34.やりましたよ、やりましたよね中尉殿!-死にたくない!-
全48話予定です
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エミリアたちは意気揚々とトレーラーで自軍基地まで帰っている最中だ。
「やりましたよ、やりましたよね中尉殿!」
デルタツーが無線でそう語りかけてくる。だが、エミリアはまったく楽観視していなかったのだ。
――確かにスナイプは成功した。あれならどちらのパイロットもヤレただろう。だけど、スナイパーにとって一番危険なのは。
言わずもがな、撤退時である。これが通常のスナイパーであればそんなに心配は要らない。何故なら十分に距離の離れた、アンブッシュしている状態で目標に当てられたのだから、あとはしばらく身を隠してコッソリとその場を去ればいい。
だが、エミリアたちは生身のスナイパーではない。レイドライバーという[目立つ]乗り物に乗ってのスナイピングをしたのである。敵同盟連合はどうやら撤退を開始したという情報が降りては来ているものの、それだって自分たちが攻撃を受けないとも限らない。
――もし私なら一発くらいはかましてやりたい、と思う。
エミリアは事実、前回は敵戦闘機の機銃掃射を受けている。それくらいレイドライバーというのは的が小さいようで大きいのだ。上空から見れば立っているならともかく、トレーラーなどに乗せられていれば尚更である。
「デルタツー、喜ぶのはまだ早い気がします。全方位での索敵を」
とデルタワンであるエミリアが言うのだが、そこは新人、というべきなのだろう。成功体験が忘れられずにまだ高揚感に包まれているのだ。
「大丈夫ですよ、敵はもう尻尾を撒いて逃げている、と報告にもありました。それに我々が撤退しているのはさらに南方です。ここは帝国領、そんな簡単には」
と言っているところにアラートが鳴る。
「敵!?」
デルタツーが言うのも無理はない、ここは帝国領の、さらに南下したところである。そこまで全力で撤退しているのだから敵襲、というのが考えられないといったところか。
だがエミリアは、
――やっぱり来た。お願い、どうか当たらないで。
声にこそ出さないものの怯えていた。前の機銃掃射の記憶がよみがえる。あの時はデコイを走らせていた。そしてデコイを走らせていたトレーラーは爆破されたのだ。レイドライバーである自分たちは当然の事、今回もトレーラーにも爆薬が詰められている。
相手はどんな手で来るのか。バルカン砲? ミサイル? それとも。
相手はしばらく撃って来ない。様子を見ているようである。
「上からだと、我が軍の新型シートが遮蔽してくれているのでしょうか」
デルタツーはそう言うが、
――これは遊ばれている。相手に恐怖を与える戦法だ。
エミリアには分かる。元々臆病な性格の彼女なら、これが獲物で遊ぶ狼のような、そんな気配を感じるのである。
しばらくそうしていたが、相手にも時間というものがあるのだろう、ロックオン警告が鳴った。相手は、ほんの少しだけエミリアより後方で走行しているデルタツーだ。
――マズい、でも。
ほんの少しだけ[自分ではない]という事実に安どしている自分がいる。それはとても卑怯な話なのは良く分かる。だが、相手は自分ではない、相方を狙っているのだ。
それも一瞬の事で相手はミサイルを発射した。当然、こちらはチャフなど持っていようがない。まさに丸腰の獲物だ。
「死にたくない!」
それがデルタツーの最期の通信となった。ミサイルは二発、うち一発がコックピットに、もう一発はトレーラーの運転席に直撃したのだ。
「ゴメンね」
エミリアはそう言うと自爆スイッチを押す。こればかりは自動で行えないから相方がやるのだが、コックピットという重要区画に直撃弾を受けたにもかかわらず、自爆シーケンスはちゃんと作動した。内部破壊、いわゆる爆縮である。
――ああ、これは完全に遊ばれているな。次は、もう無い。
とエミリアが覚悟を決めた時、
「今回は[一体屠ってこい]との命令ですのでこれで引き揚げます。次に会う時は容赦はしませんよ」
とオープンチャネル、つまり敵味方識別なく使える共通の周波数で語りかけてきたのだ。
「見逃して、くれるの?」
心の中に仕舞っておいた言葉が思わず漏れてしまったのだが、相手は何も言わずにそのまま去っていった。エミリアの躰こそレイドライバーをコントロールしているので動いていないものの、今の躰であるレイドライバーはカタカタと震えていた。
カズの真意はどこにあるか分からないが、少なくとも生き残った相手に恐怖を与えるという事だけは刻めたのである。
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