19.残るもう二体は一体何をしているのか-中尉殿、これで戦局は変わるのでしょうか-
全48話予定です
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四体で迎撃を、となってはいるものの、残るもう二体は一体何をしているのか。もちろん遊んでいる訳でも、高みの見物をしている訳でもない。
前線に出ていない帝国のレイドライバー二体は、グランビア基地から少しだけ離れた場所でカモフラージュのネットを全身に被り、スナイパーライフルを装備して敵情を見ていた。
そこにいるのはエミリア・キャンベル中尉と新人が一人の計二名である。それぞれデルタワンとデルタツー、そして分隊長機はデルタワン、つまりはエミリアという布陣だ。
これには訳がある。以前にエミリアはクラウディアと共に潜伏任務に当たった経験がある。そして見事に敵二体を仕留めた、という経緯がある。クラウディアはレイドライバー部隊の隊長だから、今回は前線に立って指揮をしている。必然的に次にスナイピングの経験があり、階級も新人より上のエミリアが分隊を任された、という訳だ。
…………
「中尉殿、これで戦局は変わるのでしょうか」
デルタツーがそう聞いてくる。
時間としては会敵直前、現在の場所で準備をするようにとクラウディアから指示があった時まで話は遡る。
――確かに戦局を変えるだけの布陣ではある。なんだけど……。
エミリア中尉はもともと積極的な性格ではないし、楽観的な性格とも違う。しいて言えば主体性のない娘だ。今でこそ、囮としてアルカテイル攻防にかかわった経験や、クラウディアと一緒に過ごした戦闘を経て少しはましになっては来たものの、その性格はやはり一言で言えば[事なかれ主義]である。
だから、クラウディアに[きみには新人と共にスナイパーをやってもらう。頑張って勤めを果たしてもらいたい]と言われた時は、
――出来る事なら基地でのんびり過ごしていたい。いっそなら戦争なんて止めてしまえばいいのに。
という考えが脳裏をよぎった。そんな性格の表面に軍人としての規範を塗り付けた、そんな人物がエミリアという人間である。
今のエミリアの一番の心配事、それは[上手くいかなかったらどうしよう]というものである。それはやはり、事なかれ主義から来ているといっていいだろう。出来る事なら作戦などやりたくない、それがどうしてもやらなければいけないなら、無事に成功裏に終わらせてさっさと帰りたい、そんな考えを巡らせていた。
だから、
「中尉殿?」
と再度聞かれるまで返事がおろそかになっていたのだ。
「あ、あぁ、戦局ね。うーん、立案したのはクロイツェル参謀殿だ、という話だし、確かに全機で出迎えるより一部アンブッシュしたほうが合理的なのは分かる、んだけど……」
出来るかどうかが不安、などととても新人の前では言えないのもまた事実である。
だがしかし、自分は一度スナイピングを成功させている。それにここからなら敵がこちらに向かってきたとしても十分な距離を保っている。
――ならば。
「大丈夫じゃあないかな」
エミリアはそうデルタツーに告げた。
…………
「会敵したようです。指示を」
とデルタツーに言われるので、
「スナイピングはせいぜい撃てても三、四発程度、向こうがこちらの射角に気が付いた時点で終了です。コンピューターと連動をし、効果的に狙いましょう」
その[効果的に]というのはどういう事か。
レイドライバーという兵器は確かに無類の強さを誇っている。だが、四足歩行型はともかく二足歩行型には特有の弱点が存在する。脚部だ。これは帝国製のレイドライバーにも言える。ボディーはいくらでもリアクティブアーマーを装備して守ることが出来ても、脚部だけはどうしようもないのである。
潜んでいる二体は照準を合わせた。そして。
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