18.各個、それぞれに会敵を-了解、しま、した-
全48話予定です
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「各個、それぞれに会敵を」
クラウディアは敵陣に忍ばせているレイドライバーにそう伝える。その答えは、
「了解、しま、した」
である。今回挟撃に打って出たこの二機体はどちらも頭部に生体コンピューターを埋め込まれたパイロットである。例の、人格の一部が崩壊しているという個体を当てたのには理由がある。
データ取り。
すべてはこの一点に集約される。帝国は、戦闘データを欲しているのだ。それは実戦経験と言い換えられるものである。そのデータを共有することが出来れば、新人にしてベテランの経験が手に入る、という訳だ。
――クロイツェル参謀はああは言っていたが、本当に実戦に耐えられるのだろうか。確かに事前にクスリは投与してはいるが、果たして。
二体が投入されたのはアルカテイル基地の目前である。当然、基地内に予想より多くのレイドライバーが存在していた場合は撃破、となるだろうし、先ほどのクラウディアの心配ではないが、そもそも実戦に耐えられるのか。まぁ、それを含めての今回の作戦なのだが、
[使いつぶしてもいい。単独先行させて囮にするもよし、撃ち合いになったら後ろに隠れるもよし。とにかくデータが欲しい]
今更ながら以前にクロイツェルに言われた言葉が蘇る。彼はこの二体を実験体として見ているのだ。そして、実験体ならばより多くの実戦データを持ち帰るように、という使命を貸されている。無線でデータを拾っているので、実際にデータを持ち帰るのではないのだが。
――二人の命を犠牲にしても良いものか。それを言ったらこの二人を作り出すのに一体何人の命が失われていったのか。
もちろんクラウディアとてクロイツェルのやる事に口を挟みたい訳ではない。現に口を挟んだからどうなる、というレベルの問題ではないからだ。かたや参謀、かたや少佐である。階級差でいっても口が出せるレベルのものではないのは承知しているし、この国の事情を考えれば特に上官に意見など出来ようもない。
――それでも。
クラウディアがそう思ってしまうのは、汚れていないと自負している自分が囁くのか。反対の耳では汚れてしまったのを自覚している自分が[何を今更]と囁いてもいる。
「私もまだまだなんだろうな。こんな調子では先が思いやられる」
ふと独り言が出る。回線はオンラインにしていないのでこの言葉がどこかに漏れる心配はない。だからそんな言葉が出たのだろうが。
――向こうの二人には悪いが、礎になってもらおう。そして、今は目の前の仲間を一体でも多く生き残らせないと。
と思えるくらいには汚れた自分が勝っているのだろう。ある意味、先行の二体は囮兼データ取り、あわよくば何体かの敵個体の撃破である。戻って来られる可能性は極めてゼロに近いのも事実なのだ。
「アルファー隊は、中央にいる四つ足を私と共に足止めせよ。ブラボー、チャーリー隊は両翼の敵を狙え。敵の目的がはっきりしない今、出来るだけの撃破を狙う。幸運を」
――敵の狙いは、本当に玄関先で呼び鈴を鳴らすだけなのか。
今まで考えていた事をいったん棚上げにしてクラウディアは眼前の敵に集中を始めていた。
そう、クラウディアは隊長機として今回は前線に立っているのだ。今までのように部下だけを戦地に送っているのとは訳が違う。彼女だって[実戦に出た]という名のデータが欲しいのである。
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