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栄光なる勇者

 『 暗闇が深まる夜。煌々と街や眠る人々を照らすのは普段よりも一際輝く、月の明かり。


 月の年功、四年。春


 この頃に活躍したのは王室派と教会派の衝突が激化していく中、王族・貴族に欺瞞を持った市民達をそのカリスマ性で先導し、国に革命を起こした栄光なる勇者。《ミゼリカ》が活躍した時代。


 かの者はヴィリーヴ王国の何の力も持たぬ健全なる一臣民であった。


 かの崇高なる大神官カリタスが逝去し、十三年。

 彼を失った教会派の信者達により街の各地で王室派に対する暴動が起こされ始め、王室派は新王ルカピオースを中心とした暴動の粛清が開始され、反逆の意志を持つ者達が捕縛され幾らかの命が天へと還された。


 大神官カリタスが急死したことにより、彼が発見したモルスや様々な難病の治療法がその他神官・シスター・神聖治癒術師に伝わりきれていなかった。


 故に、治療法が発見される前よりは流行が抑えられたが完治するにはまだ熟練度が達しておらず、病に苦しむ人々は日を追う事に増加して行った。


 この事実が、カリタスを慕った教会派の臣民達を更に沸き立たせた事で、街の治安は悪化して行った。



 月の年功、八年。冬


 大国ヴィリーヴ国、先代国王アルゲイン・シリューネス・ヴィリーヴ、急逝。享年78。


 街の治安が再び悪化する一途を辿る最中。先代ヴィリーヴ国、国王アルゲインが何者かに毒を煽られ天に還された。


 国王でありながらも王室派に属さず、臣民達から神と同等に扱われていたカリタスに心を砕き、庇護した先代アルゲイン国王の訃報は臣民達の間で激震が走った。


 そんな中でも起こり続ける王室派の粛清に反抗した暴動やデモに、一人の穏やかな青年が、参加する人達の中へと溶け込み始める。


 しかし彼は街中で大々的に行われる暴動には参加せず、そこへ参加している人達を街の各地で起こされている暴動・デモを自粛させるよう説き伏せた。


 彼は市井の臣でありながら、王室派に対して段々と過激になっていく教会派の手綱を握った。

 徐々に彼の言葉と行動に惹かれた人々が彼の元へと集い始めた。



 月の年功、12年。春


 かつての(カリタス)を彷彿とさせるような慈悲深さを持ち合わせた青年。


 彼は臣民が崇め奉ったかの崇高なる大神官カリタスが生前、最期に慈愛を注いだ最愛の子、”ミゼリカ”


 特別な力を持たなかったミゼリカはカリタスとは異なっていたが、その慈悲深き性根は色濃く受け継がれ肉親を奪われた憎しみは存在していなかった。


 彼の中に残されたただ一つの寂寥感は人々に対する慈悲で埋め尽くされ、絶えず起こる暴動に対し憂いていた。


 故に教会派の手綱を握り、実質的な先導者となったミゼリカ。

 言論の自由権を行使し、彼に賛同した同士達を率いてヴィリーヴ王国に革命を起こした。


 主張の違う言論が絶えず飛び交う混沌とした時代の王国に現れたのは、多くの者の心を惹き付け、先導する年若き一人の青年。


 ミゼリカを中心とした言論革命軍は、主にカリタスを神として崇めた貴族・市民の信者達を中心に構成され、武器を持たず言葉による王室派との長きに渡った醜い争いの終結を齎さんとした。


 一臣民であるにも関わらず荒れ続ける教会派を纏めあげ、王国中に言論を主張した勇敢さが広まった。

 この頃から言論革命軍を中心とした臣民達に《栄光なる勇者》と呼ばれるようになった。



 月の年功、12年。夏


 まず、ミゼリカ率いる言論革命軍は不条理に罪をでっち上げられ悲惨な最期を迎えたカリタスの名誉を取り戻す為、言論の自由権を行使し、裁判を起こした。


 言論革命軍に所属する貴族を中心にカリタスが背負った罪の詳細をしらみ潰しに探し出し罪を暴く証拠を集めた。ヴィリーヴ王国の唯一絶対中立の立場を保ち続ける”中央裁定機関”へと裁判の開廷を要求した。


 正当な主張の元、受理された裁判は被害者側の代表として言論革命軍所属ミゼリカとその他貴族数名。

 被疑者側の代表として王室派の筆頭貴族、ルッカス家当主とその他貴族数名。


 裁判官立会いの下に裁判が開廷された。


 まず、ミゼリカ率いる言論革命軍が提出したのは、打ち切られた教会への援助分の費用を王室が所有する国費や、商業大国との貿易で得られた利益の一部を無断で搾取し賄い、それが明るみにならぬ様、帳簿の改竄を行ったと言う虚偽の財務諸表。


 しかしこれこそが虚偽の申告であり、実際に引き抜かれた資産は王室派貴族を先導していたルッカス家が占有していた。


 次に、言論革命軍派の貴族達が集めた情報を元に、その資金の用途と取引先を調べ書き記した帳簿を提出し、更に各取引先との契約書や取引記録も同時に提出した。


 資金の用途は様々だったが、主に教会派の失脚を目論む為に必要であった人身雇用。

 使用される事は無かったものの、確実なる人身へ被害を及ぼさんとする武具と魔術具の購入履歴。


 更には、ルッカス家が保有する領地にて、王立図書館の禁書庫区域で管理される書物の無断搬出。

 その禁書に記された禁術とされる魔術陣を、数名の高位魔術師達による研究・実験を行ったとされ、それに付随するかのようにその他の様々な余罪も暴かれた。


 これら全ての物的証拠により、故人カリタスに対する名誉失墜及び、明確な殺人を目的とした計画的犯行と見なされた。

 それによりルッカス家を中心に計画に同調し、共に行動した王室派の貴族らに”有罪判決”が言い渡された。


 裁かれた王室派の貴族は王宮近衛魔術師団により拘束され一部財産の取り上げ、場合によっては爵位の剥奪等の厳しい処罰が下された。


 爵位を剥奪されたルッカス家に代わり、教会派に属していた貴族が王補佐する宰相の位へと任命された。


 これにより過激な王室派の大多数が中央裁定機関の下した厳罰と、国王ルカピオースの名の元に一連の事件は終結した。


 敬愛すべき《崇高なる大神官》カリタスの憂いを払えた功績は王国全土の臣民達に瞬く間に拡がった。


教会派一同は、再び神を崇め祈り捧げる日常に戻る者とミゼリカを代表とする言論革命軍としてヴィリーヴ王国や周辺諸国で起こる理不尽な暴動の鎮圧を目的とし活動を始める者とで分断された。



 月の年功、16年。冬


 ヴィリーヴ王国と隣国の国境付近にて大きな水害が発生し、多くの命が天に還された。

 その場に居合わせたミゼリカ率いる言論革命軍にも数名の犠牲者が発生した。


 水害による人的被害や街の被害も多大だった為、実りの少ないこの時期に貯蔵してある食料が不足し、食糧難に陥った。


 更に、災害関連感染症及び精神疾患を訴える患者が日々増え続け、王室から教会へ許可した神聖治癒術師の派遣が極小数だった為通常の難病患者に加え被災地の死傷者の手当が追い付かず、ヴィリーヴ王国全体が医療崩壊状態となった。


 そんな中、心の拠り所となれるようミゼリカを中心とした人々が奮起するが、効果は見られなかった。


 やがて、王国の対応に不満の積もった臣民達の矛先が全てを優遇される王室・貴族に向けられ、様々な場所で他の臣民達をも巻き込んだ大虐殺が起こってしまった。


【祈り捧げるは神に対し。されど多大なる力は代償を伴う】


 最期まで武器を持たず言葉の力で戦い続けたミゼリカは収まりようの無い虐殺の最中、神に縋った臣民達によって人身御供として捧げられる少女に代わり、一人天に還された。


 長きに渡り対立した王室派と教会派との禍根を取り除き、不条理に奪われた数々の天命の憂いを晴らした栄光なる勇者。絶えず移り変わる人々の情動が大きな災いとなり、かつての臣民達の光はその人々の手によって失われた。


 危うくも強固に植え付けられた彼の慈悲深き精神、縋る者達の道標となり捌け口にもなってしまったのは、多くの人々を引き付けた言動か、求心力か。

 はたまた人々の理性を剥ぎ取り情動を顕にさせた地の神の悪戯だったのか。



 過ちは連鎖し歴史に刻まれる 』

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