10.スモークグレネードという兵器-ゼロフォーはある程度の予測はしていた-
全48話予定です
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スモークグレネードという兵器は、歩兵相手には非常に効果的だ。何と言っても有視界を遮れるのだから。
そして持久戦というのは焦った方に不利になるように出来ている。
敵の採った行動、それはいたってセオリー通りの行動だ。おそらくゼロフォーでもその可能性を否定はしないであろう。
だがゼロフォーはある程度の予測はしていた。
――向こうはスモークグレネードを焚いてくるはずでは? だとしたらその間にこちらも場所を入れ替えてしまえば。
レイドライバーという兵器はそんなに軽くは出来ていない。流石に戦車並みの重量に匹敵するくらいはある。そんな重量物が移動したら、振動センサーを使っていれば何処に移動したかくらいは把握できるだろう。だが、敵もこの煙で移動している。そんな状態でセンサーを稼働させても位置の特定は難しい。
ならば。
「配置を変えます。前進ではなく、横方向に移動しましょう。相手がもしスモークグレネードを焚いてきたらこちらもスモークグレネードを焚きます。そして一区画隣のマスに移動するので、各自準備を」
と声に出さないといけないのはマリアーナが[ヒト]だからである。[無人機]同士であれば思考伝達という手段も採れるが、[ヒト]であるパイロットが介在していてはそれは不可能なのだ。
だから、
「来た。こちらもスモークグレネードを」
と声が出るのである。
だが、相手は移動を主にしていたのであるが、ここでゼロフォーに誤算が生ずる。
移動だけであればこちらとて手は出さないつもりだった。しかし相手は撃って来たのだ。それも遮蔽をとらずにむき身である。
――そうか、新人が投入されたのですね。
と感づいてしまうほどにはゼロフォーは頭が回っているし、それなりの実戦を経験してきたのである。
だが、二つの予定外の事が起きる。一つは相手が撃って来たという誤算。そしてもう一つは本当に不幸な事故であった。
この大地は砂場が所々に存在する。そしてレイドライバーは二足歩行である。完全な砂場であればまずレイドライバーの投入は避けるが、部分的な砂場か、もしくはレイドライバーの重量に耐えうる地面があれば別である。
そしてその事故はゼロフォーが移動を開始して直ぐにおこった。
ゼロフォーの機体の足場が少しへこんでしまったのだ。それだけなら走り去ってしまえばよかったのだが、そのへこみ方が想定以上だったのだ。つまり、ゼロフォーは足を取られて這いつくばってしまったのだ。
――しまった! やられる!
サブプロセッサーになってこんなに動揺したのは初めてかも知れない。マリアーナが被弾した際は自分も脳震盪を起こしていた。復帰はしたものの、あの時は動揺というよりは[これからどうしようか]という考えの方が先行していた。
だが、今回のはそれらとは違う、明らかな事故である。しかしそんな事故を敵だって見過ごしてはくれない。
直ぐに敵の銃口がこちらを向く。こちらもリアクティブアーマーは着ているものの、側面を晒している形になっている。側面にはそんなにアーマーが施されていない。正面、背面とは違うのだ。
――ああ、これは撃破される。せっかくマリアと一緒に戦えたのに。これからだ、って思えたのに。マスターはお怒りになられるだろうか。まぁ、それも死んでしまっては関係ないのだが。
ほんの一瞬にそれくらいの思考が出来るほどの性能を有している。だが、そんな性能も転倒という事故の前には無力だ。
[ダンダンダン]
何故か衝撃が来ない。その射線上にはスリーツーがいたのだ。
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