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2の7 転生者裁判(前)

はい、早く仕上がりました。今回は前編です。

翌日、カイトは自らに提供された個室で目を覚ます。手の中にはいつものように5枚の金貨があり、カイトはそれを革袋に入れようと身を起こそうとした。


「…ん?」


身体が起こせない、何かが自分に絡みついている。恐る恐る見ると、黒いフードをみにつけた小柄の少女が絡みついている下は支給された寝巻きである。


「マール…」


そこで昨晩の出来事を思い出した、マールが部屋に来て殺されかけたかと思えば、今はこうして一緒に寝ている。念のため、眉間に力を入れてみる。マールの神託は相変わらず勇者の二文字を見せてはいない。


「……マール、起きて」


カイトはマールの肩に触れて優しく揺らす。


「んん…もう朝?…」


マールはゆっくり瞼を開き、腕で擦る。マールは朝に非常に弱く完全に覚醒するまではとても物静かだ。


「カイト…どおしているの?」


「昨日、君が自分で来たんだよ…」


「へー…そっかー…」


再び微睡むマール、おそらく何も考えずに話しているのだろう。こういう時のマールは何でも正直に答える、ちょうどいい機会なので聞いておこう。


「ねえマール、聞いてもいい?」


「……なあに?」


カイトの声が煩わしそうな声音だ、手に少し力が入るが握りつぶす程ではない。


「もしも君に、本当は神託があるって言ったら…どうする?」


「……へー…どんなのー?」


マールは依然、微睡んだままである、カイトの体に巻きついたままジッと瞼の開かない顔でこちらを見ている。


「マール、君は勇者の神託を貰っているんだ」


「よくわかんない…なにその…しんたくー…」


マールにはわからない存在なのだろう、マールはギュウッとカイトの体を締めつけた。


「ゆうしゃ…ふーん…つよいのかなー…」


「わかりません、私の世界では勇敢な戦士や偉業…凄い事を成し遂げた人間を勇者と呼びます」


マールは聴きながら、眠りに落ちたのか…急激に腰に回された腕が絞まり始める。カイトは失念していた、マールはこういう時、無意識に機械的な凄まじい力で自分を絞める悪癖があるのだ。


「え!?ちょ…マール?寝ないで!そろそろ起きないと…ちょ…うぎぎ!力強っ!マール待って、起きて!ギブ!ギブギブ!!!」


カイトは再び、熟睡マールの恐ろしさを知ることとなった。そこから15分、怒り心頭のゼノリコが飛び込んで来るまで、カイトはマールに絞めら続けた。


「まったくおどれらは…国の代表として来とる自覚あるんか??」


床に正座させられ、ゼノリコに一緒になって怒られるカイトとマール。


「ふーん!王様だって!真夜中にゼオラとなんかしてた癖に!!」


マールはツンと唇を尖らせて反省の色を見せない。


「聞いてよカイト!!隣ゼオラの個室だったんだけど!王様が来てからずっとギシギシうるさくてさ!寝れなくてイライラしたから…その、カイトを殺しに来たんだけど」


なるほど、それで昨晩の襲撃に繋がったわけか。カイトはゼノリコを見ると、ゼノリコは真っ赤になって押し黙っている。


「個室に貼られた音遮断でもギシギシ煩いとか…何してたんだろ…」


「ははは、野盗にでも入られたんじゃないかな?」


ゼノリコの営みの結果、殺されかけたカイトではあるが、結果としてマールと仲直り出来たので取り敢えずは助け舟を出した。マールはそうなのっ?と純粋な反応を見せていた。


「お、おほん!!カイトの言った通り、ゼオラの部屋に野盗がいたのじゃ、久しぶりにわしも奮起してのう?」


「ふうん?もやしの王様が?…珍しいじゃん」


「いいから!お主はさっさと着替えてこい!」


「はーい!」


マールはベッドから飛び起きると、床に転がった大剣を拾うと、走って行った。


「リコ様、貸し1で」


「ぬぐっ!貴様がわしに貸しを作れる立場かえ!?…まあ良い」


ゼノリコはゆっくりと開け放たれた扉を閉めると、真面目なトーンで語り出す。


「カイト、頼み事があるんじゃ」


カイトはゼノリコの頼み事を受け、バゼラードの冒険者ギルドにいた、いつもなら誰かしらのそばにいるのだが、今、カイトは1人でギルド内の椅子に座っている。否、厳密には1人ではない、カイトは息抜きに周囲を見ると、数人の顔を隠すフードに身を包んだもの達がこちらを見ている。1人は小柄な体には似合わない大剣を背中に襷掛けしている、マールともう1人はじっとしているが、あの澱みなく愚直な姿勢は間違いなくクウだろう。そしてもう1人、一際気怠そうにあぐらをかいている者がいた、行き交うギルドの連中は夢にも思わないだろうベルラートの国王が、こんな場所にいるなんて事は。


ゼノリコの頼みはこうだ。


「国民全てに宰相の訃報と、空いた宰相の席を国民から選ぶという情報が全体に行き渡るには時間がかかる。そして、カイトの言った王城の工事や、大量のゴブリンの死骸が必要になる。これは冒険者ギルドをつかう、ゴブリンの報酬金を釣り上げたので素材は自ずと集まるじゃろう」


「ふむ…」


「で、じゃ…ワシらはしばらくは準備のために動くことは出来ぬ、そしてこの間にも先にアジル達の話していた冒険者を狙う転生者は力を蓄える可能性もある…故に」


「リコ様はそいつは会場に現れないと考えています?」


ゼノリコは頷く。


「むしろバゼラードの国民ですらないとワシはみておる、そして、他にも懸念点もある。故に誘き出して今のうちに始末しておく必要がある…と、ワシは考えたそこで貴様じゃ」


ゼノリコは卑しく笑うと指を刺してきた。


「は、わたし?」


カイトはキョトンとすると、ゼノリコはベッドに座る。


「昨晩、酒ついでにアジムから今までの犠牲者の話を聞いてきた」


懐から書類や写真を取り出し、カイトに渡してきた。


「あれから犠牲者はさらに増え、すでに20人近く増えておる」


カイトは書類の一枚一枚に目を通す。


「共通点があるのがわからぬか?」


カイトはわからなかった、素直に首を横に振る。ゼノリコはため息を吐き出した。


「犠牲となった冒険者は、最底辺のZランク、しかもその中でもとびきり弱い雑魚連中だったという事じゃ」


カイトは再び確認する、確かに、経歴的には全員Zランクの冒険者である。


「それで、なぜわたし?」


カイトが聞き返すと、ゼノリコは卑しい笑みを浮かべる。


「犯人の転生者はワシと同じように、他者のステータスを見れるんじゃろう、そして、ステータスが格段に低い雑魚を狙って力を分け与えているとワシはみておる」


「あ、なるほど囮ですか…ですが、私では彼のメガネに止まらないのでは?」


カイトは今までの戦いで、それなりの加護を得ている。ゲイツやゲイルほどでは無いが…


「お前、自分の神託の内容くらいしっかり見ておけよ…」


ゼノリコはやれやれとステータスを開き、カイトのステータスを見せてきた。


「え…あれ?」


カイトのステータスは、加護の数字的にはありえない程に一桁が並んでいた、そして神託の枠にある指揮者に触れる。


【指揮者】 この神託ジョブは、加護レベルの上昇に伴う身体能力の向上はない、そしていかなる身体能力恒常の効果も受けることはできない。


「説明の通りじゃ、お前はどれだけレベルが上がっても身体能力が恒常することはないし、ギフトによるバフ効果も受け付けない…つまり、お前は今回の囮にピッタリだという事じゃ」


「そ、そんな!じゃあ今までの身体が軽くなったり、ちょっと重いものが持ち上がるようになったのは?」


カイトの言葉にゼノリコは興味なさそうに告げた。


「そりゃこの世界は現代と比べて不便じゃし、毎日のように冒険者どもと走り回っておったら体もそれに慣れるじゃろうし、鍛えられるじゃろ?それとちゃんと成長しとるって事じゃろて」


つまり、知らず知らずのうちに鍛えられていただけだったという現実にカイトは絶望した。


「じゃ、じゃあ私の目が良くなったのは?」


「それはこの神託の効果みたいじゃな」


「な…なるほど」


カイトが絶望していると、そこへマールが上機嫌で帰ってきた、その傍らにはクウがいる。


「それ誰のステータス?」


マールは素早く割り込み、カイトのステータスと書かれた内容に目を向けた。


「カイトの指揮者ってこういう能力なんだねー…」


マールはステータスをとりあげ、ふと何を思ったのか指でスクロールしてしまう。そのマールの視界に、ある項目が入って来て、ゼノリコは手早くマールの手にあるステータスを消す。


「あ!王様消さないでよー!!」


「他人のステータスなんぞ、ガキには早いでの!」


「む!僕もう13だよ!?」


ぷりぷりと怒りを示したが、ゼノリコは笑っていなした。


「まあよい、どうせマールにも協力してもらおうと思っておったところじゃし朝飯がてらに話そうかの!」


そう言ってゼノリコは部屋を出ていき、カイトも後を追いかける、マールは部屋にポツンと残った。

ゼノリコは素早く消したつもりだったが、マールの反射神経からすれば遅すぎるのだ。故に、しっかりと見てしまっていた、カイトのもつ神託の最後の項目を。


この神託ジョブを受けたものが死亡した場合、蘇生を受ける事は出来ない。


「マール、朝食」


扉の外でいつまで立っても出てこないマールを心配してクウが戻って来た。


「あ!うん、すぐ行くー!」


マールは一先ず気にしない事にしてクウの後を追いかけた。


そして、今に至る。


カイトは特にやる事もない、バゼラードのギルドはベルラートのような酒場ではなく役場のような出立をしている。その傍には冒険者達がくつろぐスペースが広くもうけられており、様々な冒険者が寛いでいる。

カイト達はその中にいた。


「退屈だな…」


カイトは愛用の図鑑を取り出しテーブルに広げる、ホモセクトを解剖しておきたかった、と、カイトは今頃後悔しながらホモセクトのページに所感を記載する。


「珍しい人がいるねえ」


不意に誰かが、カイトに声をかけてきた。顔を上げると、不気味な雰囲気をした少年がカイトを見つめて立っていた。


「あなたは?」


カイトは思わず問いかける、歳は10代後半、身長はそこそこ高く童顔、目元はフードで隠しており確定は出来ない。


「俺はアザゼル、君の救世主さ」


アザゼルと名乗った男はフードを外し、にこやかに前の席へ座る、そこでカイトは違和感に気づいた。

周囲の時が止まっていたのだ。


「驚いたかい?今、この世界で会話が出来るのは君と僕しかいない、誰かに聞かれる心配も、見られることもない」


「はあ…」


なるほど、こうやって対象に近づいていたから誰も彼を認識できなかったのか。カイトはそんな事を考えていると、青年は笑いかける。


「その加護の数字に見合わないステータス、君、弱いんだろ?きっとパーティから追放され、今、1人で図鑑を見ながら途方にくれていた…そんなところじゃないかな?」


煽るような口調で、それっぽい事を言いながら冒険者の気にしそうな事を言ってくる。


「俺は、そんな君を助けてあげることが出来るんだ」


自分の力によっているアザゼルに、カイトはとりあえず、彼の話に乗ることにした。


「どうやって?僕を助けてくれるんです?」


いつものような口調では怪しまれるかもしれない、故に今は外見相応の口調で演じることにした。


「もちろん、俺の力さ、俺は自分の力を他者に貸し与える事が出来るのさ!」


女神から貰った借り物の力を、自分の力と豪語したアザゼルは優越感に似た顔をカイトにむけながら手を差し出した。


「この手をとりなさい、そうしたら、君に俺の力が流れ込み、君の貧弱なステータスが爆発的に上昇するだろう」


カイトは訝しむ。


「貸し与えるって事は、返す必要があるのでは?」


カイトの言葉にアザゼルは笑う。


「そこに気づくとは、君は今までの冒険者に比べて賢いね?そう、俺の能力で貸し与えた間に受けた経験値は利息として徴収させてもらうのさ」


つまり、自分は一切動かずに、冒険者が稼いできたら経験値を一方的に奪うという事だろう。


「もちろん、俺の能力には利息がある。利息はトイチだよ…て言っても君達はわからないか…」


トイチ(といち)とは、借入金利が「10日で1割の金利」を意味する言葉で、年率365%の金利を指します。利息制限法の年利20%、出資法の年利29.2%を超えているため、法律違反の金利…と、現代では犯罪行為にあたるものである。おそらく彼はその意味すら理解せずに覚えたての言葉を使っているのだろう。


カイトは思う、こいつは貸すとは名ばかりの当たり屋なのだろう。カイトはアザゼルの手をとると強く惹きつけ、引き抜いたダガーナイフを思い切りその腕に突き立てた。


「ぎゃああああ!!?」


アザゼルは呆気に取られており、突き立てられたダガーを見て悲鳴をあげる。激痛により意識が乱れたからか、周囲の時が動き出した。否、違う、そうじゃない。カイトの視界にはうつっていたのだ。止まった時の中でも技と動かずこちらの様子を伺っていたゼノリコの姿を…頃合いを見てカイトがダガーを突き立てた瞬間に、アザゼルのステータスに並ぶギフトを、まとめて握りつぶしたのだ。


「き、貴様!俺は君を助けようと…」


ドン!カイトの前にあるテーブルの上に、長いローブもマントのようにはためかせながら彼にとっての死神マールが舞い降りた。


「ひ!」


それが彼の最後の言葉だった、次の瞬間にはアザゼルの首はギルドのカウンター席に飛び、叩きつけられた後に内容物をぶちまけた。


「カイト!無事!?」


マールは後ろにいたカイトに呼びかける、カイトは予定以上に早く動いたマールに驚いていた。まるでマールはカイトに危害が及ぶ事を嫌うような動きにもみえた。


弾けるギルドカウンターの受付嬢の悲鳴、バゼラードのギルドは再び壮絶となる。


「騒ぐでない、バカ共!」


ゼノリコが立ち上がり、動揺する周囲の中でフードをとった。当然、バゼラードのギルドにゼノリコがいる事を知らない人間達は目を飛び出すほどに驚き口を抑える。


「そこなものは、我がベルラートで犯罪を犯して逃げてきた大バカものである。よって、今、刑を執行したに過ぎぬわ」


1から100まででまかせではある、しかし、他国といえど王を名乗るものがこうも凄んだら、何も知らない人々は信用するだろう。


「マール、クウ、カイト!帰るぞ!」


ゼノリコは威厳たっぷりにふんぞり帰りながらギルドのカウンターに向かい、怯えてすくむ受付嬢を見ると、カイトの懐から金貨を奪い取り、その手に握らせ、優しく語りかけた。


「すまなかった…これで美味いものでも食うがよい」


「は、はい!ありがとうございます!!」


受付嬢は深々と頭を下げるが、そんな受付嬢の耳元に小さく囁いた。


「ラシードに告げよ、砂の国を騒がせていた件は片付いた…と、そして死体の処理をさせよ」


受付嬢はギョッとしてから何度も頷き、すぐさま控室に走って行く、その背中を見送ったゼノリコはさっさとギルドから出て行った。


「あ、リコ様まって!」


カイトたちはすぐ様ゼノリコを追いかけたが、ゼノリコは外で待っていた。


「何をしとる、早よこい!帰るぞ!」


そのまま王城へ歩いて行った、ベルラート王の電撃視察にバゼラードは騒然とし、彼が通る道ではあちこちでバゼラードの人々から注目されている。ゼノリコは普段のだらけている様子とは代わり、その外見の美しさと威厳のある立ち姿をしっかりとアピールして見せた。


その威厳ある振る舞いは、王城につくなり、正確にはゼオラを見るなり瓦解した。


「ゼノ!どこいってたんだ!アジルが探していたんだぜ?」


ゼオラはそういうと、ゼノリコはだるそうにゼオラに寄りかかる。


「お、おい…」


「そのアジルの依頼を済ませてきたとこじゃ…ちかれた…」


ゼオラは寄りかかってきたゼノリコを背負いあげる。


「え、リコ様って結構?」


「ん?王様、もやしだからねっ、体力つけようとはしてるみたいだけどさー」


マールは頭に手を持っていきカイトをじっと見つめる。


「ん?なに?」


カイトはマールに気づき声をかけると、マールは心配そうな目を向けている。


「カイト、本当になんともない?」


珍しくマールがカイトを過保護なまでに心配している事に違和感を覚えたカイトだったが気にしすぎだろう。


「ええ、マールに守ってもらえましたから」


「そっか…ならよかった」


そういうと、マールはゼオラを追いかけて行った。王城の中でカイトとクウだけが残される。


「カイト」


珍しくクウから話しかけてきた。


「マール、ずっとカイト心配してる、朝からずっと、カイトの事見てた」


「…?そうですか、わかりましたありがとうございます」


マールに至って恋愛的な感情でそんな事をする分けはない、転生者を警戒するにしては視線に敵意は感じない。ひょっとしたら今朝、カイトのステータスを盗み見た時に何かを見たのかもしれないが…カイトは深く考えないようにして自室へ戻った。


コンコン


夜、明日はバゼラードの依頼をこなすボルドー兄弟やガルーダ達のために遠征計画を考えていたカイトの部屋に誰かが訪れた。カイトは特に警戒する事なく扉を開ける。扉の先にはマールが枕を抱いて立っていた、寝巻き姿で枕を抱いていても、その背中には大剣を背負っている。


「ゼオラの部屋がうるさくて眠れないの、またここで寝てもいい?」


「は、ははは…それなら仕方ないですね。どうぞ」


カイトは苦笑しながらもマールを招き入れると、マールは背中の大剣を扉の前に立てかけ、つっかえ棒にしたそんな使い方もあるのか、とカイトが感心していると、マールはスタスタとベッドに飛び込んだ。


「カイト寝ないの?」


「明日の戦闘計画を練っておかないと、劣悪な炎天下の中での亜人との戦闘…ワクワクします」


そんなカイトをマールは寝返りをうち、こちらに顔を向ける。


「カイトさ、死んだりするのは怖くないの?」


「怖いですよ?いつもマールに殺されかける時なんて漏らしそうになります」


「実際漏らしてたっけ…」


嫌な記憶をよく覚えている、カイトは苦笑した。


「マールは戦って死んだ事はあるんですか?」


興味本位で聞いてみた、マールは小さくため息を吐き出すと素直に教えてくれた。


「3回、1回目はジャイアントオークっていう5m位のオークに踏まれて。2回目はケンタウロス族が使役するファイアードラゴンに焼かれたかな…3回目は…そうそう、ヒューゴが倒したギガースっていう10mくらいのバカでっかい亜人の死体に潰されたんだ」


マールは忌々しげに口調に感情がこもる。


「生き返れるからって好き好んで死にたい冒険者なんていないよ、痛いし、苦しいし、お腹の中身とか全部出ちゃうから恥ずかしいし、生き返ったら生き返ったでお腹空くしさ…ああ、今は禁止されてるけど、ちょっと前までは死んじゃった女の子の冒険者を高値で売り買いしてた奴らもいたんだって…何に使うのかしらないけどさ、カイトはわかる?」


「さ、さあ…なんででしょうねー…」


答えづらいな…カイトはある程度察するが、マールには言わない方がいいと判断した。


「マール、今朝、わたしのステータスで何を見たんですか?」


「……何も見てないよ?」


マールは嘘をつけない性格らしい、あからさまな反応を示して顔をそらした。


「なるほど、先程までの会話の流れから…死に関わる制約が書いてあったとかですか?例えば、蘇生を受けられない…とか」


「もう!なんでそうなのカイトは!!ホントにムカつく!」


マールの反応的に、図星だろう。


「私のいた世界では蘇生なんてありませんでしたから…特に蘇生が受けられないと言われてもあまり実感ないんですよね…」


「そういえば、カイトの世界はそうだったね…そうでありながら戦争やってるって言うんだから…おかしいよね…」


「マールでも人を殺すことに戸惑う事あるんだ?」


「僕をなんだと思っているのさ!」


マールはうつ伏せになって枕を抱きしめる。


「殺す時は冒険者かどうかいつも確認してるし、冒険者だったら数字見るし」


「そういえば、ガルーダやアンネマリーは迷いなく殺してましたね」


「今はそうじゃないけど、あの時のガルーダは本当に大っ嫌いだったから死なせても良いって思ってたよ。アンネマリーの時は殺してから蘇生した方が良いと判断したからだからね…」


今思えば、マールはガルーダもアンネマリーも、殺す前に数字を見ていた。


「マールも色々考えているんですね」


「なに?もしかしていま、めっちゃ失礼な事言われてない?」


カイトは計画を練るのは諦め、真ん中でモジモジとしてあるマールを退かすと、自分も横になった。程なくしてマールが抱きついてくる。


「ふふ、私が死ぬとしたらマールに絞め殺される時でしょうね」


「う…僕だって少しは気にしてるんだからいわないでよ…」


「それは失礼しました…以後気をつけましょう」


次第に疲れから、景色が微睡はじめ今日は珍しくカイトが先に眠りに落ちた。


「…珍し…疲れてたのかな?」


マールは体を起こすとカイトの寝顔をジッと見つめると、再び隣に横になり抱きつく。


「僕が守るから…」


マールは自らに言い聞かせるように告げると、目を閉じた。


それから時間は流れ、一週間後。全ての準備が整いカイトたちは謁見の間に設けられた席の横に座る。


マール達はすぐに王の盾になれるように散らばって配備され、シドゥにより名を呼ばれた民草が一人一人目の前までやってきてアジムにお目通しされ、問題がなければ元きた道を戻って行くだけという儀式的な催しが開かれる事となった。参加者には王が用意した酒が配られるというおまけもついたこともあり、すでに王宮の前は多くの民草が詰めかけていた。本日は稼ぎどきと、シドゥやナジが王城の前での出店を許可した事で、一種のお祭り騒ぎとなっている。


「では、そろそろ始めますよ!みなさん!準備はいいですか?」


シドゥが待機している全員に声をかけ、だらけていた全員が背筋を正す。


「ゼオラ…お主大丈夫か?」


急にゼオラが気分悪そうにしていることに、ゼノリコが気づいた。


「シドゥ、少し待て」


アジムがシドゥを止め、ハイデが慌てて走ってくる。


「ガルーダさんはいますか?」


カイトはガルーダを呼びつけると、ガルーダは足早にそばにかけてきた。


「ハイデさんと共にゼオラさんを自室へお連れしてください」


「かしこまりました!」


ガルーダはすぐさまゼオラに肩を貸し、玉座の奥にある部屋から外に向かう。


「クウ、ハイデさん達についていってください。」


「わかった…」


クウも後を追いかけた。ゼオラの不調に、ゼノリコは珍しく狼狽していた。


「リコ様、今は公務に専念してください」


「わ、わかっておる!わかっとるわ…わかっとる」


そのころ、ハイデとガルーダはゼオラを個室に運ぶべく、廊下をあるいていた。


「は…ハイデ、すまん…ガルーダも…あたしお前嫌いだったのに…」


「昔の事でしょ?でも、冒険者も体調不良になるものなんですね」


ガルーダはそう呟く、そこでハイデは何かに気づいた。


「ゼオラ?貴女まさか…」


ハイデは言いかけたが、ゼオラは口の前で指を立てる。


「頼む、あいつには黙っててくれ…」


「え?…なに?なんですか??」


気づかないガルーダに、ハイデは実にわかりやすいジェスチャーで伝える、それを見たガルーダは驚愕に目を見開き、ゼオラを観る。


「それは早く伝えるべきでは?」


ごもっともなガルーダの言葉にゼオラは首を横に振る。


「ニシシ…あいつはもう色々あきらめていやがるからな…もうちょい溜め込ませてから教えてやった方がいいだろ?…あいつがどんな顔するのか…ワクワクするじゃねえか…」


悪戯好きのゼオラらしい性格の悪さではある、ハイデは呆れてため息を吐く。


「そんな状態ならどうせすぐにバレますね、ちなみに私は聞かれたら答えますので」


「バレたらバレたでいいのさ…それでな」


「冒険者は引退ですね」


ガルーダに言われるとゼオラはとんでもないと声を張る。


「休養だ、元気になったら…あたしゃまた戻るぞ!」


「いや、引退しなさいよ…」


ガルーダに突っ込まれながらもゼオラは個室に連行された。ハイデはすぐ後ろについてきていたクウを呼び込む。


「内緒?…嘘をつけ?」


クウは首を横に振る。


「嘘は付けない、僕、カイトの命、絶対」


「カイトには伝えていいですよ、でもゼノリコ様には黙っていて?単なる腹痛って言っといて?」


「わかった」


クウは頷くと足早に部屋を後にし、大きく迂回して開始を延期していた謁見の間へ戻る。


「クウ!ゼオラは!?ゼオラは大丈夫じゃったかえ!?」


クウが来るなりゼノリコがみっともなく飛びついた。


「単なる腹痛、ハイデ言ってた」


「…そうか、そうか…そうか…」


ゼノリコは不安そうではあるが、一先ずの安心で胸を撫で下ろした。クウはすぐにカイトの側にやってくると、カイトにはそれをしっかり告げた。


「ほ、ホントですか?」


クウは意図を理解していなかったが、カイトは綻びそうになる顔を叩く。


「クウ、ここは大丈夫です、マールを連れてゼオラさんの部屋を守りなさい」


「わかった」


クウは直ぐに走っていき、入り口にいたマールの手を引いて裏口をから出て行った。


「なんでクウはマールまで連れて行ったんじゃ?」


ゼノリコはまだ不安そうにしていたが、カイトはゼノリコの肩を叩く。


「まずは、これを終わらせてしまいましょう!早急に!」


「は??なんじゃお主、なんでそんな元気なんじゃ??あ!当たり前じゃ!!アジム!スマン!始めとくれ!!」


ゼノリコは先ほどまでの狼狽とは打って変わる、それを見たアジムはシドゥに合図を送った。


そして、宰相を選ぶという名目の、転生者裁判が…幕をあけた。



お疲れ様です、色々詳しく脇を固めていたら分量が増えすぎました!故に準備編です。



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