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3の1 デートをしましょう!

日常回1です

こちらの世界へやって来て一週間の時が流れた。


来てから数日間は魔法少女保護対策課という警察組織によっておおいに妨害され、本来こちらへやって来た休暇を満喫出来ずにいたのだが、今日、遂にカイトに暇が訪れた。


「ふ…ふふふふ…」


笑いを込み上げながら目を覚ましたカイトはむくりと身を起こし時計を見る。時刻は朝5時…後数分もしないうちに、元気いっぱいの子猿が我が城であるこの部屋に飛び込んで来るであろう。何せすでにドタバタというやかましい音が聞こえているからだ。


「まだだ…まだ笑うな…」


カイトは日課である走り込みに備えるべく、寝巻きを脱いでから丁寧に畳み体操着に着替える。


「カイトー!!起きろー!!」


ドカンと扉が吹き飛ぶと、栗色のショートボブに翡翠色の目をしお揃いの体操服をみにつけた少女、マールが元気いっぱいに部屋に飛び込んできた。


「あれ?」


マールは大きな目を丸くすると、きょとんとカイトを見つめた。普段ならこんな時間には起きていないカイトが目を覚まし、しかも体操服に着替えていたからだ。


「おはよう、マール」


カイトはいつものように苦笑するでも、困り顔をするでもなく笑っていた。思わずマールは自らの額に手を当てながらもカイトの額に触れる。


「熱はないですよ?」


カイトは爽やかに笑いながら返して来た。


「き、君どうしたの??やる気満々じゃん!」


「ええ!今日は暇、ですからね!」


マールの心配に、カイトはテンション高く返して来た。カイトは別に今から全力疾走をさせられる事に喜んでいるわけではない(実際ごめん被る)しかし、その扱きが終われば後の予定は無いのだからどうしても浮き足立ってしまうのは現代人のさがだろう。


「まあ、よくわかんないけどやる気があるのはいいね!!今日からはアヤナとキリカも来るからビシバシいくぞー!!やる気満々なカイトは一足先に公園までダッシュだあ!!」


そう叫んだマールに呼応して吠えたカイトは勢いよく部屋を飛び出して玄関の靴を履き外へと駆け出すと、待ち合わせ場所である裏の公園に向かった。


公園には既に複数人の少女達がいた、燃えるような赤い髪をツインテールに結んだ茜、ウェーブがかった黒髪に青い瞳の青葉、スラッとして背が高く金髪ロングの絵里香、そしてどこかコケシのような印象を持つ小さな栞である。四人は同じ蛍光緑のジャージに今どき珍しい体操服にブルマという格好をしている。


その中の一人、茜がカイトとマールに気づき手を振ってくる。


「やーみんなー!」


マールは軽くカイトを追い越して一足先に合流する。


「はあ…お待たせしました…」


遅れてカイトが到着すると既に疲れ果てているカイトを見た少女達は苦笑を浮かべている。


「ああ、気にすんな。もっと遅い奴らもいる」


茜は意地悪に笑いながら指差すと、公園のベンチに二人の少女が崩れ落ちていた。


「お…おまえら…おまえらまじバケモンかよ…」


中性的な顔立ちの黒髪ショートの少女、綾奈は息を切らせながらも愚痴を漏らす


「ひー…たすけへ…いきできない…」


その膝に寝そべってヒュー、ヒューと音を立てながら息をするたびに大きな胸が揺れ動く。綾奈と合わせたのか白髪ショートの少女、霧香は既に苦しそうにしていた。二人はあれからこちらへやって来てさまざまな手続きを終えて本日よりマールの朝練に参加することとなっている。


「よーし!みんな走るよー!」


マールはそう言ってぱんぱんと手を叩く。


「え…ええー!」


霧香と綾奈は顔を真っ青にするが、既に茜達は走り出して姿が消えている。


「では、お先に」


カイトもすごい速さで走っていき、マールと二人はその場に残された。


「二人とも、なにをしてるのかな?」


マールは、残された二人の前に行くと、とてもにこやかに問いかけた。


「お、俺たちはここまで走ってきていて、それで…」


ドギャンッ、座っていたベンチが壊れた。


「走れ」


マールの言葉に恐れを無した綾奈と霧香は顔面蒼白のまま気付けば逃げ出していた。冒険者体質の全力疾走であるいくら遅く、体力がないとはいえ冒険者の足は常人の何倍も早いのだ…だが。


「ぎゃひん!!」


音もなく追いついて来たマールが遅れた霧香の尻を蹴り飛ばした。


「ひいいいん!!!」


霧香は泣きながらペースをあげる。


「あ、おいきり」


「誰がやすんでいいなんて言ったあ!!」


油断した綾奈の尻にもマールの蹴りが襲いかかる。


「いっ!!?てえええ!??!」


生まれて初めて味わう壮絶な激痛、綾奈はそのあまりの痛みにペースが上がってしまうと、少し前を走っていたカイトに追いついてしまう程の速さで走っていた。


「カイトー!!なにらくしてんだー!!」


「はい!」


マールが追いついてくるとカイトのペースが上がる、そんな感じで朝の走り込みが終わった後、公園には力尽きたカイトと綾奈、霧香の姿があった。


「全くだらしない…」


マールは腕を組みながらも愚痴をもらしている、そこへ一足先に走っていた茜がやって来た。彼女達はもうすっかりマールのペースに慣れたようで疲労感は顔に出てはいるものの、倒れ込むほどではないようだ。


「まったくだぜ…おら二人とも今日から登校だろ?早く着替えろ」


やって来た茜はブレザーを着ていた、茜だけではない絵里香も、青葉も、栞でさえ茜が身に付けている制服と同じものを身につけている。


「とうこう…?みんな、どっか行くの?」


聞き慣れない言葉に首を傾げて問いかけると、茜はキョトンとした。


「どこって、学校に決まっているだろ?」


何を言ってんだ?と言いたげな顔をしている茜に絵里香も苦笑を浮かべている。


「あんなー?シノザキのねえちゃんがウチらも学業を疎かにしちゃいけんっちゅーねん…いいやんな?」


そう学校に行くのが嫌そうな栞の頭を茜は小突いた。


「アホか、あたしらは亜人の襲撃がない限り、扱いはただの子供なんだぞ?」


「そうだよ栞、私達は篠崎さんに養って貰っているっていうのも忘れちゃダメなんだから!」


そうなんだ…カイトはそう考えていると、マールは首を傾げてこちらを向ける。


「…ガッコーって、ラピュセルみたいなかんじ?」


そんな問いかけにカイトは頷く。


「え?…はい、そうですよ?」


「へー…がっこーかあ…」


マールはどこか羨ましそうに漏らし、魔法少女達を見つめていた。実際羨ましいのだろう…彼女に同年代が周りにはいない、生まれて物心ついた時から大人たちの中にいた。だから魔法少女達は彼女にとっては初めて出来た年の近い仲間達なのかもしれない。


「いけね、遅刻しちまう!」


言動以外は几帳面な茜はそう言って時計を見ると慌てて駆け出すと青葉と栞も後を追いかける。


「それではマールにカイト、また今度」


「ええ、また」


絵里香はお淑やかに頭を下げると、体操服のまま寝込んでいる綾香と霧香を出す起こすと連れていく。そんな賑やかで騒がしい魔法少女たちの背中を、マールはジッと静かに見つめていた。


「行ってみたいですか?学校」


カイトの問いかけに、マールは一瞬瞳を煌めかせたが、すぐに首を横に振る。


「ラピュッセルと同じってことは勉強や宿題があるんでしょ?僕には無理だよっ」


そう言ってマールは不貞腐れるように顔を背けた。


「フィオレちゃんから聞いてるんだから!読み書きが出来ない僕の代わりに、僕の提出物や宿題もやってくれてたんでしょ?」


あの若作り年増教師め余計なことを…ラピュッセルの時、カイトはマールの魔術習得に集中させるため。実技以外の全ての提出物や課題を請け負っていたのだ…。


「そんなの…良くないじゃん…」


マールはマールなりに、文字の読み書きが出来ない事を気にしてはいるのだろう…それは今後の課題にしておくことにしよう、今は。


「マール!早く帰りましょう!」


カイトは素早く立ち上がり物思いに耽っているマールの手をとって引く。


「ふえ!?な、なに?」


「早く早く!」


カイトはそのまま全力で走りだすとマールの顔に笑顔が戻るなり手を振り払うと素早く前に回り込む。


「カイト!!今日は珍しくやる気まんまんじゃん!?」


「当たり前です、何せ今日は暇!なんですからね!!」


自宅へ帰ったカイトは5分でシャワーを終え、部屋に飛び込むと、今の体格に合う精一杯の自分的なおしゃりをするとバタバタ足音を立てながら階段を駆け降りリビングへ飛び込んだ。


「何よカイト?その格好?」


リビングでは母の静香がマールを餌付けするようにソーセージを食べさせていた。


「おいしー!」


マールはとても嬉しそうにソーセージを頬張り幸せそうな顔をする。


「あれ?カイト?…あはっ!何その格好っ!」


マールはカイトの装いを見てケラケラと笑っていた。


「何をしているんですか?マール、早く着替えてください?」


そう言ってマールの向かいに座る、マールように山盛りにされたトーストの山からパンを一枚取ると口に運ぶ。


「えー?…なんで?」


マールは特に興味もなさそうに言いながら、トーストの山から一つを手に取る


「今日はデートをしましょう!」


彼女のお気に入りの甘すっぱい苺ジャムを塗ろうとしていたマールはピタリと止まり、隣に座っていた母はあらあらと楽しそうに呟く。


「…デートってなに?」


マールはそう言って母に問いかけると、母はいたずらな笑みを浮かべる。


「好きな人と一緒に遊びに行く事よ?」


母め、あえてマールにもわかりやすく言いやがった。聞いたマールはポトリとトーストを落とし、みるみるうちに赤くなっていく。


「それなら、早く着替えなきゃね!おいでマール!」


母はそういうとマールの手を取るなり、脱兎の勢いで二階へ連れて行く。そこから僅か15分、マールだけが2階から降りて来た…いつもの蛍光色の目立つシャツに、白いレースのカーディガンを羽織り、フリフリなピンクのスカートを履いている。


「なんかスースーする…」


普段からショートパンツのマールは、初めて身につけたスカートが気になるようだった。普段そのままにされているショートボブの髪も綺麗に整えられている。


「………」


思わず見惚れてしまっていた…お世辞ではないが、マールはとても美人であるのだ。元の素材が極上なのだならちゃんとおめかしをすればそうなる…。


「6時までには帰って来ること、危ないところには連れ込まない事だって…どうしたの?」


マールはカイトの反応が気になる様子で首を傾げた。


「だ、大丈夫です!わたしのスケジュールは完璧ですからっ!」


そう言ってカイトは抱きしめたくなる感情を寸前で堪えてマールの手を取ると、玄関から外へ出た。


「マール、行きたい所や見たいものはないですか?」


歩きながら、借りて来た猫のようにカチカチになっているマールへ問いかける。


「え?…う、うーん…」


考え込んでしまうマール、それはそうだろう…何せ彼女の中には何もないのだから…カイトは彼女のあの落書きしかない空間を思い出す。


「ふふ、そうでしょうね!ですから今日は私の趣味に付き合ってください」


そう言って目を向けると、マールは嬉しそうに頷いた。


「うん!」


まずカイトは最寄りの駅へマールを連れて行った。


「うわー!?何!?なにこのおっきいのー!!」


マールはホームを行き交う巨大な電車を見て目をキラキラと輝かせていた。


「アジルさん達が砂の国に作ろうとしていたものです、電車といいます」


「でんしゃ!!すっげー!にいちゃん達こんなん作ろうとしてんの!?」


子供のように駅の窓から身を乗り出し、車両の出入りに一喜一憂している。


「ほらマール、こっちです」


「えー?もう少し見てたい!」


可愛らしくわがままを言うマールだが、カイトは笑う。


「見てるだけでいいんですか?今からあれに乗るんですけど…」


「乗るの!?いくっ!!」


手のひらぐるっぐるで笑顔になったマールを連れ、ひとまずは渋谷までの切符を大人一人、子供一人で購入するとホームへと降りたった。


「すっげー!!人がいっぱい!!」


流石は朝の山手線と思うほど、ホームには人がごった返していた。カイトはマールと逸れないように手を握って小さな身体を利用して狭い人の合間を縫うようにして空いていた位置へ連れていく。


『目白…目白…』


ちょうど良く電車がやって来てブシュウウと排気しながら扉が開くとそれだけでマールは大はしゃぎしていた。


「かっくいー!!」


マールは目をキラキラさせながら行こうとするが、カイトが止める。


「電車は、出る人が優先ですよ」


「あ、そうなんだ?わかった!」


カイトの言葉通りに多くの人が降りてきて、前に並んでいた人達が乗り込み始める。その流れを見ているだけでもマールは楽しそうだった。カイト達もそんな人の波に押されて電車に乗り込む。


「あはははっ!すごーい!人がいっぱいだ!!」


狭く暑苦しい中でもマールは楽しそうだ。


「マール、こっちへ」


そんなマールの手を引き、小さな身体を利用して壁際へ連れていく。


「なんで壁際なのー?みんな白いのに掴まっているよ?」


吊り革に掴まる人達を指差すが、当然だが二人の身長では届かない。


「手が届かないでしょ?」


「ジャンプしたら届くよ?」


「それは周りの人達の迷惑になります」


「そっかあ…でんしゃって大変なんだねっ!!」


見るもの、聞くもの、全てに興味を示していたマールは楽しくて仕方がないようで笑顔が絶えない。向こうでも笑顔になる事は多かったが、こんなにも年相応の反応で喜んでいると、こちらまで嬉しくなってしまう。壁際に寄りかかったカイトは窓の外を見ていはしゃぐマールを眺めていると、唐突にポケットのスマホが震え出したため、取り出して画面に目を落とす。母からのラインだった、おすすめのデートスポットを濁流のように送って来ている。


「母さん…マールにこのスポットの良さはわかりませんよ…」


その殆どが年配のカップル向けのものであった、おそらく自分たちがいく予定のものだろう事が伺えてしまい、思わず苦笑してしまう。


「ねー…おっちゃん?あんまりさわらないでほしいんだけどー?あつくるしいよー…」


そんなマールの声に我に返ったカイトが顔を上げると、みず知らない中年の男が窓際にいるマールを壁へ押し付けるようにして抱きかかえ、その態勢のまま無抵抗なマールの身体を撫で回している。マールは嫌そうにはしているが何をされているのか認識できていないようだった。


「…あなたは本当に…」


カイトはため息を吐き出しながらも手を伸ばし、マールのベルトについていた小さな防犯ブザーの紐を掴み取ると思い切り引っ張った。同時にけたたましいサイレン音が響きわたると、周囲の視線が一気にこちらへ向かう。


「なんだなんだ?」


「みろ!こいつ小さな子に痴漢してる!」


「ロリコンか??許さん!」


「司法はいらん!!貴様は今すぐ死ねぃ!!」


ブザーの音で事態に気がついた周囲の大人たちは即座に男を掴んで強引にマールから引き剥がすと、有無を言わさない暴力の嵐が痴漢を襲った。そうして次の駅につくなり、大人達に引きずられて降ろされる。


「あはははは!!カイトの世界って面白っ!!良くわかんないけど!」


笑い事じゃないんだがな…引きずられていく男をみてマールはとても楽しそうに笑っていた。そんなこんなで、カイトとマールは目的地の新宿へ辿り着くと、まずは軽い腹ごなしの為にハンバーガーの有名なファストフードのお店へと入る。


「ふわー…いーにおいー…」


店に入るなりマールは盛大にお腹を鳴らした。


「まずは軽く食べましょう!」


カイトはハンバーガーとポテトとコーラという一般的なセットを二つ購入すると、マールを幼児に見えたのだろう年配の店員が席の札と共に紫色のバケモノの人形をくれた。


「わあー!カイト!こいつなんてやつなの!?」


「パープルモンスターという凶悪な亜人の一種です、めちゃくちゃ強いんですよ!」


嘘だ、殆ど知らない奴だしかしマールは信じ込んだのか目を輝かせる。


「へー!!!こいつ亜人なんだ!!お前は僕よりつよいのかー!?」


席についたマールは、店員から貰ったパープルモンスターでブンドド遊びを始める。そうとう気に入っているようだった、しばらくして先程の中年女性の店員が席にハンバーガーセットを持ってくる。


「お待たせしました、ごゆっくりどうぞー!」


店員は二人を兄弟か何かとおもったのだろう、微笑ましそうに眺めていた。その視線が不審に思い見るとマールのセットに頼んでいないチョコレートのパイがあった。どうやらサービスされたようだ…。


「マール、これはこうやって手で食べていいやつなんですよ?」


そう言って紙袋を取ると、簡単に剥がして見せてハンバーガーを齧って見せる。


「おおおおー!!」


マールは大喜びでハンバーガーに齧り付き幸せそうな顔をする。


「カイト…僕はここでなら野生児とかいわれないんだね?…」


意外に気にしていたのか…カイトは吹き出しそうになるが出かけた言葉を飲み込んだ。


「そんなことよりマール、このジュースを飲んでみてください」


カイトはそう言って赤い紙コップに入れられたコーラをマールに指し示す。


「こーら?ってやつ?おいしいの??」


「世界一美味いですよ?」


「世界一!?まじで…?」


マールはそう言って大袈裟に驚いて見せると、カップを手にしてまじまじと眺めてから恐る恐るストローを咥えてすう。


「っ!?!?」


あまりの感動でガタリと派手な音を立てながらマールは立ち上がる。


「シュワシュワだ!!!何これ!?」


「私がラピュッセルで怒っていた理由です、あんなものは喰らうに値せぬ所詮は贋作よ、このコーラを飲んだ身からすれば…到底許されるものではない。事もあろうにシュワシュワなどと…100年早い、そうであろう?マールよ!」


コーラを熱く語るカイトにマールは満面の笑みで返す。


「良くわかんないけど美味しい!甘い!!」


マールは無邪気で可愛いね…バカがよっ…


「はれ?これなにー?」


マールはチョコのパイに気付いて拾い上げマジマジと見つめている。


「貴女へのサービス見たいですね?あとでお礼を言いに行きましょう」


「うん!」


マールは嬉しそうにすると、もらったチョコパイを半分にする。


「はい、カイト」


素直にその半分をカイトへ渡してきた。


「あ、ありがとうございます?」


マールが食べ物を分けた…だと??驚愕しているカイトを他所に、マールはチョコのパイを一口で食べている。


「甘くておいしー!!」


とても幸せそうな顔をしていた…改めて思う、可愛いが過ぎる…と。カイトはしみじみと感じながらも半分のチョコパイを口に放り込む。サクサクとした食感と、暖かいチョコのソースが口の中に拡がる。


「美味しいですね」


「そうだねー!!」


コーラとハンバーガーを楽しみ、店員にお礼を言ってから外へ出たカイトは、マールを次の目的地である映画館へと連れていく。予定通り上映中の映画はいろんなものがあったが、マールが好きそうなバトルもののアニメ映画を見る事にした。


「これなんてよむの!」


マールは興味深そうにポスターを指差した。


「ぎょめつのやいば、むげんつりぶねへんと読みます」


「むげんつりぶねっ!!良くわかんないけどかっくいいね!!!」


既にワクワクしてはしゃいでいるマールを映画館の中にある売店でポップコーンとオレンジソーダを買ってあげる。


「またコーラ!?」


「のんのん今度は違う味、オレンジソーダです」


「オレンジソーダ!!?カイトの世界はいろんなものがあるんだね!!」


マールは嬉しそうに受け取るとストローで一口吸うと、彼女好みの味だった様子で幸せそうな顔をした。


『魚滅の刃無限釣舟編をお待ちの皆様A1シアターへ…』


女性のアナウンスが響き渡る。


「おや、映画が始まるみたいですよ?急ぎましょう」


「うんっ!!」


カイトはマール止めに上映スクリーンがある部屋にいくと、流石は人気なタイトルの映画なだけはあり既に多くの人が席について上演を待っていた。


「マール、部屋が暗くなったら映画が始まる合図です、それ以降は明るくなるまで喋ってはダメですよ?」


「わかった!」


その束の間にも部屋が真っ暗になりスクリーンが明るく輝いて、いつもの様な違う映画の予告が流れ、魚滅の刃のキャスト達が上映中のマナーを丁寧に伝え、そして映画本編が始まった。マールはカイトの言いつけをしっかりと守り、上映中は一言も話すことは無かった、しかし、感受性の高いマールは映画の展開に本気でのめり込み展開に合わせて笑い、泣き、怒り、喜んでいた。そのせいか、食い意地の化身とも言えるマールがポップコーンやジュースに一口も手をつけない程であった


「カイト!!ぎょめつ!すっごかったねー!!」


上映が終わったスクリーンの外で、マールは目を感動の涙で盛大に目を張らせたまま、残ったポップコーンを二人で食べながら感想を語り合う。


「楽しんでいただけたなら幸いです…」


「ねえねえカイト!僕もあの技使えるかな!?」


あの技?マールはそう言って席を立つと、映画の敵がやっていた独特な構えで身構えて見せる、側から見れば子供が真似をしているだけ…だが、勇者の神託をもつ彼女がそれを技能だと認識すると…。


「【破界戦陣・羅刹】」


彼女の足元を青銀の紋様が浮かび上がる、恐るべし勇者の神託…彼女は一目見ただけでアニメの技を修得してしまっていた。


【破界戦陣・羅刹】魚滅の刃の作中、敵が使用した必殺級のカウンター技であり、どういう原理かわからないが、彼はこの技であらゆる攻撃を受け止めると同時のカウンターを打ち込んでいた。


「せめて味方側の技にしません?りょうごくさんの使ってた炎の剣とかいいじゃないですか?」


「りょうごくさんの炎の剣は確かにすっごくかっくいかったけど、結局負けちゃったじゃん?僕は強いやつのが好きです!」


うーん、子供!可愛いね。しかし、破界戦陣が実戦で使われる事は無いだろう…所詮はアニメの技能…現実で使える訳がないのだ。


「よーし!次はショッピングでもしましょうか?」


カイトは時計をチラリと見て時間を確認しつつマールの手を引く。


「えいが…もうちょっと見たかったなあ…」


マールのぼやきを聞いたカイトは直ぐに踵を返す。


「次は何を観ましょう?」


「へ?ショッピング?するんじゃないの!?」


「そんなもんは後でいいんですよっ!」


そう言って映画館へと戻ると、今度は魚滅の刃と同じくらい人気のアニメ映画を観ることにした。ただ、少し失敗だったとカイトは後悔する事になる。


「…はわわ…」


そのアニメ映画は面白い作品ではあるのだが、若い男女のラブシーンが流されたのだ。いや、ワンチャンなにしてるの?とわからない可能性…そう考えながらも顔を向けると、マールは真っ赤にしたまま口を抑えて固まっていた。彼女はこれがどういう行為なのか…はっきり認識していた。


「コイビトってああいうの…するの?」


刺激が強すぎたようだ…映画が終わった後、スクリーンフロアが明るくなるマールはそんなことを呟いていた。


「え?なんですか?」


敢えて問いかけると、マールは顔を真っ赤にしながらまた口を抑えて固まる。


「な!なんでもないよっ!」


…可愛いが過ぎるだろ、カイトは吹き飛びそうになる理性をなんとか止め、固まったままのマールをなんとか手を引いてホールへと連れ出した。


「さあマール、次は何を観ますか?」


問いかけるが、よっぽど刺激的だった様子でマールの意識はここに無いようだった。


「マール?大丈夫ですか?」


「へ!?え、えーと…そうだなあっ!これがいいっ!」


恥ずかし紛れに適当に選んだそれは巨大なブラックバスが湖に来る人を食い荒らすB級映画だった。カイトは時計に目を向ける、時間的にも最後の映画になるだろう。


「ではそれを観ましょうか」


再びジュースとポップコーンを買ってスクリーンへと向かう。結果的に言えばそのモンスターパニック映画はマールを存分に楽しませてくれた、チープな内容と拙い芝居は逆にマールの興味をそそったようで、始まって数分でのめり込んでいた。幸い人気がなさすぎるがためにフロアにはカイトとマール以外に人はいない。


「あー!そっちダメだってっ!」


思わず声を張ってからはっと口を抑えるマールは、今から食い殺されるだろう配役にダメ出しをしながらとても楽しそうにだった。餌役の人々が食べられる度に一喜一憂していた。ラスト、主人公の男が酸素ボンベを抱えて口の中へ飛び込み巨大人喰いブラックバスと差し違えるシーンでは感動して涙すら流す程だ。しかしB級映画のお決まりだが主人公は補正によって怪我すらないのだ。


「生きてた!」


主人公の生還に喜ぶマール、水から上がってきて仲間達と抱き合い、トドメに走ってきたヒロインと熱いキスを交わしそのままベッドシーンが始まると、軽快なラテン系BGMをバックに行為に及ぶ男女の媚声で幕を閉じる衝撃の終幕。


「…酷い映画でしたねぇ…」


明るくなるなり隣を見ると、初心なマールがリンゴのように真っ赤になっておおきく開けた口を抑えるような固まっていた。


「マール?大丈夫ですかー?」


唐突な営みシーンが余程ショックだったのか、映画が終わっていても顔の前に手を振っても固まったままだった、反射的にカイトの手を掴んでくる。彼女がこんな反応を示すのは珍しい、さっきもそうだが彼女はそういったものには無頓着だった筈だ。中途半端に聞き齧り恥ずかしい事である事だけを認識している程度のものだった筈である。


「その、映画の最後の…あ、あれって…」


……少し、探りを入れてみるか。


「…マール、君あれが何をしているのかわかるんですか?」


「ば!バカにしてる!?交尾でしょ!?カイトの机にいっぱいあったの見たもん!」


ああ成る程ー!知らない間に見ていたのかー!そうだよね、字が読めなくても漫画なら絵があるのだから見れば察しのいいマールなら大体内容はわかるよねー…うんうん…あとで全て処分しなきゃっ!


「…あっ」


マールは思わず口を滑らせてしまった事に今更気がついたようで気まずそうに手で口を塞ぎ目を逸らす、遅いよ!全部言ってるよ!


「…しっかり処分しておかない私にも責任はあります、この件は聞かなかった事にしますね」


「う、うん…ごめんなさい」


珍しく素直に謝罪したマールは顔を逸らして恥じらっている。


「………」


不覚にも一瞬理性が飛んだ、気付けば我が手がマールの背中に触れようと伸びている、抱きしめようとでもしたのか?私?そうはいかない。


「フンっ!」


理性を取り戻したカイトは、その手を強く握りしめると本気で頬を殴りつけて戒めを刻んだ。


「か、カイト!?い、いきなりなにしてんの?」


唐突に自分を本気で殴ったカイトにマールは驚いて声を荒げる。


「心配いりません、蚊がいただけです!」


「か…って…君さあ…」


あまりに分かりやすすぎる嘘をついてしまった、当然だがマールは訝しんでいる。


「大丈夫です、さあ!夕食に行きましょう!!」


そんなマールの手を取り、早足で映画館を後にすると、次の目的地を見るべくスマホに電源を入れつつ目を向けた。時刻は18時、当然だが母からの無限の着信履歴が並んでいて足を止めてしまった。


「カイト?やっぱり頬痛いの?」


唐突に足を止めたカイトにマールが心配そうに伺ってくる、それほど強く叩いたつもりは無かったが思ったよりも強く叩いていたようだ。


「大丈夫、俺に任せておけば何とかなる」


漫画で見た決め台詞をキメ顔でマールに告げて強がりを見せてみた。残念ながら口が切れたようで血が伝う。


「……ダッサ」


マールの無慈悲な一言はカイトの心に即死のダメージを与えた!彼女はジト目で見つめながらも落ち込むカイトの頬に触れると口の中が急に暖かくなっていつしか口内の痛みがなくなった。


「そーゆーの、君には似合わないよ」


「ごもっともです」


カイトは苦笑しながらもスマホの電源を消してポケットへしまう。


「で?!どこにいくの??」


マールの頭は既に夕飯で染まってくれたようす、興味津々で目を輝かせている。


「ふふ、それは行ってのお楽しみです」


そう言ってカイトは再びマールの手を取り、とんこつラーメンの店へと連れて行った。


「…革工屋さん?」


とんこつラーメン屋の臭いを嗅いだマールは、そんな事を言って首を傾げる。鍛治職を営むマールにとってこの匂いは、革工や骨の加工の時に邪魔な肉片を掃除するための作業で散々嗅いでいる匂いなのだ。


「ふふふ」


カイトはそんなマールの反応を楽しみながらも中へ連れて行き、券売機で通常のものと、鬼盛りを買ってテーブル席に腰掛ける。中はそこそこ混み合っており騒がしい。


「券を貰いまーす」


そこへ若い男性店員がやって来た。


「はい、どうぞ」


「ふつうと鬼盛り…鬼盛り??」


店員はカイトとマールを交互に見る。


「大丈夫?これ、すっごく多いよ?」


まあ、そんな反応になるだろうなとカイトは苦笑した。


「大丈夫ですよ」


カイトは笑いながら告げる、そんなカイトの迫力に気圧されたのか、店員は素早くチケットを取る。


「か、かしこまりました…」


今一度二人を交互に見てから厨房へ走って行った。


「ご、ご飯屋さんなの??こんな臭いするのに!?」


マールは周囲の匂いが気になるのかしきりに臭いを嗅いでいた、勇者の神託による影響なのか鼻が非常によく効くマールにとってこのラーメン屋は少しだけ辛いかもしれない。


「お待たせしましたー」


待つ事10分、マールの前には大きな丼に山盛りの野菜がのったものが置かれる。


「僕帰るっ!」


野菜盛りを見たマールはいきなり怒ると直ぐに帰ろうと席を立つ。


「まあまあ、待ってくださいマールこの野菜が大事なんです」


カイトはマールを留め、彼女にも見えやすいように野菜を箸で突いて下に隠れたスープを見せる。


「ふえ?なにこれ?野菜の下にスープがあるの?」


マールも同じように突くと、下に隠れたスープを見つけた。


「試しに一口飲んでみてください?」


カイトはナルトを差し出す。


「?…」


マールはナルトを受け取ると、器用にそれを使ってスープを掬って口にする。


「うえっ!しょっぱっ!」


そう言って舌を出したマールに備え付けられたグラスに水を注いで差し出すと、彼女はすぐに水を飲んだ。


「カイト、これ美味しくない…」


「諦めるのはまだ早いですよ?これを見てください」


スープの中から黄色い卵麺を掬い取って見せる。


「わああ!?なにそれっ!!」


それを見たマールはキラキラと目を輝かせながら箸を使ってスープの下から麺を引っ張り出す。


「こうやって食べるんです」


目の前で啜って食べる、とマールは真似をする。あらゆる技能を一瞬でものにできる勇者の神託を持つ彼女であってもラーメンを啜るのは出来ないようで、ちゅるちゅると吸って口に入れた。


「これおいしい!!」


麺が気に入ったのか、マールは瞳を輝かせながら麺をちゅるちゅると食べ始めた。美味しくないと言っていたはずのラーメンをもりもりと食べ始めれば塔のように立っていた野菜の山がスープに沈んでいく。


「マール、スープに浸された野菜を食べてみてください?」


カイトは彼女にも分かりやすいように野菜を浸してから口に入れる。マールは一瞬嫌そうにしてから恐る恐る野菜を浸してから口に運ぶ。


「甘い?…美味しい!」


お気に召した様子で自ら野菜を口に運び始める。


「スープもいい具合ですね、飲んでみてください?」


カイトの言葉に疑いが無くなったマールは、言われたようにナルトでスープを口に運ぶ。


「え!?…ふしぎ!さっきあんなにしょっぱかったのに…どうして…?」


野菜の水分で味が薄まり、出汁が染み出したからだが詳しくは口にせず楽しげなマールを見つめる。


「まだ美味しくないですか?」


するとマールは大袈裟に首を横に振って見せた。


「すっごくおいしいし楽しい!!こんな食べ物があるんだね!!」


マールはそういうと食べるペースが上がり、あっという間に自分の体の倍はありそうだった鬼盛りをペロリと平らげてしまう。


「はあ…美味しかったあ…」


ただ、彼女の顔は物足りないと告げている。


「お代わりしますか?」


すると意外にもマールは首を横に振った。


「ママのご飯楽しみ!」


ええ…帰ってから食べる気なのか…カイトは苦笑すると、自分の残りを差し出した。するとマールはキラキラと目を輝かせる。


「いいのー!?」 


「ええ、私では食べきれないようです、手伝っていただけませんか?」


「しかたないなー手伝ってあげるよー!」


マールは得意気に箸を手に取ると丼を受け取るなり一瞬で平らげた。


「はれ?カイト、あれってなんで読むんだっけ?」


マールはそう言って指差したのは時計である、時刻は18時30分母に言われた時間は30分も過ぎている。


「18時30分ですね」


「…ママ、何時までに帰って来いって言ってたっけ?」


聞きながらもマールの顔がみるみるうちに青ざめてくる。


「心配はいりませんよ?マール」


カイトはそう言って手を取る。


「さあ、次に行きましょうか!」


カイトはそう言ってマールの手を引いて外へ出る。


「カイト、帰らなくていいの?ママに怒られちゃわない?」


そりゃ怒られるだろうな、しかし、怒られるのが同じならばとことんぶっちぎってやるべきだ。時間は限られているのだから…


「いいんですっ!!今日はたくさん遊ぶんですから」


「そ、そうなんだ?…」


カイトはマールを駅近くのゲームセンターへと連れていく。


「うるさっ…なにここ…」


あまりにも騒々しい店内にマールは耳を塞ぎ、いやそうな顔をしている。彼女の耳にはこの店はいささか騒がしすぎるのかもしれない


「ここはゲームセンターといいます!」


「げーむせんたー?」


この雑音の中でも彼女達の声は良く通る、最前線でもさぞ目立っていたのだろう。


「はい、遊び場というものです!」


カイトは財布からお札を取り出すとそれを両替機で小銭に変える。


「ふわああ!」


お札が小銭になるだけで喜んでいるマールをお菓子が取れるゲームの前に連れていく


「なにこれ!?中にいっぱいなんかあるー!」


「タイミングよく押すと甘いお菓子がでてくるんです、みていてください?」


カイトは100円をコインに入れ適当にボタンを押す。すると機械が動き出して小さなラムネのお菓子を押し出しポトポトと2つ落ちてくる。


「カイト!なんかおちたよ!?」


マールは無邪気にはしゃいでおり、カイトは実に得意気にすると排出口からラムネのお菓子を取り出す。


「うまく取れましたね」


一つのお菓子をマールに差し出した。


「なあにこれ?」


受け取ったマールは初めて見るそのラムネの包みをまじまじと眺める。


「甘いお菓子です」


「甘い!?」


マールは目を輝かせて包を破くと躊躇いなく口に放り込む。


「あまい!!」


凄く嬉しそうに喜んでいるマールに気をよくしたカイトは、自分の分のラムネを口に放る。子供用に調整された甘みの暴力が口の中を暴れ回った。


「マールもやってみますか?」


「やるっ!!」


元気よく返事をするマールに100円をあげると、マールはそれを投入口に押し込みコミカルな起動音が流れ出す。


「タイミングよく好きなボタンを押すんです」


「へー!」


マールは丸見えになっている中を見て目を細める、何をそんなに見る必要があるのだろうか?そう、カイトが見ていると、マールはボタンを押した。


『すごい!おおあたり!!』


へ?大当たり??そんなものあったのか??と、カイトは動揺するが、ゲーム機は今まで聞いた事のない音を立てながらラムネお菓子を沢山放り出す。


「うわあ!カイトみてみて!?」


マールは排出口から溢れ出る沢山のお菓子をはしゃぎながら掴み取ると、楽しそうにカイトのポーチに詰め込んでくる。恐るべし勇者ラック…マールとは運が絡む勝負はしてはならない…と、カイトは肝に銘じた。


「マール、次は勝負をしましょうか?」


「君が?僕と勝負??」


すげームカつく反応をして来る。


「ええ!ついて来てください!」


マールの手を取り大きなゲーム媒体の前に連れていく、それは今の流行りの格闘ゲームだった…カイトもやったことがないタイトルだが、初心者のマールに負ける要素など無い。隣同士に座れる席に連れていくと隣に座らせる。


「なにこれなにこれ!!すごい!」


「これは格闘ゲームといいます、箱の中にいる人をこのレバーとボタンで操って相手を倒せば勝ちになります」


百円を入れ起動させると、カイトは過去作にもいた箒のような頭にタンクトップの軍人を選択する。ゲームが始まるとカイトは初戦の相手をあっという間に倒した。


「ほほー!!このおっちゃん強い!」


マール基準でも強いんだ…。と、カイトは感心しながらも百円をさらに投入するとマールもキャラクターを選びだす。


「おー!このおじさん爺様みたい!」


確かに、ビルドさんによく似たムキムキのレスラーおじさんを選択する。ふふふ、よりによって操作難易度の高い投げキャラを選択するとは…笑止なり、この戦いは勝てるぞ!ふはは、分からせてやるぞマール!などと、カイトは笑いながらマールのキャラクターへ襲いかかった。


YOU lose !


数秒後、カイトの選んだタンクトップの軍人が地に伏せていた。


「あはは!カイトよわすぎ!!」


カイトは本気で戦った、初めての格ゲー、初めての媒体である筈、ボタンの配置だってわからなければキャラのコマンドだって分からない筈なのだ。必ず勝てる筈の試合に負けた?…そこで思い出す、マールの持つ野生的な勘と異常な動体視力と反射神経を。


「て、手加減ですよ?初心者に花を持たせるものですから!」


何かの間違いに違いない、カイトは負け惜しみをいいながら更に100円を投入する。


「へー?それは楽しみじゃん?」


もう勝った気になっている、これは分からせなければ。現代人の実力を!!


YOU loose!


数秒後、カイトは1セットすらとれずにパーフェクト負けしていた。


「攻撃全部ジャストパリィするのはズルじゃん…」


オートジャストパリィを人間がするなんて思わないじゃん?その後隙に強攻撃を差し込まれカイトは完全敗北となった。


「ふふ、君が僕に勝てる訳無いじゃん?」


勝ち誇っていたマールだが、唐突に眉間を抑えるとよろけ始める。


「っ?!…大丈夫ですか?」


「あ、ごめん…なんか…気持ち悪い…」


目を開けられていない、顔が青ざめている。何故…?カイトは動揺しながらもとりあえずマールをゲームセンターから連れ出す事を考えた。


「どこか、休めるところを探します、立てますか?」


そう問いかけると、マールは小さく頷いてから身体を預けてくる、そんな彼女の肩を支えて立たせると、そのままゲームセンターを後にし、ちょうど向かいにあった上品なカフェへ連れて行くと窓際の席へ座らせる。


「…大丈夫ですか?」


そう、問いかけると少し気分が良くなったのかマールは目をゆっくりと開く。


「うん、少し疲れちゃったみたい…ごめんね?」


申し訳なさそうに謝罪を口にする。


「いいえ、謝るのは私の方です」


そこへ店員がメニューとおしぼりを持ってやって来る。


「ご注文は?」


店員は年配の女性、余りに若い二人の来店に訝しむような顔をしている。


「わたしにはコーヒーを、彼女には…サイダーといちごのタルトをお願いします」


「わかりました」


店員はメニューを手に去って行く。


「マール、本当に大丈夫ですか?」


見ればマールはまだふらついている。


「うー…ちょっとかったるいかも…」


彼女は今回、慣れない都会での活動の間ずっと気を遣っていたのだろう。彼女の五感は人のそれではなく野生生物や魔獣の持つものに近い、効きすぎるというのは時にはデメリットにもなるという事なのだろう。


「次、来る時はいろいろ買わないとですね…」


「次?また連れて行ってくれるの?」


マールは意外そうな反応で驚いている。


「勿論です、せっかくの別世界なのです、あなたには存分に楽しんで頂かなくては!」


そう言うとマールは、とても嬉しそうに口元を笑わせてから俯く。


「どうかしました?」


カイトが問いかけると、マールは恥ずかしそうに指で弄びながら呟く。


「僕ね、こんな風に誰かと一緒に遊んだ事って無いんだ」


「それは意外ですね?ハイデさんやゼオラさんと遊んだりはしないのですか?」


その問いにマールは頷く。


「…二人ともお城や教会のおしごとが忙しいみたいだったからね、それに僕、遊び方とか良くわかんないんだ」


思えばそうだ、ベルラートでの彼女は、ギルドの受付で依頼を出待ちしていたり、鍛冶屋でビルドや鍛治集と共に剣や防具を作ったり、妹分のエレーネやシュウやエイレーンと一緒に訓練したり、ボルドー兄弟が滞納した依頼の消化を手伝っていたりと…常に何かをしていた。


「まえに冒険者の…キエルってスカウトの人に誘われた事はあるんだ、でも、何処に行きたい?って聞かれて…」


その時のマールは何も答えられ無かった、彼は異性の彼女に好意を持って接したのだろう。しかし彼女には何も無かった、だから何も答えてあげられなかったと…そんなところなのだろう。


「キエルは僕と一緒にいても面白く無いんだって…」


キエルね、その名前を覚えておこう…静かに怒ったカイトはメモ帳にその名をしっかりと書き殴った。


「お待たせしました」


そこへ注文したケーキと飲み物が届いた。


「うわあ!!なにこれ!?」


マールは木苺が沢山乗ったタルトをキラキラとしていた瞳を向ける。


「タルトです、ホテルでは食べなかったのですか??」


ホテルのケーキにタルトもあったはずだが…マールは首を横に振る。


「しろくて苺の乗ったやつばっかり食べてたからみてないかも!!」


子供はショートケーキが好きだものね…それと彼女は甘酸っぱい味を好む事がこちらへ来てわかった。


「さくさく!甘くておいしー!!」


すっかり元気になったマールはタルトをちびちびと口に入れて味わうマールを堪能しながら苦いコーヒーを口に含むのだった。


「タルトおいしかったー!」


タルトがよっぽど気にいったのか、マールは3回もおかわりをしてから喫茶店を出た。カイトは時計に目を向ける、既に時刻は20時を回っている、今から帰れば21時までには自宅だろう。


「ええと…」


いつもの癖で、ポケットに入れていたスマート端末を取り出し、電源をいれようとする。


「はっ…」


そこで、今電源を入れてはならないと言う危機感知が働き、手を止めた。もし電源をいれたのなら、父と母からの鬼電に埋め尽くされる事だろう。


「そろそろ帰りますか?」


そう言って見れば、マールはしきりにクンクンと鼻を動かして匂いを嗅いでいた。


「マール?」


カイトが問いかけると、マールははっと反応する。


「え!?あ、ごめんね…なんか向こうが気になってさあ…」


マールはそう言って指差したその先にはボクシングジムがあった。


「師匠みたいな、すっごく強い人の匂いがする」


そんな匂いまで感じられるのか?…彼女のいう師匠とは、最速のレイという槍兵の神託を持つ男の事である。


「……行ってみますか?」


レイと同じ匂いがする強者、それはカイトも気になった。純粋な興味である。


「うん!!」


喜ぶマールの手を引き、ボクシングジムの前へといく、時間的にはもうやっていない時間ではあるがジムの中は明るく、入り口はオープンのまま空いていた。


中に入るなり、強烈な打撃音が連続して響き渡る。


「いいぞっ!!ペースあげてこう」


中ではリングの上で二人の男が立っていた、一人は小太りな中年の男性、手にはミットをつけている。


「オーケー…いくぞ…」


その対面には褐色のアジア風の男性が身構えて立っている。身長は180cmボクシング選手にしてはやや小柄な男は、軽快なリズムを踏み始める。


「この人…すごい…本当に冒険者じゃないの?この人…」


マールはその男の身体をみて生唾を飲み込んでいる、確かに…カイトは男へ目を戻す。ボクシングの為に無駄を切り捨てた病気一歩手前の不健康な身体付き、しかしながらその身体は研ぎ澄まされた刃の様に鋭く引き締まっている。刹那、スパァンという稲妻のような凄まじい音が鳴る。男のミット打ちが始まった、ミットを持っていた中年の男は冷や汗をかきながらも男の打撃をミットに当てている。


「っ……」


マールも、カイトも…声を上げる事すら出来なかった。何故?男の拳が見えないのだ…今、カイトの視力は戦場が広く見渡す為に強化されている。その視力ですら捉えられない、彼は何をしている?これはミット打ちじゃないのか?…と、カイトは困惑していると握っていたマールの手が握り返してくる。


「…可哀想、これじゃ練習になってないよ」


マールは無表情でそう、呟いていた。なんで警戒モード!?と、考えているとミット打ちをやめた男が姿勢を正してこちらをみる。


「そんな熱烈な視線を当てられていると火傷してしまうよ?お嬢さん」


褐色の男はマールをギロリと睨みつけ、それを見た中年太りの男性はあっと口を開けた。


「ああ!ダメだよ君達勝手に入っちゃ!!入り口は閉じていただろう!?」


男性は目を吊り上げて駆け寄り、怒るような仕草をする。


「すみません、Openになっていたので入ってしまいました」


カイトが素直に謝ると、男は目を丸くする。


「へ?そんなわけ…」


そう言って入り口を見ると、ガラス越しにオープンの看板が見える。


「…ふう、またかタケシ?俺は毎日の様に注意しろと言っていただろう?」


「す、すみません!すぐにクローズにしてきますので!!」


タケシと呼ばれた中年の男はかけて行く、その隙にもマールは勝手にリングに上がると男と向き合った。


「…ほう?」


褐色の男は鋭いナイフの様な目を細め、マールの身体をつま先から頭の先まで舐める様に見つめた。


「ああ、こらお嬢ちゃんダメだよ!」


入り口を閉めてきたタケシが慌てて帰って来てリングを上る。


「降りろタケシ、邪魔だ…」


男はタケシにはっきりと告げ、タケシは唖然として口を開けていると、鋭いナイフの様な目がタケシを睨む。


「はやくしろ…」


剣先を額に突きつけられるとはこの事だろう、ボクサーの男の殺気に当てられたタケシは素直にリングから降りた。


「ありがとう、おっちゃん」


マールはそうにこやかに笑うと、男は不服そうな顔をする。


「おっちゃんじゃ無い、俺はまだ21、ガランさんと敬意を込めて呼べ…」


「じゃあガランって呼ぶね!」


元気にガランと呼ばれた褐色の男は肩から力を抜いて笑いつつ足元のミットを拾ってマールへ投げた。


「ちょっ!ちょっとちょっとガラン!?ダメだよ?そんなおチビちゃんにミット持たせるなんて!?」


タケシは慌ててガランを止めようとするが、マールはにこやかにミットを手に通す。


「君!お嬢さんとめて!?殺されちゃうよ!?」


「大丈夫じゃないですか?」


カイトの言葉に、タケシは絶望顔をする。


「タケシ、彼女の身体を見て分からんか?」


ガランにそう言われてタケシはマールに目を向ける、しかしガランの言葉の意味が分からない様子で首を傾げ、ガランは静かにため息を漏らす。


「恐ろしく完成された肉体だ、あのなりで体重は100kgを超えている…」


「ひゃ…ひゃく!?!?」


タケシは口をアングリと開けたまま絶句する。


「俺の拳を見ていたな?さっき俺がタケシに何発うったか分かるか?」


ガランは問いかけながらも身構え、リズミカルに動き出す。


「うーん、五回かな?」


マールは得意気に笑顔を向けると、ガランは笑いながら踏み込みながら一瞬で間合いを詰めてきた。


…スパァン!雷鳴の如き打撃音が連続で響き渡る、あまりの速さでもはや目でおえない拳を、マールは素早く反応してその全てをミットで受け止めているのが分かる。10秒、20秒、30秒とマールとガランは凄まじい音を立てながらミット打ちを行った。


「もう、何がなんだが…」


もはやついていけていないタケシは呆然とカイトの隣で激しく打ち合う二人を見つめていた。すると、次の瞬間には二人が磁石の反発の様に距離を取る。


「ウォームアップは済んだ、次は本息でいくが、いいか?」


今のウォームアップだったんだ…


「いいよ!僕も少しあたたまってきた!」


そう笑い返すとガランはニヤリと笑った。


「ほざけ…」


瞬時に距離を詰めるガランとマール、再び激しいミット打ちが始まる、先程よりも激しい音が連続で響き始めた。


「!?」


カイトは驚愕した、ガランの本息の拳がマールの反射神経を凌駕し、その頬を打ち抜いたのだ。


「いたっ!」


ダメージは然程では無い様だ、軽くよろけたが再びミットで受け止める。しかし、数発の度にガランの拳がマールの反射神経を貫いて的確に頬を捉えてくる様になる。


「マールが…押されてる…」


いくら不得意な土俵とはいえ、初めてのボクシングとはいえ身体能力は格段に上を行っているはずのマールがただの人間に明らかに出遅れていたのだ。


「そりゃあ当たり前さ、坊や!」


隣のタケシが得意気に語り出す。


「タイの闘神として名を馳せたガランはうちの自慢の選手だからね!伊達に無敗の世界チャンプやってないよー?あのお嬢ちゃんも十分にすごいけどガランの拳を受け切るなんて無理無理」


事実、マールはガランの拳に打ちのめされているのだから。その瞬間にもミットの隙間を縫ったガランの音速の右ストレートがマールの顔面を貫き、マールの小さな身体が大きく仰け反った。


「いったぁ…全然見えないや…」


マールは悔しそうにいいながらその鼻から鼻血が伝う。


「もう降参か?」


そんなガランの挑発に、マールは垂れた鼻血をペロリと舐めると笑う。


「まさか!もっかいだよ!!!」


今度はマールから間合いを詰め、激しい打ち合いが始まる。


「たまげたな…ガランの本息にここまで食い下がれる女の子がいるだなんて…しかも、鉄板すらぶち抜くガランの拳を何発受けてもまるでダメージになってない…あの子…何者なんだい?」


タケシは興味深そうにカイトに問いかけた。


「ちょっとやんちゃなだけな私の彼女ですよ?」


「君の彼女、顔面殴られまくってるけど…いいの?」


「ええ、やりたいと言ったのはマールですし、それに…」


カイトは指をさす、その先ではガランと激しく打ち合うマールがいた。見れば、勢い衰えないガランの速さに、少しずつ適応してきていた。


「………」


拳を打ちながらもガランもその変化を感じていた、目の前の小さな少女はズブの素人だ、ついさっきまではボクシングなど知らず己が身体能力だけで挑んでいたのだ。それが今はどうだ?彼女は隙を縫われる度、顔を打たれる度に…ガランの動きに適応してきているのだ。さっきまで無駄の目立っていた身体捌きも次第に無駄が無くなって来ており、その翡翠色瞳はガランの拳を的確に追いかけ始めているのだ。


『とんだ…化け物がいたもんだ…だが』


ガランはそう笑うと、瞬間身を引いてマールの横殴りに振るったミットを避けてから弾き上げた。


「うわっ!?」


突然の動作をもろに受けたマールは手を弾き上げられ無防備になると、ために貯めた右のアッパーがマールの下顎を貫き打ち上げた。


マールは身体を大きく反らせると、そのまま仰向けに倒れる。


「し、死んじゃったんじゃ??」


露骨に心配を見せるタケシだが、マールはすぐにムクリと起き上がる。


「びっくりした…今のなに?すっごく痛かった」


ゆっくりと立ち上がり笑いながら殴られた顎を摩っている。


「ど、どんだけ頑丈なの君!?ふつうなら死んじゃうんだよ今の!!ほら見せて!」


タケシはついに我慢しきれなくなりリングに上がるとマールの顔を掴んで様子を見ている。


「ふー…ふー……」


ガランは肩で息をしながら勝ち誇るように笑ってからひと試合終えたかの様に大きなガッツポーズを取る。


「俺の勝ちだ!参ったか!!?」


いつのまに勝負をしていたのだろうか?ふとマールを見ると、マールは本気で悔しそうにしている。


「いやあ!凄いなお嬢ちゃん!!うちのガランとあんなにやりあえる子なんて世界探したっていないよ!?どうだい!?うちの会員にならない?君ならガランと一緒に世界とれるよ!」


空気を読まないタケシ、マールは…


「う…」


「う?」


「うわあああん!」


ガチ泣きである、マールは泣きながらボクシングジムの外へ飛び出して行ってしまった。


「あ、ちょっ…」


タケシが止めようとするが間に合わず手を伸ばした頃にはマールはそこには居なかった。


「すまない、君の彼女を泣かせてしまった」


ガランは紳士的にカイトに頭を下げて来る。


「いえ、私はむしろ感謝していますよ?ありがとうございます、ガランさん」


カイトに感謝されたガランは目を丸くするが小さく口を笑わせる。


「また来ますね?」


「ふ…楽しみにしている…」


ガランとカイトは熱い握手を交わし、カイトは静かにボクシングジムを後にした。帰っていくカイトの背中を見えなくなるまで見送ったガランは緩やかに崩れ落ちる。


「が、ガラン!?」


ガランはリングの上で子供の様な笑顔で大の字で横になる。自分の本息に食い下がってきたマールとの打ち合いが楽しかったがために限界を超えて打ち合ってしまっていたのだ。もう間も無く意識を失うだろう、しかし、薄れゆく意識の中でも彼は笑顔だった。


「そんな楽しかったんか?てか、そこでねないでくれガラーン…」


大きなイビキをかきはじめたガランを見ながら、タケシはため息を吐き出すのだった。


外へ出たカイトは、マールを探す。


「うぐ…グス…うっ…」


マールはジムの外にある電信柱にくっ付いて泣いていた、絶妙に面白い姿勢になっているため直視は避けた方が良いだろう。


「……」


カイトは何も言わずに側へ行く、彼女は世界最高峰レベルの負けず嫌いだ、特に腕っぷしがものを言う戦いでどうしようもなく負けると、この様に泣きながら逃げ出してしまうのだと言う。実際、これを見たのは魔王軍幹部の一人である黄昏のグンヒルドとの戦い依頼である。あの時も泣きながら勇者の剣にしがみついて抜こうとしていた。


「グス…なんも…いわないの?」


マールは匂いでカイトに気がついた様だった、カイトはその場に座り込む。


「そんなに悔しいですか?彼に負けたの」


「悔しいよ!当たり前じゃん!!完敗だったんだよ!?あの人が冒険者だったら僕は何回死んでたと思うの!?」


成る程、そこか…カイトは笑う。


「マール、あなたはあの人には勝てませんでした、それは当たり前なんです」


それを聞いたマールはバッと顔を上げ、そしてぐしゃりと大粒の涙を溢す。


「僕が…よわいから?…」


「違います」


そんなわけがないだろう、と叫びたくなる気持ちを抑えて否定した。マールはキョトンとしてこちらを見ている。


「あなたの世界には戦争がないんです、亜人やエルフとの戦いはありますが、それとこれとは話はべつ。人と人で命の取り合いをずっとして来ていなかった…これがどう言う事か…わかりますか?」


マールはグズリながら首を横に振る。


「つまり、人との戦い方、殺し方を知らないんです。あなた達は」


「そ、そんな事ないよ!僕だって転生者や…喧嘩を売ってきた冒険者を殺してきたもんっ」


それは自慢にならないんだよなあ…


「転生者も喧嘩を打って来た冒険者達も、真の闘争を知らないんですよ?そうなれば、単純な身体能力に軍配が上がります。女神の力でイキリちらしただけの転生者や、三下の冒険者達なんて君の一振りで終わりです」


「う…うん?」


「ガランさんは君より身体能力も力も下でした…冒険者体質ですらない、でも君は勝てなかった。同じ土俵で勝負をしたからと言うのもありますが…それだけじゃない、もっと単純なもの経験の差で、あなたは負けたんですよ」


「けいけんの…さ?」


「亜人や魔獣を蹴散らす戦い方を続けてきた君が、目の前の人間を殴り倒す戦い方を続けてきたガランさんに初見で勝てるわけがない、と言う事です」


実際はガラン側も握手した時には疲労困憊でフラフラだったのだが、これは彼の名誉のためにもマールには黙って置くとしよう。


「しかし、ガランさん…凄い人でしたね、聞きましたか?あの人、世界チャンピオンなんだそうですよ?」


「せかいちゃんぴおん?」


マールは可愛らしく首を傾げた。


「こっちの世界で最強の人ですね」


「さ、さいきょーー?!?そりゃー…つよいわけだ…」


マールはそう言って空を仰ぐと、カイトは立ち上がり彼女の小さな手を取る。


「さ、そろそろ帰りましょ?」


「うん、ママに謝らなくちゃ!」


そうして二人で歩き出す。


「あ、そうそう。ガランさんまた遊びに来いって言ってましたよ?」


それを聞いたマールは再び闘志を巡らせ、目を血走らせながら笑みを溢す。


「…明日から楽しみだねっ!カイト!!」


明日から毎日通う気かい…そして、その日のデートは幕を閉じた、二人が自宅に帰った頃はすでに0時を回ってしまい、玄関で正座で待機していた父と母は修羅の様な顔をしていたが、マールのごめんなさい一言ですぐに許してくれたのはなんらかの贔屓を感じざるをえない。

次回も日常回!

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