5.共和国領である旧イランから攻めれば-敢えて旧トルコに進軍するのには意味がある-
全48話予定です
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地球儀を見れば、帝国はわざわざ旧NATO主要国である旧トルコなどではなく、共和国領である旧イランから攻めれば良いのではないか、そう思うかも知れない。実際のところ共和国はレイドライバー技術で後れを取っている。何なら帝国の軍を少し振り向けるだけで殲滅できるやも知れない。
だが、敢えて旧トルコに進軍するのには意味がある。
まず、事前の情報で同盟連合が旧トルコにレイドライバーを相当数送って来るという事実。次に、共和国に攻め入った場合、帝国は同盟連合と共和国の二国を相手にしなければならないという点だ。
仮に共和国領を攻め落とせば、共和国軍だってまず間違いなく派兵をしてくるはずだ。それに乗じて同盟連合が共和国と手を組んだとしたら? おそらく帝国は派兵した軍のかなりを消耗するだろう。
もちろん同盟連合が共和国と手を結ぶ、それ自体がまずないと言えるのだが、果たしてその可能性は[まったくないか?]と問われれば、組まないにせよ同時侵攻を、という可能性は否定できない。
それに現在、共和国は帝国に対して好んで戦闘を仕掛けるような事はしてきていないという事実がある。どちらかといえば[譲れないところは絶対に譲らないが、それ以外の場所については関知しない]そんな態度なのである。
それらを勘案すれば、下手に不可侵の立場を保っているであろう共和国を敢えて刺激するよりは、同盟連合との直接対決を選んだ方がまだ良い、そんな思惑があっての事だ。
帝国領である旧イラク領であるアムダから進軍し、マルティン、ティアルハルクと街道沿いに進む。この辺りは山岳地帯が続くので、必然的に道があるルートに沿って迂回する方法が採られる。
ティアルハルクが落とせたならあとは東に向けて進んでいく。
ウァンという地方都市を落として、そこから湖を回るように北上に転ずる。あとはバヤシト地方を抜けてアララト山を迂回するように進軍して旧アルメニアまで到達、というスケジュールが組まれている。
地方も地方の都市はさほど問題ではない。問題なのは軍が駐留できるマルティン、ティアルハルク、ウァン。この三都市は是が非でも落とさなければならないし、仮に落としたとして、軍の駐屯が必要になって来る。もちろん、帝国だって情報がもたらされるより以前にここは目を付けていたポイントだ、駐留軍たる機械化部隊はジュケーから旧エジプトを通じて旧シリアに続々と向けられているし、旧アルメニアからも大陸製の機械化部隊が進軍する予定でいる。ゴール地点とも呼べる旧アルメニアからも軍隊を出せば、どこかの戦闘区域で挟撃を、という展開も考えられる。
先ほどの話ではないが、レイドライバーだって[囲まれたら弱い]という弱点を持っているのだ。挟撃をし、仮にも片方を帝国のレイドライバーが受け持てば、あるいは戦車の砲撃で同盟連合のレイドライバーを倒せるやも知れない。
そこに今回舞い込んで来た[同盟連合がレイドライバーを派兵]という情報である。そうなれば機械化部隊だけで侵攻しても勝ち目は薄い。何せエルミダスを奪還されてから、あれだけの大部隊を何度もぶつけてさえ一体も屠ることが出来なかったレイドライバー、という兵器である。
そこには必ずと言っていいほど同程度の兵器が必要になる。戦車が相手なら戦車を、レイドライバーが相手ならレイドライバーを、となるのだ。
そんな情報を掴んだからこそ帝国も相応の部隊を差し向けた、という訳だ。今回その指揮官をしているのがイリーナ中尉である。
彼女だって別に好んで戦闘がしたい訳ではない。そんな事を言い出せば、口には出さないものの誰だって戦場へは行きたくはないものである。
それをしてもイリーナが自発的に戦場へ赴く理由。それはひとえに周りの目を気にしての事であり、彼女を大した拒否もせずに素直に戦場へと向かわせた理由もそれであろう事は、何となく皆が思っているところなのである。
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