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補章(石垣島北部・無人化した駐屯予定地跡地)
静かな雑草の丘に、折れた看板だけが残っていた。
【陸上自衛隊 石垣駐屯地(仮称)建設予定地】
そこにいたのは、工事業者の制服を着た男ひとり。
元陸曹長・林田(『第一章』の90式戦車小隊長)。彼は本土に帰還し、除隊後、土木作業員として再びこの島に戻っていた。
「戦車も、飛行機も、船もあった。
でもここには、誰も降りられなかった。
だったら……これは、**“戦場に選ばれなかった場所”なんじゃなくて、最初から“放棄されていた”場所なんじゃないかってな」
風が草を揺らす音だけが聞こえた。
誰も見ていない島の空。
戦争はなかった。だが、防衛も、なかった。




