28.私は先ほどの会話を聞いていません-あなたがわたくしに気を遣ってくださるなんて-
全48話予定です
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「私は先ほどの会話を聞いていません。それは純粋な意味でオフラインにしていたからです。貴方とスリーツーの間にはなにか特別な関係があるように見えました。ですから敢えて聞かなかったのです。そして、今現在も貴方はいつも通りに戻っていないのは分かります。そこで、少しでも私が役に立てたなら、と思って」
今までのゼロフォーにはない発言だ。事実、マリアーナもそう思っているようで、
「あなたがわたくしに気を遣ってくださるなんて」
――少し意外ですの。
今までは孤独な檻の中にいたマリアーナは、外部の、しかも信頼のおけるゼロフォーという人物から声をかけられて少しだけ現実に戻って来られた。それくらい今の今まで我を見失っていのである。
そんなマリアーナの気持ちを知ってか知らずか、
「私には心がない、とよく言われます。正確には[言われていました]と言ったほうが正しいのかも知れません。貴方が負傷し、ゼロフォーという機体から降ろされた私は、少しだけ廃棄処分の可能性を考えました。そんな時、マスターは[きみの心に彩を与えたい]と言ってくださいました。そして今は、少しだけ人の気持ちが分かるようになった、つもりでいます」
そう言って一区切りすると、
「貴方にどんな言葉を掛けたらいいか、これが正解というものは無いのでしょう。しかし、話をする事で少しでも気がまぎれるのだったらそうさせてください」
これは、やはり今までマリアーナが知るところのゼロフォーではない。
――こんな短期間であなたは心というものを学んだのですわね。
「全部、全部あなたにお話ししてスッキリしたいですの。ですが」
「そう、私には思考ログが残ります。貴方が何某かの秘密を知っているのでしたら私には話せないし、話すと貴方が危険になる。だから聞かなかったのです。それでも、少しでも話していて気がまぎれるのでしたら」
ゼロフォーはそう言うと、今まであった話をし始めた。マリアーナと別れて、三五FDIのサブプロセッサーとして戦闘に出た事も。度々、カレルヴォ大尉という人物と話をする事で自分というものを取り戻してきた事も。そして、今では、
「貴方を心配する余裕のようなものまで生まれたのです。話せ、とは言いません。ですが、貴方が話したいのであれば断片でも聞きますよ」
そう言ったのである。
――冷静になりなさい、わたくし。ゼロフォーがここまで気を遣っているのはパイロットが不在のままではいけないという現実があるから。それともしかしたら、わたくしの事を気にかけてくれているのかも。
「一つだけ、言えますの。わたくしは今日、とても大切なものを失いました。そして同時に恍惚としてしまったのです。わたくしにはそれが許せないのです」
少しだけ吐露する。ゼロフォーは、
「大切なものを失って恍惚とする、というのは必ずしも無い話ではありませんよ。それが被虐性というものの一部なのは分かりますか?」
と問うた。
「被虐性?」
と返すと、
「いわゆるマゾヒズムの一種です。自分の大切なものを失ったという喪失感が気持ちいいと感じてしまう、それを一種の被虐性というのですよ、マリア。それはもしかしたら誰しもが持っているものかも知れません。もしかしたら特定の人物だけが持つものかもしれません。もちろん程度の差もあるでしょう。ですがそれを悲観する必要はないのです」
ゼロフォーはそう言うと、
「受け入れる事。それが貴方にとって一番必要な事なのかも知れません。自分はそういう癖をもっているのだ、と。そして人間の持つ癖というのはそんなに簡単には矯正できません。だったら」
「あの時、一瞬でも恍惚としたわたくしを赦せ、と?」
「そうです、自分を赦す。もしも不可能なら[マスターに命令されて自分は行動したんだ]そう考えてもいいと思います。現にマスターは[きみたちの十字架になる]と言っておられました。[辛ければ[マスターに命令されたから]という口実で逃げていいんだ]と。あの時のマスターの言葉、そのまま受け取ってもいいのではないでしょうか。貴方はマスターに命令されて戦闘をし、帰還不能になった僚機をマスターの命令だから爆破処理した。そこで感じた事も[マスターの命令だから]と考えていいのではないですか?」
ゼロフォーの言っているのは理論的にも見える。確かにあの時マスターはそう言った。だから自分は今までやって来られたのでは?
だったら。
「わたくしにこんな癖があってもあなたは幻滅したりしませんの?」
とマリアーナが問えば、
「私がなぜ貴方を幻滅したりしなければならないのですか? 私は今度こそ貴方を守りたい。そして、可能な限り長く貴方と一緒にありたい、今はそう思っていますよ」
「ゼロフォー?」
「何ですか?」
「さっきは怒鳴ってしまって御免なさい。もしも許してもらえるなら、あなたと一緒に戦いたいのですが?」
――少しだけ、少しだけでも救われましたの。罵られるのはあの世に行ってからでいい。お姉さまは[出来るだけゆっくり来い]と仰っていた。だったら。
「私は命令が無い限り、常に貴方と共にありますよ、マリア」
その言葉がマリアーナにとっては救いに聞こえたのだ。
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