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1の9 冒険者殺しの王 終

後日談です。

冒険者殺しとの激しい戦いを終えたカイト達は、やって来た本田達回収班のすすめで、本来宿泊予定地となっていた京都の高級ホテルへ来ていた。冒険者殺しの血と悪臭に塗れたカイト達は、到着と同時にホテルの大浴場へ放り込まれることとなった。とはいえ、そこまで汚れていなかったカイトはマールに指摘されない程度に短時間で済ませ待合に出ると、待合室には既にマールがいた。


「うーん…うーん…」


デフォルメされたクマが描かれたパンツに素肌が透けるほどに薄いシャツというとんでもない格好で脱衣所に用意されていた変えの浴衣を手にとり可愛らしい鳴き声で唸っている。


「何をやっているんですか?…あなたは」


カイトが声をかけると、マールはピクリと跳ねて振り返ると笑顔になる。


「あっカイト!!ねえ、これってどうやって着るの?」


そう言って浴衣を手に歩み寄ってきた、成る程、浴衣は始めてだったか。


「青葉さん達は?」


「みんなまだ中にいる!つまんなくて先に出てきちゃった!」


子供かっ!子供だったわ…。最年少にあたるだろう栞よりも落ち着きがないマールにカイトは苦笑する。


「ねー!早くきせてー!」


マールは甘えるように浴衣を押し付けると自ら背を向けてアリクイの威嚇のように手を開く。


「やれやれ……」


カイトは押し付けられた浴衣を確認する。見れば浴衣には子供でもわかるように丁寧なイラストで着付けガイドが書かれてあった。


「ガイドあるじゃないですか…」


「僕は字が読めませんっ!」


無い胸を張り、とても自慢げな顔をしている。


「自慢気にしないで下さい、しかも字ではなくイラストですっ」


「そんな事しらないもーん!」


ツンとしてそっぽを向いたマールに、カイトはガイドに従い浴衣を着付けてあげ最後に帯を締める。


「この後なにがあるんだっけ?」


「ビュッフェだそうですよ?」


現在このホテルに一般客はいない、謎の篠崎パワーにより3日前から客払いされており、ホテルの中には魔法少女対策課の人間しかいない。


「…ふーん、ビュッフェってなに?」


きょとんとして可愛らしく首を傾げる、うん!かわいいね!バカがよぉ…


「ご飯です、いろんなものを好きに取って食べる形式をビュッフェ…てかあなた、魔法少女対策課で食べていますよね?あれです」


「ああーー!あれか!!!それは楽しみ!!」


魔法少女対策課ではほぼ一つの料理を完食して次に行っていた気がするが…マールはじゅるりとよだれを浴衣の袖で拭い待合室ではしゃぎ出す。


「カイトくん!」


そこへ本田が背が高く恰幅の良い身体を律儀におり曲げ、入口の暖簾を潜るように待合室へと入って来る。


「マールちゃんも一緒かい?他のみんなは?」


「まだ中!」


元気よく女湯をマールは指差した。


「そっか…じゃあ先にご飯に行こうか?」


「いくー!」


マールはきゃっきゃっと本田に飛び付きよじ登って肩車の体勢になる。


「さあ、ゆけ!ホンダー!!」


「ははー!お姫様ー!」


本田はマールを肩車したまま歩みをすすめ、肩車されたマールは暖簾に盛大に頭をぶつけながらも、朝のビュッフェがある食堂へと向かった。


「えっと…この食堂は貸し切りなんでしたっけ?」


食堂へ辿り着いたカイトは本田に語りかける。


「え?…あ、うん…そう…らしいよ?」


マールを肩車したまま、本田も目の前の光景に驚愕して顔を向けた。


「そ…そうですか…」


カイトは絶句していた。それもその筈、ホテルの食堂は結婚式にも使用される巨大なホールで行われており、広いホールには所狭しと様々な料理やシェフのいるコーナが立ち並んでいたのだ。


「食べた事ない料理がいっぱい!全部美味しそう!」


マールは素早く本田の上から降りると、キラキラと瞳を輝かせながら周りを見渡し涎をたらしていた。


「こちらをどうぞ」


そこへウェイターの女性がやってきて食事用のお盆を渡す。


「なにこれ?」


「これに好きなものを取るんです、行きましょう?」


カイトはマールを朝食コーナーに連れて行き、トングで目玉焼きを取って見せた。


「うーん、めんどくさい!」


「この形式は本来ならばいろんな人と一緒に食べるんです。…最前線も似たような感じになってませんでした?」


集中して油断しているマールのお盆に茹で野菜を山盛りにしながら問いかける。


「あー…たしかに…最前線もこうだったね…」


当たり前だ、と、カイトは心の中で呟いた。なぜならば、元々の最前線であるペリドゥの食事事実はかなり劣悪であった為防衛計画を立案した時にこの形式を採用させ潤沢な食事が戦闘員である冒険者達全体に行き渡るようにしたのだから。マールがいた頃の最前線は、自ら狩猟して取って来た魔獣をみんなで持ち寄って食べていたようで、支給などもなく、まともな食事も無かったのだが…食堂や酒場では食べ物の取り合いが横行し、殺伐としておりマールも毎度の如く他の冒険者に奪われそうになって喧嘩を繰り返して何度も酒場を破壊して賠償金を支払わされていた…そんな最前線での食事風景を思い出し、マールはとても渋い顔をした。


「……な、成る程ね…」


よっぽど思い出したく無い出来事なのだろう、ただ、自分のお盆に載せられた茹で野菜を、全て律儀にカイトのお盆へ移すと、素直にトングで肉団子の山を崩し始めた。


「だめですよ、野菜も食べてください」


「野菜嫌いっ!」


即答か!なんとか茹で野菜を渡そうととしたが、マールは素早くお盆を引いて逃げてしまう、それをみたカイトはため息を吐き出しながら諦める。


「母さんから言われているんです、あなたにしっかり野菜を食べさせるようにってね」


「ま…ママがあ?…カイトが嘘をついてくれれば…」


甘えた事をマールは言って来た、カイトは仕方なくサラダコーナーにあったプチトマトが視界に入る。


「嘘はいけません、要はあなたが野菜を食べたという事実があればいいわけです、なので」


カイトはそう語りながらもプチトマトを取るとマールのお盆へ載せた。


「何これ…赤い…果実みたい…野菜なの?野菜?…まずそー…」


マールは載せられたプチトマトをまじまじと見つめた。


「それを食べてくれたら、母さんには野菜を食べていたと伝えてあげます」


「ふええ…」


可愛らしく鳴きながら涙目で見つめていた。そんなに嫌いか!野菜!


「それにしても…」


カイトは自分のお盆にサラダコーナーに備え付けられていた底の深い器を載せ、そこにプチトマトを山盛りに取りながらも、立ち並ぶコーナーを見渡してその多さと迫力に息を飲む、ここが高級ホテルのビュッフェという事は聞いていたがここまでとは思わなかった。ここを貸し切るのにいくらかかっているのだろうか…不意にカイトの目に一つのコーナーが映る。


「マール、あれを頂きにいきましょう!」


「へっ…わ!ちょっと!」


カイトはマールの手を取り強引に引っ張って一つのコーナーへ連れて行く、その先にはスープのコーナーがあり百人前のスープの大鍋が何個も置かれており、その隣にシェフが隣に立っている。


「私には野菜ポトフを、彼女にはコーンスープをお願いします」


「かしこまりました」


シェフは直ぐ様スープ皿にポトフを注ぎカイトへ渡す、野菜沢山のポトフを観たマールは心底嫌そうな顔をしている。


「これは私のです、ほらあなたのです、お盆を出して?」


疑心暗鬼のマールはお盆を出すと、シェフは大きめの器にベージュ色のとろみがある汁を流し込み、それをマールに渡した。マールは渡されたベージュ色のスープの匂いを嗅ぎ、ジッと見つめている。


「これなあに?黄色い…具も何も無いようだけど…」


「そこのクルトンを好みで入れるんですが、それはあとのお楽しみにしましょうか?」


マールはクルトンを初めて見た様子でじっと見つめていた。


「ほらマール、次、行きますよ?」


カイトはマールに考える隙間を与えず、手を引いて様々な料理のコーナーを周って1周目を終えて席につこうとした頃には、本田は一足先に席についていた。


「マールちゃん!カイトくんも!1周目だってのにいっぱいとったねえ!」


本田はにこやかに告げる、マールのお盆は茶色一色の山なのはいつもの事で、逆にカイトのお盆にも普段は取らない量の料理があった、欲望に忠実に取ったが、自分も冒険者になったのだと実感してしまった。


「こんなのふつーだよ?」


誇らしげにない胸を張るマール、確かに普段のマールからすれば控えめな方であると言うのは言わないでおく(どうせお代わりに行くし)。


「……うう」


マールは席につくなり、お盆に一つだけ乗せられたプチトマトを手に取ると、恐る恐る口に放りこんだ。


「ちゃんと噛んで下さいね?いつもみたいに丸呑みにしたら食べたと認めませんので」


むぐっと吐きそうにするマールカイトの言葉に絶望を表情に表した、ただ母に怒られるのは嫌なのか渋い顔をしながらもプチトマトを噛み潰す。


「!!?」


マールは目を見開くと、ゴクリと飲み込む。


「甘い!何これ!?」


プチトマトはマールの味覚には甘く、美味しいものだったようだ。


「トマト、美味しいでしょ?」


「うん!!美味しいっ!果実みたい!なんで??」


とても嬉しそうにはしゃぐマールに、カイトは敢えて沢山とってきた自分のプチトマトを分けてあげる。


「これはそういう食べ物なんです、奥が深いんですよ?」


「そうなんだ!!ふっしぎー!」


マールはキラキラ目を輝かせ、カイトから渡されたプチトマトを摘んではむしゃむしゃと食べていた。


「驚くにははやいですよ?それも飲んで見てください」


カイトはそばのコーンスープを指差すと、トマトのおかげで警戒心を無くしたマールは直様スプーンを手に取ると、躊躇なくスープを口に入れた。


「!!!」


口に入れたマールはその瞳をキラキラと輝かせてピタリと動きが止まる、そして何を思ったのか両手で器を掴むと熱いはずのポタージュを一気に飲んだ。


「美味しい!!カイト!なにこれ!?美味しい!!」


感動したようだ、空になった器を手に、目にも止まらぬ速さでおかわりをもらいに行き、並々に盛られたコーンスープの大皿を大事そうに抱えながら帰ってきた。今度はしっかりとクレトンも入れられている。席についたマールはクレトンごとスプーンでスープを掬い口に入れる。


「はわあああ…」


キラキラ瞳を輝かせながら面白い声を漏らしたマールは、山盛りの肉類などそっちのけで美味しそうに食べ始める。いつものように雑に口に入れて飲み込んでしまうのではなく、いつ使えるようになったのかスプーンをしっかり使って口に入れている。


「これはスプーンで食べると尚おいしい!このブレトンもカリカリしてて美味しい!!」


ブレトンは英雄ね、クレトンです…とツッコミを心で囁きながらも無邪気に喜んでいるマールを見てカイトも思わず笑みをこぼしてしまう。


「…これは、なんとしてもトモヤにトウモロコシを作って頂かないとですかねぇ…」


あちらで農業に精を出しているトモヤは、現在イノブタの家畜化に始まり様々な作物を作っている。今のところ成果はほぼ無いのが玉に瑕ではあるのだが、彼があちらへ来て作っていたトウモロコシの作成にはゼノリコも興味を持っており資金提供も行っているのだとか。


「おー!マール!うまそうやなあ!!」


そこへ、浴衣姿の栞がやって来た。お風呂上がりで走って来た為か小さな身体が僅かにピンクに染まっていた。


「栞ちゃんよく似合ってるね!」


「ふふー!せやろー?うちはべっぴんやろー?」


どやどやと、栞は浴衣姿でひょこひょこと不思議な踊りを踊って見せる。


「栞!まてこら!」


遅れて青葉、絵里香、茜も栞を追いかけて走って来る。三人とも風呂上がりなのか髪をタオルで纏め脱衣所に置かれていたお揃いの浴衣を身につけている。


「みんなもお盆を貰って好きに取ってきな?」


その言葉に四人は目を輝かせ、駆け足でコースへ行った。


「ぼっくもー!!」


いつのまにか装った1周目のお盆を平らげたマールが走って魔法少女達に合流し、仲良くわいわいと好きなものをとっている。


今、この食堂には戦い終わりで風呂を浴び、腹ペコとなった冒険者体質の少女が五人もいる事にカイトは気がついた…彼女達にかかればこの食堂に残された朝食など瞬く間に消し飛ぶだろう。


10分後…カイトの不安が本物となる。案の定マールを加えた魔法少女達は、機械的な速さで様々な食材を瞬く間に消費し、普段は残って捨てられる大量の料理が余すことなく消滅した。


「ふいー食べたー!」


栞は親父くさく隣に座り、ぽこりと膨らんだお腹を撫でている。


「だらしないですよ、栞」


カイトの視線を気にしてか、青葉が栞を注意して乱れた浴衣を戻し本田の隣に座っていた茜が盛大にため息を吐きながらも頭を抱える。


「みんな、デザートタイムが始まるみたいだよ?」


本田が言うと、ホテルの控え室あたりから大量のケーキやデザートが乗ったテーブルが複数登場する。


「デザートってなに?」


あちらの世界にも甘味はある、ただこちらほどの種類があるわけでもなく、精々果物を使ったものか、小麦に砂糖を練り込んで焼いたものぐらいであり、あちらにはケーキと呼ばれるものはあってもこちら程に至ってはいないのだ。


「甘い料理の事ですね」


「甘い!?あんなにいっぱい!?」


マールの舌は甘い=美味しいの単純なものなので、彼女の目には天国のように映っていることだろう。


「マールちゃんいこう!」


「うん、いくー!!」


立ち上がった絵里香に連れられ、魔法少女達は揃って現れたデザートコーナーの方へ走って行った。現れたデザートコーナーは不自然にもその場で食べれるようにテーブルが用意され、様々なウェイターたちがやってきた魔法少女たちを席へ誘導、紅茶やジュースでもてなしオーダーを問いかけている、そうしている間にも、元のコーナーは撤収し、入れ違いのように新たなデザートコーナーが次から次へとやって来て合体、みるみるうちにデザートコーナーは肥大化して行く。


「本田さん、流石にやりすぎでは…?」


突如としてデザートコーナーが現れた理由、それは魔法少女やマールにこれからの話を聞かせない為。カイトはそう察して本田に目を向ける。


「子供の…しかも女の子に聞かせたい内容ではないからね…」


外見的にはカイトも子供なのだが…と内心でおもい苦笑しつつも、そばを歩いていたらウェイターを呼ぶ。


「熱い紅茶を下さい」


「僕はコーヒーにしようかな」


「かしこまりました」


ウェイターの女性は深々と一礼すると席から離れていった。


「君が言った通り、近くに大きな集落があったよ」


いつもの温和な本田では考えられない声音で吐き出すように告げた。


「…やはりありましたか、生存者は?」


カイトの問いかけに本田は苦笑する。


「まだドローンしか入れてないからなんとも言えないけど…」


ドローンを入れている時点で人気が無い事はわかっているだろう、生存者の存在が絶望的な事も…そう漏らした本田の手には力が込められている、あまりの力強さに肉が抉れ血が滲んでいるのがわかる。


「焦っても無駄に犠牲を出すだけです、集落の近くには確実にあいつらの苗床があり数十、数百もの冒険者殺し達も残っているはず」


「…だったら早く殲滅に移るべきではないのかい!?」


本田は気が立っているのか、強く声を荒げそこへやって来たウェイターが驚いて止まってしまう。


「ご、ごめんなさい」


本田が軽く謝罪すると、ウェイターは小さく頭を下げてからカイトと本田の前に紅茶とコーヒーを置いて行く。


「どうやって?あなた方に戦力はありませんよ?」


カイトは紅茶のカップを手に取る。そして冷たい視線を本田へ向ける。


「まさか寝込みを襲われ、突発的とはいえ数百を超える冒険者殺しを倒し、群れのリーダーに当たる存在まで討滅して疲弊している彼女達に尚も戦えとでもいうのですか?」


カイトの問いかけに本田は苛立ちを見せるが、吐き出す前に踏み止まって握り拳を震わせながらも脱力し、乱雑にコーヒーを飲んだ。


「っ…我々だけではできないのかい?巣を吹き飛ばすだけならっ…」


「私が送った冒険者殺しの生態データを見ていないのですか?土の中から音もなく奇襲してくる相手にあなた方はどうやって対処するのでしょう」


冒険者殺しの最大の特徴に、音もなく地中を移動してくるという点である。モーショントラッカーもサーモグラフィーも、冒険者殺しは掻い潜ってくるという事に他ならない。


「ぐっ…」


「しかも自衛隊の使う銃弾では冒険者殺しに致命的なダメージは与えられない。そんな状態で数百を超える飢えた冒険者殺し達が襲いくる中、巣穴を特定し破壊する…さて、唯の人間のあなた方に出来るんでしょうか?」


「ぐぐぐ…」


本田は歯を食い縛り黙り込む。


「不服そうですね?」


「…あんな得体の知れない化け物に国民の生命が危険に晒されているのだと思えばそうにもなるさっ…」


こんなところで飯なんて食ってないで戦えと、命令する事はできるのだろう。否、カイトとマールがいなければしていただろう。1匹でも多く駆除しろ…そう言て疲弊した彼女たちを死地に送り込み無駄に消費していただろう、国民の為に…と。


「休める時に休ませず疲弊した兵士を死地に送るなど愚の骨頂。そんな事をする奴は無能の将ですよ」


魔法少女たちは顔には出さないが蓄積している疲労は計り知れないものだろう。それだけではない、カイトが危惧しているのは勇者の力を行使したマールである。彼女の疲労がどのレベルなのかも想像が出来ないのだ。


「大丈夫です、ちゃんと作戦を考えます。だから今は落ち着いてください」


カイトの言葉に本田は渋々目を伏せ、置かれていた砂糖スティックを大量にコーヒーへぶち込み一気に飲み干した。


「ああ…わかってるよ…わかってる」


本田は何度も自分に言い聞かせるように呟いていた。


「そうだ、鉄心さんはどうなりました?」


腹を貫かれて瀕死となった鉄心は、マールの血により一命を取り留めた。外傷も特になく簡単なメディカルチェックを終え現在は本田の部屋で寝かされている。


「あれが鉄心さんだなんて俄には信じられないよ…」


マールの血を摂取して回復した鉄心は10代後半の青年にまで若返っていたのだ。それだけではない、長年の酷使で使い潰され動かなくなっていた利き足や、鍛冶の弊害で失った右眼までまるで生えてきたかのように再生までしていた。


「マールちゃんの回復術が暴走してあんなことになるだなんてね、今は落ち着いて眠っているからじきに目を覚ますんじゃないかな?」


イビキがうるさくてかなわないよ、そう本田は苦笑してみせた。カイトは本田にマールの血のことは敢えて伝えず回復術の暴走という事にでっちあげた。いずれは篠崎や陸兎によって明かされるだろうが今は口にしないほうが良いと判断したためである。


「そうですか、それはよかった」


そこでカイトはデザートコーナーではしゃぐ少女達に目を向ける、自分好みの木苺が沢山乗ったケーキを口一杯に頬張って幸せそうな顔をしているマールが視界に入った。百人前のビュッフェを食べ尽くした後にも関わらず、まだまだ余裕を見せている。不意に目が合う、カイトの視線に気がついたマールは満面の笑みを浮かべた。


「それでカイト君、これからの事なんだけど…」


唐突に本田が話を切り出した。


「突発的な襲撃でしたが群れのリーダーを始末できたのは幸運でしたね。残すは統制を失った個体の殲滅と苗床の駆除になります」


カイトはスマホを取り出してデータを本田に送信する。


「…これはっ」


カイトから送られて来たのは周囲一帯のマップである。唯のマップではない、至る所に色が塗られて印のマークが付いている。


「それは本日予定していた探索ルートです、集落の位置を教えてください」


「35.42あたりかな」


本田は自らのスマホに表示されたマップを見ながら答えた。元々カイト描いていたルートの中にそこは含まれている。


「成る程、では、ここを中心に作戦を考えます…ドローンが撮影した写真とかありますか?あれば頂きたいです」


カイトはマップに印を付け、そこを中央に表示する。


「はいどうぞ…」


本田から上から撮影した写真が送られてきて、カイトはそれを透過してマップと合わせ、じいっと食い入るように見ながらピクリとも動かなくなる。


「わ、珍しくカイトが怖い顔してる!」


そこへ、あらかたケーキを食べ尽くしたマールがオレンジジュースを抱えてやって来た。


「彼は良くこうなるのかい?」


本田の問いかけにマールは元気に頷いた。


「うん、せんそーの盤面を考えるのが好きなんだって!こうなったら暫く戻ってこないよ?」


マールはそう言ってカイトの隣に座った。


「ホンダ、顔色悪いよ、大丈夫??」


席についたマールは本田の顔を見て不調を心配しているようだった。


「ははは、単なる寝不足です!鉄心さんのイビキがうるさくてね…」


そう、本田は笑って見せる。


「え!そうなの!?なら僕のこれあげる!」


マールはそう笑って抱えて来た自分の飲みかけのオレンジジュースを本田に渡してきた。


「あ…あはは、ありがとうマールちゃん有り難くいただくね…」


普通に間接キスなのだが…マールはそういうデリケートな事は気にしないようで無邪気だった。


「どういたまして!」


ニカリと上機嫌に笑うマールは静かにカイトに身を寄せた。


「よし、これでいきましょう」


カイトはそう笑うと、腰のポーチからメモ帳を取りだして思っていることを書き殴りはじめ、左手でスマホを操作しながら右手で見る事なくメモを描きなぐりはじめた、そうして一頻り書き殴ったのちにペンとスマホを置いた。


「本田さん、今からデータを送ります」


カイトはスマホを操作して本田にデータを送信する。


「これは?」


「今回の作戦のシナリオです」


カイトから送られて来たプランに本田は目を通す。


「あれ、マールちゃんは部隊に編成しないのかい?それにこれは…」


本田はそのプランに難色を示し、渋い顔をする。


「マールがいれば巣の発見は容易いでしょうね、ですがマールは攻撃部隊には編成しません」


そう言いながら本田はスマホを見つめる。


「やいカイト」


カイトはそこで初めて、マールが隣にいた。その目は怒りに満ちて居る。


「ま、マール?どうしまっ」


同時にマールはカイトの脛を蹴飛ばした。


「いっった!!!?な、何故っ!?」


「言わなきゃわかんない!?なんで僕を編成から外すんだよっ!?みんなが困っているなら手伝ってあげようよっ!!」


何故かマールは怒っていた、勘違いしているらしい、脛が軋む痛みを堪えながら席に戻ろうとするがマールはそんなカイトの行動よりも早く椅子を蹴飛ばされてしまい、カイトは仕方なくその場に正座した。


「その…せめて話を聞いてくれませんか?」


「そっか、なら…言ってみ?」


真顔になるマールにカイトは焦りを覚える、彼女の顔から表情が消える、それは臨戦体勢の現れなのだ。下手な事を言えば間違いなく殺されるだろう。


「あ、あなたにはもっと重要な役割があるんですよ!」


マールに睨まれたカイトはすくみ上がり、ため息を吐きだしながらも蹴飛ばされた椅子を掴んで元の位置へと戻すと静かに腰を降ろして紅茶を手に取った。


「………で?」


マールの殺気が一気に膨れ上がる、凍傷を起こしてしまうのではないかと思う程に冷たい視線が突き刺さり肝が冷える。


「こ、今回の作戦はチームを二つにわける必要があるんです」


「…え、チームを二つに?」


キョトンと、マールは反応を示しカイトの手元にあったスマホを奪い取るとその内容を覗き込む。


「…分かりますか?」


「わかんないっ!!」


ころりと表情が戻ったマールにカイトは安堵のため息を漏らし、テーブルに放り出されたスマホを手元に寄せつつもマールと身を寄せスマホを机に置くと画面に指をさす。


「今回の作戦は巣の捜索を行う攻撃部隊と、集落で攻撃部隊の支援を行う防衛部隊の二つに分けて活動するのです」


カイトはスマホをあやつりマップの中央に半壊している集落を置く。


「この半壊した集落を拠点とし、攻撃部隊は冒険者殺しの苗床の捜索、位置の特定が主軸となります。」


カイトは語りながら編成を開く。


「攻撃部隊には青葉、絵里香、茜、栞からなる魔法少女達を編成してあたります」


攻撃部隊の編成に自分の名前が上がらない事に不満があるようで、マールは再び睨まれている。


「つ…次に防御部隊です、防御部隊は巣の捜索する攻撃部隊をドローンなどを駆使して視覚的に支援しつつ設営された拠点を維持すると共に…」


カイトは不気味にマールを見て笑う。


「攻撃部隊に向かうだろう冒険者殺しの大半をこちらで引きつける囮も担います」


「お…とり?」


マールをは目をぱちぱちとして首を傾げているので、編成を表情させる。


「防御部隊にはわたしと本田さん、それから回収班の皆様も編成します」


「ま…まってよカイト、ホンダや回収班のみんなも編成するの?…おとりって何?」


「敵の注意を引く行為の事です」


マールは驚きに目を見開いて止まる。


「え…それって危なくない?」


「勿論危険です。冒険者でない唯の人は呑まれたら即死ですし」


「え、ま…マジ??…」


驚愕する本田、彼には前もって冒険者殺しの資料を送っていたはずなのだが…。


「だからあなたをコチラに編成する必要があるんです。マールなら一人でも我々を守り抜けますから」


カイトは自身満々に語ると、マールは不安げな顔をする。


「この範囲に散らばるみんなを、僕一人で…」


「おや?出来ないのですか?」


「できるよっ!!何その言い方!?カイトのくせに!」


ムキになって反発するマールにカイトは思わず苦笑した。


「それは良かった、まさかマールともあろう人が、ビビっているのではないかと…」


「はあああああ!?ビビってないし!!?いいよ!わかった!やるよ!!やる!!」


マールが元気よく吠えたところでカイトは画面を切り替える。


「今回のシナリオはこうです、先ずは攻撃部隊とあなたで集落に突入、現れる冒険者殺しを殲滅し制圧し安全を確保します。安全が確保され次第、我々防御部隊が集落へ侵入、中距離規模の拠点を設営します」


マップの中央には大きな天幕の画像が現れる。


「マールと攻撃部隊のみなさんにはその間、設営完了まで拠点を防衛していただきます」


カイトは説明しながら画像をコロコロと変えていく。


「あ、設営まではみんないてくれるんだ…」


ほっとマールは胸を撫で下ろしている。


「拠点設営完了の後に攻撃部隊は直ちに出撃、周囲の捜索を開始。我々は拠点よりドローンと無線を駆使しつつ攻撃部隊の視覚を支援します」


カイトは紅茶で乾いた口を濯いで飲み込み、マールを見た。


「ここからがマール、あなたの出番です」


「その前に意見!僕が攻撃部隊として苗床を探した方が見つけるの早くない?」


マールは真っ直ぐに手を伸ばし意見を具申した。


「いい意見ですね、確かにあなたが捜索に出れば発見から殲滅まで簡単でしょう、それは間違いありません」


「じゃあ…」


「さっきも言いましたが、この作戦は防御部隊を囮に残存している冒険者殺しを引き付けている間に攻撃部隊が苗床のある巣穴を発見、破壊する事を目的にしています」


マールは腕を組み首を傾げた。


「よくわかんない…作戦はわかったけど…ならみんなでもよくない?」


「ここにいるのがボルドー兄弟やアンネマリーならわたしは間違いなく貴女に捜索と破壊を任せていたでしょうね…ただ、絶え間なくやってくる冒険者殺しの濁流を相手にしながら拠点全体を守護するには彼女達は戦力不足です」


カイトはハッキリと言った。


「今の戦力で防御の任務を任せられるのはマールだけです、お願いします、やっていただけませんか?」


真っ直ぐにマールを見つめて問いかける、そんなカイトの真っ直ぐなお願いに、マールは弱い。


「仕方ないなー!!やったげる!」


照れ隠しにフン!とそっぽをむいて腕を組む、そんなマールをみてカイトはホッと胸を撫で下ろした。


「おう、戦力不足とは言ってくれるじゃねーか!」


茜の声に気がついて見れば栞が隣から画面を覗き込んでおり、見れば本田は茜と絵里香に挟まれて画面を見つめ、青葉に至っては自分の携帯にデータを写して見ている。


「えっと…皆さんはいつから?」


マールに問うと、マールはニコリと笑う。


「君が正座してたあたりから?」


ほぼ最初からか…カイトはフンと目を伏せる。


「まあ、伝える手間が省けたと好意的に考えましょう!折角なので部屋に戻って必要な備品など詰められる部分を今のうちに詰めてしまいましょうか」


そこから部屋に戻ったカイト達は、近日中に行う冒険者殺し殲滅作戦を練りに練った…魔法少女対策課の人達は栞を除いては大半が勤勉でありカイトの考案にしっかり考えた上で意見を貰えるのだ、そのためカイトも時を忘れる程に熱中してしまい気がつけば3時間も立っていた。


「必要な備品はこれで全部かな?」


本田が備品をリストアップし、カイトや魔法少女達も覗き込む。


「あたしにはさっぱりわかんねえわ!」


「わ、わたしも…」


茜と青葉は早々にリタイアする、絵里香だけはリストアップされた備品の値段を正確に計算して自らのスマホの電卓を叩いている。


「カイト、これでは予算を大幅にオーバーしていますね何か、削れるものはありませんか?」


「成る程、でしたら…」


カイトは拠点となる集落の撮影写真を睨み長考する。


「仮設施設は現地のものをリユースしましょう、そうすれば施設資材とそれを詰む車両コストをカットできます」


「まだ少しオーバーします、この無駄な量の食糧と水は削れませんか?」


「食糧と水は部隊の根幹になります、そこを妥協は出来ません」


「だったら期間を減らすべきです。一週間分の食糧と水なんて必要ですか?」


「三日分です、冒険者は一週間分の食糧を三日で消費するので…」


「我々の分は現地調達でよくないですか?冒険者殺しを焼いて食べればいいと思います」


「処理はマールしかできませんよ?それに……」


絵里香の予算管理は想像以上に完璧だった、絵里香は強気にズケズケと切り込んでくるため、打ちのめされたカイトはしょんぼりとしながらも不要な予算を削るべくリストを睨む。


「さすが絵里香様、大金持ちの娘は違うねえ」


「?絵里香さんは大金持ちなのですか?」


カイトは絵里香に聞くと、絵里香は罰がわるそうに目を逸らす。あまり聞かれたい内容ではなさそうだ。


「絵里香ちゃんは、あの黄河財閥の娘なんだよ」


「黄河財閥?…」


「コウガパワーって知りません?」


その名前には見覚えがある、コウガパワーとはカイトの方の世界…現代にあるガソリンスタンドである。日本で唯一の油田を独占している大企業でありこの日本有数の大企業である。


「…ああ!」


カイトはそこで初めて反応し、絵里香はにこやかに笑った。


「魔法少女対策課の運用資金も黄河財閥に助けて貰っているんだ、僕たちは彼等には足を向けて寝られないよ」


「いやです本田さん、厄介な娘を厄介払いするための端金ですわ」


そんな皮肉をつぶやきながらも絵里香はケラケラ笑っていた。


「ふが…」


その時、背後のベッドから声がした。見ればマールと栞が猫玉のように丸まって寝むっている。作戦会議に早々に飽きたマールはベッドに飛び込んで寝始めたのだ、マールと波長の近い栞も後に続いて今に至る。


「んっ…」


寝返りを打つマール、その鼻がこのホテルでは決して嗅ぐ事がないだろう臭いを感じ取った。


「!!!」


ガバリと跳ね起きたマール、くっついて寝ていた栞が高々と吹き飛び、綺麗に隣のベッドにおっこちた。


「あいた!!」


痛みで起きるかと思った栞だが、そのまま大の字になって眠っている。全員の視線を浴びるマールは無表情のまま目を見開いており、翡翠色の瞳でキョロキョロと見渡している。


「何やってんだマール?」


「あ、あはは!!ごめん!」


茜の指摘に笑って誤魔化そうとしているマールであったが、その顔は明らかな警戒を示している。何かあった…とカイトは察していると、案の定、マールはカイトの側にやって来て手を掴んた。


【嫌な血の臭いがする】

「さくせんかいぎあきたー!」


マールの手の温もりと共にそんな言葉が流れ込んで来てカイトも驚いてしまう。


【ちょっと見てくる】

「遊んできてもいい?」



「…あなたは全く…仕方ないですねぇ!」


カイト和かに誤魔化しながらも、ポーチから入浴前に預かった彼女の子供携帯と剣の持ち手を模した杖、そして財布から取り出した1000円を渡す。


「ありがとうカイト!」


にこやかに笑いながらも、カイトの渡した1000円を受け取ったマールは、凄い速さで部屋から外へと飛び出していった。


「本当のところはなんなんだよ?」


茜は察しがいいのか不安そうに聞いて来たのでカイトは穏やかに笑う。


「…今日はお開きにしましょうか、わたしも少し疲れました。部屋で少し休みます」


カイトはそう告げると、立ち上がって静かに歩いて魔法少女達の部屋を後にした。


「とりあえず、お開きにしよっか?」


本田はそう作戦会議を締めくくって立ち上がり、魔法少女達の前を通り、ゆっくりと部屋を後にした。


「これでいいかい?」


本田の目の前にはカイトが待っていた。


「何が…あったんだい?」


本田の問いかけに、カイトは笑顔を崩す、


「…このホテルから血の臭いを感じたようです」


「えっ!?」


本田は驚愕して目を向け、そんな本田の反応にカイトは苦笑する。


「…一先ず、部屋に行きますか?」


「………君、楽しんでない?」


「ホント、マールといると飽きることはないです…今回はどんな厄介を持ってくるんですかね?楽しみですっ」


カイトは歯を剥き出しにして笑い、自らの部屋へ向かって歩いて行った。


おつかれさまでした!!

後日談といったな?あれは…うそだ

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