1の2 王都ベルラート
お待たせいたしました。
この世界に触れる2話目です。
朝
カイトは目を覚ますと手の中にいつのまにか握っていた5枚の金貨を確認すると、それを枕元のお釣りの硬貨でパンパンな袋へ放り込んだ。
丁度そのタイミングでこの宿の女宿主が尋ねてきて朝食を告げられる。カイトはそのまま女宿主について行き彼女の子供達と食卓を囲った。昨日、王都ベルラートの店で昼食を何気なく済ませていたが、良く思えば現代の飲食店にも劣らない程に豪華だった。そして今、カイトに出された朝食も宿屋の感じからしたら思った以上に豪華である。客だからなのか?と子供達や女宿主のも確認すると、出された食事は同じものである。
「お気に召しませんか?」
カイトの反応に女宿主は申し訳なさそうにつぶやいた。
「いえ、私だけがこんなに良いものを貰ってしまっていたら申し訳ないな…なんて思いまして」
そんなカイトの言葉に、女宿主は苦笑いを浮かべた。
「お客様、どんな辺境地から来たんだい?相当貧しい土地からいらしたのねえ…お金持ちなのに」
哀れみに近い視線、沢山食べなと大きな腸詰が更に追加される。逆に気を使わせてしまったようだ、改めてカイトは自らの席に配給された朝食に目を向ける。白い陶器の皿にしっかりと焼かれた手作りのパンに、干した塩肉が季節の野菜と共に挟まれており、ボイルされた大きな腸詰も添えられている(今2本に増えたが)、この世界にガスや電気は無い。しかしその代わりに魔法というものを応用しているようで、カイトの生きていた生前の現代に近い食文化がある。この宿は高級な宿というわけではないだろう、寧ろ金のない人間に紹介されるだろう手頃で格安な宿だと感じる。そんな宿でこのレベルの食事が朝から提供されると考えると、この異世界、というよりもこの国ベルラートが食糧事情が潤沢であるのは間違いなさそうだ。朝食を残さず平らげたカイトは女宿主にお礼をいい、片付けと食器洗いを手伝った。
その際に宿主の好意で衣服の洗濯をしてくれると言われ、好意に甘える事にした。部屋に戻り昨日の服を女宿主へ預けると、先ずは綺麗な布と水で身体を拭いてからまだ慣れない鎖帷子を時間をかけて装備し、ベルラートの街へ出た。
今日は昨日見れなかった残りを見るべく、ベルラートの街とかかれた4枚もある地図の1枚をみながら徒歩でくまなく巡った、そしてその日の最終目的地だった中央の大図書館へと辿り着く。
「大きいな…」
大図書館と言われるだけある建物はとても大きく、建物のヒビや破損箇所が、その建築物の古さを際立てている。生前の引き篭もりだったカイトにとって自分の生を実感できる唯一の楽しみは、歴史を知り、学ぶ事。しかし、彼はオタクらしく普通の歴史ではなく、戦史を特に気に入っていて、朝から晩まで食い入るようにその世界に浸り続けたものだ。
故に今、彼は非常に興奮していた。生前のあの心地よい知識の沼にまた沈める、そう思うだけで口角が上がり頬が痛くなる。カイトはいても立ってもいられず意気揚々と図書館の中へと足を進めた。中には学者チックな人間、所謂同類な人間が多くおり、生前の自分のように知識の沼に沈んでいる。彼らに清潔感はなく悪臭が鼻をつく、しかし引き篭もりだったカイトにはその悪臭すら懐かしく感じてしまう程だった。生前の自分を思い出しつつも、ひとまずは図書館の受付へと向かう。受付には男性がおり、今にも寝そうに船を漕いでいた。
「はっ!」
受付の男はカイトの接近に伴い即座に目を覚ましてピンと背筋を伸ばした。
「この大陸の歴史をしりたいのだけれど、何処を探したらいいですかね?」
カイトは敢えて何も言わずに問いかけると、受付の男は立ち上がる。
「ご案内します、どうぞこちらへ」
暇つぶしとでも思ったのか、率先して案内してくれた。こちらの世界の図書館も、システムは現代の図書館と変わらず閉館まで無料で好きな本を好きなだけ読むことが可能なようだ。館内には驚くことに現代社会でも充分通用しそうな水洗のトイレもあり、異世界である事を忘れてしまうほど現代に近かった。カイトは自分の頭ほどの大きさのこの世界の歴史が書かれた本を引き抜き、席に付くと本を開き年表順に意識を向けた。
この世界には様々な人類種が存在しており、つい最近までその種族の間で戦争をやっていたらしく、種族事に各地域を領土を主張して分割されていた、しかし現在は突如、大挙して押し寄せた亜人と呼ばれる種族の大群によって横槍を入れられた事により、種族間での戦争は休戦状態にあるという。亜人にも様々な種類が確認されており、共通しているのは亜人達は現在の人種を滅ぼす為に行動しており人類種に対して情けや容赦は存在しないのだ、とある。亜人は非常に強く、各種の領内に力でもって押入り、大小様々な拠点を築くと、各種族の貿易や行商を脅かすようにもなっているのだという。そして驚く事に、それだけ戦争をしているにも関わらず、この異世界には常備軍というものは存在せず、代わりに冒険者と呼ばれる集団がいるのだと書かれていた。
「冒険者…私の世界でいうところの傭兵のようなものかな…」
この王都ベルラートはヒューム(現代でいう人間種)の領内である。
「なんか、春秋戦国時代みたいだな…」
紀元前の中国でも、国毎に分かれて何年もの間戦争を続けていたという歴史が存在した。まだまだ半分も進まないデカい本のページを次々と読み進める。カイトはこの世界の戦史を読み進めるにつれ、徐々に性的興奮を感じて高揚していった。現代では一生見ることはできないとさえ考えていたちゃんとした古代の戦争がこの異世界にはある。それを実際に見て、体験できる事に歓喜したからである。最も、相手は人間ではなく、亜人と呼ばれる得体のしれない存在になるのだが、そんなものはカイトには関係ない。
他にも歴史も調べるにつれ、この王都ベルラートの国王であるベルラート2世が、相当な名君である事を知る事となる。彼の推し進めた農業改革や水道の整備により、今のベルラートは豊かで新鮮な食糧や清潔な水が豊富にある国となったのだという。
ベルラートの広大な土地から産み出される豊富な穀物などの食糧は、人間領の6割を支えており。同時に領の境に敷かれた最前線の冒険者たちへの食糧輸送など、士気に直結する部分を担っており、人間領の中でも重要な拠点の一つにもなっているとのこと。そこでカイトは朝食に並んだ食事を思い出し、納得していた。
カイトは、ますますこの異世界における傭兵、冒険者とその冒険者をまとめるギルドという存在に興味が湧いてきた。
「なるほどね…」
ある程度知識をしいれたカイトは大きな本を元の場所へと戻して図書館を出る。
外は既に暗く、まっすぐ帰るつもりであったが、不完全燃焼だった。カイトは我慢できず図書館の側にあった書店に足を運び、ベルラート周辺の地図や亜人図鑑など様々な書籍を購入し、沢山の書籍を抱えてにこやかに宿へと戻ったのだった。
カイトは宿でも本の虫…になる事はなく、日課の身体を拭きながら翌日の行動計画を妄想していた。カイトには一つ気がかりな事があった。この国には風呂がない。にも関わらず街を行き交う人々は一部を除いて非常に清潔なのである、中世のような街並みにも関わらず不衛生ではない。糞尿が道にばら撒かれたり、餓死した浮浪者の遺体がそのまま放置されていたりもしない。もしかしたら身体を洗う場所があるのかもしれない、そう考えたカイトは、身体を拭い終えると下の階の受付で店仕舞いをしていた女宿主に尋ねた。
「身体の洗い場?ああ、あるよ?あんたしらないのかい?」
この宿屋にも浴場はあった、最初の中世の様な印象に引っ張られ過ぎたようだ。何事も決めつけはよくない。カイトはすぐさま浴場へ向かい、暫くぶりの湯浴みを楽しんだ。
「とりあえず、明日は冒険者ギルドに行ってみようかな」
湯船に漬かりながらカイトはそうと決め、その日は直ぐに眠りについた。まあ、もっとも遠足前の子供のように、興奮で眠れなかったわけだが。
カンカンカン!!
翌日、鳴り響く激しい鐘の音が王都中に響き渡り、気付けば気絶していたカイトの脳が覚醒する。何事?カイトは体を起こして寝巻きを着替え、手に握られた金貨を袋に放り込みつつ窓の外を見た。そこへ女宿主が大きな音を立てて飛び込んでくる。
「南門で亜人の襲撃だって!あんたも避難しな!!」
鬼気迫る女宿主の叫び、カイトは現状を察するなり手早く装具を身に付ける。三日目ともなれば慣れたもので、装着にさほど時間はかからなかった。
「店主さん達は避難してください」
「は?何!ちょっと!!」
動揺して叫ぶ女宿主の横を抜け、昨日図書館の側にある書店で購入した亜人図鑑を手に宿屋を飛び出しすと、南門へと駆け出した。
カイトが南門へ辿り着くと、既に事態が悪化しており襲撃した亜人の集団が南門の大きな扉を破壊し、街に入る直前の位置で冒険者と呼ばれる者達と相対している。襲撃してきた亜人は緑の皮膚に3メートルは有ろう巨躯、大木のような腕に鋼のような屈強な肉体を持ち、岩を削って作っただろう雑な棍棒を握っている。
「あれは…」
カイトは手にしていた亜人図鑑を開く。あの亜人はオーク、魔法を通さない特殊な皮膚を持ち、岩をも砕く怪力を持った亜人とある。
南門には気休め程度の木のバリケードが市内に入る通路に敷かれ、民間人や後衛の術師達が次々に魔法を放っていた。しかし図鑑の通りオークの肌に触れた魔法は何事もなく掻き消されている。オークは全部で9体、横隊に広がり、その巨軀と怪力を生かした攻撃で次々飛びかかる冒険者たちを叩き殺している。
「怯むな!!」
馬(似た生物)に跨った指揮官らしき貴族の男が声高らかに叫んで檄を飛ばしている。だが所詮は傭兵のような雑多な冒険者達、群での訓練をしてすらいない烏合の衆で長く保つわけもなく、既に士気は無く、人数で手堅く固めたはずの前線は崩壊しかけていた。
「やはり低ランク冒険者達だけでは厳しいか…くっ、最前線に高ランクの冒険者たちを教官も含め送ってしまったこのタイミングで…」
貴族の指揮官はあまりの冒険者達の無様に冷や汗を垂らす。
「せ、せめてゴブリンやコボルトにしてくれよ!オークだなんて聞いてない!」
最前線で固まる冒険者の誰かが弱音を叫んだ。いつ崩壊してもおかしくない現状、そうなればこのオーク達が街の中へ流れ込み、甚大な被害を与えかねない。潮目を変えねばならない、カイトがそんな事を考えていると、人混みを掻き分け、1人の冒険者がオーク達の前へ躍り出た。緑色の特徴的な長髪に見目麗しい年若い女性だった、彼女は細く長い長剣を鞘から抜き放つ。
「あれは!最近名を上げているスーパールーキー、疾風のガルーダ!!」
如何にもRPGのメインキャラのような目立つ姿のガルーダは目前のオークへ駆け出した、オークは動物的な反射速度で岩の棍棒を振り下ろす。
激しく地面が爆ぜるほどの破壊力、だがガルーダは風のようにオークの横をすり抜けつつガラ空きの脇腹を一太刀、鋭い風の刃と共に長剣が走り抜けてオークの脇がパックリと裂け、紫色の血が吹き飛ぶ。
オークは痛みで悲鳴を上げながら倒れ込み、そんなオークの首を、ガルーダは容赦なく振り下ろした刃で斬り落とした。
「すげえ!たった1人で1体やっちまったぜ!」
ガルーダの活躍に崩壊しかけていた前線の士気が盛り返され、他の冒険者達も負けじと攻勢に転じ、オークの群れを押し返し始めた。
「はあああっ!」
潮目を変えたガルーダは、勇猛果敢にオークの群れに飛び込んで行き、2体、3体、4体と次々にオークを斬り倒してゆく。9体いたオークは瞬く間に5体に減り、そうしている間にもさらに1体のオークがガルーダの刃によって屍に加わる。あと4体。
「すげえ…さすがガルーダだぜ!期待のスーパールーキー」
次々と仲間を斬り倒されたことで、オーク達の方も士気が落ちたのか、冒険者たちの猛攻に押されてゆっくり退がりながらまとまっていく。
「ん…あれ?」
遠目にみていたカイトは、一見すると押されて退いたようにも見えるオーク達の動きに一抹の不安を覚えた。
「良いぞ!オークどもは怖気付いておる!一気に畳みかけろ!」
しかしそんな不安をよそに、指揮官の貴族が叫ぶと最前線の冒険者達が一斉に襲いかかった。
オーク達はある程度冒険者達を引き寄せるなり急に攻撃を再開、唐突。大ぶりに岩の棍棒を振い、前列を駆けてきていた沢山の冒険者達を纏めて薙ぎ払い、殴り飛ばした。その怪力で薙ぎ払われたたくさんの冒険者達はすぐ側の関所の岩壁に叩きつけられ、夥しい血液が飛び散る。その突然の攻勢に畳み掛けようと続いていた2列目の冒険者達が怯んで足を止めると、横に薙ぎ払ったオークの背後から飛び出してきた2体が同時に前に出てきて2列目の冒険者たちの頭に振り下ろし叩き潰す。
「それ以上やらせん!」
真っ直ぐに飛び込んで行く疾風のガルーダは2体の首を跳ね上げようと飛び込む。しかしそこに4体目のオークが割って入り、前に構えた岩の棍棒でガルーダの攻撃を受け止めた。
「なっ!ん…」
ガルーダは動揺に目を見開き、次の瞬間、自らの脇腹を最初に横薙ぎ払いの一撃で一列目を殲滅したオークの棍棒が捉え薙ぎ払う。
「ガアッ!!」
鎧ごと骨が砕け、内臓に砕けた骨が突き刺さり血反吐を吐きながら転がるガルーダ、既に瀕死、何もしなくてもいずれ死ぬだろう。しかしオーク達は情け容赦なく地に伏したガルーダの身体に岩の棍棒を思い切り振り下ろした。
人間の肉の潰れる音はこんな感じなのか、オーク達は何度も執拗に叩きつけ、石畳の地面が掘削される程の威力だった。見目麗しいガルーダは石畳の床の上でひき肉のように潰れ、唯一残った手足がピクピクと筋肉の痙攣を繰り返す。
「間違いない…あれは伍?…」
伍とは、紀元前の古代中国の戦場で使われていたとされる戦術である。古代の兵士達は5人で一組となり互いの背後を守り合わせていたとされている。厳密には違う、オーク達は本能的にそれに近いことをしているにすぎないだろう。しかし、カイトは冷静にオーク達の息のあった連携攻撃を見極めると、手にした図鑑を畳む。情報がまるで違う。
「オークは単細胞なんかじゃない…」
カイトはオーク達の見事な連携にそう判断した。
「が…ガルーダが…」
一方の冒険者側は5匹ものオークを瞬く間に仕留めてみせたスーパールーキーの無惨な姿に前線にいた冒険者達の士気が一気に崩壊する。蜘蛛の子散らすがごとく遁走を始める冒険者達もちらほら出始めた。非常によくない状況は見てとれている。このままでは良くない。いてもたってもいられず、カイトは雑なバリケードをよじ登って乗り越え指揮をしていた貴族の馬に飛びつきよじ登る。
「な、なんだお前!無礼だぞ!!」
暴れる馬を諌めつつ、唐突に飛び乗ってきた少年を怒鳴りつける。カイトは図々しくも貴族の前に跨るとオークの図鑑を小脇に、側に見覚えのある門番を見つけた。
「門番さん!!槍下さい!!」
それはカイトがきた時に親切にしてくれた門番、門番はカイトに気がつくと、即座にやって来て槍を差し出してくる。貴族は無視されて腹を立てカイトの頭を鷲掴みにする。
「おい貴様!」
「これ持って!!」
怒鳴りつけてくる貴族にカイトは門番から受け取ったらそのまま槍を渡す、貴族はカイトの勢いに負け思わず槍を手に取った。
「む…ん?」
「走らせて!あの隙間を抜けるように!」
カイトは4体のオークが犇く集団にわずかにあいた間隙を指差した。
「ちょ!貴様!何をっ…」
「早く!!早くっ!!」
「ぬええい!!くそ!!わかった!!」
カイトの迫真の勢いに負け、貴族は馬の腹を蹴飛ばし、驚いてかけだした馬がカイトの指差した間隙めがけてかけだした。
「槍を膝に!」
カイトは一番近いオークに指先を向ける、貴族はそれだけで何をするのかわからないながらも判断し、見事な槍投げを披露する。馬上から放たれた投げ槍は見事に油断していた一体のオークの右膝に突き刺さり、攻撃体勢だったオークは自らの体重を支えきれずに崩れた、その隙に負傷したオークの横を馬が駆け抜けてゆく、痛みに叫ぶオークの悲鳴がこだますると周囲のオーク達が気づき、すぐ様フォローに入ってくる。しかし既にカイトと貴族を乗せた馬の背中は遠い、泣き喚く仲間の負傷を見せられ、3匹が怒りに燃えて雄叫びをあげながら、門の外へ向かっていく馬を追いかけてきた。
「おい!おい!!怒ってるぞ!!やばいぞ!」
凄まじい殺気を向けられた貴族は怖気付き、前に跨るカイトをべしべし叩く。カイトは振り返りながら追いかけてくるオークを目視する。先程のガルーダに対する執拗な攻撃は、仲間をやられた怒りによるもので間違いない。仕留められた亡骸であれなのだ、致命的な一撃を受け、泣き喚く仲間を見せられたならその怒りはさらに上をゆくだろう。カイトの思考の通り、怒心頭なオーク達はカイトと貴族を仕留めるべく、なりふり構わず追いかけてきている。
「好機だ…」
冒険者達はカイトの意図を理解したわけではない、いかに底辺といわれようとも。唐突になりふり構わず背を見せたオーク達、怒り狂い追いかけたとして、オークたちの足は速くないのだから、自分達は追いかけ、無防備なその背を討てば良いのだ。
「行くぞ!!」
槍持ちの冒険者達は、すぐ様追いかけ、怒りで伍の崩して追いかけようとしたオークの無防備な背に槍を投げつけた。降り注ぐ冒険者たちにより放たれた大量の槍は放物線を描き雨のように3体の身体中に降り注ぐ。唐突な槍の雨に打たれ2体はハリネズミのようになって倒れ、先頭の1体はかろうじて即死を逃れるも、体を槍に貫かれてボロボロになりながら、尚貴族とカイトを追いかけてくる。だがカイトは見逃さない、カイトは貴族の袖を掴み叫んだ。
「ちゃんすです!!」
「わかった!わかった!!つかまってろよ!!」
貴族は腰に下げたサーベルを天高く引き抜きながら、手綱を強く引いて馬を巧みに反転させ、その尻を鞭で強く打つ。
「あまり人間を舐めるなよ亜人が!!!」
驚いた馬が馬脚を強め、貴族は声を張りながら突撃、先頭でボロボロになりながらも追いかけてくるオークの巨軀が迫ってくる。
「るええええい!!!!」
馬上からの貴族のサーベルの一閃、既にズタボロで腕を振り上げることもできず地に膝をついたオークの首から上を、天高く跳ね上げた。
程なくしてオークの集団は討滅され、城門を潜ったカイトと貴族を冒険者達の歓声が迎える。
「お見事です!ガリレオ様!」
貴族はガリレオというらしい、貴族のお付きの兵士達が労いに来た。ガリレオは特に気にせずオークの血に濡れるサーベルを払い、鞘に戻した。
「何人犠牲になった?」
「は、二十名程かと…」
20人?少ない気がしたカイトはガリレオに振り返る。
「なんだ?小僧」
「いえ、100人近くやられていたはずですが…」
カイトの疑問にガリレオは首をかしげ、すぐに納得した。
「ああ、冒険者どもか。奴らは我らと違い、死んでも生き返る、故にあいつらは犠牲に含めんよ、無駄だからな」
ガリレオは呆れながらそう言って指をさすと、その先ではさっき挽肉にされたはずのガルーダが人の形に戻って担架で運ばれていた。
「まあ、ノーリスクで生き返る訳じゃないようだがな色々な制約はあるらしい。詳しくは知らん」
話を聞けば、冒険者は蘇生の際に大量の食糧を使うため莫大な予算が掛かる。中にはそういったリスクを負わずに復活できる冒険者もいるようだが、ガリレオは特に興味もなさそうに面倒だとぼやいた。
「ありがとう御座いました」
それだけ聞くと、カイトは馬から降りようとする。ガリレオは降りやすいように足を止めてくれた。
「小僧、名は?」
ガリレオは去っていこうとするカイトの背中に声をかけた。
「カイトです!」
カイトは素直に名乗り、去っていく。ガリレオはその背中を姿が見えなくなるまで見送った。
「カイト…か、ふむ」
ガリレオは再び馬を歩かせ、帰路を目指した。その日、カイトは宿に帰るなり女宿主に小一時間くらいコッテリ叱られてしまった。しかしながら、この世界に於ける冒険者と呼ばれる存在への興味はより深まった。まるでゲームのように死んでも蘇る、そんなご都合的な存在のいるのだから。カイトは床につきながらこの世界の謎に思いを馳せた。
お読みいただきありがとうございます。
まだ未熟故に、書き方や表現の不備がありましたら気軽に教えて頂けると助かります。