
「あ、あの、スリーツー。今までも、今も、あ、ありがとうですの」
マリアーナは確かにそう言った。もちろん、自分が姉である事は隠しているし、もしも何かあった時は隠すように固く言われているから守るつもりでいる。
それでもマリアーナが自分に掛けた言葉は、間違いなく[相手を特定して]の言葉であろう事は、自分の立場になれば痛いほど良く分かる話である。
――マリア、生きていてくれたのね、良かった……本当に、本当に良かった。
スリーツーはそう考えながら密かに涙していた。それは自分の躰が汚れたからではない、そんな自分を犠牲にしたかいがあった、という事実にである。と、同時にパイロットとして再会したこの状況に対して涙したのである。
自分だけならいくらだって汚れてもいい、実際にそう考えたからマリアーナを逃がす為に汚れ、研究所という拷問に近い環境に置かれても[これで良かったんだ、マリアだけでも幸せになれば]と思っていた矢先の通信である。
ゼロフォーの機体から音声通信があった時[パイロットのマリアーナが]という言葉と、その肉声を聞いてハッキリと確信したのだ。
――これは私が知っているマリアーナだ。私の可愛い妹のマリアだ。
そう思った時に寸でのところまで[マリア!]と呼びたかった。だが、カズに以前に言われた[誰にも自分の過去は話さないように。呼ばれた際にはスリーツーと名乗って]という言葉が重くのしかかっているのである。
だから一言、
「こちらこそ、生きていてくれて、ありがとう」
それだけ言って通信を切ったのだ。そう、それ以上通信をしていれば絶対に歯止めが効かなくなる。スリーツーはそうも感じていた。何と言ってもそこにいるのは実の妹である。一番下の妹には悪いが、小さな自分の手の平で救い上げることが出来た精いっぱいの、たった一つの命である。
それが、
――まさか、パイロットだなんて……。
スリーツーにはそれが嬉しくもあり、悲しくもあるのだ。
ただ生きていただけではない、手を汚す仕事に就いていたのだから。だが作戦は待ってくれない。だからこれ以上考えるのは止そう、そう思って通信を切ったのだ。それに、一言伝えられればそれで今まで生きてきてよかった、そう思えるのである。
ただ唯一の心の安心材料、それはマリアーナがゼロフォーと呼ばれる機体に乗っているという点だ。それは前述のとおりである。ゼロフォーに乗っている限り、あのサブプロセッサーがついている限り無駄に命を散らしはしないだろう、スリーツーにはそう思えるのである。
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