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2の5 進軍

今回長いです

数日後、砂の国より物々しい一団が西門より入国した。先頭でラクダのような生物に跨るアジルを筆頭に、その後ろを非常に大きな鎧を着たカバのような生物が黒鉄の車を引いている。その後ろを8騎の騎馬が続く。


「やっと来たか、遅いぞカイト!」


様々な作業に右往左往していたカイトが息を切らしながら走って来ると、すでに到着していたゼノリコが怒鳴る。


「すみません、水の積み込みに時間が掛かりまして」


カイトの後を追いかけるように、物資を満載した荷馬車が三つ、西門に到着する。


「水だと?お前が無駄にしこたま買い込んだ水玉で足りんのか?」


ゼノリコは不満気に呟いた、今回の物資編成計画を最後の最後まで突っぱねていたのもあり今だに納得してはいない様子を見せている。


「衛生面の確保は兵士の士気に直結します、今回は少人数ですからそこまで多くなくて助かりました。」


「水に食糧、それとこれは武器や天幕ですね」


ゼオラがメガネをかけ、バインダーを片手に馬車の積載品を確認する。


「物資の数、問題ありません」


しばらくして、ゼオラが確認を終えたタイミングでアジルがやってくる、今回はこの間のボロな様相ではなく、気品を感じる王族らしい様相である。


「カイト君!無事に冒険者になったんだね!いやーよかった!」


アジルは満面の笑みで歩み寄ってきては抱きしめようとしてきたため、カイトは飛び退いた。


「残念だな…」


アジルは実に残念そうに呟いた、するとゼノリコが周囲を見まわした。


「お前の編成した冒険者達がまだ来とらんようじゃが?」


ゼノリコは不安そうな顔でぼやく、カイトはそんなゼノリコに笑いかける。


「ご心配なく、すぐに来ますよ」


カイトがそういうと、人々の合間をすり抜け褐色の少年がやってきてカイトの隣につく。


「カイト、準備できた」


それはクウ、クウは非常に身軽な革の軽装備に身を固めており、その腰には肉厚な手斧がぶら下がっている。


「ありがとう、みんなに来るよう伝えてください」


「わかった」


すると再びクウは人の隙間をすり抜けて行った。


「我が国の奴隷階級?…」


アジルはクウの頬にあるタトゥーを見て目を丸くした。


「すまんの、なんか我が国に密入国してきとったようじゃ、カイトの奴が知らんうちに編成しとった」


ゼノリコは重箱の隅を突くが如く呟くと対してアジルは吹き出していた。


「はは、別に構わないさ。民の自主性は尊重しなくちゃね、密入国は良くないけど」


砂の国の使者達を一目見ようと集まって来ていた人々が一斉に道を開ける、隙間から物々しい外見の集団が歩いてきていた。


先頭を歩く軽装のクウを筆頭に、その背後を3人の横隊が続く。


三人はベルラートの紋章を描かれた大きく四角いスクトゥムと呼ばれる大盾を手に、コールス型の丸い頬当てのついた、ガレアと呼ばれる兜を目ぶかに被る、そして何よりも目立ったのは、何枚もの曲げた板金を重ねて作られた鎧ロリカセグメンタータと呼ばれる独特な形状をした重鎧である、本来の材質は青銅だが、鋼鉄でより堅硬に作られている。そのため太陽の日差しを強く反射し、よりピカピカに輝いている。鎧の隙間からはベルラートの色である青に染められた革がちらつく、その手足には鉄の肘当てと脛当てを身に付けていた。


「はあ……」


ゼノリコが頭を抱える、そしてカイトの側まで寄ってくると小さな声でささやいた。


「この手のものに詳しくないわしにもわかる、古代ローマの兵隊の装備じゃな、貴様ッ…」


ゼノリコはカイトの足を軽く蹴飛ばし、忌々しげに蹴飛ばした。


「暑い地域で戦う装備にはこれぐらいしか思いつかなくて…」


カイトの言い分に、ゼノリコは素早く首を絞めてくる


「こんのドアホう!!戦争したいんかお主は!つうことはクウのあの装いは遊撃じゃろ?」


カイトは非力なゼノリコの首絞めを甘んじて受けつつ


「良くご存じですね、古代ローマは集団による群の戦いが基本です。ただ、戦争するには兵員不足ですね。」


「アホウ…あほうがお前…古代ローマの装備はあかんじゃろがい、見よあれを」


カイトの言葉にゼノリコは目眩を起こしつつ指をさす。


「いやあ!すごい装備だねえ!かっこいいな!」


指の先ではアジルは男の子の反応をしている。


「…あ…」


今更気づいた、古代ローマの先進的なデザインの鎧は現代の人間達にも強く印象を残すほどかっこいいのだ。古代にはこの鎧を着たい為に志願したものもいただろう。良くも悪くも冒険者には統制された装備がない為、どうあがいても悪く映ってしまいがちである。だが、ローマ兵の装備に統一された冒険者たちはどうだろう。カイトが見回すと、衛兵から女、子供までもが羨望の眼差しを彼等に向けている事が表情から伺える。


すると、大きな歓声があがる。見れば一際大きなベルラート国旗が高々と掲揚されていた。旗を持っているのは最後列にいたガルーダである。彼女もローマ風の装いであり、そのRPGのヒロイン風の様相に良く似合っている。その前で同じくローマ風の装備に身を包んだマールが隊列から飛び出してくる。相変わらず武器は無骨な大剣ではあるが、小柄なマールにもロリカセグメンタータはよく似合っていた。マールは足速にカイトとゼノリコの前まで来ると、得意げに胸を張った。


「どうよカイト!すごいっしょ?作るの大変だったんだから!」


今朝方までぶっ通しで作っていたとは思えない程、マールは元気だった。


「マール?マールか!!久しぶりだな!」


マールに気づくなりアジルが前に出てきた。マールもそれに気付くと飛び跳ねる。


「アジル兄ちゃん!みてみて!?かっこいいっしょ!?」


アジルは飛び跳ねたマールを捕まえ、軽々と片腕で抱き上げて笑顔を返す。


「いいな!うちの親衛隊もこれを作ってもらおうか?なあ、シドゥ?」


シドゥと呼ばれた側近らしき若い男に呼びかけ、シドゥは大きく頷いている。


「素晴らしいお考えです、若様!戻り次第、兄君に進言してみましょう。」


それを見てカイトはアジルの連れてきた騎馬部隊にも目を向ける、彼等でさえもローマ風の鎧に釘付けにされている。


「皮剥ぎかの?爪剥ぎかの?目玉くり抜いて銀を流すかの…?」


隣でゼノリコがわなわなと怒りを露にしながら物騒な処刑方法を口からこぼしていた。


「お、お手柔らかにお願いしま…グフッ!」


「とりあえず…この位にまけてやる」


苦笑するカイトの鳩尾にゼノリコの拳がめり込み、カイトはその場に崩れた。


そんな合間にもアジルはマールを抱き上げたまま真剣な顔をしている、どうやら真剣に購入を考えているようだ。


「ご注文はじいちゃんまでね!バゼラードなら沢山もらっちゃおうかな!」


「く!少し見ぬ間に足下を見るようになるとは!上手くなったなこいつう!!」


まるで兄妹のようなやりとりをしていると、ゼノリコがパンパンと手を叩いた。


「よい、人員が揃ったのならさっさと出発じゃな」


そういうと、アジルも頷く。


「出発だ!!皆馬車に乗ってくれ!!シドゥ、俺の馬を頼む!」


「ハッ!」


シドゥは即座にアジルの乗ってきた馬へ走り、跨ると先頭へむかい、騎馬部隊に指揮し、カイトの用意した物資輸送用の馬車が黒鉄の馬車の後ろへ並び、綺麗な縦隊を形成する。カイトは黒鉄の重そうな馬車に全員が乗り込んで平気なのだろうかと前を見ると、馬車を引いているのは全身を鎧のような皮膚に覆われた巨大なカバの様な生き物だった。アジルの号令で全員が乗車する、カイトたちは豪華な装飾に飾られた車室へ通される。


「カイトさん、私たちも乗るのでしょうか?」


緊張している様子のアンネマリーが伺ってくる。


「ブブポンに徒歩でついてくなんて無理無理〜大人しく乗った方がいいよ〜ほらほらー!」


そう言いながらアンネマリーを押しながら乗り込み、奥へ行くマールにゼオラとハイデが続く。


「旗は置いて行った方が?」


今まで旗手をしていたガルーダが旗を丁寧に畳んで置き場を探している。


「アホウ、我が国の国旗を置いていくわけがなかろ?適当に荷馬車につんでおけ」


「わかりました!」


ガルーダは後列の荷馬車へ向かい、旗を納品すると、馬車に乗り込んだ。


「ゲイツさんとゲイルさんも乗ってください」


「了解です」


「あいた!…」


ゲイツは額を天井に盛大にぶつけ、腰を丸ながら入っていく。


「カイト、全員のった!」


「これ、わしを忘れるでない」


ゼノリコは最後に整列する兵士たちに顔を向ける。


「あとはガリレオの指揮に任せる、貴様らはガリレオの指示に従うように、ガリレオ!任せたぞ」


「は!お任せください!」


ガリレオはサーベルを抜き放つと、兵士たちも同時にサーベルを抜き、顔の前に構える。おそらく捧げつつであろう。その敬礼を見届けるなりさっさと乗車していくゼノリコ達の後ろで振り返る。カバのような生物はブブポンという種の生物らしい、


「カイト!はよ来い!」


ゼノリコに急かされ、カイトは扉をしめて後を追いかけた。アジルは手元の手綱を強く引くと汽笛のような音が鳴り、先頭のシドゥを乗せた馬が歩き出し、ブブポンが吠え、歩き出す。その動きは非常にゆっくりな筈だが、人には小走りのような速度である。


「まあ、くつろいでくれよ」


アジルは早速だらしなく寛ぎ、ゲイルたちは緊張なのか隅に固まった。マールは女性陣で固まり既に談笑を始めている、ガルーダはすっかり輪に溶け込めているようだ。クウはカイトのそばに座り、どこか落ち着きなく船を漕いでいた。


「はあ…何事もなければ良いがの…」


カイトの隣に座るゼノリコは窓を見ながら大きなため息まじりに愚痴り、そんなゼオラを見てアジルはつげる。


「神に祈るんだな!」


アジルの用意した護送部隊は、先頭のシドゥに始まり、各馬車につき2騎が左右についている。

明らかに過剰な戦力にカイトには思え、不安を募らせた。


ゼノリコを乗せた護送部隊は一路、ベルラートを出て、砂の国バゼラートへと向かう。道中、ゼノリコの支配するベルラート領内では特に危険な襲撃に襲われる事もなく、荷馬車の馬を休める為の何度かの小休止を挟みつつ、バゼラート領内へと無事に踏み込んだ。バゼラードに入るなり先程まで広がっていた緑豊な大地は無くなり、荒れた荒野の風景となる。


「相変わらず寂しい土地じゃの…」


ゼノリコが退屈そうに愚痴をいう。


「そういうな、意外と過ごしやすいんだぞ?」


すると前方の騎兵の足が緩まる、見れば水場であった。


「今日の野営地だな、今日はここで休もう」


「ほあ?まだ早くないかえ?」


ゼノリコはそう言うが、カイトには意図がわかっていた。


「涼しい夜中に行軍する為ですね?」


「ご名答、さすがだねカイトくん!」


アジルは馬車から下車すると大きく手を叩いた。


「野営の準備だ!!」


騎兵隊は即座に下馬し、統制された動きで馬を木に結びつける。


「私たちも野営の支度をしましょう、天幕設営を手伝ってください」


「了解しました!」


ボルドー兄弟が真っ先に飛び降り、物資天幕へ向かい、ガルーダとアンネマリーも続く。


「カイトー!」


マールが駆けてきてもじもじしだした。わかっている、狩に行っていいかとかだろう。


「いいですよ、クウ」


即座にクウがそばへとやってくる。


「マールについて、迷ったら大変だしね」


「ま!まよわないよ!」


否定するマールを他所にクウは小さく頷いた。


「わかった、マールについて行く」


クウは素直にマールのそばへ行った。するとマールは閃き手を叩く。


「カイト、あの槍も使って見ていい?」


「槍…?」


耳聡くゼノリコが入ってきた、その形相は非常に憤怒を表していた。


「そ…そうですね、練習を兼ねるのも良いでしょう3本ずつ持っていくのも良いでしょう。」


カイトは見てみぬフリをして下車すると、忙しく駆け回るガルーダを呼ぶ。


「はい!お呼びでしょうか」


「新しい武器の練習がてらにマール、クウと一緒に狩に行ってきて下さい」


「は、はい?よろしいのですか?あれは使い捨てと聞いてますが」


「実物でも練習しておかなければ実戦ではつかえませんからね、三本ずつ持って行ってください」


カイトの返答にガルーダは嬉しそうに頷いた。


「わかりました!」


「決まったら行こ行こー!」


マールは馬車から飛び降り、ガルーダの手を引いて走って行き、クウが続く。


「王国用の鍛冶所に大量の槍の発注が来たのはしっとったが…貴様まさか…」


「はい、ピルムです」


聞いた瞬間、ゼノリコが頭を抱えて体がよろけて立て直す。


「……やっぱり今、殺しといた方がいいか」


「だ、大丈夫です、ピルムは生産コストが高いのもあり、ローマクラスの資金と国民動員の体制が無ければ量産出来ません、それに練習が必要な武器です。例え冒険者でも練習なしに扱うのは無理でしょう」


カイトは苦笑しながら言うが、ゼノリコがデコピンを喰らわせてくる。


「あいたっ!」


「あほう、冒険者になったらもう人とは別のものと考えよ」


ゼノリコはそう言って指をさす、その先を見れば、マールがオアシスに手にしたピルムを投げつけようとしている。


「おりゃ!!」


マールの手から離れたピルムは音速の壁を軽々と破壊し、オアシスの水面を派手に貫き爆発のような音と共に、激しい水の柱が立ち上がる。すぐさまガルーダも投げる、ガルーダの手から離れたピルムも音速の壁をやすやすと貫き、マールに打ち込まれ身体を跳ね上げた巨大なワニのような海魔の顎下を貫き、深々と突き刺さる。


「ピルムの使い方じゃない…」


「お前は冒険者の外見に囚われ過ぎじゃ、現代の人間で多大な戦果を上げられるのであれば…あやつらがやればああなる。よく覚えておけ?カイト」


マールがオアシスに飛び込み、巨大な海魔を担いで持ってくる。


「デカいやつ狩ってきたなー!」


アジルは笑顔でマールを迎える。


「今夜の献立につかおー?」


「食えるのか?こいつ」


天幕を張り終え、集めた枯れ木や木の葉で天幕の中央に火を焚べる。マールはとってきたオアシスから組んできた水を持ってくると、海魔の脚を削ぎ、腹を割る。出てきた巨大な内臓を引き抜く。


「む……」


丁寧な解体作業の途中、マールに表情が無くなる。顔を上げ周囲を見渡した。


「ハイデ!ハイデきて!」


マールに呼ばれ、ハイデが小走りでやってきた。


「マール、どうしました?」


ハイデが見たものは、大きく肥大した海魔胃袋…その膨らみは明らかに人の形をしていた。


「カイト!食糧に余裕はありますか?穀物があると助かります!」


ハイデが声を上げ、やってきたカイトがそれを見ると、すぐに穀物の大袋を一つゲイルに持って来させた。クウは海魔の食べない内臓類も一緒にそこへ置く。


「ほいじゃ!あけるよー」


マールは背中の大剣で分厚い肉質の胃袋に浅く傷をつけると、胃酸と一緒に腐敗臭と共に、顔の判別もできないミイラ化した人間が出てくる。カイトは眉間に力を入れる、ミイラの頭上には数字がある。


「冒険者じゃな、ハイデ、まて」


蘇生を唱えようとするハイデを止め、ゼノリコが前に出てきてステータスを開く。


「死体もみれるんです?」


「冒険者ならの」


ゼノリコは死体のステータスを数秒眺める。


「アジル、コイツに見覚えは?」


ゼノリコは騒ぎを聞きつけてやってきたアジルにステータス画面を投げる。アジルはステータスを受け取ると真剣な面持ちで目を通した。


「サジ・エドラド?」


「ああ、エドラド一家の次男ですね我々の出発前にも見送りに来てました」


シドゥがそういうと、アジルはふむとつぶやいた。


「エドラドの次男か…市民に嫌われていたのは知っているが、まさか海魔の腹の中から出てくるとはな…回収するだけでもいいぞ?貴重な食糧をこいつに使う必要はないかな」


「いえ、蘇生しましょう」


カイトが言った、ゼノリコが睨んでくる。


「カイト、素晴らしい考えです。わたしも彼の考えに賛成します」


ハイデが強く賛成を示し、ゼノリコは頭を抱える。


「はあ…すきにせい…」


ハイデは手を翳し、彼を蘇生する。まずは頭の数字が減っていき、足りない分が穀物や海魔の内臓が光となって身体に吸い込まれていく。そして光の中から恰幅の良い小太りな男性が現れた。


「ぶはっ!!」


サジは目を開くなり軽くのけ反り、勢いよく身体を起こす。


「ここは!?私は、確か海魔に…」


バッと顔を上げ、あたりを見回す。周囲のみんなが此方へ向けてきており注目を集めている。彼の次回の最後には修道服の金髪美女が映る。


「おおお!!まさか、貴女が助けてくれたのですか!?」


サジは素早くハイデとの間合いを詰めるとその手を取った。


「いえ、わたしは蘇生しただけで…貴方を飲み込んだ海魔を仕留めたのは彼女達です」


ハイデはゆっくりと目を伏せて顔を逸らし、マールやガルーダを指さす、マールはジト目でサジを睨んでおり、ガルーダは目を伏せて顔を背けている、一方のサジは目を輝かせている。


「エドラドの次男」


「む!美女ばかりではないのか、誰だ?私の事を次男だなどと…よぶ」


サジは偉そうに振り返りながら、目の前で腕を組み睨むアジルを見上げる。


「だはー!!あ!アジル様!?ご無礼をお許しくだされ!!お許しおー!!?」


サジはその肥満な体質には似合わない機敏な動きで地に伏した。


「そんなものは良い、先ずは落ち着け、あと服を着ろ」


アジルの指摘に、サジは顔をあげて自分が裸である事にようやく気がつく。


「なあ!?」


こうして、輸送隊にサジが仲間に加わった、サジは身体が大きく合う服が無かったため、ゲイルから変えの服を借りることになった。


「命を助けていただいただけでなく、服まで…エドラド家は御恩を忘れませぬ…」


サジはそう言ってゲイルに深く頭を下げた。


「よし、とりあえずは飯にするか」


アジルが場を仕切り、全員が動き出そうとしたその時。クウが背伸びをして匂いを嗅ぎ始めた。


「どったの?クウ、あのおじさんが臭いとか?」


マールが聞くと、クウは首を横に振る。


「酸っぱい臭い…する」


「酸っぱ…」


途端にマールの顔がこわばる。


「敵襲!!ホモセクトが来る!!」


マールが叫んだ、同時に食事の準備をしていた全員が顔を上げる。いの一番に動いたのはアジルだった。


「周囲警戒!騎馬隊は騎馬して馬車を守れ、騎手達は黒鉄の馬車へ避難しろ!」


「どういう事です?」


カイトがマールに聞く。


「ホモセクトは襲いかかる前は酸っぱい匂いがするんだ!クウ!屋根に登って周囲に土煙がないか確認して!」


マールの指示にクウは黒鉄の馬車の上へ飛び乗り、カイトの疑問にはゼオラが答える。


「ホモセクトは襲いかかる場所に先んじて攻撃フェロモンを散布するんだそれがこの臭いさ」


攻撃フェロモン、士気を下げないように。兵士を死兵にするための行動なのだろうか?アジルはサーベルを引き抜き騎馬部隊と固まると、カイトは急いでクウのいる黒鉄の馬車の屋根の上へハシゴを使って登る。見渡す限りの荒野と砂漠、その砂漠の向こうで土埃が上がる。


「来たぞ!前方だ!!」


カイトの発見と同時にシドゥが叫ぶ、見れば双眼鏡を使い、土埃を確認している。


「カイトくん、俺たちが先行するよ!」


アジルはいつのまにか騎馬してこちらへとやってくるとそう進言してきた。しかしカイトは首を横に振る。


「いえ、騎馬隊は予備戦力にします、いつでも切り込めるよう待機しつつ、一先ずは輸送部隊の護衛に専念してください」


「え…どうして?」


「したがっとけアジル、そいつは指揮者というユニークな神託を持っとる、多分考えがあっての事じゃろう」


ゼノリコが珍しくカイトを持ち上げ、アジルは不審な表情でカイトを見上げつつも頷いた。


「わかった」


そして、カイトは全員を見渡し息を吸う。


「この間教えた通りに隊を三つに分けます!マール、クウ、ガルーダさんは遊撃部隊、以降赤と呼びます」


「了解」「ん!」「わかりました!」


クウは馬車を飛び降り、三人で固まる。


「ゲイツさん、ゲイルさん、アンネマリーさんの重装部隊、以降青と呼びます!」


「承った!」「了解!」「はいっ!」


重装の3人は盾を手に、ホモセクトの土煙の前に躍り出ると、ゲイツを右に、アンネマリー、ゲイルという形で横隊に並ぶ。


「最後にわたし、ハイデさん、ゼオラさんの指揮部隊、緑です。」


「分かりました」


「は?私も編成されているのかよ?」


ゼオラは今回は礼服に身を包んでおり、戦闘用の装いではない。ハイデはカイトの隣にやって来る。


「勿論です、ではハイデさん視覚共有の魔法を」


「カイト、少し試したい魔法があるのですが良いですか?」


「はい?どんな魔法ですか?」


『これです』


!!?突如、その場にいた全員の頭にハイデの声が響く。


「はー…」


「どうしたんだ?」


ゼノリコのため息にゼオラが問うと、ゼノリコは頭を抱える。


「アホが大喜びしそうだなって」


ゼノリコの不安は的中した。


「凄い!凄い魔法ですよハイデさん!!」


カイトは思わず手を取り、ハイテンションで詰め寄った。


「え…あ…そうなのですか?」


「最高に強いですよこの魔法は!各地にちった仲間たちにリアルタイムで情報を共有できるというのはそれだけのアドバンテージになります!貴女は天才です!最強です!!感動した!!」


「は……はあ…」


大袈裟に褒めちぎるカイトにハイデは完全に引いていた。


「よし、ではハイデさん!状況が開始したら私の言葉を復唱してみんなに伝えてください」


「承知しました」


ハイデは頷き、新たに習得した魔法【念話】とカイトの視覚を共有した。


「赤、馬車からピルムを持てるだけ持ったら青の10歩前へ、青はさらに前進してください!」


「おっけー!」


すでにピルムを荷下ろしていた3人は、ピルムを持てるだけ背負うと、マール達は青部隊の前へ出る。その合間にもホモセクトの大軍団が、図鑑に描かれた赤い外殻に身を包む人型の姿をした一団の姿が、目視で見えるほどに迫って来ていた。


「では始めます、赤は各個にピルムを投擲!!」


マール達は一斉に背負ったピルムを次々と投げ始めた、相変わらずマールとガルーダは大砲のような派手な空気音を鳴らしながらピルムが飛ぶ、本来ならば接近して使うものだが、冒険者の特別な身体能力ならばその射程距離は銃と変わらないだろう。数百M離れているホモセクトの先頭を走る2匹に突き刺さり地面に倒れると、その後ろを走っていたホモセクト達が盛大に転ぶ、あの速度で走っていれば。前のホモセクトが倒れた時の衝撃は相当のものだろう。倒れたホモセクトを踏み砕き、後列のホモセクト達が前に出る。だがそのホモセクトの身体を次々と飛んでくるピルムに貫かれて倒れ、後列の足に引っかかり倒れ、後列に踏み砕かれる。


「赤は青の後ろに後退してください、青はファランクスで前進」


同時にホモセクトたちが投げ槍を嫌がり横に薄く広がる。そこへ盾を構える三人が出てきてホモセクトの軍団が再び密集し3人へ突撃する。


「赤!マールは青の右に広がった一団を蹴散らして下さい、ガルーダさんは左をお願いします、クウは戻りピルムを補給してください」


「おっけ!」「承知した!」


マールとガルーダは即座に動き左右に広がったホモセクトに襲いかかる。その間にも正面のホモセクト達がゲイル達の盾にぶつかる。激しい衝突音が響くも、青隊はびくともしない。数百のホモセクトに押し込まれているにも関わらずだ。当然ホモセクトは左右に広がろうとした。しかし、マールとガルーダが即座に対応して斬り捨てて行く。稀に炙れたホモセクトが向かってこようとするが、クウの投げ槍に貫かれ地面に倒れる。


「なんか…っ」


「兄さんも?感じる?」


戦いの中で、一番最初に気がついたのはボルドー兄弟だった。


「らあああ!!」


マールは広がろうとする先頭のホモセクトの頭を跳ね上げ、そのまま脇を抜けて背後の3匹の胴体を纏めて薙ぎ払う。ホモセクトは素早くマールの背後へ回るが、きびつを返したマールの斬撃がホモセクトの体を袈裟に切り裂き緑の血飛沫がまう。そうしてガンガン斬り捨てながらいつもとの違う感触を感じていた。


「…なんか、戦いやすい?」


そう呟いては、好調すぎる身体に違和感を感じながらも、押し寄せるホモセクトの一団を蹴散らし続ける。


「クウ、ガルーダさんにフォローを」


右のマールが絶好調に無双しているが、その一方で左のガルーダは次第に数に押され始める。下がりながら襲いくるホモセクトの手足を切り飛ばして戦闘不能にしつつ距離を取る。


「く…ホモセクトはこんなに強いんですの…?」


クウは即座に背負ったピルムを次々投げつけ、放物線を描いて飛んだピルムが降り注ぎ、ガルーダを押し込むホモセクトを地面に縫い付ける、ピルムは突き刺さって曲がり、その槍の重みと負傷で動けなくなったホモセクトの首をガルーダの剣が跳ね上げ息の根を止める、一通り槍を投げたクウが斧を手に飛びかかり、ガルーダを襲うホモセクトの頭を背後からカチ割る。クウは独特な体勢で動き回り、クウにも襲いかかるホモセクトを次々倒していく。


「青!前へ!」


カイトが吠え、青隊が一歩前に出る。青隊を押し込もうと詰め寄るホモセクトの最前列が、前と後ろに押し潰され圧死する。


「カイト!」


ハイデが指差した、圧死したホモセクトを踏み台にして飛び越えた数匹が馬車に向かって来る。クウはガルーダのフォローに入っていて対応できない、マールも大勢に囲まれている。万事急須。しかしホモセクトは近づく前にピルムが腹部を貫いて地面に倒れる。


「はっはっは!お任せくだされ!槍投げはとくいですぞ!!」


蘇生されたばかりのサジが、大量のピルムを背負い馬車防衛に加わる。


「ち、しゃーねえから付き合ってやるよ」


ゼオラも普段の盗賊スタイルに着替えて馬車の屋根に上がって来ると、ボウガンを構える。


「射手!そんなおもちゃじゃホモセクトの甲殻は抜けん、こっちへ来て槍を投げろ!」


「言ってろ!私のボウガンは特注なんだよ!」


ゼオラはいつものようにボウガンの右に突き出たレバーを回し、その度に自動装填された矢が飛んでホモセクトの頭部に突き刺さる。だがホモセクトはその程度では倒れない。その腹をサジが投げたピルムが貫き、盛大にひっくり返る。戦闘開始からわずか数刻、ホモセクトの大群は青隊を一向に抜けず、左右に広がろうにも右の暴風の様なマールと、左のガルーダとクウを抜くことも出来ない。偶に散発的に抜けてきた数匹のホモセクトは、サジとゼオラによって迎撃される。


「!」


カイトの目は土埃の変化を機敏に察知する、隊列を成したホモセクトが、右に隊をわけたのだ。側面を突くためだろう。


「アジルさん!ホモセクトが右に隊を分けました!騎馬隊の投入をお願いします!」


「待ち侘びたぜ!!よしお前ら行くぞ!!!」


アジルは素早く抜刀し、馬車部隊の護衛を辞め前に出るなり右に動く土埃を追いかけ、正面から突撃する。


右で激しい衝突音が響き、見ればホモセクトたちが細切れにされながら飛ばされている。騎馬隊はアジルを先頭に鋭い2列の縦隊となってホモセクトの隊列を正面から切り崩す。偉才を放つアジルの剣技だけではなく、その背後を走る騎馬隊一人一人も勇猛な戦いを見せつける。一息に群衆するホモセクトをバラバラに砕いて別働隊を破壊してしまう。


「カイト、アジルさんたちはこのまま正面の隊列の脇腹に突っ込むと言っています」


ハイデの言葉にカイトは腕を組み首を横に振る。


「いえ、騎馬部隊は戻して下さい」


ハイデに指示され、アジル達の騎馬部隊が素直に戻って来る。


「青隊!抜刀!」


大盾を構えたゲイツ、ゲイル、アンネマリーが同時に腰に下げた剣を抜き、盾を強く前に突き出してホモセクト達の軍勢をまとめてお仕返しつつ剣を突き出した。刺突に特化されたグラディウスはホモセクトの堅牢な甲殻を易々と貫き、同時に引き抜いて盾を構える。濁流のようなホモセクトの大群を再び押し留める。痺れを切らせたホモセクトたちは即座に隊を薄く広げて包囲しようとする動きを見せた。


「今です!騎馬部隊を突撃させて!青隊、赤隊は確固に迎撃を開始して下さい、マール!思いっきり暴れて下さい」


ハイデの復唱による指示が全体に届き、戻って来ていた騎馬部隊が馬車群を抜き、横隊に広がりながら一直線に薄く広がったホモセクト達を纏めて貫く。疎に散らばったホモセクトを、クウとガルーダが刈り取って行く。騎馬の突撃により押し込んでいるホモセクト達の圧力が弱まり、青隊も攻勢に出る。


「………!!」


マールはまとまったホモセクトたちの中に飛び込み、纏めて斬り払う。その大剣は真っ赤に赤熱化しており、斬り捨てられたホモセクトが炎上して地面に沈む。今日のマールは絶好調だった、自身でも気が付かない程に…圧倒的な武の台風に吹き飛ばされ、ホモセクト達は次々吹き飛んで行き、いつしか散発したホモセクトたちも根絶やしにされている。そんなマールの目の前で唐突に大地が引き裂かれ、地の底から巨大な緑色の甲殻を持ったアリのような生き物が姿を現した。


「か、怪獣!?」


カイトはそのあまりの大きさに驚愕する、その隣でハイデが告げる。


「キングです!」


王の位を持ったホモセクトは、その巨大な体に見合わない俊足でマールめがけて突撃する。キングの全長は、おおよそ7mはある。キングは怒りに燃えていた。数多くの同胞達を死なせた目の前の人間の小娘に対して。


「赤隊、青隊はピルムを!全部使っても構いません!!マールはそのまま無理しないように!」


「別に、やっちゃってもいいんでしょ!!」


マールは突っ込んできたキングを擦れ擦れでかわしながらその前脚に赤熱化した大剣をふるう。


「いっ…た!!」


大剣は前脚の甲殻を引き裂く事は出来ず弾かれてしまう。そんなマールにキングは素早く槍のように鋭い前脚を振るう。


「危なっ!!」


マールはすれすれで避け、距離を取ろうとした。キングはそんなマールを逃さず顔を向けるなり口から液体を吐き出した。マールはスレスレで転がって避ける。


「いっつ!!」


唐突に弾ける激痛にマールは倒れた、弾けた飛沫が脚に係り、マールの両足の皮膚を焼いたのだ。キングが口から吐き出したのは非常に強力な酸だった。


「脚が…」


本の数的の飛沫だった酸は、マールの足の肉を大きく抉り取り、もはや立てないマールにキングは更に酸を吹きかけようと身構える。


「マール!」


叫ぶカイト、キングは容赦なく倒れたマールに酸を吹きかけた。


「たく、世話がやける!」


アジルだった、アジルは素早く割り込んでマールを拾い上げ離脱し、酸の体液を避けていた。


「全体、ピルム投擲!アジルさんはマールをこちらへ」


全員はピルムを次々に投擲を開始する、降り注ぐピルムの雨はその堅牢な甲殻には弾かれるが、背中にだけは深々と突き刺さった。途端、キングが激痛による悲鳴を挙げて怯む。


「背中には刺さるみたいです!」


2投目を許さず、キングは目の前の青隊に狙いを定めた。


「こっちだ化け物!!」


ガルーダが叫びながら接近、手にしたピルムを首に投げつける。ガルーダの放ったピルムは軽々音の壁を貫き、キングの堅牢な甲殻を貫いて首に深々と突き刺さる。即座にガルーダの頭に酸を吹きかける。ガルーダはスレスレで避ける、ガルーダの場合は身体に風を纏っており、飛沫を弾きつつキングの下を走り、左手のピルムを再び投擲、今度は胴に深々と突き刺さる。


その隙に二投目のピルムが降り注ぎ、柔らかい背中や腹に突き刺さる。ピルムは突き刺さると曲がり、返しが肉を抉って抜けない。次第に突き刺さるピルムの重みにキングの動きが徐々に鈍くなってくる。


「よし!ふっかーつ!」


ハイデの回復を受けたマールが馬車の上から飛び降り、足元のピルムを数本拾って走っていく。


キングはまとわりつくガルーダに激怒し、鋭い爪のついた足で大地を耕すが如く暴れ回る。


「危ない!」


クウがガルーダの身体を掴んで引き、間一髪で爪を避ける。しかしキングの足は6本ある。間髪入れずに二撃目の爪が2人に降り注ぐ。だが爪は音速で飛んできたピルムに叩かれて弾かれ、その隙にクウとガルーダが離脱する。マールだった、前線に復帰したマールは手にしたピルムを走りながら次々と投げつけると、全てのピルムは硬い頭部には弾かれてしまい、何度も叩きつける。


「頭はダメか!」


マールは大剣を手に3投目の降り注ぐピルムの隙間を縫うようにキングへ突っ込んだ。


「体勢を崩してやる!一気に決めろ!!」


アジルがマールの横をすり抜け、キングの下をすり抜ける。キングはアジルを身体で叩き潰さんとする、その瞬間、マールがキングの脚を駆け上がり背中に飛び乗ると、手にした大剣を柔らかい背中の甲殻へ深々と突き立てた。


けたたましいキングの悲鳴、苦痛に叫び、背中のマールを振り落とそうと暴れまわる。マールは背中に突き刺さったままのピルムを掴んでバランスをとりながら更に深々と大剣を押し込み、奥を抉った。その瞬間、キングは大きく天を仰ぎ、静かに崩れ落ちる。


「やった?」


マールはそう言って動かないキングに深々突き立てた剣を抜こうとする。


「まだだ!剣を抜くな!」


アジルが走って来てキングの硬い首の甲殻を一太刀で切り裂き、深々と湾曲刀を突き立てた。その一撃でキングの目から光が消え、今度こそ生き絶えた。


「ふー…」


「兄ちゃん!もう抜いていい?」


マールがアジルに伺うと、アジルは手を振る。


「おう、大丈夫だ」


アジルの指示でマールは剣を抜き、緑色の血を払って背中に背負う。


「こいつは首にある神経を断たないと死なないんだ、最前線で戦った事ないのか?」


アジルの問いにマールは首を横に振る。


「キングはC級以上が対処してたから…直接戦うのは初めて」


マールはその場に倒れ込むが、アジルが支えて軽々と背負いあげた。


「はは、流石のお前でも疲れたか?」


「うん…ちかれた」


そんな中、カイトは。


「はああ…」


絶頂していた。軍団戦を観るだけでも最高なのに、フィクションでしか見られない怪獣クラスの敵との戦いが見れたためである。彼の器であるカイトの身体がまだ精通前だったために、ズボンを汚さずに済んだのは不幸中の幸いである。


「カイト、大丈夫ですか?」


ハイデに気を遣われ、我に帰ったカイトはあたりを見渡した。何時間戦っていたのか、既に空は夕暮れ時となっている。


「動ける人はホモセクトを集めて下さい!皆さんはキングの解体をお願いします」


シドゥがそう叫ぶと、騎馬隊はキングへと向かう。


「ホモセクトは何かに使えるんですか?」


カイトの疑問にシドゥは頷く。


「ホモセクトは我が国の貴重な資源です、これだけ沢山とれキングまで手に入ったのは実にラッキーでした」


「ホモセクトの亡骸は我々ベルラートの資源だ、欲しいならちゃんと購入してもらわねばのう」


ゼノリコが馬車から出てきてシドゥに語りかける。


「む!ベルラート王がいたのを忘れておりました…」


シドゥは羊皮紙を取り出し数字を書き殴りゼノリコへ差し出す。


「ゼオラ」


呼ばれたゼオラが馬車から飛び降り、ゼノリコの羊皮紙を奪う。


「ホモセクトだけならいい値段だ、キングの値段が入ってないな」


シドゥはムッと顔を引き攣らせる。


「キングを仕留めたのは若ですので」


「キングを瀕死に追い込んだのは私らだしあの投げ槍は我々の資産だ…半分貰うのが基本じゃないか?」


ゼオラは一切引かず、シドゥと睨み合う。


「まあ良しとしよう、ゼオラ、あまりアジルの側近をいじめるでない」


「ガハハ!一件落着なようですね!」


サジは側に倒れるピルムが突き刺さったホモセクトに近付き、槍を抜こうとしたピルムは刺さると返しがついており抜けず、細い槍先は持ち手の重さで曲がるため、使い回せない設計となっている。本来ピルムは、盾で防いだ相手の盾を使えなくするためのものである、当然だが殺傷力のが高いわけでもない。人でも必殺には足りない威力のため、ホモセクトがそれだけで死に至るわけもなく…。サジが槍を強引に引き抜いた瞬間、ホモセクトは立ち上がりその腕でサジの腹を貫いた。


「がはあ!!」


吐血するサジの身体を地面に投げ捨て、起き上がったホモセクトは真っ先に集まるゼノリコ目掛け、突撃した。


「リコ様!」


ホモセクトの接近に気づいたのはカイト、カイトは即座に馬車を飛び降り、ホモセクトとゼノリコの間に割って入る、自らの身体を盾にしようとした。


「邪魔じゃ…」


ゼノリコはカイトの体を突き飛ばし、直後にホモセクトの鋭利な腕が腹を貫く。


「り!!リコ様!!?」


だが、ゼオラは特に動揺することなく抜いた肉厚のナイフでホモセクトの首を跳ねあげた。


「リコ様!大丈夫ですか!?」


慌てて駆け寄るカイト、だがゼノリコは無表情のまま立っていた。普通なら即死の一撃だろう、しかしゼノリコの傷はみるみるうちに戻っていた。


「忘れたのか、わしは不死身じゃこの程度で死ぬわけが無かろうよ?」


そしてゼノリコはカイトの胸倉を掴み上げる。


「二度とわしを庇おうとなど、するなよ…良いな?」


そこまでいうと、ゼノリコはカイトを放り馬車へ戻って行く、ゼノリコはカイトを合法的に殺すタイミングを逃した自分に腹立っていた。これほど死んで欲しいと考えているにもかかわらず、あの腕がカイトを刺し貫けばカイトは即死しただろう、そしてカイトはマールが勇者として覚醒しない限りは不死の恩恵は受けられず、蘇生も受けられないと知っていたのに。気がついた時にはカイトを突き飛ばして助けてしまっていた。


「わしも変化しとるのかの…」


首を横に振り、不機嫌に馬車に乗り込むと席に寝転んだ。


「なんかあった?」


アジルにおんぶされ、徒歩で帰って来たマールとアジルは遠目からその状況を確認する。ふと、アジルの足に何かが引っかかる。それは腹を刺し貫かれ内臓を引き摺り出されて絶命しているサジである。


「おっちゃんがまた死んでる!?」


カイトが準備した大量の食糧のおかげもあり、再びサジは蘇生された。


「結局一日分になってしまいましたね…」


カイトは食糧の残りを見ながら途方に暮れている。ただ悪いことばかりではなく、黒金の馬車の屋根上に大量のホモアントの亡骸やキングホモアントの甲殻が万歳されており、乗り切らなかった分は装具を入れていた馬車に放り込まれている。すでに空は夜、夜は極寒になる砂漠の冷たい空気を感じて身震いした。本来なら出発する予定ではあったが、戦闘の疲労を残したまま行軍を慣行する訳にもいかず、マールの取ってきた海魔で腹を満たしてから深夜の出発となる。


遠くで女性陣が清潔な水をふんだんに使いシャワーを楽しむ声が響いている。深夜までは時間があるため、シャワーを進めたのだ。男性陣は大人しく桶の水で身体を拭いている。


「カイトくん!おいで!拭いてあげよう!」


ニッコニコのアジルに誘われる。


「い、いえ、私は自分でやります」


「残念だな…」


アジルの目は直ぐにゼノリコへ向く、ゼノリコは実に忌々しげな顔をしている。


「一応、わしは女子扱いなんじゃがの…ゼオラのやつめ!1発喰らわせおってからに…」


女性陣のシャワーに一緒に行って、ゼオラに外へ放り出されたらしい、頬にくっきりと拳のあとがついている。その後、シャワーを浴びて戻って来たゼオラに連れていかれ上機嫌で帰って来たのは言うまでもない。


ちょっと色々盛りすぎました。次回はいよいよバゼラードへ到着します。

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