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2の2 山根組壊滅作戦

今作は自信ないです…途中で力尽きました

PM14:50


山根組の幹部である男は仕切りに時計で時間を確認する。彼らがカイトとの交渉の後、人質の引き渡し場所に選んだのは山根組のシマである大きな倉庫だった。


ここは表向きは周囲の針葉樹を収穫して加工する工場となっているのだが、その裏では違法な薬物や銃器を置いておくために使われ、処理した死体の処分などにも使える多目的倉庫となっている。周辺は針葉樹の木々に囲まれ、コンビニに行くにも車で30分はかかる僻地であるため、当然人気は皆無である。その上周辺には山根組が監視のために設置した施設がいくつもあり、山根組の構成員が住み込みで監視を行っていて警察車両がやって来たら直ぐ様工場に通報がいくようになっている。


不意に空をヘリコプターが飛んでいく音が聴こえ男は窓から空を見る、別に珍しくもない、気象庁かマスコミの使うカラフルなヘリが工事の上空を通過して飛んでいく。


PM15:00


15時になると同時に、テーブルに置かれたスマートフォンが高らかに鳴り響く。テーブルの周りには複数人の男たちがさまざまな武器を手にして囲っておりテーブルの前に置かれた高価な皮のソファには一人の男が深々と腰掛けていた。


男はポマードでテッカテカにされた髪をオールバックに決め、浮かれた色の入ったサングラスの下には切長の刃の様に鋭い目が隠されている。男は気だるそうに身を起こすと目の前の下っ端に声をかける。


「はよでろ…」


男の名前は【米田勝】山根組のNo2である。彼の指示で下っ端の男は即座にスマホの通話ボタンを押してスピーカーへと切り替える。


『山根組の皆々様。気分はいかがですかな?』


切り替えた途端、まだ声変わりすらしていない年若い少年の声が倉庫の中で響き渡る。


「テメェか?ウチの組に喧嘩を売ったっつうガキは?」


米田がドスの効いた声でスマホに向かって語りかける。


「テメェ…誰に喧嘩を売っているのか分かってんのか??」


No2である米田が遥々ここへやって来た理由。安元圭介の家族を始末するだけという簡単な仕事をし損じた下っ端達の報告があったからだ。俄には信じられないオカルトな内容に、米田は報告してきた下っ端を半殺しにした後で興味を持ったのだ。


『おや?山根組の携帯にかけたはずですが…間違えて動物園にかけてしまいましたか?』


脅しなどものともしないカイトの挑発は米田を瞬間的に沸騰させた。彼はスマホが乗った高価な机に蹴りを入れて派手な音を立てる。その派手な音を聞いた周囲の下っ端達もぴくりと跳ねて米田を見ていた。


「誰が動物園じゃいガキ!!ぶち殺すぞ!!」


キレた米田は勢い良く二度、三度と強くテーブルを蹴り付け、テーブルには彼の靴の跡がついている、スマホの向こうにいるだろうカイトに凄んで見せる。


「あ、兄貴…燃やされちまいますぜ?」


顔面を包帯でぐるぐる巻きにされた下っ端が米田を静止しようと声をかけるが、キレた米田はそんな下っ端に灰皿を投げつける。


「うっせえ!だあってろ!!」


怒鳴り散らかした米田は下っ端達に睨みを効かせる。


『それで?安元の家族はどうしました?声を聴いておきたいのですが…』


お前達など心底どうでもいいと言いたげな態度のカイトが問いかけると、米田は口を裂く様に笑うと口を開いた。


「安元の家族だ?はっ!!残念だったな!!今頃全員仲良く海の底だぜ!?」


当然はったりである。相手が若造ならばこれで大体怯んで態度を改めてきた為、今回も恐怖による思考誘導を試みたのだ。


『………』


電話の向こうでカイトは不気味に黙り込む、それを見た米田は主導権がこちらにあるとほくそ笑む、しかし。


『……マール、あなたの視界に加工された木が集積された場所は見えますか?』


カイトはスマホの向こう側でマールと呼んだ。


『うん、みえてるよー!』


カイトの言葉の後に酷く電波の悪い少女の声が続いた。


『そこへプロミネンスをお願いします』


プロミネンス??聞き慣れない言葉に米田は眉を顰めてスピーカーに集中する。


『プロミネンス!?…いいの?加減なんて出来ないよ?』


マールと呼ばれた女の子の活発な声が聞こえてくる。


「おい…なにをごちゃごちゃ話してやがる」


あまりにも不気味な少年と少女の会話に一抹の不安を覚えた米田が問いかけるが、唐突にスマホのスピーカーから少女の歌声が響き始める。


「お、おい何をしている?」


米田を胸騒ぎが襲い、慌てて問いかける。しかし返事はなくただ単語を繋ぎ合わせただけの様な不思議な歌だけがかえってくる、そうしているうちにも歌が終わりを迎える。


『【プロミネンス】』


歌い終えと共に女の子は、はっきり力強く発音した。

同時であった、激しい爆音と共に強烈な振動が大地を揺さぶり、凄まじい衝撃波が倉庫の窓ガラスを吹き飛ばす。


「ひ!ひいええ!」


唐突な事に驚愕する下っ端達、中にはみっともなく倒れて頭を抱えるものまでいる。


「ビビってんじゃねえてめえら!!!」


米田は勇敢にも恐れ慄いた下っ端達を鼓舞しながらもソファから立ち上がり、やけに明るくなった窓際へ向かう。


「いったい、何が?」


割れて散らばったガラスを踏みしめながら、窓の外へ目を向けた。


「な?……あっ…」


米田は自身のトレードマークでもある色物サングラスを外し、頬を叩く彼は夢だと思ったのだ。


二度、三度と叩くが、彼が夢から覚める事はなかった。それもそのはず、米田の眼前には針葉樹の集積所を焼き払う巨大な炎の柱が天に向かって立ち昇っており、空を明るく真っ赤に染め上げていたからだ。


「ん…んなあほな…」


下っ端の一人が集積所から立ち昇る業火を見上げながらそんな呟きを漏らす、外にいた下っ端達も慌てて中へやって来た、その誰しもが同じように驚愕と得体の知れない恐怖に染まっていた。


『我々の力がお分かりになりましたか?』


テーブルの上に置かれたスマホのスピーカーから少年の声が響き、米田も下っ端達も身体を跳ね上げ、火を見た虫のようにざっとスマホから離れてしまう。


『次は、お前たちの頭上にこれを落とす』


丁寧であったカイトの口調が一気に砕け、デモンストレーションの終わりを告げる。


「ま!まて!!待ってくれ!!」


焦った米田は精一杯に声を張る。


「誰も殺してねえ!安元の家族は殺しちゃいねえ!」


米田は負けを認め、絞り出すように吐き捨てた。


『……ほう?』


カイトの返答はとても冷ややかだった。


「嘘じゃねえ!この倉庫の2階に全員いる…」


『マール…』


「本当だってんだろ!?」


米田の必死の叫びに電話の向こうでカイトの笑う声が聞こえる。


『だそうです、皆さん、聞きましたね?』


【了解ッ!】


その言葉と共にスマホとの通話が切れる。


「へ?」


間抜けな声を漏らし呆然としていた米田の眼前で、何かが派手な音を立てながら倉庫の壁をぶち抜き中へ入ってきた。


「あ…」


それは燃えるような赤い髪をツインテールに結んだ少女、プロテクターの様なもののついた近未来的な戦闘服に身を硬めておりその手には黄金に輝く一振りの刀を両手で握っている。


「な、何をしてやがる!!うて!撃ち殺せ!!」


米田はそれを一目で敵と判断して叫ぶと、指示を受けた部下達は直ちに手にした銃を少女に向けるがその瞬間には既に少女の姿はそこになく。


「はっ…おせーな!!」


そう笑った赤髪の少女は既に間合いを詰めてきており、手にした黄金の刃で1番手前にいた下っ端の腹を振るわれた峰打ちで強く打ち込みながら駆け抜ける。


「ぐは!!」


「ぎゃあ!」


「グエッ!!」


立て続けに三人の下っ端は悲鳴を上げながら、ハンドガンを取り落として地面に倒れ伏せる。


「く!くそがああ!!」


目の前で仲間がやられ、下っ端ヤクザ達は半狂乱に叫びながら銃を少女に向かって撃ちまくる、しかし少女は今度は避けず、飛んできた弾丸を手にした刀で叩き落として全てを防ぐ。


「なっ…うそだろ」


刀で銃弾を叩き落とすなんて芸当を現実に目の当たりにすれば、誰もがそんな反応をしてしまう。


「バカが!仲間に当たるだろが!!」


受け止めた少女はそんなことを叫びながらも瞬間移動に似た速度で間合いを詰めつつも、手にした刀で眼前にいた下っ端ヤクザ達の腹を強く叩きつけてぶっ飛ばしながらも前へ前へと進みつつ、ヤクザたちを片っ端からぶっ飛ばしていく。


「て!テメェら!ビビってんじゃねえ!!」


銃弾すら弾き落とし、下っ端ヤクザ達を片っ端から叩き潰してくる少女に尻込みする下っ端達に、米田は必死に声を張り上げ鼓舞していた。そこへ、一人の下っ端が走ってくる。


「兄貴!こいつァッ…無理です!」


それは先程米田によってボコられた下っ端だった、彼の発言は米田を怒らせる。


「何言ってんだテメェ!!」


米田はそんな下っ端を殴ろうとした、しかし下っ端は軽く米田の拳をいなしつつ密接し懐に手を入れる。


「なっ!?」


「兄貴、俺たちが時間を稼ぎまさぁ…」


米田の懐のホルスター拳銃を抜き取ると、覚悟を決めたような目で真っ直ぐに米田を見つめた。


「お、お前…!」


敗色は濃厚だった、今この瞬間にも下っ端達は倒されている。米田はそんな下っ端の覚悟に次の瞬間には熱いものが込み上げてきた。


「すまねえ!」


米田は思い切り下っ端の肩を叩いて喝をいれ、踵を返すと一息に出口へ向かって駆け出した。


「あ!こらまて!!」


少女は逃げていく米田の背中を追いかけようとするが、そんな少女を銃撃が襲いかかる。


「あっぶね!!」


少女は危なげなく銃弾から身体を逃しつつ、飛んできた方向へ顔を向ける。そこには包帯でぐるぐる巻きのヤクザがいた。


「ここから先は通さねえ!!!」


叫んだ下っ端ヤクザに呼応するように、倉庫の至る所から騒ぎを聞きつけた下っ端ヤクザ達が拳銃を手に続々とやってくる。


「ちっ…まあいいや、テメェらからだあ!!」


少女は小さく舌打ちしつつも、米田の追撃を諦めて下っ端ヤクザ達の制圧に向かった。


「はあ…はあ…」


米田は駐車場までの距離をこれ程長く感じた事は未だかつて無いだろう。彼は手にしたスマホを操作し、2階で待機している部下に電話をかける。


「早よでろやっ!」


待てど暮らせど2階で待機していた下っ端は電話を取れない。一回にいた少女に既にやられたのか?そう考えたのも束の間、スマホが通話状態になる。


『はいもしもし〜』


帰って来たのは野太い男の声では無い、おっとりとした少女の声であった。


「だ…だれだ?2階の仲間達はどうした?」


恐る恐る問いかけると、彼女はクスリと笑う。


『そこから見えますよ??』


そんな言葉に米田は驚愕で足を止めてしまい、ゆっくりと振り返る。背後には先ほどまで自分がいた二階建ての倉庫がある。


「なっ…あ…」


倉庫は屋根から壁にかけて怪獣の爪に切り裂かれたかの様に深く抉られており、2階の中が丸見えになっている。室内には積み上げられた部下達の山、そしてその傍に佇むスラリとした背の高い金髪の少女が呑気に微笑みながら手を振っていた。


「ひっ…!?」


米田はあまりの恐怖からスマホを落としてしまう、しかし、拾う間もなくすぐさま踵を返し車のある駐車場へと走った。


「お?兄貴だ!」


駐車場には米田が信頼を置く精鋭ヤクザ達が待機しており、彼らは米田の姿を見るなり大きく手を振った。


「兄貴!一体何事ですかい!これは…」


彼らも突然の事態に困惑しており、米田の有様に眉を顰めながらも息を切らした米田に手を貸す。


「はあ…はあ…車ァッ…だせ!!早く逃げるゾッ!!」


米田は息も絶え絶えに叫ぶが、選りすぐった僅か十人の精鋭達はそんな状態の米田を見て顔を見合わせ、余裕の笑みを浮かべている。


「まあまあ、兄貴…落ち着いてくださ」


「馬鹿野郎が!!んな暇はねえんだ!!みんなやられた!!いいから早く車ァ出せ!!」


米田は目を血走らせて力の限り怒鳴りつけるが、精鋭ヤクザ達はそんな米田には怯まない。


「なあにビビってんすか?兄貴、俺たちがいるじゃねえですか」


精鋭達は頼もしくも各々が手にした最新鋭の軍用ライフルを手に凄んで見せてきた。


「相手がエイリアンだって負けやしませんぜ?」


自信満々な様子で精鋭ヤクザの男は笑っている。


「テメェらはあれを見てねえから言えるんだ、たった一人の女に全員やられたんだぞっ!!銃を持ったヤクザが数十人だぞっ!?!」


酷く狼狽していた米田は目を手で覆い、目を閉じた。下っ端達が瞬く間にやられて行く姿が浮かび上がって来て米田の体がひとりでに震えてしまう。そんな米田の様子に精鋭達にも不安が過ぎる。


「分かりました、車を出しますので乗ってくだせえ」


一人が折れて踵を返し、運転席の扉に手をかけたその時。唐突に一機のカラフルなヘリが飛んできて空から何かを投下した、降って来た何かはズドン!!と派手な音を立てながら駐車されていた黒塗りの車の高級車を派手に叩き潰した。


「なっ……あ…」


唖然とする精鋭ヤクザ達は唐突の出来事に固まってしまっている。なぜならヘリから投下されたのは小さな少女であったのだ。栗色のショートボブに翡翠色の美しい瞳、女児向けのアニメがプリントされた黄色いシャツとカラフルなショートパンツという明らかな女児の様な様相をした少女だった。


「で!!でたあああ!!」


米田が半狂乱に叫びながらも走って逃げ出そうとするもすぐさま地面に転んだ。恐怖のあまり足が動かないのだ。米田の悲鳴に呼応した精鋭達は即座に思考を切り変え車の上にいた女の子に対して手にしたアサルトライフルを容赦なくぶっ放す。


「うわっ!」


女の子は銃弾をもろに食らって実に間抜けな声をあげると、怯んでひっくり返りべしゃりと車から地面へ落ちた。


「ほら兄貴、やりましたぜ?ただのガキだ!」


何を言ってるんだ?ただのガキなわけがない。彼女がどこから降って来たと思っているんだ?米田にはわかる、彼女は数十メートル上空のヘリから飛び降りて来たのだ。しかし、そんな米田の怯えを知らない精鋭の一人は自慢げに笑いかけるつつ頭を抱えて怯えている米田の背中に手を当てた。


「ち、ちゃんと確認しろっ!!」


米田はガタガタと震えながら叫んだ。


「あん?…たく、わかりやしたよ」


米田に指示された精鋭の一人はうんざりとした様子で多少苛立ちを滲ませながらも、倒れた少女の遺体を確認に向かうと、彼女はちゃんと車の裏側に仰向けに倒れていた。


「流石に死んでるだろ…5.56を浴びたんだぜ??」


男はそんなことを言いながら側に近づいていくと、彼は足で少女の肩を踏んで身体を揺らす、倒れたままの少女に反応はない。


「ほら、ちゃんと死んでやすぜ?」


調子にのった男は倒れた少女を米田に見せようと手を伸ばす、しかし次の瞬間には閉じていた少女の目がパチリと開き、伸びていた彼の手を掴んだ。


「え?…」


男は驚愕に目を見開いている間にも女の子は男の身体を引きずり倒して腹に手を押し当てる。


「【スパークウェブ】」


ズンッと全身に響くハンマーで殴られたかの様な強烈な衝撃が身体を貫き、男の身体な吹き飛んだ。


「な、なっ??」


唐突に男が吹き飛ばされ、歴戦の精鋭達に動揺が走る、しかし彼らが状況を理解する事は出来なかった。

なぜならば、精鋭達はほぼ同時のタイミングで悲鳴を上げて地面に倒れ、何をされたかも理解することも許されずに意識を飛ばされたからだ。


「ふー…そうじかんりょー…」


少女はクンクンと匂いを嗅いで安全を確認すると、道路に頭を抱えたまま蹲っている米田に歩み寄る。


「ゆ、夢だ…これは悪い夢…」


譫言の様にガタガタと震えている米田の様相にマールは頬をかくと、背中をトントンと軽くつつく。


「ひい!…ひっ…ひ?」


米田はピクリと跳ねてからゆっくりとこちらに目を向け、そしてマールの顔を見上げた。


「あとは君だけだ♪」


マールが笑顔で告げると、米田は白目を剥いてひっくり返って気絶してしまった。


「ありゃ…寝ちゃった……」


女の子はそんな彼の頬をペチペチと優しく叩きながら様子を見つつ首に付けられた小さなインカムに触れる。


「あー、あー…こちらマール!逃げた人達はみんな倒したよ?」


『お疲れ様でした、本田さんヤクザ達の回収をお願いします』


マールの頭につけられた骨振動イヤホンからカイトの声が響く。


『了解、回収班行くよ!』


本田の返答と共にけたたましいサイレンが鳴り響き赤い光と車両の列の光が暗い森の車道を照らす。


『マール、その場はいいので茜さんと合流してください』


「へ??この後は栞達に合流じゃないの?」


予定と違う指示にマールは異議を唱える、するとカイトはため息混じりにぼやいた。


『茜さんがヤクザの一人を斬ってしまったんです』


「はー!?何やってんのー!?」


マールは声を荒げながらも匂いを嗅ぐ、確かによくない血の匂いを感じられ、マールはあわてて倉庫に急いだ。


『し!仕方ねえだろ!?こいつしつこかったんだよ!!チクショウ、血が止まらねえ…』


米田の部下だった男は死兵となって茜に食い下がって来た、いくらぶちのめしても起き上がり、最終的には手榴弾を取り出して死なば諸共の自爆特攻を試みて来たのだ、未熟な茜ではどうにもできず向かって来た男の身体を袈裟に切り、落ちた手榴弾を全力で蹴飛ばして事なきを得たものの…結果として胴をバッサリと切り裂かれたヤクザの男だけが残ったという状況にいたる。茜は必死に男の傷口を握力で抑えて血が流れ出ないようにしていた。当然そんな止血で出血が止まるわけがない。ヤクザの男に意識はすでに無く刻一刻と死に向かっていた。


「お待たせ!そのまま押さえといて!」


そこへ、数秒と立たずにやってきたマールは、傷口を抑えたままの茜の前にしゃがみこむなり瀕死のヤクザの傷口へ触れる。


「うぎゃああ!!?」


倒れたヤクザは激しい痛みに悶え苦しみ暴れ出す、想像を絶する痛みから逃れたく、暴れる大の男だが、マールの右手に簡単に押さえつけられてしまう。


「アカネ!離れて大丈夫だよ!」


大の大人を小さな女の子が押さえ込むという構図はいつみても不思議なものである。


「おっけ、なおった!!」


マールは立ち上がりゆっくりと離れると、床にはぐったりと横たわったヤクザが目を見開いて口を開けたままビクビクと痙攣している。


「わりい、助かった…」


落ち込んでいる茜の肩を軽く叩いた。


「いいよ〜、殺しちゃダメだなんて指示を出したバカが悪いんだからさっ!!ねえカイト??」


マールはわざわざインカムに触れながら、忌々しげに悪態をついた。


『そう言わないでください』


カイトはホテルにいた。窓際の席に深々と腰掛けつつも優雅に手にした紅茶を一口含みつつ、目の前の長テーブルに置かれた複数のタブレットPCを眺める。タブレットは全部で6つあり、画面には6つの視覚が映されている。


『これは魔法少女対策課われわれにとって、とても大切な事なんですから』


時は遡り数刻前…カイトは他の魔法少女達と本田含める回収班を部屋へと集めた。


「つまり、その人のご家族が人質になっていて、あたしらはそれを助けに行くってことか?」


燃えるような赤い髪をツインテールにした少女 【赤彩茜】は大きなベッドに寝そべりながらも、眼前に座る初老の男性【安元圭介】の顔に刃の様に鋭い瞳が向けられ、そのあまりの迫力に気弱な圭介が怯んでしまう。


「はい、その通りです」


カイトはそう呟くと、茜の目がカイトへ向いた。


「ならちゃっちゃと行こうぜ!なんならあたし一人でもいいぜ!?」


先の冒険者殺しとの戦いで加護の数字を大幅に伸ばしている茜は身を起こす。


「まだ相手の場所はわかっていませんよ?」


そんな茜に突っ込んだのは隣に座るスラリとして背の高い金髪の美少女【黄河絵里香】である。そんなツッコミに茜は即座に顔を顰めた。


「ですが…茜の気持ちはわかります」


絵里香はその手に、安元が持ち込んだ資料の一枚を持っていた。


「この様な外道にご家族を拉致されたとあっては、気が気ではないでしょう」


隣の茜も横から資料を一瞥すると真剣な目をカイトへ向けてくる。二人はお互いに口元を笑わせてはいるが、その瞳は激しい怒りの炎が燃え盛っているのが分かる程ピリピリとした空気には圧すら感じ、カイトですら気圧されそうになる。


「士気が高いのは良い事ですね、では今回の作戦を簡単に説明しますので各自にタブレットを持って下さい、マールは私の隣に」


カイトはそう言って切り出すと各々は移動してタブレットをてにする。マールはカイトの側にやって来ると、作戦の概要を語った。


「は??手加減ってなんだ?」


作戦を聞いていた茜が不満気に吐き捨てた。


「読んだ通りです、今回の相手は反社の外道とは言えど人、当然ですが殺しはダメです」


ウェーブがかった黒髪に水色のワンピース姿の【葵青葉】は律儀に手を挙げ、カイトは頷くと静かに口を開いた。


「相手は銃を手にしているんですよね?手加減している余裕が我々にあるのでしょうか?」


忘れているわけでは無い、例え身体能力が優れていても銃が驚異である事は変わらない、そう考えながらもカイトは隣で退屈そうに欠伸をしているマールを見た。


「ん?なに?」


マールは可愛らしく首を傾げた。以前戦った銀の国を制圧した転生者と戦った際、銀の国の兵士達には銃弾は効いていなかった。しかしアレは彼等の加護の数字によるものである可能性が高い。…ダメ元で聞いてみるか。


「本田さん、今拳銃を持ってます?」


「え?あるけど…」


「少し、彼女に見せてあげてもらえませんか?」


「ええ!?見ても良いの!?」


カイトの言葉に眠そうだったマールはテンション高く食い気味に食らいついて来た。


「うー…まあ、いいか…」


本田は不安そうにして出し渋ってはいたがすぐに側までやってくると、ホルスターから拳銃を抜いて弾倉を抜き、スライドを弾いてチャンバー内の弾丸を丁寧に取り外して空にすると、それをデスクに置いた。


「マール、これが銃です」


マールは興味深そうに本田の拳銃を摘み上げまじまじと見つめる。


「ああ…これ、銀の国の時に敵が使っていた奴かな?構造が同じだ…にしては大分小さいような…」


さすが鍛冶屋の娘なだけあり、少し触れただけで構造の類似点に気が付いている。


「はい、構造は概ねアレと同じです」


「へー…」


マールはいつになく真剣におもちゃの様にスライドをガチャガチャとしながら遊びつつも、本田に顔を向けた。


「ホンダ、それも観たい」


マールは手にした弾倉を指差した。本田は困り顔になりながらカイトに目を向けてきた。


「わたしからもお願いします」


カイトに言われ本田は渋々といったかんじでマールに弾倉を手渡し、受け取ったマールは初めてみる技術に興味深々の様だった。


「これがあの当たると痛いやつか…ふーん?」


弾倉から9mmの弾丸を取り出すと、忌々しげに顔を顰めつつも弾倉に戻してからデスクに置いた。


「さてさて…じゃあ少し失礼して〜」


マールはペロリと舌を出してから初めて触れる筈の拳銃を熟練の兵士の様に分解してパーツにすると、そのパーツ一つ一つをしっかりと構造を観てからすぐに撃てる状況まで元に戻す。


「か、彼女…初めて触れたんじゃ?」


勇者の神託によるものが無くとも彼女ならこれくらいはやるだろう。そう考えて居るカイトを他所に、マールは結合した拳銃に弾倉を装填してスライドを引きチャンバーに弾丸を供給すると、何を思ったのか自らのこめかみに銃口を押し当て、何の躊躇もなく引き金を引いた。パァンッ!と乾いた音が響いて弾に当たった彼女の頭が軽く揺れた。


「成る程ねー…そこそこ痛いかな?」


それだけに飽き足らず、マールは腹、腕、足と拳銃を押し当て引き金を引き続けた。


「うん、大体わかったよ」


マールは弾倉の弾を撃ち尽くした拳銃を本田へ返した。


「ほ、本当に何とも無いの?」


本田は心配し青葉も加わりマールの身体を見回して怪我を確かめる、結果的にはマールの皮膚には後どころか傷一つ付いてはいない事が分かる。


「銃に冒険者を殺す威力はありそうですか?」


カイトの物騒な問いかけに、マールはわざわざ聞くなと言いたげに顔を顰めるものの、魔法少女達の好奇な視線に気がつく。


「こんなんじゃカイト以外の冒険者は殺せないよ、びっくりはするかもだけどね?」


あ、やっぱわたしは普通に死ぬのね…とカイトはショックを受けながらも、青葉に目を向けた。


「だそうです、青葉さん」


「は、はい…ありがとうございますマールちゃん」


「ふがッ」


そこで、ベッドでグースカ寝ていた栞が間抜けな声をあげた、それを聞いた青葉は思わず吹き出して顔を逸らした。


「おう、いつまで寝てんだ?はよ起きろ」


茜はペシペシと栞を叩いて起こそうとするが彼女には効いていない、おかげで空気が少し和んだため後で感謝しなければいけないだろう。


「でもさ、何で僕達が悪党相手に手加減なんてしてやらなきゃいけないの?」


マールは無表情で問いかけて来た、マールから表情がなくなる時は明確な敵意の現れである。


「ケイスケの家族を誘拐しただけじゃ無い」


そして彼女の視線は、もう一つのベッドへと向かう。その先には大きなバッグがあり、その傍らに黒髪ショートに中性的な顔立ちの少女、黒崎綾奈がいる。その手はバッグに触れ撫で続けている。


「綾奈のコイビトをあんなふうにした奴らに手加減してあげる必要なんかあるのかな?」


無表情のマールの瞳にもかつてない程の怒りの炎が燻っている、バッグの中身は回収班が回収して来た白石霧香の亡骸である。中は見ない方がいいと言われていたが、魔法少女の中でも最年少かつ、お調子ものの緑谷栞が興味本位で中身をぶちまけたのだ…中には死後も陵辱されたであろう無惨な霧香の遺体が入っていた。顔は判別が出来ないほどに潰され、手脚の指はなくお腹を魚のように開かれて内臓は綺麗に抜かれていた。それを見た栞は気絶してしまい、今に至る。


「王様なら、情け容赦はイランッていうでしょ?」


ゼノリコならば烈火の如く怒り散らし考えたくもない残酷な仕打ちを命ずるだろう。


「ゼノリコ様ならそういうでしょうね」


カイトの肯定に気をよくしたマールは勝ち誇るように笑みを浮かべた。


「でしょ〜?だったら…」


「だとしてもダメです」


「だから、なんで??」


マールの視線が刺さる、カイトは苦笑しつつも頬をかく。


「理由は色々あります、1番は冒険者が人類の敵にならない為です」


カイトの発言に全員がポカンと口を開ける。


「意味わかんねー!!人類の敵??あたしらが!?」


茜は声を荒げて詰め寄ってきた。二人だけではない、絵里香や青葉も納得できてはいないようだった。


「我々はこの世界では、突然変異した生物…マールにも分かりやすくいうなら新しい亜人なのです」


亜人と言われマールはギロリとカイトを睨んできた、剣先を喉元に突きつけられたような不快感が伝わり冷や汗が伝う。


「考えても見てください?我々は外見は変わらないながらも常人の数倍の身体能力と耐久性を得ているんですわたしやマールの国のように冒険者がありふれているわけでもない、そうなれば人間達は淘汰を恐れでた杭を叩こうとするでしょう」


「……ん…ん?」


絵里香は納得したように頷いているが、他の少女達は理解していない様子であった。


「僕も賛成、君達に人を殺してもらいたく無いよ」


静まり返った室内で本田が意見を述べ、それを見た茜は肩から力を抜いた。


「なら…しかたねえか」


茜はそう言って素直に納得を示し、隣の青葉や絵里香も納得しているように頷いている。


そうして、カイトの視線は綾奈へ向かう。


「霧香は…本当に助かるんだよな?」


綾奈は優しい視線をバッグに向けていた。


「勿論です、彼女は加護の数字ももっていますからね」


霧香は、カイトが分けなくても蘇生出来るだけの加護を持っていたからだ。


「もっとも、蘇生を使えるのはマールだけですけどね」


そう言われた綾奈は、懇願するようマールに目を向けた。ただしマールは渋い顔をしていた。


「あ、ごめん…蘇生はちゃんとやるから心配しないで?」


そんなマールの言葉に綾奈は安堵するように肩の力を抜く。


「なら、俺はあんたに従うよ、あんたが殺すなというなら殺さない…」


綾奈は静かに賛同すると、その瞳を霧香のバッグへうつした。しかしマールは不満を顔に表していた。


「不満ですか?」


カイトの問いかけにマールは頷く。


「不満だよ、あんな殺し方をする人達にたいして手加減なんて、僕はしたくないっ…」


マールはこの場に居た誰よりも怒っていた。


「カイトはどうなのさっ!」


マールが他人に意見を求めるのは珍しい。


「この指示は、私が出したものですよ?」


その言葉にマールの瞳が大きく見開かれる。彼女はこの指示が篠崎からの指示であると考えたのかもしれない、この後の行動は暴走である。だからカイトはすぐにマールの手を掴んで強く引き寄せる。


「君には正直に言いましょう、今までのそれっぽい言葉は全て建前です。私がこの提案をした理由は君です」


その言葉にマールの顔に表情が戻る。


「理由が僕?…」


理解できないと言いたげなマールだったのだがカイトは大袈裟に頷いて見せる。


「私は、君にこの国で人を殺してもらいたくない」


真っ直ぐに、マールの目を見ながら告げたカイトが気づくとマールはヤカンのように顔を赤くして気まずそうに目を逸らすと、カイトの手を振り解き、早足でマールは窓にもたれかかるように床に座り込んだ。


「全く…カイトの癖に!ぶつぶつ」


そう、顔を真っ赤にしながらぶつぶつと小さな声で文句を呟き続けていた。


「頼りにしていますよ?マール」


カイトはそう言うと、マールの返答は枕の投擲だった。枕に顔面を強打され、苦笑しつつも改めてタブレットを手にとった。


「それでは、皆さんが納得したところで、安元一家救出作戦のシナリオを伝えます」


………



『カイト君!大変ですっ!』


絵里香の悲鳴に近い声がタブレットから響き、物思いに耽っていたカイトは現実に引き戻され、絵里香の声がするスマートタブレットに視線を向ける。今回、作戦では全魔法少女たちに情報伝達を速やかに行う為に首に取り付ける用の無線インカムと頭に取り付ける骨振動のイヤホンを装着しており、耳を塞ぐ事なくやり取りが可能となっている。首のインカムには高精度のカメラが溶接されていて、タブレットを介して魔法少女達の視線を確認できるようになっている。カイトはすぐさま首のインカムに触れつつも絵里香の視線が映されたタブレットを見る。そこには手を後ろに縛られた男女が三人映されていた、抵抗したためか執拗に顔に殴られたようで痣が痛々しく残っている。


「何事ですか?」


「紫苑ちゃんが見当たりません!」


カイトの問いかけに被せるように絵里香の報告が全員を戦慄させる。


「し、紫苑…?」


向かいの席にいた安元は動揺に目を見開いていた。


『倉庫内をくまなく探したが、ガキの姿だけ見当たらねえぞっ!』


茜からの報告にも更なる動揺が走る。


「報告ありがとうございます」


その報告にもカイトは特に気にしてはいないようで実に淡白な反応をし、そして酷く狼狽している安元に目を向けた。


「し、紫苑…紫苑…わ、わたしのせいで…」


譫言のように孫娘の名前を呟き涙を流す姿は非常に痛ましい。カイトはそんな安元の肩を叩く。


「気を強く持って下さい、安元さん…大丈夫です」


安元はパッと顔を上げるとカイトは不気味に笑ったまま首のインカムに触れる。


「【全て想定通り】です、今より二の矢を放ちます。聞いてましたね?栞、綾奈さん」


カイトの言葉を受け二つの画面が同時に明るくなる、それは栞と綾奈の視線である。


『よしゃ!出番や行くでこうはーい!!』


『おうっ!行くぜっ!カイト、俺も呼び捨てでいいぜ?』


二人は同時に車から外に出ると、眼前の大きな門が映し出される。


「え、想定…通り?え!?」


安元は顔をしかめカイトに目を向けた。カイトは安元が持って来た山根組摘発ようの資料を手に取って見せる。


「きっかけは安元さんが持って来たこのカルテの内容でした…」


カイトは犠牲となった子供達のカルテを一枚また一枚をテーブルに置いて行く。


「山根組は子供をしのぎの為に誘拐して内臓を抜いて売っていたわけではないんです」


カイトの言葉に安元は驚愕に目を見開いた。


「犠牲になった子供達の大半が少女ばかり、ほとんどが大麻の過剰摂取による中毒死で韻部の裂傷や骨盤が損傷しているものばかりでしたつまり…」


カイトは冷酷な目を安元へ向ける。


「組長は小児性愛者です、欲求を満たすために年端の行かない少女をさらい、大麻を過剰摂取させた状態で行為に及び…死んだ亡骸の内臓を」


「も、もういいよ、つ…つまり…つまりは紫苑は!」


安元は顔をぐしゃりと潰すようにしながら項垂れるが、カイトはそんな安元に笑いかけた。


「心配は入りません。最初の会談から1時間前後…本田さん達の逆探知から位置を特定し交渉したヤクザ達の位置は彼らの本部からかなりの距離があります、そこから移動させたとして紫苑ちゃんを乗せた車両が到着したのはついさっきになります」


カイトはそう言って綾奈の視点を巻き戻して数秒前に前を通る黒塗りの車を写す。


「この車に…紫苑が?」


「まず、間違いないでしょう」


車から飛び降りた綾奈は素手から魔力の糸を放出して周囲に不法駐車された車達に巻きつけると、山根組の大きな施設の正門を守る巨大な鉄格子めがけてぶん投げた。激突した車両は派手に爆発して爆炎と衝撃を撒き散らしながら頑丈な鉄格子の扉を吹き飛ばした。


「な!?なんだあああ!?」


施設の入り口に立っていた二人のヤクザは突然の出来事に声を張り上げる。


「何って!カチコミじゃないんか!!」


勘のいいもう一人が声を荒げると。


ガチャリ…ガチャリ…ガチャリ…


爆発の中でもかろうじて残った鉄格子を掴んでぶち壊しながら、爆炎の中を不気味な音を立てながら歩いてくる。


「ちいさな…甲冑…?」


二人の目の前に現れたのは黄金色の鎧を身にまとい、歩いてくるそれは明らかに子供であった、しかし彼らが安堵する事はない…それはなぜか?歩いてくる子供が手にしている人では持つことはできないであろう大きな道路標識を持っていたのだ、まるで大きな斧のように。


「ほ、惚けるな!とりあえず撃て!!」


門番の二人はそんな甲冑に直ちに拳銃を抜き放つと迷うことなく引き金を引いた。


「ははー!効かんなあ!!」


栞は歩きながら目の前で銃を構え、撃ちまくるヤクザ達対して歯を剥き出して笑い、手にした止まれの道路標識を強く握ると、彼らの背後にある大きな2枚扉めがけて投げつけた。栞によって投げられた道路標識は最も容易く扉を貫いて破壊して床に突き立った。それを見たヤクザ達は続々と中から仲間を呼びつけて来て、二人だったヤクザが四人に、四人だったヤクザが八人、十六、三十二とわらわらと増えて入り口を塞ぎ、思い思いの銃器を栞に向かって使った。ハンドガン、アサルトライフル、マシンガン、バズーカに手榴弾と、ありとあらゆる攻撃が栞を襲った。


ただ、鎧を着ただけの子供ならアサルトライフルの時点で簡単に貫かれていただろう。


「か、カイト君…彼女は…」


栞を心配してから、視点を見ていた安元がカイトに声をかける。


「大丈夫、あの程度の攻撃では彼女の鎧には傷一つつけられませんよ」


純度100%の鋼鉄とカイトが持ち込んだ異世界の金属をふんだんに使われて作られた唯一の複合金属を贅沢に使って造られた栞の鎧の防御力は、あの巨大な冒険者殺しの岩をも穿つ触手の攻撃を受けても傷一つつかない程である。


「まあ、硬いだけで毒を防げるわけではありませんし?熱や衝撃を防ぐこともできません」


しかし、今の栞は手榴弾やバズーカの爆発を浴びているではないか。


「鎧で防げないなら、鎧以外で防げばいい」


今の栞は鎧の内側に打撃に強い耐性を持つ冒険者殺しのなめし革によって造られたインナー、そして手先が器用なマールによって丁寧に編み込まれた鎖帷子を重ね着している、この下着によって鎧では防ぎきれない衝撃や熱を大幅に軽減出来てしまう。だからバズーカにも手榴弾にも怯まない。


「しかし、いくら効かないとはいえ栞さんは動けていないね…」


「そりゃそうです、私は栞には正面で敵の注意を引き続けるように指示をしていますから」


「え…え!?」


そうしてカイトはスマホを操りつつインカムに触れる。


「青葉さん、マールを拾い栞達の援護に向かって下さい」


『わかりました!』


『いいよ着陸しなくて、そこで扉あけてー?』


マールに言われ、青葉は困惑しながらも脇のドアを開けると、マールが乗って来た。


「ありがとー!」


「は…え?」


青葉も、パイロット達も困惑していた。ヘリは数十m上空にいたからだ、そのヘリにマールは乗ってきたのだ。今は扉をしててからシートに寝転がっている。


「さあいこー!!」


マールの一声に困惑していたパイロット達は渋い顔をするも、すぐに山根組本部へ向けて飛んでいく。


『あたしらはどうしたらいい?』


「本田さん、茜さんと絵里香さんを連れてホテルに戻って下さい」


『え?それはいいけど…作戦終了かい?』


本田の困惑の返答に、カイトは自身のスマホを操作しながらも頷いた。


「ええ、そうですね」


そして、スマホをテーブルに置く。


『はあー終わった終わった、本田さん早く帰ろーぜ?』


『え?あ…』


『そうです本田さん!わたし、デザートが欲しいです』


『ああ!ずるい!!僕も欲しい!!いちごって奴が載ってるやつ!!』


『うちもそれー!』


デザートに反応したマールと栞が介入してきた、ショートケーキくらいホテルに帰ればあるだろうに…カイトは盛大にずっこけたのだった。


『カイト、中に入ったぜ!』


そこへ綾奈の報告が走る。正面の栞がヤクザ達を釘付けにしている間に大きく迂回して側面の窓から中へ入り込んだ綾奈は、その場にいたヤクザ達を瞬く間に制圧し、壁に磔にしていた。


『了解、紫苑ちゃんを任せます』


「ああ、任せとけ」


綾奈は口を裂くようにして笑うと指から次々と糸を放出しながら駆け出すと目の前の扉を蹴破る。


「なっ!?」


扉の奥には男がいた、背は高く、黒の背広に身を包みその手には軍用のアサルトライフルを握っていた。彼は入り口へ向かう予定だったのか、唐突に背後から現れた綾奈に面くらったような顔をしており反応が遅れていた、綾奈はそんな男の身体に糸を巻きつけると勢いよく壁に叩きつけた。


「ガハッ!?」


ヤクザの男達は叩きつけられた拍子に手にしていたライフルを取り落としてしまい、素早くライフルを拾おうと手を伸ばすも、その手にも糸が絡みつき壁に引き寄せられて磔にされる。


「が!…なんっ…だ、こりゃ!?」


動揺する男は必死に体を捩って抜け出そうとするが、綾奈の魔力の糸はその程度の力では振り解く事は出来ない。


「組長の部屋は何処だ?」


綾奈は磔にした男の側に歩み寄り問いかけた。


「い、いうわけ…ねえだろ?」


綾奈に精一杯に凄んで見せるが綾奈はそんな男の手を開かせて指をパキリと違う方向にへし折った。


「ギャアアアアア!?」


激痛に悲鳴をあげる折れた指を元の位置へと戻し、更なる激痛に男は悶絶した。


「組長はどこだ?」


綾奈は再び問いかけた、指をへし折られた男の瞳には恐怖の色が見える。


「そこの廊下を右…奥の…大きな…2枚扉の…」


恐怖に負けたヤクザの男は素直に白状した。


「しばらくそこにいな…」


綾奈は男をその場に残して廊下をかけ、突き当たりを右に周り廊下を駆け抜け最奥には男が言ったように大きな二枚扉があった、その前には複数人のヤクザ達が守っていたが綾奈はそれらをものともせずに壁や天井に叩きつけて磔にすると、勢いよく扉を蹴破った。


「さーシオンちゃーん?…お注射しようねーグフフ…」


ベッドに拘束された少女と、その傍らで注射器を手にした肥えた男が綾奈の視界に飛び込んだ。


「おお?」


男はゆっくりとこちらに振り返り綾奈を見ると目を丸くし、次の瞬間には壁に叩きつけられた。怒りに染まった綾奈は組長の身体に糸を巻きつけ壁にめり込む勢いで叩きつけていたのだ。


「カイト!?!?こいつはブッ殺していいだろ!?」


インカムに触れ、怒りに任せて怒鳴る綾奈は組長の首に糸を巻きつけ締め上げる。


「ダメです、子供の前ですよ?」


カイトの言葉にハッとした綾奈はベッドに目を向けた、そこには小さな女の子が裸のままシーツを掴んで怯えた瞳をこちらへ向けていた。


「ああ、そう…だな」


綾奈は組長を壁に磔にしつつ、紫苑に歩み寄る。


「ひっ…」


紫苑は怯えながらも反射的に身を引いた。


『綾奈さん、骨伝導イヤホンを紫苑ちゃんにつけて下さい』 


「あ、ああ…わかった」


綾奈は頭につけていた骨伝導のイヤホンを紫苑の頭に密着させ、カイトは安元に目を向けた。


『し、紫苑!紫苑…無事か?』


その声を聞いた紫苑の目には光が戻る。


「おじいちゃん!…」


『ああ…紫苑、よかった!…良かった…本当に』


安元は安堵のため息と共に涙を流した、そこへカイトは首のインカムに触れる。


『綾奈は入口にバリケードをつくり、紫苑さんとしばらくそこで籠城していて下さい』


唐突、予定の無い指示に綾奈は耳を疑う。


「は?籠城!?予定なら屋上で青葉と合流だろ?」


『はい、ですから予定変更です』


唐突な予定変更に綾奈は戸惑いながらも、紫苑をベッドから退けると、ベッドを入口に叩きつけ、部屋にあった家具を次々入口に積み上げていく。


「か、カイト君?これはどういう…」


『栞、パトカーのサイレンの音は聞こえますか?』


入口で銃撃を受けながら、栞はその場で振り返ると背後からはけたたましいサイレンの音を立てながら大量のパトカーがやってきていた。


『おう、ぎょーさん、きおったで??!やくざのおっちゃん達も終わりやな!!』


はしゃぐ栞の声が返って来るとカイトはニヤリと不気味に笑みを浮かべた。


「栞、その警察隊は全員敵です。直ちにヤクザ達を室内に避難させて下さい」


『は!?敵!?おまわりさんが??』


栞はそう聞くと、一気に駆け出してヤクザ達が構築したバリケードの中へ入り込む。


「な!?」


先程まで鈍足だった筈の甲冑が急に俊敏に動いてこちらに来ればそんな反応にもなるだろう。


「おっちゃん達!はよなかに避難してな!!」


「は!?な、何言っ」


「あの警察隊は敵らしいで、あんたらも殺されるんやって、だから早よ中に入れ言うとる」


小さな甲冑の少女にそんなことを言われるが、少女は無視してバリケードを軽々持ち上げる。


「入り口塞ぐ!早よ中入ってな!?は…」


激しい轟音と共に、少女の頭が何かに叩かれるかのように動いた。


「いっ!?たー!?なんや!?」


思い切り頭を叩かれるような痛みに悶えながらも見れば、大量のパトカー達が入り口に固まり、中から飛び出した警察隊は統制された動きで配置につくと軍用のアサルトライフルを向ける。その中に一際大きなライフルを構えているものが複数人いた。


「あぶない!!」


栞は素早く身を乗り出し撃ち込まれた対戦車弾を身体で受けた。その車線にはヤクザの頭があった。


「っ…たぁ〜…!」


栞は、殺しきれない衝撃に痛なりながらもヤクザの前に立った。


「お、お前…」


「早よ中へはいりや!!」


その1発にヤクザは血相をかいて中へと避難する、その間にも対戦車弾は何発も打ち込まれたが、その悉くを栞は身体で受け止め、痛みに怯みながらもヤクザ達のバリケードを持ち上げると入り口に叩きつけるようにして塞いだ。


「これでよしっ…と!」


栞はそうして笑うと振り返る、対戦車弾を撃ち込まれる痛みは次第に大きくなっていくのがわかるものの…彼女の頭は至って冷静であった。


「さあ!!!かかってこいやあー!!!」


良く通る鋭い声で、栞は力一杯に叫んだ。


「か、カイトく…」


安元がカイトへ声をかけようとすると、そこへ、大勢の足音が聞こえ、そして入り口のオートロックの扉をブリーチングで破壊、瞬く間に大量の重武した警察官達が突入してきた。


「手をあげろ!抵抗するなー!!」


警察官達は手には室内戦闘を想定された小型のサブマシンガンに、ライオットと呼ばれる強化プラスチックで造られたボディアーマーを身につけており、腕にはSATと書かれた腕章が巻かれていた。


「ほう、特殊部隊ですか…」


カイトは思わず苦笑していた、敵の黒幕はわざわざカイトと安元を制圧する為だけに警視庁の最大戦力となるだろう特殊部隊まで動かしたのだ。魔法少女対策課、そしてその指揮を任されているカイトを警戒しての手配なのだろう。


「か、カイトくん?」


安元は怯えた様子でカイトに顔を向けた。


「ふふ、大丈夫です。素直にしたがっていればすぐには殺されはしませんから」


カイトはにこやかにそう告げて、どこか楽しんでいるような様子で手を上げて投降の意思を示すと、安元もそれに従った。


「見ての通り、こちらに戦闘の意思はありません、武器は降ろしていただけませんか?」


そんな情けないカイトの姿を見た特殊部隊の面々は動揺し、中には銃を下ろすものまでいた。


「見かけに騙されるな、そいつが山根組壊滅作戦を指揮しているカイトで間違いない」


特殊部隊の中を縫うように押し除け、一人の年配の男性が現れる、白髪に染まった初老の男は勝利を確信しているかのように口元を笑わせてカイトの前に向かい合う。


「こんにちはカイト君、私は京都県警署長の大山だ」


そう笑いながら握手を求めてきた、しかしカイトは握手を拒む。


「成る程、あなたが山根組の協力者でしたか」


「き…協力者…?」


安元は驚愕に目を見開いていたが、カイトは笑う。


「安元さん、日本の警察はとっても優秀なんです。いくらなんでもこれだけの少女が短い期間に行方不明になっていれば嫌でも動くんです…ですがどうですか?新聞にも掲示板にもそう言った情報はほとんど無かったんです…内通を疑うのが普通でしょう」


そう言ってカイトは足元の資料を蹴飛ばした。


「あなたは家族への未練に、命を救われたんです」


もしも安元がわき目も降らずに警察に走っていたら、きっと彼等によって秘密裏に排除されてしまっていただろう。


「ふふふ、短期間のうちにそこまでたどり着いたのか…魔法少女対策課など取るに足らん道楽な部署と軽んじたのは失敗だった…やはり危険だな君は」


大山はそう言って笑いながら懐から大きな拳銃を取り出し、ゆっくりと銃口をカイトに向ける。


「忠告します、私への敵意は篠崎さんを敵に回す事になりますよ?」


「はっ!親の七光の小娘に何が出来る?ちゃんと言い訳は考えているさ!山根組の幹部が君を殺した…とね?」


勝ち誇るような大山は笑みをこぼしながらもカイトを見ると、カイトは自らのスマートフォンを手に取ると、それを大山に放り投げた。


「…?」


反射的に手に取ったスマートフォンには大きく通話中の文字が踊っていた、それを見た彼の顔は勝ち誇った笑みから絶望に変わる。そんな大山を見たカイトはケタケタと嘲笑するように笑った。


「幾らなんでも、無策で敵地に乗り込んでくるだなんて思いませんでした…ふふ、あなたは今、敵地のど真ん中にいるというのに」


大山は、弾けるように拳銃をカイトに向け、引き金に指をかけた次の瞬間。


「どらあああ!!!」


派手に背後の窓をぶち破りながら、赤髪のツインテールの少女が飛び込みながら大山の腕を跳ね上げた。


「ぎっ!!ぎゃあああ!?!?」


腕を失った大山は激痛に悲鳴をあげながら後ずさるも直後に顔面を茜に踏み砕かれて背後にいた特殊部隊の面々の元へ飛んでいく。彼らは反射的に大山を受け止めてしまい、硬直してしまった。そんな隙を茜が逃すわけもなく、警視庁が誇る特殊部隊員達は一切の抵抗も許されずに壊滅した。


「ひ、ひい!ダメだ!逃げろ!!」


部屋の外にいた後続の特殊部隊員達は即座に撤退を判断する、しかし。


「どちらへ行かれるんですかー?」


逃げる特殊部隊員を嘲笑うように、前から現れた金髪の少女、絵里香のただの薙刀の一振りで地面に叩きつけられた。


「ひ、ひい!うて!!撃て!!」


後続の特殊部隊員はサブマシンガンを容赦なく撃ちまくる、しかし絵里香はその弾丸を受けてもまるで怯まない。


「痛いですねえ…」


絵里香は不気味に笑いながらも薙刀を握り、そして前に踏み出した。


「絵里香ー、大丈夫かー?」


暫くして、部屋から出てきた茜は廊下の惨状に顔を顰める。廊下は血の海になっていた。


「う…うう…」


「い…痛い…痛いよぉ…」


廊下の一面には大勢の特殊部隊員達が転がっていた、全員死んではいない、死なない程度にぶちのめされているのだ。


「あら、茜さん?何をなさっていたんです?」


絵里香は返り血で真っ赤に身体を濡らしながらも問いかけてくる。


「腕を切り飛ばしたから手当してたんだよ…」


茜は、初めて絵里香が敵じゃなくて良かったと安堵したのだった。


「大丈夫と、言ったでしょ?」


そう安元へ語りかけたカイトは、不敵に笑いながらゆっくりと立ち上がる、そして息を吸うと首のインカムに触れる。


「マール、今どこです?」


『もうすぐ栞達に合流だよ?なんで?』


良く通るマールの声がインカムのスピーカーに響く。


「マール、実は、私はもう一つ…皆さんにも隠していた事があるんです」


『…え、なに?今大事なの?それ?』


ごもっともなマールのツッコミにカイトは苦笑した。


「ははは…わたしは慈悲や慈愛で殺すな…と言っているわけでは無いと言う事です」


あまりにも冷たい声音だった、それを聞いた魔法少女達の息を呑む音が聞こえた。


『君、その性格の悪さ治した方がいいよ?』


マールは歯を剥き出しにして笑いながらも立ち上がり、それを見たカイトは息を吸う。


「我が勇者マールに命じます、目の前に広がる全ての敵の薙ぎ払い、栞との合流を果たせ!!」


「了解!!!」


マールは上空でヘリコプターのドアを開け放つと、弾丸のようなスピードで外へ飛び出し、数十メートル下の川へ落下すると、その水面をかけながら恐ろしい速さで山根組の本部にかけていく。途中で目についた道路標識をもぎ取りながらも眼前に山根組本部に詰める警察車両を見つけ、強く踏み込んで飛び上がると栞の前に降りたった。


「お待たせ栞!」


マールは振り返りながらも栞に声をかけた、栞は対戦車ライフルの弾丸を何度も浴びせられて満身創痍の状態であり、マールの姿を確認するなり遂に膝を折って崩れた。


「全く…良くもやってくれたな?」


マールはゆっくりと目の前の警官隊に振り向くと、激しい轟音と共に飛んできたライフル弾丸を手にした道路標識で弾き、同時に持ちかえると力強く投げつけた。


「ひ!?」


飛んできた道路標識はまっすぐに車に突き刺さり、突き刺さった勢いで車が跳ねると、その上に寝そべっていた警察官は勢いよく投げ出されて叩きつけられる。


「ば…化け物かよ…」


警官隊は直ちに手にしたアサルトライフルを撃ちまくると、マールは回避しようとしたしかしマールは回避するのをやめた。


「おや?…おやおやおや」


見ていたカイトが、楽しそうにそんな声を上げた。激しく飛び交う弾丸は、1発たりともマールの体に届くことは無かったのだ。


「へえ?君、力を貸してくれるんだ?」


そうぼやいたマールの目の前に、大きな青銀に輝く大剣が突き刺さっていた。大剣は眩い光を撒き散らし、その光に触れた全ての弾丸を光に変えて吸収する。


「な…なんだありゃ…」


「剣?…あんなに大きい」


警官隊も困惑しており、マールはゆっくりと手を伸ばして大剣を手に取ると軽々と引き抜いて腕を振り上げ、そして身を深く落とす。


ドン!凄まじい衝撃と共に青い光が弾け飛び、最前列の警察官五人が盾にしていた車ごと光の中に消える。


「え??」


気付けば青の大剣は警察隊の中にいた、しかしその姿を認識した瞬間には光の衝撃波に吹き飛ばされて蒸発してしまう。僅か1分、この日、30人はいたはずの警官隊が消滅するまでにかかった時間である。


「ふう…おーわりっ…」


戦いを終えると大剣は再び腕輪に戻ると、蛇のように彼女の腕に巻き付いた。


『マール、殺しちゃダメとわたし、いいましたよね?』


カイトの声が届くと、マールはため息混じりにインカムに触れる。


「ころしてないよ?」


『消したんだよ?とかいうトンチはいりませんからね?』


「はあ?なにそれ…この子は斬っても死なないから心配するなって言ってたの、僕もよくわかんないけど」


そう言って青水晶の腕輪に触れる、すると光が溢れて消し飛んだ三十人もの生まれたままの姿の男性達が、山根組の庭へ放り出された。


「………」


マールの視点の荒い画像からしても彼らが生きている事がわかる。一体どんな力なのだろうか?しかし、今は。


「回収班、あとをお願いします」


こうして、この日、山根組は壊滅、それに与していた汚職警官達も漏れなく逮捕される事となった。


「おじいちゃん!!」


安元圭介も無事に救出された紫苑や家族とホテルにて合流した全員で泣きながら抱き合い無事を分かち合っていた。


「彼らの身柄は暫く魔法少女対策課で預かる事になったんだ」


山根組は壊滅したが、その傘下に居た組は未だ健在であり彼らをそのままにしておく事が新たな危機を呼び寄せる危険性があるためだという。


「それに…」


カイトは眉間に力を入れると、泣きながら圭介と抱き合っている紫苑の頭上に1の数字が浮き上がる。魔法少女保護対策課が彼等全員を抱え込んだもっともな理由は彼女である。驚くべき事に紫苑は綾奈に助けられた時に冒険者体質になったのだと言う。紫苑が得た神託を見るべくカイトが視線を動かすと、戦士の二文字が現れる。


「カイト!」


そこへ、浴衣姿の栞が走って来る。栞は対戦車ライフルを何発もぶち込まれ、打撲による内出血でひどい事になっていた。そのため彼女の浴衣の下は包帯と湿布だらけとなっており、顔にも湿布が貼られていて揺れるたびに見える内出血が痛々しい。


「マールが呼んどる、霧香を起こすんやって」


「わかりました、すぐ行きます」


本田にこの場を任せると、栞に手を引かれて自室へ戻ると入り口茜と絵里香がいた。


「う、うちはここで待ってるな?」


霧香の亡骸を直視できない栞は入り口で止まるとカイトは苦笑しながらも中へ入る。中には青葉がおり奥のベッドに霧香の無惨な亡骸がさらされている。既に腐敗が始まっており酷い悪臭が鼻を突き吐き気を催させるが、綾奈とマールは気にする事なく寄り添っている。


「カイト、遅いぞ」


マールはカイトを感じ取るなりそう、つぶやいた。


「待たなくても良かったのに…」


「そんなわけいかない、蘇生した後、歩けない僕を食堂に連れて行くのは君なんだよ?」


嫌味ったらしく笑みを向けて来るマールにカイトはため息を漏らした。


「綾奈、離れて?」


マールに言われるが手を握ったまま離れない綾奈を、青葉が引き剥がして連れて行きカイトは逆にマールの側に行く。


「じゃ…始めるね?」


マールはゆっくりと息を整えると、霧香の亡骸に手をかざす。すると霧香の身体は赤い水となって崩れ落ちる。


「あ…あっ…」


それを見た綾奈が声を漏らし、そして駆け寄ろうとするが、青葉がガッツリと掴んで止める。


「……っ」


綾奈は渋い顔をするが目を逸らすことは無かった、そんな間にも、赤い水は一箇所に集まって一際大きな水玉へと変わるとそれがゆっくり、少しずつ人の形に広がって行きながら脳が水の中から現れて無数の糸のような神経の束が下に向かって伸びていき目玉が生え、骨が生まれ、その上を無数の糸のような血管が通り筋繊維が形成され剥き出しの身体を皮膚を包み込む。早送りの映像を見るように、赤い水は人になった。


「かはあっ!!!?」


蘇った霧香は大きく息を吸い込んで仰け反りそしてゆっくりと息を始めた。


「霧香!?」


「綾奈さん、服を着せてください」


「あ、ああ!!」


綾奈は側にあった薄着を手に霧香に歩み寄ると、マールはより掛かるように脱力する。


「お疲れ様です…マール」


カイトは力なくより掛かるマールにそう囁くが、マールに返答はない。


「マール?…」


見ればマールは、浅い息をしていた…今にも死んでしまいそうなほどに…弱々しく。


「ま、マール?どうしたんですか?」


呼びかけるが既に意識はない、マールはまるで…祖父を看取った時のような息の仕方をしていたのだ。


「かいふくじゅつしじゃないなら、そうなるよ」


唐突に声がした、見ればさっきまで死んでいた霧香はパチリと目を開き寝たまま見つめていたが。


「そせいはね、しのふちから、むりやりつれてくること…つれてくるたびに…たくさん…ついてきちゃう」


そう言って、ゆったりとした動きでマールの体に手を触れる、その瞬間、マールの体から赤黒いよくない何かが霧香の身体へ流れ込む。


「これは、きりちゃんしかしょうかできないから…きりちゃんが…もらったげる」


霧香は赤黒い光を吸い尽くすと、再び目を閉じた。


「き、霧香!?霧香ー!?」


綾奈は霧香を揺するが、明らかによくない光を吸ったはずの霧香は呑気に寝返りを打ってイビキをかきはじめた。


「…う、か…カイト?」


マールの声がする、見ればマールは鼻でカイトを確認しているようだ。まだ目は開けられていない。


「蘇生のリスクを私に言わなかったのはなぜですか?」


カイトの声には激しい怒りが滲み出ている、マールは唇を尖らせるとプイッとそっぽを向いた。


「…次からは、ちゃんと教えて下さい」


ただ、マールが予想したような言葉をカイトは投げては来なかった。カイトはマールをゆっくりと背負うと、歩いて外に出る。


「怒らないの?」


静かなカイトに気まずくなったマールは静かに語りかける。


「怒っていますよ?」


カイトは歩きながらつぶやいた。


「君に、ではなく自分に…ですが」


自分に?マールはわからずに目を丸くする。


「…あなたの不調に気がつけなかった…いや、そうじゃない…本当は気づいていたのに貴女にそれを問う事すらしなかった事です」


カイトはそう忌々しげに吐き出した。


「危うく君を死なせてしまうところ…いや、実際殺してしまった…私の無策が招いた失態に他ならない…私は…いった!!」


唐突に、自責を続けるカイトの頭を叩いたマールは、その背中に顔を埋めた。


「ごめんなさい…次からはちゃんと伝えるようにする」


マールから素直な謝罪が聞けるとは考えていなかった。


「なら!食事をしながらあなたの体がどんな状態だったのか聞きたいですねっ!」


さっきまでの自責が嘘のように、元気溌剌なカイトの声が帰ってくる。


「…………はあ…」


マールは盛大なため息を吐き出しながら、カイトの後頭部に死なない程度の力で拳を叩き込んだのだった。




申し訳ありません、少ししたら訂正して再投稿します

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