14.ミラーナ准尉!-どう、なさいますか?-
全48話予定です
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それは同時に帝国のレイドライバーの喪失という結果を伴っていた。
「ミラーナ准尉!」
声をかけるが応答がない。意識レベルが低下して気を失っているのか、それとも既に死亡しているのか。
「どうなさいますか?」
シュエメイが聞いてくる。帝国は侵攻軍だ、拿捕の可能性も考えないといけない。このままミラーナの機体を残して、というオプションが採れないのだ。
――私はどうすればいいの? やっぱりこのまま……。
イリーナは悩んでいた。本当なら直接コックピットを開いて無事かどうか確かめたい。だが今は戦闘中だ、敵も相当のダメージが行っているはず。何なら撃破した、と考えてもいい。時間を置けば置くほど敵も爆破処理して[これ幸い]とばかりに反転攻勢に出る可能性も十分にある。
「どう、なさいますか?」
シュエメイが改めて冷静な声で問うてくる。それは問い、という形を取りながらもイリーナに決断を迫る、そんな声である。
――出来れば私の前で僚機が失われるのは避けたかった。でも、それってズルい話だよね。これは戦争。私は一度捕まった経験がある。もしもこの娘が生きていて、拿捕されたら? あんな目に遭うのは私だけで、いい。
イリーナは、
「爆破処理をします。シュエメイ、ヴィクトーリヤの両名は敵への警戒をしていて。その間に」
そう言ってディスプレイに起爆の一覧を出す。その一覧にはもちろん自分の名前も、シュエメイも、ヴィクトーリヤやミラーナの名前だってある。視線でカーソルをミラーナに持って行き、反転させた状態で少し躊躇していた。
だが、
――この状況だ、生きていても恐らく無事では済まないだろう。ならば意識のない今が一番の情けかも知れない。
そう思って実行を指示する。ディスプレイには[起爆を実行する為に生体認証をしてください]の文字が。イリーナが視覚認証を選ぶと網膜がスキャンされる。当然だがそこには[イリーナ・グリゴリエヴナ・コズロフ中尉]という自分のフルネームが表示されている。
そして[指揮官機として認識]という文言が出たあとに、
[起爆を実行しますか?]
と問われる。そこで、Yesを選択すればほんの十秒で内部爆破処理が完了する。この辺りは同盟連合とて同じだろう。レイドライバーに搭載されている爆薬というのはとても良く出来ていて、外部からの衝撃では誘爆しないように出来ている。なので、例え重要区画に被弾したとしてもこちらから爆破命令を出さない限り大丈夫なのだ。
それを今行おうとしているのである。
――隊長はいつもこんな重責を担っているのですね。でも、今は人に頼っていられない。私が分隊長なのだから。
そう心奮い立たせてYesのところにカーソルを持って行く。
そして。
それはモノの十秒足らずで進行した。カウントダウンは全機のディスプレイに表示される仕組みだ。赤の文字で十からカウントダウンが進行する。そしてゼロになったところで内側から爆発するのだ。その爆発というのは本当によく出来ている。周りに僚機がいても爆風に巻き込まれないのだから。おそらく人が近くにいたとしても大丈夫なのではないか、それくらいに内部に向けて破壊は進むのである。
こうして帝国は、一体のレイドライバーを失ったのだ。
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