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2の1 五人目の魔法少女

はい!お待たせしました!

「はあ…ハア…ハア!!」


場所はホテルの駐車場、そこには直走るものがいた。身体は痩せ細り銀縁のメガネをかけた初老の男は、銀のアタッシュケースを後生大事に抱きながら、大量の汗を沢山かきながら必死に走り続けていた。


だが、突如としてまたたいた一筋の光が男の脇をすり抜けて走っていくと男の目の前の地面に鋭い斬撃が放たれ大きな爪痕を現す。


「ひ…ヒィッ!?」


唐突な出来事に男は怯んで足を止めて後ろに倒れて尻餅をついてしまう。次の瞬間には自分の周辺を目に見えない不可視の斬撃が降り注ぎコンクリートの地面をズタズタに切り裂いた。


「ひいいい!?」


男は素早く頭に手をやり、銀のアタッシュケースで頭を守るようにしてその場で蹲った。


「うっ!!うあああああっ!!!」


自分の周囲を次々と飛び交う不可視の斬撃が石畳の床を、天井を、壁を切り刻む。1は歩でも動けば自分の体など直ぐに細切れにされてしまうだろう。男はビクビクと震えながらも嵐が過ぎ去るのを待つように身動き一つしないでいた。


「ひ…ひい!?」


男は辺りの斬撃の音が止むと、顔を上げた。


「……な…なんだこれ…?」


男は目の前の光景に目を疑う、それは光り輝く糸だった、それが自分の周囲に蜘蛛の糸のように張り巡らされていたのだ。


「声かけただけで逃げるんじゃねえよ…安元圭介…」


静まり返る駐車場の中で中性的な声が響き、カツ、カツと足音が大きくなり近づいて来る事がわかる。


「……だれだ?…何故わたしを狙うんだ??」


安元はその足音に振り返ると張り巡らされた糸の囲いのその奥にそれはいた。


それの体格はとても小柄であった、黒革のロングコートを羽織り黒いフードを目深に被って顔を隠している。男はまるで死神のような装いのそれに恐怖し、何とか逃げようと周囲を確認する。


「何で俺が…テメェを狙うのか…だと?」


男とも女ともわからない中性的な声で、それはカタカタと笑いながら右腕を振り上げる。


「うっ!うわ!!!!」


唐突に安元は身体が動かなくなり、ゆっくりとその身体が持ち上がる、見れば周囲に張り巡らされた糸と同じものがいつのまにか安元の手脚に巻き付いており、安元の身体は何もない空間に磔にされてしまい抱えていたアタッシュケースが地面に落ちた。


「こいつがそんなに大事なのか??」


「や、やめなさい!それには触るな!!」


唐突に強気に張り上げた安元に、それはピクリと驚くような反応を示す。


「身の程をわきまえねえやつだな?まあいいや…」


それはアタッシュケースを踏みつけると、強めに蹴飛ばして脇に避ける。


「い…いっ…ぐ…う!!?」


同時に巻き付いた糸が狭まり、それに伴って触れた衣服を簡単に貫いて深々と肉に食い込んでいく。


「があっ!!ああああっ!!!」


四肢にゆっくりと肉を絶つ糸が狭まると共に、激しい痛みがほと走り絶叫をあげる、溢れ出た血液、体を伝い、紺色のスーツのじわじわと染めていく。


「ひい…ひい…」


怖い、傷口がどうなっているのか何て見たくない、痛みに喘ぐ安元は、それだけで意識を飛ばしそうになる、しかし意識を失いそうな安元の指に糸が生き物のように巻き付いて来ると、ばきゃりと中指が折れた。


「いぎゃあああっ!!!」


意識を痛みで無理やり覚醒させられ、安元は脂汗を流しながら蜘蛛の糸に巻き取られた蝶のように儚く蠢く。


「いてえか?いい気味だ、あいつぁもっと痛かったろうがなあ!!」


あいつ?安元の前で、それは実に愉快そうにケタケタと笑いながらもゆっくりとフードを取った。フードの下からはきめ細やかな黒髪がふわりとまい、中性的な少女の顔が現れる。ドス黒い口紅が塗られた唇の端には小さなピアスがつけられ、目元は真っ黒なチークで染まっており何処となくタヌキかアライグマを彷彿とさせるような顔をしていた。


「白石霧香を知っているか?」


唐突な少女の問いかけに安元は動揺に目を見開く、わからなかったのだ。その反応が気に入らなかったのか、少女は糸を操ると小指に巻き付いた糸が一気に狭まり小指を捻り切った。


「ギャアアアアアッ!!!」


湧き上がる激しい痛みに絶叫する安元に少女は笑いかけた。その眼は激しい怒りの炎が燃え盛っていた。


「何でこんな奴の代わりに殺されなきゃなんなかったんだよ…霧香?」


少女は唐突に大粒の涙をこぼしながら蹲り、嗚咽を漏らしながらも手をゆっくりと動かして操ると糸がゆっくりと狭まり始めた。


「ま…まってくれ!!…私の代わり??…どういう事だっ!?…」


必死に声を張り上げて問いかけると、糸がピタリと止まる。そこで不意に、男の脳裏に清掃員のアルバイトとして診療所に来ていた少女の顔を思い出す。


「霧香…って、清掃員のアルバイトに来ていた子じゃないか?…少し抜けていて…舌足らずな喋り方のっ…」


そこまで聞いて唐突に糸が締り、刃のように鋭利な糸は、さらに安元の肉に食い込み血を噴き出す。


「そうだっ!!テメェが…テメェが逃げたせいで!!たまたまシフトに入っていた霧香が見せしめに殺されたんだ…死ぬまで弄ばれて!身体はズタズタだった…なんであんな死に方をしなくちゃならないんだ!!?」


少女の吐露に安元は目を見開き、顔面が蒼白になる。


「そ、んな…彼女は清掃員だよ!?ただのアルバイトだ!!…話した事なんて数回もなかった筈ッ…なのに!!」


「んなもん俺が知るわけねえだろがっっ!!!」


少女は叫びながら、安元の左足を強引に引きちぎった。


「ギャアアアアアッ!!」


激しい痛みと出血に安元は断末魔の悲鳴を上げながらのたうち回る。


「手足を生きたまま千切られるってのはいてえんだな?ざまあみろクソ野郎!でもまだ死ぬなよ??次は腕だ!!霧香が受けた痛みを…テメェにもたっぷり味合わせてから殺してやる!!!」


少女は半狂乱に泣きながら笑っていた、そして宣言通りに右腕に巻き付いた糸にゆっくりと力が加わっていく。


「ん?…」


少女は安元の右腕をちぎるべく糸を操作した…しかしその操作が上手くいかない。何故?硬い何かに糸が引っ掛かるような不思議な感覚を感じる。


「おっちゃん、大丈夫?」


見れば、いつの間にか磔にされた安元の側に、年端もいかない小さな女の子がいた。


「…お、おんな…のこ?」


安元は驚愕する、目の前の栗色の髪に翡翠色の瞳の小さな女の子は触れたものを易々と切断する筈の糸を右手でしっかりと束にして握っていたのだ。


「何だァ?テメェ…」


少女は舌打ちとともに現れた女の子に殺意を向けつつ糸を動かそうとするがびくともしない。


「君がこれの使い手?」


女の子は握りしめた糸の束を少女へ見せる。


「成る程、魔術師か…こんな使い方も出来るんだね」


女の子は小さくブツブツと呟くとにっこりと笑う。


「でも、こんなチンケな魔力じゃボクの身体は傷一つつかないよ??」


女の子はそういうと手の中の糸をギュッと強く握りしめた。すると糸は瞬く間に光となって女の子の手の中に吸われて消えていく。


「え…えっ?!?」


少女は驚愕し、思わず距離を取ろうと後ずさる、しかし先に地についた右足が水溜まりを踏みつけた。


「み…っ?」


思わず顔をむけてしまう、地下駐車場こんなところに水溜まりなんか出来る訳がないからだ。踏みつけた水溜まりは踏みつけた少女の足に纏わりついて地面に縫い付けていた。


「とりあえず今は寝かしとくかな…カイトなら何とかなるっしょ」


そう呟きながらも懐に飛び込んで来た女の子は少女の腹へ拳を叩き込む。


「ごっ…ぶ!!」


女の子の小さな拳はハンマーのように重たく、少女の身体は軽く数メートルも吹き飛び、川に投げられた石のように何度もバウンドしながら転がっていった。


「あ、ちょっと強く殴りすぎた??まあ冒険者だし…大丈夫っしょ!!…次は」


術師である少女が気を失ったことで彼女の魔力により精製された糸が消え去り、安元の身体が地面に落ちる前に女の子はその体を受け止める。


「ひっどい…待ってて、すぐ治すから!」


女の子は安元の状態に顔を顰めるとすぐに視界から消えた、治す?安元は失血によって何を言っているのかわからなかったのだが、女の子手に千切れた脚を持っており、何を思ったのかそれを雑に傷口と千切れた足の切断面をくっつけた。


「いっっ!!」


あまりの痛みに一気に覚醒する安元、あまりの痛みで反射的に女の子の小さな身体を突き飛ばそうとする。


「大丈夫だよ、助かるから」


だが、女の子の身体はまるでびくともしない。女の子は安元が不安がっているとでも思ったのか、突き飛ばそうとした手を掴んで強く握りしめると温かい体温が手に伝わってくると共に、足の痛みが薄れて意識がはっきりしてくるのがわかる。


「君は…いったい?」


多量の出血で意識は朦朧としている安元に問われた女の子は、あどけない表情のまま屈託のない笑顔を見せる。


「僕マールっ!」


女の子、マールは外見相応な元気に自己紹介してくる。


「安元…安元圭介…です…」


「じゃあケイスケって呼ぶね!!よろしくっ!」


マールは安元の手を取り引っ張り立たせた。


「うおっ!?」


外見からは想像もできない力で引き立たされた安元は驚愕する、マールの機械的な怪力もそうだが、脚の感覚があるのだ。


「あ…足が、治っている?」


ケイスケは恐る恐る脚に触れた、しっかり感触がある。それだけではない長年悩まされていた浮腫みすらも綺麗に治っていたのだ。しかし、ズボンだけは治らずに切断されたままそこにあった。


「あ、ごめん!指も治したげるねっ!!」


マールはそういうと、両手で安元の損傷した右手を包み込む。安元の右手が急に暖かくなり…捩じ切られた指が水のように形を元に戻っていく。


「これは…君の力…なのかい?」


安元も医師の端くれ、こんな奇跡に遭遇した事は無い。


「………おっけ、治ったよ」


マールは安元の問いには答えず手を解放すると、指は綺麗に治っている。


「すごい子なんだね君は…驚いたよ」


安元は綺麗に治った指を握って開いて繰り返していると、マールは自慢げに腕を組んではその整った顔立ちを誇らしげに反らしている。


よくよく見ればマールが身につけているのはこのホテルの浴衣である。


「さてと!そいじゃ行こっか?」


マールは無邪気に笑いとばすと、殴り飛ばされて気を失った少女へ駆け寄り、片腕でひょいっと頭上に持ち上げた。


「………っ」


どこへ?と聞く前に、自分の体よりも一回りも二回りも大きな少女の体をまるで軽いものを持ち上げるかのように頭の上に担ぐ小さな女の子という奇妙な絵面を目の当たりにした安元は、思わず笑い出しそうになってしまう。


「んー?」


マールは可愛らしく小首を傾げつつ少女を担いでやって来た。


「す、すみません…行くって…どこに?」


安元の問いかけにマールはふふんと笑う。


「僕の部屋!!」


屈託のない笑顔で言い放つマールに、安元はあんぐりと口を開けた。


「マールちゃん、わたしみたいな男性を部屋に連れ込んではいけないよ?」


安元の言葉にマールはムッとし、その頬を膨らませた。


「ケイスケはこいつに命を狙われているんでしょ?だったら僕の側にいた方がよくない?」


確かに、と一部始終を見ていた安元は考えてしまう。この得体の知れない力を持つ少女を瞬く間に制圧したマールがいれば【安元の目的】を果たす事ができるかも知れない。


「あ…ありがとう、じゃあ…お任せしようかな?」


「おっけー!任せてよっ!」


そう言って踵を返したマールはとてとてと小走りでかけて行き、安元はそんな彼女の後について行った。


そして



「それで?…ここに連れてきた…と」


カイトはカップを片手に渋い顔をしながらマールを見ていた。


「なんで?いーじゃん、ケイスケも困ってたし!新しい冒険者も見つけたよ?」


マールは不貞腐れたように唇を尖らせつつベッドに無造作に寝かされた黒ずくめの少女を指差し、カイトは盛大なため息を吐き出す。


「まあ、あなたがトラブルを持ち込むのはいつもですからね…慣れっこですよ」


カイトはそう言いながらも安元を見上げた、安元の目から見れば小学校低学年程度の少年、【カイト】は窓際の向かい席に腰掛けたまま、ため息を吐き出しながらも手にしたカップをテーブルへ置く。


「安元さん、でしたね?どうぞコチラへ」


カイトは自分の座る向かいの席を指差した。


「は…はあ…」


安元は誘導されるがまま、カイトと向き合うように座る。


「ケイスケ!!これ食べて!いっぱい血が出てた!!」


マールは元気にカイトが食べるつもりでもって来ていた饅頭を安元に押し付ける。カイトは安元の顔をジッと見つめた、安元の唇は僅かに薄く顔も白い。明らかな失血による状態だった。


「……マール、お金をあげるので食堂に行って何か食べられるものを買って来てください」


カイトはマールに財布を差し出す。


「うん!!すぐ行ってくるね!!」


マールは財布を受け取ると部屋の外へと飛び出していった。


「な、なにから何まですまないね」


カイトは冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して渡す。


「私はあなたを信用はしていませんよ?叩き出すか匿うかは一旦保留です」


カイトは見透かすような目で安元を見つめていた。


「あっ…ああ…」


その目には心臓を鷲掴みにされるかのような強烈な圧があり、安元は恐る恐るスポーツドリンクを受け取る。


「カイトー!あけてー!!」


僅か5分もかからずドカドカと扉を叩きながらマールの良く通る声が聞こえて来る。


「た!叩かないでください、あなたが叩くと壊れそうで怖いので!」


カイトは早足で扉に向かうと強く開け放つ、そこには大皿に山盛りに盛られた大量のホットドックを抱えたマールがいた。


「なんです?その量」


「わかんない!ちょーだいってお金をわたしたらいっぱい貰った!」


朝のビュッフェを残さず平らげた事から沢山食べる子であると認知されたのかも知れない。マールは足早に中に入ると安元の隣にあったデスクにどかりと置いた。


「それ置いたら?」


この後に及んでも後生大事に抱えている銀色のアタッシュケースをマールに指摘され、安元は苦笑する。


「あ…ああ…そうだね…そうするよ」


安元がそういうと、マールは安元の手からアタッシュケースを取り上げると客室用のクローゼットに雑に置いた。


「では安元さん、食べながらで良いのであなたの事を教えてくださいな?」


「は、はい…」


安元は渋々ホットドックの山から一つを手に取る、不意に側でジッとホットドッグを見つめているマールの視線に気づいた。


「…一緒に食べますか?」


「いいの!!?ありがとう!!」


そもそも君が買ったものだろうとは言わなかった。マールは嬉しそうにホットドックを一つ手に取ると少女の眠るベッドにどかりと座りこみ、大口をあけてかぶりついた。


ぐうう…


そこで盛大な腹の音が聞こえる。その音の主はマールでは無かった、マールは後ろを向くと眠っていたはずの少女は顔を真っ赤にして顔を覆い隠している。


「あ!お腹空いてるの?」


マールに問いに少女はコクコクと何度も頷いた。


「カイト、この子の分もいい?」


「それを食べて下さい、安元さんは一つないし多くても二つしか食べられません、ただの人間なんですから」


「あっ!そっかー!!じゃあ有り難くもらうねっ!」


マールはにこやかにデスクからホットドッグの大皿を取ると少女のベッド傍にどかりと置いた。


「!!」


少女は相当飢えていたのか、ホットドッグを手に取ると貪るように食べ始めた。


「あはは、やっぱ腹減りだったか!ゆっくり食べなよ!」


珍しい、最近は滅多に見せないお姉ちゃんモードである。マールは詰め込みすぎて咽せている少年のような少女に水のペットボトルを差し出す。少女はペットボトルを奪うように取ると一気に飲み干して胸を叩いて飲み下す。


「すまない…俺は綾奈!黒崎綾奈だっ!」


少年のような口調で黒崎綾奈は山のようなホットドッグを両手に次々口へ放り込んで咀嚼している。満足に食事ができていなかったかのような食べっぷりにカイトは顎に手をやる。


「ふむマール、まだお金はありますか?」


彼女が燃料切れ寸前だったのならこれでは絶対に足りないそう考えたカイトはマールに問いかけた。


「え?ないよ??さっきあげたっていったじゃん?」


マールはにこやかに告げた、財布には数万円単位の額が入っていた筈だが…そんなまさかとマールの放り出した財布を手に取った。綺麗にすっからかんである。


「このホットドッグいくらだよ……」


カイトは悔しくなり立ち上がると、山から一つ取って齧りながらも静かに席に戻ってスマートフォンを取り出すとメモ帳機能を開いてテーブルに置いた。


「あ…あの…お金なら後で払いますから…」


居た堪れなくなった安元が言うと首を横に振る。


「お気になさらず、お金はまだあるので…」


そうカイトは乾いた笑いを浮かべ、懐から取り出した札束を財布へ差し込むと、財布を懐に仕舞い込む。やはり金の使い方をしっかり教えるべきかもしれない…そう考えて買って来た張本人であるマールを見ると、彼女はホットドッグを美味しそうに頬張っている…そんな彼女を見ると叱る気も引っ込んでしまった。


「それで?安元さん、あなたは何から逃げているんですか?」


短刀直入、あまりに落ち着いた様子で聞いてくる少年に安元は諦めのため息を漏らす。


「わたしは…」


ゆっくりと重い口を開いた。


安元はしがない田舎の小さな医院の院長であった、普通に医師をし、普通に妻をもらい普通に子を育てて普通に子供を見送って、孫ができた…しかし、数年前、小さな医院に意識不明の重体で運ばれてきたのだ。その男を助けた日からあらゆるものの歯車が狂い始めた。


「山根組?…ですか」


カイトの問いかけに安元は頷く。


「ああ、助けたその男は山根組から足抜けした組員だったんだ…」


安元が助けた事で元組員の男は無事に山根組から逃げのびることが出来た。元組員を仕損じた山根組は助けた安元に目をつけたと言うしょうもない経緯であった。


「家族を血祭りにあげられたくなければ、俺たち専属の医師になれ…彼らはそう私を脅してきた」


力のない安元に断る手段はなかった。それに、ヤクザを診察するだけならば別にいいとその時は安易に考えていたという。しかし…


「最初は組の近くで小さな診療所を開きしがない医師をしながら」


安元は声を震わせて目を覆う。


「死んだ子供の…内臓を抜き取る作業をやらされていた」


新鮮な子供の内蔵器官はいい凌ぎになる。だから誘拐して来た子供を殺した後、新鮮な内に内臓を抜きとれる腕のいい医師を彼等は欲していたのだという。


「成る程、それで…その仕事が嫌になって逃げ出した…と?」


カイトの問いかけに安元は頷く。


「当たり前だ!!あんな事…人の所業なんかじゃない!!何が楽しくて孫と変わらない子供の内臓を引き抜かなきゃいけないんだ!」


安元は顔を手で覆ったまま肩を震わせ、そして思い切ったようにアタッシュケースを持って来てデスクに乗せると、勢いよく開いて見せた。中には沢山の紙の山がある。


「これは山根組が誘拐して殺害してきた子供達のリストだ…児童待機所だったり、家出してきた子供だったり…集めるのに苦労した…これがあれば山根組を摘発できる!!」


安元は芝居のように声高らかに告げるなりカイトを見た。


「つまりそれを持って警察に駆け込む…という事です?」


カイトの問いかけに安元は首を横に振る。


「違う自首するんだよ、私は」


安元は乾いた笑みで笑って見せ、スポーツドリンクを口に含むと、濯ぐようにして飲み込んだ。


「脅されたとはいえ、私は何人もの罪のない子供達の腹を裂いて、その内臓を抜いてきた。そんなやつが、許されていいわけがない…」


安元の前でカイトは特に気にするでもなく資料に目を通していた。


「しかし、謎ですね?ならばこんなホテルにいないでさっさと自首すれば良いのでは?」


カイトは鋭い瞳で安元を睨みつけると、安元は狼狽える。


「そ…それは…」


狼狽えながらも安元は意を決した様に自分の上着の胸ポケットからスマホを取り出した。彼は機械が苦手なのか、老人でも扱いやすい専用のスマホだった。老眼対策に文字も大きくされている、そこには小さな赤子の画像が写っていた。


「……これは?」


カイトの反応は至って淡白で、特に興味はなさそうである。ズイッと隣からマールがカイトを押し除けて画像を覗き込む。


「可愛い!!だれ!?」


珍しく少女の様な反応を見せて画像をまじまじと見つめた。


「孫娘です、これは生まれたばかりの頃で、今は5歳になります」


「まご?…」


聞いてくるマールにカイトは苦笑する。


「安元さんのお子さんのお子さんです」


「まご!!よくわかんないけどすっごい!ケイスケは子供の子供が居るんだね!!」


マールはキラキラと輝かせながらもスマホに表示された赤子を見つめ続けている。


「それで?これが何なのでしょうか?」


カイトはそっけなく手にしたスマホをマールに渡すと、彼女は嬉しそうにキラキラと瞳を輝かせながらもそのスマホに表示された孫を眺め、綾奈にも見せている。そんなマールを微笑ましそうに眺めながらも、安元は寂しげな顔をする


「……私が内臓を抜いた子供は百人以上、自首するとしても極刑です、きっと死刑でしょう」


安元は覚悟が決まっているのか、真っ直ぐな瞳でカイトを見つめた。


「成る程、だから死ぬ前に…」


カイトの言葉に安元は頷いた。


「最期に…成長した孫の姿を一目、見たかったんだ」


最期の未練なのだろう、その真剣な瞳には涙が滲んでいた。その雰囲気を察したマールは呑気に綾奈に問う。


「しけいってなあに?」


綾奈は一瞬困り顔をするとカイトに顔を向けた。


「ねえ、カイト!しけいってなに?」


「ゼノリコ王が転生者に対して行っていた処罰ですね…」


ゼノリコは転生者にやっていた事、マールもその執行者でもあるため、安元がどうなるか分かった様だ。


「な、なんで!!?殺されちゃうって事でしょ!?そんなのだめだよっ!!」


マールははじげるように立ち上がると手にしたスマホを綾奈に渡して詰め寄ってきた。


「マール、この国は罪を犯したら然るべき場所で然るべき裁きを受けなければなりません。安元さんは、その裁きによって死ななければならないのです」


そういうとマールはショックを受けた様子で目を見開く、そして何かを決意した様な顔をするなり、バッとマールは安元に駆け寄るとその手を掴む。


「死んじゃダメだよっ!逃げようケイスケッ!僕に任せて?なんとかしてあげるからっ!!ネッ!?カイト??」


期待して目を向けたマールに、カイトは静かに目を伏せてから首を横に振る。


「マール、私はそんな指揮を取る気はありませんよ」


カイトの言葉にマールは絶望を表情に表した。


「わかった!カイトなんかもう頼らないっ!!」


マールは思い通りにならないことに不貞腐れてしまった様だ、こうなった彼女は梃子でも動かない。


「その気持ちはとても嬉しい…けどね、こればっかりはダメなんだよ、わたしが決めた事なんだ。わたしがやりたい事なんだ」


安元はマールの手を優しく包むとゆっくりと剥がして行く。


「おかしいよっ……やりたいことが死ぬことだなんてっ……」


悲しみを露わにするマールに、安元は優しげに笑いかけると、流石のマールでも引き下がるしかなかった…納得が行かなそうに俯き、ベッドへ腰掛けた。


「しかし、だとしたら早まったことをしましたね、あなた…」


早まった?カイトが唐突に切り出した言葉に安元はギョッとする。


「…え?」


そんな安元にカイトは小さくため息を漏らした。


「ヤクザを舐めすぎです…既にあなたの足抜けなんて把握されているでしょうね、今、あなたは彼らの掌の上で踊らされているにすぎません」


そう言ってカイトは綾奈を見た。


「え…俺?」


「綾奈さんあなたは何故、安元さんを殺そうとしたんですか?」


そう問われ、綾奈はギョッとする。カイトに安元を殺そうとした事は誰も話していないからだ。


「あなたの視線を見ればわかります、相当な憎しみを持って安元さんを見ている…おまけにそれが出来る力もあるなら尚更です」


カイトの見透かした様な瞳を、綾奈は見続ける事は出来ずに目をそらしてしまう。


「俺の恋人の霧香が…コイツのせいで殺されたんだ…身体をズタズタに引き裂かれて…」


綾奈はそう言って安元を睨みつけると、安元は縮こまる。


「殺されたのはいつですか?」


「昨日の朝までは生きてた、俺が帰ったら死体になってた…お前の名前と写真がつけられた手紙と一緒になっ!!…」


綾奈はコートから一枚の手紙を取り出して見せた。


「少し借りても?」


「…ああ」


綾奈の反応を待ってからカイトは立ち上がると、その手紙を受け取った。中には血で描かれたコイツのせいで死んだ 安元圭介 とだけかかれている。


「綾奈さん、あなたは普段何を?」


カイトの質問に綾奈は訝しむ様に問いかけると、綾奈は顔を顰めた。


「……アルバイトだ」


アルバイト?とカイトは眉を顰めてしまう、綾奈はどう見ても子供なのだ。


「俺と霧香は生まれたその時から孤児なんだ。たがら両親の顔もわからねえ…」


綾奈は懐かしむように語る、自分たちはその孤児院でもかなり浮いた存在だったのだと言う。その理由は良く食べるからだ…当然、彼女達は一日3食の食事では腹を満たせず、度々孤児院を二人で抜け出しては、魚や動物をとってその飢えを凌いでいたのだと言う。料理なんてわかるわけもなく、当然、狩った生き物達を生で貪る様に食べていたのだという。子供がそんなことをしていれば当然だが瞬く間に有名になってしまうだろう、しかもそんな危険行為をしているのに病気にすらならないのだから側から見れば不気味にも程がある。


「ある日、孤児院の孤児達で山の中に遠足に行くってなってな?…俺たちは山の中に置いていかれて…今に至るってわけだ」


「その魔術の糸はいつ編み出したの?」


不貞腐れていたマールは興味深そうに聞いてきた。


「ん?ああ、これか?」


綾奈は青い光を掌から生み出すと、それが糸となる。


「孤児院を抜け出した時だな、たまたま魚釣りをしているおっさんがいてな?それを見てたら手から生えてさ…」


その力を使って、魚や動物をとることが出来たのだと綾奈は語る。


「ん?待ってください、霧香さん…は、あなたと同じ様に沢山食べたのですか?」


カイトの問いかけに、綾奈は頷く。


「霧香は俺なんか比にならねえぞ??動いているものならなんでも口に入れていた位だ」


どこか誇らしげだった。


「カイト、もしかしてそれってさ?」


不貞腐れていた筈のマールに問われると、カイトは静かに頷いた。問われた綾奈は?を頭に浮かべて首を傾げる。


「…な、なんだよ!なんかあんのか?言えよ!」


「綾奈さん、霧香さんの亡骸はどこにあります?」


「はあ??誰にも見つかっていないなら…い…家だが…」


それを聞いたカイトは備え次のメモ書きを手に取る。


「住所を聞いても?」


「あ?…なんでそんな事をお前に言わなきゃなんねえんだ?…」


「いいから教えてあげて!」


マールに凄まれ、訳もわからず綾奈はカイトのメモ書きを奪い取ると、自らの住所を書き殴った。学はあるのか思った以上に綺麗な字でしっかりと住所が記載されている。それを受け取ったカイトはすぐにスマホを耳に当てた。


「ああ、本田さんですか?今から言う住所に回収班を急行させてください…」


カイトは歩きながら綾奈から言われた住所を伝えながら入り口に歩いて行く。


「な、なんだよ…あいつ?なあ!教えてくれよ!霧香の死体がなんなんだ?」


マールに問うが、マールはそっぽを向く。その顔は不貞腐れていた時とは違いとても明るい。


「お待たせしました、15分後に霧香さんの亡骸がここに来るそうです」


その言葉に安元も、綾奈も目を見開き驚愕した。


「おっけー!んじゃ、僕は少し休んどくー!」


マールは元気にいうと、反対側のベッドに飛び込み仰向けになると目を閉じた。


「な、なあ…なんでそんなことするんだ?教えてくれよ!!」


綾奈は悲痛な表情で問いかけてきた。カイトはというと部屋に備え付けられた浴衣を確認している。


「なあ!」


「綾奈さん」


唐突に呼びかけられ、カイトが顔を向ける。


「お金をあげるので、売店コーナーで霧香さんが着られそうな下着を買ってきてくれませんか?」


唐突だった…カイトはそう言って財布を綾奈へ投げる。


「は!?し、下着??なんで!?」


「キリカが蘇生されたら裸だからだよっ」


マールは寝ながら声を上げ、綾奈はキョトンとした。


「そ…せい?」


口を開いたのは安元だった、カイトは和かに頷く。


「はい、綾奈さんや霧香さんの上記を逸した食いしん坊は、病気とかではありません。体質です」


「体質…はあ…」


「我々はこの体質を、ゲームに出てくる冒険者のような体質であることから【冒険者体質】と呼んでいます。この国では少女しかこの体質にならないので【魔法少女】と、呼ばれている様ですね」


綾奈は急に立ち上がり、カイトの額に手を当てる。


「ははは、病気とかではないですよ?」


「いやだって魔法少女だぞ!?頭大丈夫かよ?」


綾奈は現実的な発言をしてカイトは困り顔になる。


「綾奈さん、ここに力を入れながらわたしを見て下さい」


綾奈は訝しみながらも、カイトに言われた通りに眉間に力を入れながらカイトを見た。


「…え?…はっ??」


綾奈は思わず声を漏らして唖然とする、その視界は青い美しい輝きに満ちていた。そしてカイトの頭上には…。


「お前の頭上に…数字が…見える」


「その数字を頭上に持っていることが、冒険者体質である証拠です」


「な…何が見えているんだい?それに、冒険者体質とは?」


安元も医師の端くれであり、新たな体質には気になる様だった。


「冒険者体質になったものは我々しか見ることのできない加護の数字と、神託が与えられるんです」


加護、神託と意味のわからない単語に綾奈も安元も理解できていない様だった。


「RPGゲームのキャラクターに、レベルってありますよね?加護の数字はそのレベルです。増えれば増える程に身体能力が向上します、加護に守られているので病気になる事もありません。お二人が野生の生肉や川の生魚を食べて平気だった理由です」


「え…あれってやばい事だったのか?」


ギョッとしている綾奈。


「川魚や生肉は雑菌や寄生虫だらけだからね…普通は死んじゃうよ」


安元は宥める様に告げ、綾奈は顔を引き攣らせる。


「じ、じゃあ!!…神託ってのは?」


「職業ですね、その職業にちなんだ特殊な力を使える様になり、職業にちなんだ装いをするとより身体能力が強化されるんです。あなたの神託は魔術師です」


その言葉で、綾奈は地下駐車場でマールの言っていた言葉の意味を察する。


「つ、つまりマールはあの時、俺の頭の上にある神託と数字を見てた…と?」


「ええ」


「ゲームの冒険者のような…体質?…」


「ゲームの冒険者は死んだらどうなります?」


カイトの問いかけに安元は目を丸くした。


「教会で復活する?」


安元の答えを聞き、カイトは和かに頷いた。


「正解です、冒険者体質の人間も肉体の一部でも残っていれば復活できるんですよ」


ガタリと、綾奈の方で音がした。綾奈は腰を抜かして倒れていた。


「じゃ…じゃあ!…じゃあ霧香は…」


「はい、話を聞く限り間違いなく冒険者体質です。であるならば蘇生は可能ですね」


綾奈は目玉が出そうな程に大きく目を見開き、そして、次の瞬間には大声で泣き出した。するとマールはムクリと体を起こすと、綾奈を抱きしめる。


「よしよし…もう、大丈夫だから」


マールは綾奈をそう優しく慰めながら背中を優しくトントンと叩いていた。


「安元さん、貴方は落ち着いている場合ではないですよ?」


不意にカイトは安元に言葉を投げた。


「え?」


「ヤクザ達は明らかに綾奈さんをけしかけて貴方を殺させるつもりだったのは明白である」


損壊した死体を晒すことで怒りを煽るのは古くから使われてきた扇動である、ヤクザとしては安元を殺してくれるのならばそれが誰でも良かったのだろうとカイトは考えた、穏やかなまま鋭い視線を向け、そして口を開く。


「果たしてご家族は今、ご無事なんでしょうかね?」


カイトの言葉に安元は目を見開くと、弾ける様にマールが雑に放った携帯を取り、願う様にたのむッと呟きながら電話をかけた。いつものように3コールもしない内に妻が出てくれる、安元はそう願っていた。


ガチャリ


ほら、出てくれた…安元が安心しかけたその時


『あー?圭介ちゃん?やーっとかけてきた、おひさー!』


スピーカーの向からは、知らない若い男の声が聞こえて安元が崩れ落ちる。


『いやー!かけてくれてよかったわ!これから生ライブでお前の大切な家族が一人ずつ死んで行く声を聞かせル事が出来るぜ!』


男の背後から男女の悲鳴が聞こえてくる。


「ま、待ってくれ!!頼む!」


安元は血相かいた様に言うが、男はギャハハと笑う、そして。


『おじいちゃん!たすけてー!!』


孫娘の悲痛な声が響き渡り、安元の顔面が青ざめた。


「あー、少しいいですかー?」


唐突、カイトは電話を手に取ると聞いたこともない声音で挑発する様に発声した。


『ああん?なんだテメェ…』


「マール、パイロメインは使えますか?」


「えー?僕、あれ苦手なんだけど…やってみる」


マールはそういうと、カイトは資料から写真付きの紙を何枚か取り出し、それをマールに渡す。


『パイロ…なんだ?』


「お兄さん、あなたは超能力とかって信じますか?サイコキネシスとかパイロキネシスとか…」


『は…はははは!何を言い出すかと思えば!!随分と可愛いネゴシエーターだな?安元ォ??それで!?そのパイオツなんちゃらがなんなんだいぼーや!?』


「…マール、彼の周りにいる人にパイロメイン、殺さない様に弱火で」


「はいはーい!」


マールは資料に両手を掲げた。


『ああん?』


電話口の先で男の困惑の声が響くその次の瞬間。


『あ!!あっあっ!!燃えてる!あああっ!!!』


電話口の向こうで別の男の悲痛な声がスピーカー越しに響き渡る。


『なんだこりゃ!?消えねえ!!』


『兄貴!あじい!だずげでぐれええ!!』


体を焼かれる激痛で転げ回る音が聞こえ、向こうは大惨事だろう。


「マール、その辺で」


カイトの指示でマールは写真から手を離した。


「理解できましたか?わたしはオカルトの話をしているのではありません、わたしの仲間は超能力が扱えましてね…姿を見ればその人間をこの場所から焼き殺す事ができるのです」


『………』


男の息を呑む声が響く。


「そうですか、マール、そこにオールバックのかっこいい顔の人がいますね?焼き殺して下さい」


『待っ!待ってくれ!!わ、わかった!!!わかったから…頼む!若頭は焼き殺さないでくれ!!頼む…!!』


電話口は下っ端は直ぐ様態度を改め、安元と同じ様な言葉を吐き出し始めた。


「安元さんの家族は無事ですか?言っておきますが嘘は無駄です。わたしは嘘がわかるので…」


カイトはあくまでも強い口調で告げた。


「ぶ、無事だ…全員生きて…」


「マール、組長には大事なお子様がいる様ですよ?」


カイトは冷徹な声で告げ、電話口に緊張が走る。


「焼き殺しなさい」


『まっ!待って待って待ってくれ!!お願いだ!!抵抗した男をボコっちまったが死んではいねえ!!本当だ!!?』


「……本当だな?」


強い口調で問いながらも、カイトはパイロメインを指示した。


『ぎゃああああっ!!?』


再び部下らしき男の悲痛な叫びが響き渡る。


『誓う!誓うからっ!!!!!たのむ!!やめてくれえ!!』


泣き叫ぶ男の声を聞き、カイトはニヤリと笑うとハンドサインでマールを静止した。


「もし、安元圭介の家族に手を出したりしたら山根組は本日原因不明の火事で全滅する事になる、お前達山根組の今後は、今、わたしの手の上にある事を忘れるな。……返事は?」


子供の様な声音でのままドスの効いた鋭い言葉遣いで単体と事を進める。電話口の男は嗚咽を漏らしながら口を開く。


『わ…わかりました』


「いい返事だな?くく…引き渡しの座標は貴様に任せるとしよう…間違えても罠に嵌めようだなんて考えるなよ?わたしには全て見えているのだから…フハハハハ!!!」


カイトはそう言いながら一方的に電話を切った。安元も綾奈も驚きの顔のまま固まっている。


「か、カイトくん?」


不安げな安元にカイトは穏やかに笑いかける。


「これで彼らは素直に従うでしょう」


安元のスマホを返すと、自らのスマホを素早く操作し始めた。


「しかし安元さん、あなた運が良かったですねえ…」


「え?」


カイトはスマホに視線を向けて操作しながら告げる。


「彼等は貴方を脅していた事を、自ら証明してくれました…なので、貴方の罪は大分軽くなるでしょう。短い余生はお孫さんに使ってあげて下さいな?」


「…うっ…」


安元は堪えきれなくなり、顔を抑えると安堵と共に涙を流した。


「ねえねえ!安元はなにがあったの??」


「自首しても死刑にはなりません」


「本当っ!!?」


マールは満面の笑みで飛び跳ね、喜びのあまり飛びついてきた。


「にしてもすげえな…お前、写真に手を翳しただけで相手を焼き殺せるのか??」


綾奈は写真を摘んで見せる。関心の声を漏らす


「そんなことできないよ?」


マールはイタズラに舌を出して笑い、安元も綾奈も驚愕した。


「はっ!?」


声を張った綾奈に、カイトは穏やかに語る。


「炎魔術の一つ【パイロメイン】声を発した相手の周囲にいる人間に炎の幻覚を見せる魔術です」


「げ、幻覚!?」


綾奈の前でマールは手から炎を出して見せる。


「焼かれてる側はちゃんと痛いからっ!初めて味わうやつは本当に焼けるっておもうかもねー」


「人間は、未知に触れると理性が真っ先に失われるものです。彼らは賢く聡明だ…故にちょっとの嘘も信じ込む、一度の疑念は中々拭えない…故に暫くはパイロメインの真実に気付く事はないでしょう」


カイトはスマホを懐にしまうと、上に座るマールをどかすと立ち上がる。


「ともかくこれで時間は稼ぎました」


カイトはマールに目を向ける。


「マール、青葉さんたちを呼んできてください」


「ええっ!?みんなも使うの!?」


マールは動揺して声を荒げたが、カイトは頷く。


「そりゃそうでしょう?子供の内臓引き抜いて売っている様な外道をの晒しにしておくわけにはいきませんし、それに…」


カイトは綾奈に目を向け、綾奈は目をパチクリさせている。


「彼らは我々の仲間に手を出したのです…思い知らせてやりましょう。彼らがいったい何に喧嘩を売ったのか」


カイトの言葉を受けマールは歯を剥き出しにしてニヤリと笑う。


「おっけー!呼んでくる!」


マールは笑いながら外へと出て行き、カイトはその背中を見送りつつも告げる。


「はてさて…忙しくなりそうだ…」


カイトは肩をトントンと叩きながら、冷めたホットドッグを一つ手に取ると、不味そうに齧った。


次回!ヤクザVS魔法少女

お楽しみに

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