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1の3 御前試合

疲れました、最後の方少し自信ないです

朝、カイトが目を覚ますと頭にハイデの鳥が止まる、鳥は首に貯金箱をぶら下げており、カイトはそこに金貨を3枚いれる。そして現状の報告書を鳥の足についた入れ物に入れた。ハイデの鳥はそれを受け取ると、パッと飛び上がり姿が消える。


「あ、カイト起きたの?」


すると、少し前まで隣で寝ていた筈のマールが寝巻きの姿のまま逆立ちして汗だくになっていた。


「なんだかんだ楽しみでさ!眠れないから身体を動かしてたの!」


マールは汗だくのまま満面の笑みだった、負ければカイトが奪われてしまうという状況でも、これからこの花の国に住まう冒険者達と戦える事が楽しみで仕方がない様子にカイトは安堵する。同時に、カイトとしても花の国の冒険者達の実力には興味があった為、マールの興奮も理解できた、だがそんなことよりも何よりも。


「マール、お風呂はいってこようか?」


目の前の汗だくな小さな勇者を風呂に入れる必要があるだろう。


「お迎え…」


数刻後、シイナの使いである白装束の式神達が迎えにやって来た。式神達は最初の印象と特に変わりなく、漆塗りの馬車へマールとカイトを案内する。


普通の宿屋の前にそんな仰々しい物がきたら当然だが周囲の視線に晒されることとなるのは当たり前で、宿屋の前では漆塗りの馬車に乗り込むカイトとマールを一眼見ようとする民衆で溢れていた。


「おお、子供だ…」


「後ろの女子(おなご)の得物、なんだいありゃ…あんな小せえのに振り回せんのか?」


「めんこい子じゃ、きっと帝様のお客人なのじゃろう」


口々に民衆達が思い思いの言葉を話す、キョウのミヤコの民達はカイトの思った通りの着物姿をしていた、しかし、彼が想像したボロいものや艶やかなものと明らかな身分の差のようなものはなく、皆、身綺麗な着物を着ていた。それは当たり前だろう、カイトはそう考えて眉間に力を入れる。民衆の一人一人の頭に加護の数字が現れる。その数は無限に増え青い加護の数字の光で目が痛く成る程だった。


シイロがいっていた通りだ、この花の国は民衆のほぼ全てが冒険者なのである。


「おお?あの女子さ神託がねえど?」


誰かが言った、その言葉に全員の目の色が変わる。マールとしてはその後、嘲笑が来るのはいつもの事だったが、民衆達はそうでは無かった。全員がこぞってマールの神託に目を凝らし、そこに何もない事を確認すると…さっと何かを言うまでもなく取り囲むようにしていた民衆が蜘蛛が子を散らすがごとく否、まるで統制の取れた群のように見事な整列を見せ、老若男女子供、全てが膝を付き両手を合わせたのだ。


「こ、この雰囲気なれない…」


馬車に乗り込んだマールは民衆の対応にやり辛そうに声を漏らした。


「リコ様の気分が少しはわかるんじゃないですか?」


「うえー…王様って大変なんだね…」


今更?と心の中で突っ込むと、漆色の馬車は静かに出発した。馬車はキョウの街並みを静かに抜けていき城のちょうど北の位置に当たる場所へとやってきた。


そこには横に広い仰々しい建物があった、正面には御前試合闘技場の文字がデカデカと描かれている。


「こちらへ…」


式神達はカイト達を馬車から降ろすと、直ぐに先導して歩き出した。闘技場はすでに御前試合を観る観客でごった返しており、施設の横では観戦する席の売り場があった。本来御前試合とは殿様と家来の前で行われるものであるのだが、この国では大衆娯楽の一つになっているようだ。


「止まれー!」


式神の前で見覚えのあるカラフルな甲冑を来た兵隊たちが行手を遮る。それは海岸でカイト達を襲撃した武士の集団である。


「この先は帝様の観戦される席である!何者か、身分を明らかにせよ!」


カシもいた、カシは前に出てきて式神を一瞥しそしてカイトとマールの顔を見ると、乱れのない訓練された動きで道を開ける。


「帝様のお客人だ!通ってよし!」


カシの一声で、武士の集団は一斉に路を開け、式神が進み始めると、カイトとマールもそれについていく。


「おお、逃げずに来たのか?勇者よ」


式神達が案内したのは闘技場の一画、闘技場全体を一望できる高い位置にある、ここが恐らく御前席なのだろう。闘技場の内部は実に広く、広さ的には現代の競技場に近い広さがある。すでに客席には多くの観客が詰められ、遠いためかシイナの使役している式神たちが盆に望遠鏡を沢山載せて歩き回っている。


「ちょっとしたしのぎさね、一つ銀1枚で売っておる。せっかくの見せ物や。金に変えぬのはもったいないからねえ」


シイナはそう言うと自分のために用意された豪華な座席に腰掛ける。


「何をぼさっと立っておる?勇者よ、お前の控室はここではない」


「え!」


マールはポカンと口を開ける、するとシイナはため息を吐き出し式神を呼びつけた。


「勇者様を案内…」


式神はそう言って頭を下げるとマールの手を引く。


「ああ、まて…」


行こうとするマールをシイナが呼び止めた。


「お前は御前試合は初めてだったな?この戦いでは使う武器は我らが選んだもののみを使ってもらう決まりがあるのだ」


そう言ってシイナは闘技者達が戦うことになるだろう闘技場を指差した、討議場は六角に区切られ、砂場となっておりオブジェクトのように岩がいくつも設置されている。その真ん中に砂の山があり、そこには大小様々な武器が突き刺さっている。


「我が花の国が誇る鍛冶場衆が鍛えた業物ばかりじゃ!ひょっとしたら今おまえさんが背負っているそれよりも良い物かもしれんよ?」


シイナはマールを煽るように語り続けると、マールはムッとし、背中の大剣を手に取ると思い切り畳に突き立てた。


「ふん!」


そして式神と一緒に出て行った。カイトもついていこうとする。


「お前の席はここじゃ」


シイナは妖艶な笑みを浮かべながら自分の玉座の隣を叩いた。


「は、はあ…」


カイトは渋々従う事にしシイナの隣に腰掛けた。それを見て目を細めたシイナはゆったりと立ち上がり、民衆の前に出る。


「これより、第1万5682回御前試合を始める」


シイナのゆったりとした声が闘技場全体に響き渡ると、大歓声が巻き起こる。


「此度の試合は妾自ら楽しませてもらうとしよう、闘技者の子らの奮起を期待する」


それだけ言うと、シイナはカイトの隣に腰掛ける。


「普段は見ないのですか?」


カイトは不意に聞くと、シイナは首を横に振る。


「花の国の民達は全てが妾の可愛い子、闘技者にせよ観客にせよそれはかわらぬ。子供達の勇姿を見ない親などおらぬ、普段は敢えて口にせぬだけよ」


そう言ってキセルを手にするが、ハッとカイトを一瞥してからキセルをしまう。


「あ、お構いなく」


「ならん、隣でお前に寝られたら妾の理性を保たせる自信はない」


「あ、そ、そうですか」


カイトが引き気味に告げると、早速1回目の闘技者達が入場してきた1人目は黒い着物に赤い傘を被った不気味な男と、赤く短い着物に晒しを巻いたまるでくの一のような風貌をもつ女である。


2人は中央の砂場の前に立ち、各々の使う武器を手に取ると少し砂場から離れて向かい合う。


「赤笠の所の若い衆と、暗殺のジジイのところの隠密か…カカカ、カイトお主はどちらが勝つとおもう?」


シイナに問われ、カイトは2人をじっくりと見つめる、赤笠は砂地から手にした刀を腰に差し構える事なく仁王立ちしており、隠密は短刀を手に身を深く沈めて構えを取る。


「情報を知らぬお主にはフェアではないな、では妾から先に選ぼう、妾は隠密が勝つとみた」


それを聞いたカイトは問う。


「その心は?」


カイトの問いにシイナは雄弁に語り出す。


「赤笠衆は最近落ち目や、亜人の討伐報告も少ない。それに比べて暗殺のジジイの隠密共の戦果は実に多い、そう考えれば自ずと答えは明白だろう?」


「私は赤笠だと思います」


カイトは静かにそう告げた、そして自信ありそうな声音で続ける。


「おそらく一瞬で終わりますよ?」


「ほう…言うではないか」


シイナは歯を見せて笑い、同時に激しい銅鑼の音が爆ぜて開戦をつげる。


同時に隠密の女が動く、強く地面を蹴り付け激しい砂埃を巻き上げ煙幕にし視界を塞ぐと、赤笠の周囲を周りながら次々地面を蹴って砂埃を上げていく、赤笠の男は微動だにもしない。そんな赤笠に隠密の女は目に見えぬ程の高速で砂埃の中へ突入した。


砂埃が晴れ、そこにいたのは赤笠の男が隠密の短刀をもった腕を掴んで脇を開けさせ、その脇腹へ肘を打ち込んでいる姿だった。


「が…はっ…」


あれ程の速さで突撃したのだからカウンターの肘を腹部に受ければ伝わる衝撃は相当なものだろう、しかし女は直ぐに体勢を立て直そうとする、だが赤笠の男はそれを許さず直ちに抜刀すると、女の身体を袈裟に切り捨て大量の血飛沫が舞う。そして女はひっくり返り、それきり動かなくなった。


「普通に命を奪うんですね…」


カイトの言葉に、シイナは肩を揺らす。


「死合でなければ意味なかろう?冒険者は復活できるのだ、死んで学べる事もおおいだろう。花の国は治癒師の数に困らぬしな」


背を向け来た方向へ退場していく赤笠とすれ違うようにやってきた治癒師は女に駆け寄り直ちに復活させ、助け起こすと、退場させる。


「カイト、何故貴様は赤笠が勝つと踏んだ?」


シイナは純粋な疑問を投げかけて来た。カイトは静かに答える。


「構えです」


「構えとな?」


シイナの復唱にカイトは頷く。


「赤笠の人は棒立ちしていたのではなく、あれが構えなのです。硬くなりすぎず、力の力みは無かった…手慣れている様子を見ました。逆に隠密の方は戦法自体は見事でしたが構えが固い、おそらく実直な方のでしょうね…だから折角の姿隠しも意味を成さなかった、あれ程の手練れにあんなりきみを見せていたら来る方向を教えてしまうようなものです」


「お主…もしかして楽しんどるか?死合を」


シイナは若干引き気味に問いかけたが、カイトは和かに笑いかける。


「ええ、とても」


「そうか、よしカイト!ならば次はどうじゃ?」


シイナが指を差すと、すでに2人の男が砂場から武器を選んでいた。1人は頭を丸めており僧侶服を身に纏っている。その服の端々は荒々しく千切れており、小汚い印象を受ける。もう片方は理路整然とした整ったカラフルな甲冑、おそらくカシの部下の武士であろう。


2人は各々の武器を手に取る、武士は当然大きく反った長い太刀を手にすると、鞘を砂の山に捨てた。そして僧侶が手にしたのは槍


「ですよねえ!!」


カイトは思わず叫んだ、シイナが突然のカイトの声に目を見開いてポカンと見ている。


「カシさんには悪いですが、僧侶の圧勝でしょうね」


「ほう?あんな見るからに見窄らしい僧がカシの部下に圧勝だと…?そうはならんやろ?あの色は確か東の村にある寺じゃ、そんな村の寂れた坊主が、実戦で叩き上げられたカシの部下に勝てるわけがなかろうて、実戦経験が段違いよ」


シイナは信じられないという顔で僧侶から感じた印象から弱いと断じた、そんなシイナにカイトは吹き出し、余裕を見せる。


「それは、どうでしょうね?」


「吠えおる、童が」


同時に銅鑼の音が響き渡る、同時にカシの部下が甲冑姿とは思えない機動力で駆け出した。


「花の国が誇る武士集が走術、疾風…小柄な奴等だからこそできる独特な歩法よ、甲冑武者は機動力がないと軽んじられがちだ、しかし疾風があればこの通りよ」


シイナは自慢げに武士の走りを語る、もはや勝った気でいるようだ。それもそのはず。甲冑武者は次第に速度が上がっていき、肉眼では姿が見えない程に早くなる。僧侶はただ真っ直ぐに槍を構えると、細く、短い槍を扱うような持ち方をしていた。その独特な構えからカイトは察する。否、僧侶が槍を手にした時点でこの勝負は決していた。


結果から言おう、この試合はカイトの読み通り僧侶の圧勝であったのだ。機動力で翻弄していた筈のカシの部下だが、見事に初撃を流され同時に入身、そして鎌。脚を跳ねられ、地面に倒れたと同時にその喉元へとどめの一突きを浴びせ、絶命せしめた。


「円錐、入身、鎌完璧な動きです…」


宝蔵院流槍術、それはカイトの世界に今尚続くとされる槍術であり、その特徴は円錐、入身、鎌という図を描いて示される。目の前の僧侶が行ったのは、円錐の理と全く同じものである。


「彼の服の袖や裾が破れているのは、袈裟の服が擦り切れる程に毎日槍を打ち続けている証拠です…カシさんの部下は確かにすごい技を持っていたようですが…彼の日々鍛錬はそんな技一つ二つではどうにも出来ないでしょう…」


「ぬぬぬ!!カイトおまえズルしておるな!?」


ズルと言われればズルかも知れないのでカイトは黙った。


「次じゃ!次!」


すると、治癒師とすれ違い入ってきたのは見覚えのある栗色の髪、マールだった。対するは観るからに達人の風格をもった老齢の男性。


「お主の勇者がどれほどできるか、楽しみだのう?しかし運が悪いな?あの男は強い、最近我が花の国で頭角を表し始めた男じゃ、お前らの国ならP級位の実力だろう、確かあの勇者はSといっておったか?」


マールと対峙する達人的風貌の男は砂場から迷わず刀を掴み取った。しかし、マールはというと…武器を次々抜いては捨てている。


「だーめ、この子達、全部軽すぎ…つかえないや」


結局マールは、適当な小さなナイフを持って来て男の前に立つとポイっと捨ててしまう。すると観客からはブーイングの荒らしが巻き起こる。


「勇者はあらゆる武器を使いこなすとされておるが…おかしいの?やはり嘘か?」


カイトはマールを見ながら首を横に振る。


「マールは重たい武器を好みます、鍛冶屋集の武器に彼女が好む重たい武器はなかったようですね」


カイトはそう言いながらマールが突き刺して行った大剣を指差し、シイナはそれに触れ抜こうとする。


「おっ!!…も、なんぞこれ…」


「マールはその大剣と同じものを軽くなってきたと言っていましたね」


「……」


流石のシイナですら言葉を失った。


「小娘…辞めるなら今のうちにだぞ?」


達人風の風貌を持った男は腰に下げた刀を握りしめ、緩やかに腰を落としながら身構えた。


「…ふうん?」


マールはそんな男を見つめながら構えることなく腕を組む。


「おっちゃん、強いっぽいけどやめといた方がいいよ?悪いけど、おっちゃんじゃ僕には勝てない」


同時、激しい銅鑼の音が響き渡る同時に男は強く前に踏み込もうとした。


「で?次どうする?」


マールは既に息が掛かるほどの距離に居た、いつ間合いを詰められた?男は動揺に目を見開き刀を抜こうとする。しかし刀は抜けない、それどころか柄を握る腕すら動かない。見れば男の握る柄、その先端に当たる頭の部分に小さな手がそっと添えられている。


「…!っ!!」


男は思い切り力を込めて刀を抜こうとするが、添えられているだけの小さな手はぴくりとも動かない。


「かああ!!」


痺れを切らせた男は素早く身を後ろに引くことで距離を取りつつ抜刀、裂帛の気合いを挙げながらマールの頭に振り下ろす。


「で?」


マールは男の会心の一撃を人差し指と中指の2本の指で刀を挟んで止めていた。


「可哀想に…」


カイトは達人風の男に哀れみの言葉を向けた、そして息を吸い込む。


「マール!!可哀想だからその辺で終わらせてあげて!!」


カイトの声が聞こえたのか、マールは2本の指だけで挟んだ刀に力を込めながら振り返りカイトの方を見る。


「ぬ!!ぬおお!?!」


その瞬間、急に手にした刀が重くなり、男の体が指2本の力だけで地面に沈んでいく。


「が!!が!!…がああ!!」


立ち所に膝を付き、肩に当て、必死に持ち上げようと踏ん張る男。しかし無情にも刀の重みは彼の努力を嘲笑うかのように増していく。必死に力を込めてもがく男がマールの機械的な力に抗える訳もなく遂には砂場の地に伏せた。


「降参は?ほら!降参ー!」


マールの力がさらにこもり、男の身体は自らの手にした刀によって潰れてゆく。


「ま!!まいった!!まいったあああ!!」


遂に男は圧縮されていく痛みと苦しみに耐えきれずに声を張った。


「はい、お疲れ様」


マールはにこりと笑うと2本の指で男から刀を取り上げる、刀はその2本の指の力に耐えきれず中から砕けて砂場へ落ち、圧縮から逃れた男は息を荒げながら脱力した。そこで勝負ありの銅鑼が鳴る。


観客は騒然である、無理もないだろう。明らかに手練れの印象をもつ男が、小柄な少女を相手に指2本で制圧されてしまったのだから。


「恐ろしい小娘よのう…まるで本物の勇者ではないか」


「カイトー!!」


マールがいつのまにか御前席にやってきた。


「自分の番までここにいてもいい?控室退屈なの…みんなピリピリ殺気だっちゃってさあ…」


マールは特に気にするでもなくカイトの側へやってくる。


「私は構いませんよ」


「やったー♪」


マールはカイトの言葉を受けてその場にどかりと座る。


「妾の許可はだしてはおらぬぞ?小娘」


シイナは怒る素振りでマールを睨む、しかしマールは特に気にしない。そうしている間にも新たな闘技者が入って来る。次に入って来たのは理路整然とした淡い桃色の紋付袴の女性と、煌びやかな花魁風の妖艶な女。このどちらかが次のマールの犠牲者となる。


「カイト続きじゃ、どちらが勝つ?」


シイナは闘技者を見るなり興奮したように言い放つ。


「そうですねえ…」


カイトは腕を組み、闘技者の2人をじっと見つめた。


「ふぁ…」


マールは隣で大欠伸をすると、横になる。


「出番が近くなったら起こして」


「え、次の対戦相手見ておかないんです?」


完全に熟睡体制のマールは片目だけを開けてカイトを見つめた。


「あの2人ならどっちが上がってきても余裕」


そう告げ、目を閉じた。


第二回戦、マールの前には桃色の紋付袴の女が立っていた。


「よろしくお願いしますっ!」


女はマールに対して誠実に頭を下げ、砂場へ向かうと刀を掴み取る。マールはというと、再び小さなナイフを手に取ると女と向き合う位置まで歩き、そして再び捨ててしまう。


「余裕ですか?私は」


女はそんなマールの態度に侮蔑を感じた様子で憤る、それに対してマールは目を逸らす。


「違うの、あの子達軽いの」


マールは砂場の武器を指差した。武器が軽い?女はマールの言葉の意味が分からず、身構える。


「挑発のつもりはないんだ」


その言葉は女性に届く前に銅鑼の爆音で掻き消された。同時、弾ける勢いで駆け出した女は洗練された動作で刀を引き抜き一息にマール目掛けて振り下ろす。


パン!手を叩く様な発破音、何故そのような音が?と思うかもしれないが、そんなものは光景を見ればすぐ納得が行く。マールは目の前で両手を合わせて刀を止めていた。


「し、真剣白刃取…!?」


刀を振る女が驚愕、同時に強く引き寄せられマールの肘が女の腹に突き刺さる。


「がっ…は!?」


女は砂場に倒れ込み、もう動く事はなかった。


「ああ…また終わっちゃった…」


マールは女から奪い取った刀を見ると、彼女が白刃取りした位置の鉄が潰れて砕け二つに割れると、ポトリと落ちる。


観客はまた静まり返る、マールの圧倒的過ぎる強さに声が出せない程に驚愕していたのだ。


「あ…あの小娘なにもんだ?…」


「さっきの男といい、今の娘といい…」


「さては八百長か?」


まあ、そうなるだろう。マールの強さはそれだけ規格外なのだ。


「なんで僕が戦う時はみんな声をあげないの!」


マールは御前席に戻って来てむくれていた。


「当たり前じゃろう?お主の力は娯楽にならん、ここの観客たちは圧倒的な力を見に来とる訳ではないのだ」


シイナはそういいながらも下で繰り広げられる戦いを見つめている。


「武器使ったら?」


「そんな事したらあの子達が終わっちゃうじゃん!」


マールの言葉にシイナは反応する。


「妾の子たる闘技者達に対し、終わっちゃうとは吠えおるわ」


忌々しげに目を細めては、憤りを見せる。


「マールの言うあの子達は武器の事だと思います」


シイナはギョッとしてカイトに顔を向けた。


「あの子達が凄い業物だってのは分かる、丹精込めて作られてるのも一目でわかった、技術だけならうちの爺様よりずっと上じゃないかな」


鍛冶屋としての目線なのか、そんなことを口にするマールにシイナは頭に疑問符を沢山浮かべていそうな絶妙な顔をしていた。


「あ、マールは鍛冶屋の子なんです」


それを聞いて納得したようだ、そこでマールが花の国の鍛冶衆を褒めているのだと感じて誇らしげな顔をした。


「そうであろう?妾の子達は優秀なのだ」


「うん、だけど僕には軽すぎるんだ、本気で握り込んだらあの子達は終わっちゃう。爺様のや使い捨て前提の子達なら特に気にならないけど…他の人の業物は…ちょっと嫌だなって」


マールがピルムを気に入っていたのはそのためか、とカイトは思った。


「まったく…仕方ないなあ…」


シイナは大きなため息を吐き出すと、ちょうど試合が終わる。するとシイナは大きく手を叩く。


「キョウの民達よ、そして闘技者の子らよ…聞くがよい」


瞬間、歓声がぴたりと止まり、時が止まったかのように全てが御前席へ向く。


「じつは此度の試合には、妾が招いた闘技者がおる先程まで圧倒的な力で相手を始末し続けた小娘じゃ」


その言葉に若干の響めきが生まれ、観客達に淀みが出来る。


「奴に敗れた奴らは恥ずる事ではないぞ?なにせあの小娘は、1000年振りに我が花の国へ帰還した勇者の神託を持つものであるのだからな」


シイナはさらに続ける。


「その勇者が、お前らの実力では退屈じゃと言うてきた…嘆かわしいことだ」


シイナの言葉に観客たちも一喜一憂している。


「よって、これより今残っている花の国の闘士たちと勇者の総当たり戦を行う事とした、勇者を倒せたものを優勝とする」


シイナの提案に、観客たちの大地を揺るがす程の大歓声が会場全体に響き渡る。


「鍛冶屋衆、勇者様がお主らの武器では不満だと愚痴っておるぞ?より奮起せよ」


「そ、そんなこと言ってない…」


マールは否定的に食ってかかるがシイナに止められた。そしてシイナはマールに告げる。


「そら、お主が欲しかった火をつけてやったぞ?勇者よ。精々不甲斐ない姿を見せるでないぞ?それも持って行け、此度だけは使うことを許そう」


シイナは畳に突き立てられたままの大剣を指差した、マールはそんなシイナに笑いかけた


「いいの?僕これつかったら勝っちゃうよ?」


「我が花の国が誇る闘士たちを侮るでないわ…不敬である」


「まあ…いいならいいけどさ…」


マールは畳から大剣を軽々と抜くと、そのまま御前席からジャンプで闘技場へ飛んで行った。


マールが地面へ着地するなり地を揺るがす大歓声と、勇者コールが響き渡る。


「すげー!あの位置から飛んできたぞ!」


「あのちびが本当に勇者なのか!」


「なんだあのでけー大剣、マジで振れるのか?」


マールを見た観客たちの疑問が浮かぶ、そしてシイナの言葉通り、最初の1人が現れた。最初は2mはあろう巨漢、縦にも横にも広く、まるでダルマのようだった。


「ブヘヘ、ごんなヂビが勇者ァ!オデガだおじでやる!!」


ダルマ男は手にした巨大な鉄球を頭上で振り回し始める。マールは地面に大剣を突き立てると腕を組んでこいといいたげに身構える。


「るあああああ!!」


激怒したダルマ男は力強く鉄球をマールにぶん投げた、マールは鉄球を受け止めるなりダルマ男めがけて投げつけた。夢にも思わないだろう、投げた鉄球が直後自分の眼前にあるだなんて。


「ぶひ?」


ダルマ男の最後の言葉だった、投げ返された鉄球に上半身を吹き飛ばされ、そのまま倒れた。


「つぎ!!」


さっきまでならブーイングの大喝采だっただろうが、彼女が勇者だと知られた今ではそうはならない。地を揺るがす大歓声が響き、ビリビリと肌を揺らす心地よさに気をよくしたマールは元気いっぱいに声を張る。


次に出て来たのは一回戦の初戦で素晴らしい達人技を見せた赤笠の男。


「勇者…伝説の力…見せてもらう!」


男は身構え、同時に駆け出すと刀を抜いて迫る。マールは不敵に笑うとそばに突き立てた大剣を掴むと一息に引き抜く。


「キエエエエ!!」


裂帛の気合いと共に振り下ろされる俊速の一撃をマールは大剣を背に乗せるような体勢で受け止め、弾く。


「っ!…キエエ!!」


続く連撃を激しく打ち込む赤笠、マールはそのことごとくを無駄に動きながら背中で受け止めていく。


「マール!あれを使ってよ!」


カイトはそう叫ぶと、マールは御前席のカイトをチラリと見る、カイトは指で何かを回す動作をした。


「仕方ないな、特別だよ?」


マールは赤笠の一撃を受け止めると押し出すような蹴りをその腹に撃ち込んだ。


「ごは!!」


それだけで赤笠は吹き飛び地面に転がる、マールは遠くで倒れた赤笠を見ながら手元の大剣をまるでバトンのように高速で回転させ始める。立ち上がる砂埃の中で大剣は空気摩擦で真っ赤に赤熱化する。そしてマールは赤熱化した大剣を頭上に構え瞬間移動に近い速度で赤笠へ迫る、否、赤い赤熱化した大剣が光の線となって赤笠へ襲いかかる。


「ひ!…ひいいいい!!!?」


赤笠は余裕なく恐怖に引き攣った声で鳴きながら腰を抜かして刀を盾にする。マールは敢えて振り下ろさず、瞬間的に力を緩め、赤熱化した大剣で盾にした刀をちょんと触れると、激しい溶接の音と臭いが立ち込め、刀身がポトリと落ちる。


「ま…参った!」


赤笠は完全に戦意を失い、降参した。


「いよし!!つぎ!」


マールは赤熱化したままの大剣を軽く振るとマールの大剣はゆっくりと普段の鉄色に戻って行く。


「相変わらず派手な技ですね…」


カイトはマールがよく使うこの技が好きだった、マールの技に見惚れているカイトの顔をシイナは見つめている。


「妬けるのう、妾が入る隙間がないではないか…」


シイナは急に憤るとカイトの手を掴んで引く。


「しかし、次はどうかな!!?」


唐突に、観客の歓声が跳ね上がる。見れば赤笠の男と入れちがうようにして黒ずくめの青年が入ってきた、相変わらずの黒髪単発の童顔、いかにも転生者という風貌である。


「やつはタクミ、つい先日この国へ流れ着いた流れものだ、怪盗という珍しい神託をもっておる、それだけではない!奴は目に入る全てを盗むと言うのだ」


自慢げに転生者を語るシイナ、カイトは腕を組みながらいかに奴を駆除するかと悩む。


「俺は怪盗、相手が勇者であっても関係ない」


「……」


マールも目の前の人間が転生者であることは本能と今までの経験値から理解していた。ギフトを消すことができるゼノリコのいないこの場で奴をどう駆除するのかを考えていた。


「俺は目にできる全てを盗むことが出来る、では君の勇者を俺のものにするとしよう」


タクミはそうしてマールの頭上にある神託を盗もうとギフト怪盗を発動した。


「な…」


タクミは驚愕に目を見開いた、唐突にマールの右腕に巻かれた青い水晶の腕輪が眩く輝き出したからだ。


「ありゃ?」


マールは手にしていた大剣をぽいっと雑に砂場に捨てると腕輪が瞬く間に剣に姿の形に姿を変えていく。グンヒルド討伐以来久しぶりの勇者の剣の登場である。


「あ!あれがあやつの勇者の剣!!」


観客は騒然とする、マールの腕輪から現れた青白い光を放つエルフ鉄の剣こそ、花の国で伝承として語り継がれた勇者の証であるからだ。


「な、なにが勇者だ…盗めないなら俺が盗んできたチートスキルを使って!!」


タクミは気圧されていたが、腰に差した2本の刀を抜き炎を纏わせるとマールへ飛び掛かる。


「うん、先ずはその人から盗んだものを盗んだ人に返してあげよっか?」


マールは…飛びかかったタクミの背後におり、胴を不意に撫で斬りにした。


「があああ!?」


しかしタクミの身体は切断されず、手にした武器から炎はかき消され、タクミは地面に倒れるがすぐに起き上がり、マールと向き合った。


「い、今何した?」


「わ、わかんねえ…勇者様…す、すごすぎる…」


「で…でも…今奴は確かに斬られたべ」


観客の騒然とし、カイトも息を飲み込んだ。ギフトを持ったはずの転生者が…まるで子供扱いなのだ、勇者の剣を手にしたマールはいつものマールとはまるで別人のようだった。


「やっぱり君は女神様の使者なんだね」


マールは次々と剣からタクミに対する知識を齎されながら歩み寄る。そしてにこやかに告げた。


「奪う側が奪われる側に回った気分はどうかな?」


タクミは今までにない恐怖に顔を引き攣らせる、マールは一切油断しない、ジリジリと間合いを詰めてくる。


「く、クソ!なら!」


再びマールから何かを盗もうとギフトをつかう。


「君の心を奪う!」


しかし次の瞬間には掲げた右腕が天高く跳ね上げられた。


「がああああ!!」


ポトリと背後に腕が落ち、激痛に叫びながら悶える。その切り口から青い光が剣に吸われていく。


「エルフの鉄は、加護を吸って力を増すとされている…ああやって加護を吸われるのだな…誠、恐ろしい力よ」


吸われているのは女神の加護だけではない、タクミの貰った怪盗のギフトも一緒に吸い取られて消えてゆく事がわかる。


「ふ!ふざけるな!!俺から奪うな!!盗むのは!!悪いことだー?!!」


怪盗をなのっていたタクミはそう吠え、マールへと飛びかかりその腹を青い光となった勇者の剣が貫いた。


「僕はいらないから、返してあげる」


マールはそういいながら彼の腹部を貫いた剣に彼から奪い取った加護やギフトを込めて解き放つ。


「あああああ!!!!?」


タクミは天高く飛んでいき、青い加護の爆発に包み込まれて消し飛んだ。


「……ありゃ」


タクミが消し飛び、討つべき敵を討った勇者の剣は再び青い水晶の腕輪となってマールの腕に収まった。


「おつかれさまー」


マールは右腕の腕輪を撫でる、その背後から、最後の挑戦者がマールへ襲い掛かった。


「!」


完全に油断していたマールに襲いかかったのは鋭い一突き、マールは咄嗟に頬を掠らせて避けたが直ぐに身入り、マールの身体を押しのけるように間合いを詰めて入り込むと。誘導されたマールの足を鎌が狙う。


「うわ!」


マールは鎌はかろうじて避けたが、砂の不安定な足場で体勢を崩してしまい。同時に槍の持ち手を振るいマールの腹を強く打ち付け薙ぎ払う。


「かはっ!」


モロに喰らったマールは身軽に吹き飛ばされ、砂地を転がって仰向けに倒れる。マールを不意打ちしたのはあの僧侶である。 


「いよし!!ようやった!そのまま小娘にとどめをさしや!!」


嬉しそうに跳ねるシイナの言葉とは裏腹に、僧侶は短く細い槍を静かに構えマールを追撃しようとした、しかし、ピタリととまる。


「ゲホ!いったいな!…」


マールは打たれた腹をさすりながら立ち上がり、その手に大剣を持っていた。僧侶は驚愕する。


「拙僧は打ったのではなく、そなたに打たされたのか…」


マールは僧侶の奇襲に気づいてはいなかった、だが咄嗟に持ち手で腹をうち薙ぎ払わせるように誘導された。大剣がある場所に吹き飛ばしてもらえるように。


「っ…想像以上に痛くてびっくりしたけどね、あいたた」


マールは思ったよりダメージが入っている様子で腹をさすりながら大剣を構える。


「じゃ、やろっか!」


そんなマールに僧侶は槍をゆらりと構えながら前に出てくる、マールは構わず飛び込んだ。僧侶は無策にまっすぐ突っ込んで来た相手に深く構えをとり円錐の理の元受け流そうと。


「ほい!」


マールは強く踏み込んだ足を蹴り上げ砂を僧侶に浴びせようと蹴飛ばした。


「小癪っ…はっ!」


砂を避けた僧侶の視界に振るわれる大剣の一撃、僧侶は咄嗟に槍の持ち手で防ぐ、否、防ぐように誘導された。


「しまっ…」


マールは笑い、槍の持ち手で防いだ僧侶ごと大剣を思い切り振り抜いた。


「上手いっ」


カイトは思わず唸る、宝蔵院流槍術は受け、流す型。流し、からの身入と鎌の連携は図に描かれるほどであり円錐の理とは受け流せなければならない。マールは意図して僧侶に受け流せない環境を作り自らの大剣を受け止めさせたのだ。当然、あの速度で振るわれた大剣を受け止め来れる訳もない。


「ぐぅっ…」


自らの持ち手が大剣の重みに押されて額を叩きつけ、額が割れて鮮血が飛び散ると、そのまま大剣に吹き飛ばされる。


「はあ…はあ…」


額を割られ、強引に吹き飛ばされ頭が激しく揺らされた。満身創痍ではあるが僧侶は再び構えを作る。


「へえ…おっちゃん、凄いじゃん」


マールは余裕ながらも、僧侶からベルラート最強のA級冒険者である【最速のレイ】と同じレベルの気迫を感じ取る。


「カッ!!」


僧侶は気合い一喝で薄らぐ意識を取り戻すと、すぐさま間合いを詰めていく。


「それじゃ…僕も新技、みせちゃおっかな?」


マールは大剣を両手に持ち、頭上に振り上げ右脚をゆったりと前に出しつつ膝を軽くまげ身構える。


「まさか…!」


カイトは目を疑った、それはゴブリンロードが行っていた、示顕流の構えに酷似した我流の構えである。マールはレイとの修行の日々の中で、あのゴブリンロードが使った我流を元に独自のスタイルで組み込みものにしていた。2の太刀要らずの理念を、大剣を扱うマールが我流で行う。しかもレイの指導のもとでより実戦向きに無駄を削ぎ落とされた亜種示顕流…カイトは思わず口角が痛くなるほどの笑みを浮かべた。


「…面妖な」


僧侶も相当な実力者である、マールの構えを一目で警戒して見せぴたりと止まる。


風が起きた、強い風が吹き抜け砂塵が舞う一時の静寂が2人を包む、そして。マールが動き


「シィっ!!」


僧侶はその瞬間、前足を強く踏み込み距離を詰めた、否、詰めさせられた。マールは前脚を体重移動でわずかに逸らすだけ、僧侶はその動作を攻撃と捉えて前に出てしまったのだ。同時に降り注ぐマールの大剣が僧侶の槍を腕ごと地面に叩き落とした。それだけではない、柔らかい砂を思い切り切り裂いて抉りその剣圧だけで闘技場の地面が縦に割れ、僧侶の体が頭から裂けて二つに割れた。


「ばけもんか…」


シイナは手にしていたキセルをポロリと落としている。


「素晴らしい…」


カイトはマールがわずかの型だけの段階から独自に編み出した亜種示顕流に感激していた。あれは正確には示顕流ではない、しかし理念は同じもである。


「勇者流…とでも呼びましょうか?」


カイトは性的な興奮を覚えて恍惚としていた。


「まけたあああ!!」


シイナが叫びながら椅子に崩れ落ち、手を叩く。


「妾の負けだ、我が子らよ!勇者の圧倒的武に今一度万雷の喝采を!」


シイナの声に、民達が大歓声を上げ皆が勇者の力を讃えて声を張り上げた。出場していた闘士たちも出てきて、マールを讃える。マールはというと、素晴らしい槍術を見せた僧侶へと歩み寄る。僧侶は蘇生を受け身を起こす。


「おっちゃん、凄いね!」


マールは笑顔で僧侶の手を取り引き起こした。


「ご謙遜を、拙僧はまだ未熟」


僧侶は口惜しそうに告げるが、マールは問う


「僕マール、貴方の名前が聞きたいな?」


マールは貪欲にそう告げると僧侶は面食らったような顔をしてから諦めたかのように息を吐く。


「我が名はシュウと申します」


「シュウ!シュウね!カイトーー!!」


マールは大声で御前席のカイトを呼んだ、そしてシュウを指差しながら。


「この人!クランに入れてもいーい!!?」


カイトはその言葉を聞き、両手で丸を作って見せ、それを見たマールは素早くシュウに

手を差し出した。


「シュウ!僕と一緒に来ない?」


シュウは呆然と口を開くと、諦めたかのようにマールの手を取った。


「勇者様のご意志とあらば」


「僕はマールだよっ!勇者様禁止!」


「はい、マール殿」


こうしてシュウを仲間に加え、此度の御前試合はお開きとなった、シュウは寺で荷物をまとめてくると言った為一旦別れ、マールとカイトはヒガンジョウの宴会広間に招かれる事となった。花の国の食事は驚くほど質素で、米のような穀物と魚の塩焼き、それと煮物に汁物と言った実に日本らしい食事をご馳走になる。そんな食事の最中、慌ただしく誰かが広間へとやってきた。


「カイト殿!!」


唐突に詰め寄せたのはカシを含めた若い鎧武者達である。その集団の中には一回戦でシュウに敗れた若い武者もいた、見れば彼は実に年若い少年にみえる、花の国の民衆は皆背が小さい為そう見えるのかもしれない。


「なんぞお主ら妾の宴ぞ?不敬ではないかい?」


主役席で食事をしていたシイナが突然のカシの来訪に不機嫌に答える、しかしカシはそのシイナを無視してカイトの前へ行くと腰の刀を手にして畳におき両膝をついて頭を下げてきた。


「頼みがありまする」


「おい妾を無視するなー!」


同時にカシが連れてきた年若い武士達も同時に膝をつく、自分の身を守る刀をすぐ抜けない位置に置き、服従に近い姿勢だった。


「我が花の国が誇る武士衆で若手のものを集めました、彼等を貴方様に預けたい」


それにはシイナが驚きを見せる。


「ちょ!!カシ!!何を勝手いいおる!!」


「シイナ姫、少し黙って下さい」


カイトにやんわり注意され、シイナはシュンとなって耳を倒して黙る。カイトはカシに目を向けたまま問いかけた。


「何故でしょう?」


カイトの言葉にカシは顔を上げる、その顔は険しく思い詰めた様子を見せた。


「此度の御前試合で、我々武士衆の非力を自覚しました。このままではいざという時に花の国や姫様を守れない考えております…それで彼らを勇者様のくらんなるものに加入させ、鍛えて頂く事を考えました。全ては花の国の明日の為…もっともカイト殿次第ですが、どうか!お願いします!」


カシはそう言ってカイトに頭を下げた。すると若い武士達も同時に頭を下げた。カシだけに恥をかかせまいとする意気込みを感じる。


「カシ…お主そこまで…」


シイナは勝手に感激していた。カイトは隣で気にせず手でつかんだ焼き魚を齧っているマールに目を向ける。


「ん?」


わーお、野生児、教えてやったマナーどこいった??そんなカイトの考えなどどこ吹く風、咥えた魚を鳥のようにごくりと呑み込む。


「僕はいいよ?わぷ」


カイトはその残飯だらけの顔を手拭いで拭ってやりながら告げる。


「わかりました、お預かりしましょう」


カイトは快くカシの意見を承諾する。するとカシ達は明るく顔を上げ歯を見せる。


「あ、でも一つ条件が」


カイトはそう言って人差し指を立てる。


「マールの事は勇者ではなく、マールと名前で呼んであげてください、下手に畏まるのも禁止です。甘やかすと調子に乗るので、自分でできることは自分でやらせるように」


「ちょ!子供じゃないよ!!なんだその顔は!!」


マールはその場でカイトを張り倒して見事な関節技でカイトを泣かせる。


「お前達!分かったな?」


カシの一声に、武士達は声を揃えて頭を下げた。


「分かりました!」


カシ達はそれだけ言うと、嵐のように去っていった。その後に不思議な服を身につけた集団がやってくる。


「鍛冶屋衆ではないか?珍しいなあ、お前達がここに来るとは」


シイナの言葉に鍛冶屋衆の男たちは小さく頭を下げる。


「シイナ姫様、お願いがあります。我が鍛冶屋衆の子を3人程集めました、中には我が子もおります。彼等を勇者様の元で鍛治を学ばせたく御座います」


「ええええ!!」


マールが跳ねた、そしてカイトもべそかきながら身を起こす。


「な、なに喜んでるの?」


カイトが問いかけると、マールは満面のえみで答えた。


「爺様、弟子を欲しがってたの!きっと喜ぶよ!」


「はあ…」


シイナは大きくため息を吐き出した。


「これ、妾もべるらあとに会談へ向かわねばならぬかなあ…」


驚きの言葉が飛び出した、そしてシイナは告げる。


「カシを呼べ、それとカイト、どうせ鳩がおるのだろう?お前のところの王に会いに行くと伝えよ」


そして、この会談が後の歴史に残るとんでもない会談となるのであるのだった。

次回は花の国ラストの息抜き回です!



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