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短編集

推しカプの義娘に転生しました。毎日ニヤニヤが止まりません。

『政略結婚をしたらいきなり子持ちになりました。義娘が私たち夫婦をニヤニヤしながら観察してきます。』のフィーナsideのお話です。

そのままでもお楽しみいただけますが、『政略結婚〜』をお読みいただいてからの方がより楽しめるかと思います。

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「マジか」



 目が覚めて第一声がそれだった。


 小さくてモチッとした紅葉のような手。

 ふっくらとしてきめ細やかな白い肌。

 サラサラ艶々な銀糸のような髪。

 目はクリックリで宝石のアメジストが嵌め込まれたように美しい。



「えっぐいぐらい美少女じゃん……」



 鏡を前にそう溢してしまうのも仕方がないというもの。

 目の前にいたのは生前擦り切れるほど読み込んだ大好きなシリーズのキャラクター。それも推しカプの義娘であるフィーナではないか。

 小説は実用、観賞用、布教用でしっかりと複数冊を揃えていたし、特典はフルコンプしていた。特に推しカプであるアネットとクロヴィス夫婦のイラストカードは店舗をはしごして十枚集めた。


 昨晩夢に見たのは、きっと前世の記憶というものだろう。

 社会人一人暮らしを満喫していた私は、趣味を極めて日々楽しく暮らしていた。

 最後の記憶が眼前に迫る車のヘッドライトだったから、多分事故死したのね。くう……最終回を見届けられなかった作品たちを思うと涙が止まらないわ。


 とりあえず落ち着いて、前世の記憶と今世の記憶を整理しましょう。


 えーっと、フィーナの記憶によると……

 ……

 …………

 ………………えっ!?

 今日からアネットとクロヴィスの子供になるの!?


 なんてこと!!!

 めちゃくちゃ大事な日じゃないの!!!


 そう、何を隠そう私の最推しであり尊き推しカプ、それが今日から両親となるアネットとクロヴィスなのだ。

 養子縁組の書類が受理されて、今日から正式に二人の義理の娘になった私。

 実の両親を不運な事故で亡くしたフィーナは、数日前からアンソン辺境伯家に転がり込んでいた。


 今私がいるのはフィーナのために用意された部屋。

 淡いピンクがベースの部屋で、小ぶりな花柄の壁紙も、設られた家具も、ベッドにいくつも用意されたぬいぐるみもどれもこれも可愛いの塊。センスがいい。


 さて、今日が養子縁組成立の日ということは、二人の結婚式でもあるということ。

 私もこの後、専属侍女のクロエに身なりを整えてもらって参列する予定になっている。原作通りね。


 問題は夜よ。

 アネットとクロヴィスは幼い頃から手紙で交流を重ねて、顔を合わせたのはデビュタントの時だけ。

 お互いにその時に一目惚れして、祖父同士が決めた政略結婚とはいえ、二人の間には愛がある。

 でも、そのことに当の本人たちが気づいていない。


 想い合っているのに、お互いの気持ちを尊重しすぎるがために一線を踏み越えられないときた。

 それもまた尊いんだけど、初夜を逃した二人はそのままタイミングが掴めずに白い結婚が続いてしまう。


 貴族の付き合いや様々な思惑が蔓延る夜会にも、王家主催など、どうしてもパートナーの同伴が必要な時を除いて、クロヴィスはアネットを連れて行かなかった。他の男たちの不躾な視線に晒したくないという独占欲もそこには絡んできてたまらんのだが、その気遣いがアネットを悩ませることになる。

 そうして小さなボタンのかけ違いが続き、お互いのためにも身を引くべきなのでは、と二人が考えていたタイミングで原作小説のヒロイン登場!

 クロヴィスの事情を聞いて、愛しい妻を自由にするために自分を利用しろと言いよるのよね。とんだ女狐よ。泥棒猫め!

 最終的にアネットとクロヴィスは互いを愛するが故に離縁してしまう。そしてクロヴィスはヒロインと結ばれるっていうクロアネ推しにとっての最悪の結末。


 原作ファンの間でも、根強い人気を誇る二人。かくいう私もクロアネ夫婦が最推しである。


 とにかく、私が二人の義娘になったからには略奪エンドとかいうバッドエンドは断固回避よ!

 まずは今日、無事に二人の初夜を成立させるんだから!!!


 原作小説を読んでいた時は、すれ違いにすれ違いを重ねる二人に、どうにか私の声が届かないかと何度も思ったものだ。それが今は叶うのだ。もはやこれは神に課せられた私の使命。



「目指せ! 甘々の初夜! 滅びよ! 白い結婚!」


「……フィーナお嬢様?」



 気合を入れて、「えいえいおー!」と仁王立ちで拳を突き上げたタイミングでクロエが部屋に入ってきた。自分の世界に入り込んでいてノックの音が聞こえなかった。



「あ、クロエ。おはよう」


「お、おはようございます……ええと、どこか具合でも悪いのでしょうか?」



 にっこりと愛らしい笑顔で挨拶をするけれど、優秀な専属侍女は、当惑した様子で私の額に手のひらを当ててきた。失礼な。元気モリモリ気合十分よ。



「ねえ、クロエ。フィーはおとうたまとおかあたまのむすめになれてうれしいのです。ふたりにはなかよしでいてほしいの」


「お嬢様……ええ、ええ。そうですね。私もアンソン家の一員として、お二人の幸せを願っております」



 クロエの言葉には嘘偽りはなく、心からのものだった。

 よし、決めた。クロエを私の協力者にする!

 兎にも角にも今夜が最重要な分岐ポイントなんだから! 

 フィーナちゃん、頑張る!




 ◇◇◇




「さいっっこうの結婚式だったわ……ズビ」


「フィーナお嬢様、泣きすぎです」



 前世の記憶が戻って初対面した両親は、それはもう眩しくて目が潰れるかと思った。

 だって、ただでさえ美形なのに結婚式仕様でウエディングドレスとタキシード姿だったのよ!?

 鼻血を吹いて倒れなかっただけ褒めてほしい。危うく真っ白なドレスとタキシードが血に染まるところだったわ。

 カメラが欲しい。切実に。同人誌作成で培った画力でフレッシュな記憶を描きとめておくしかないわ。



「クロエ、後で紙と筆を持ってきてちょうだい」


「はあ……お嬢様、随分と流暢に話されますね」


「あっ。うふ」



 思わず素で話してしまった。四歳児がこんなこと言わないよね、普通。

 取り繕ってみたけど、多分無駄な足掻きね。クロエは怪訝な顔をしているけど、深く追求するつもりはないらしく、いそいそと私の寝支度を整えてくれている。常に四歳児らしく振る舞うのも疲れるし、クロエの前では素でいきましょう。


 さあ、原作通りなら、ウブ過ぎる二人がそろそろ私を呼びに来る頃合いね。


 ちょうどその時、控えめに扉がノックされた。

 クロエが出ると、戸惑った様子の侍女が声を落として何かを言っている。


 来たわね。お呼び出しよ。


 呼びに来てくれた侍女と同じ顔で私を見るクロエ。言いにくそうに口をモゴモゴまごつかせている。



「お父様とお母様が私と一緒に寝ると言っているのね? いいわ、行きましょう」



 まだ何も言っていないのに、と驚いた様子のクロエの手を引いて、私は戦場へ向かう戦士の心持ちで広い廊下を進んでいく。原作のフィーナは両親を失った悲しみに暮れていて、温もりを強く欲していた。だから二人と一緒に寝ようと誘われて、心から喜んで一緒に寝たのよね。うん、普通はそうだと思う。でも私は違うわ!



「いい、クロエ。絶対に初夜の邪魔はしてはいけないの。私は今夜クロエと寝るわ」


「お嬢様……ええ、分かりました」



 たのもー! と心の中で叫びつつ両親の寝室の扉を開けた。

 薄暗い部屋の中、微妙な距離感を保ったままベッドサイドに棒立ちしている二人。

 アネットお母様は高級感のある上品なネグリジェを、クロヴィスお父様はバスローブを身に纏っている。


 くっっっっっ!!! なんて破壊力なの!!!

 ダメよ、フィーナ。まだ私は倒れるわけにはいかないわ!!



「フィーナ、私たちは今日から家族になるのだから、今日は三人で一緒に寝ましょう?」



 淡いブロンドの髪を耳にかけ、私に手を差し伸べるアネットお母様。

 その手に飛びつきたい衝動をグッと抑えて、私は四歳児モードに切り替える。



「ダメですわっ! しょやは! きょうかぎり! ダメダメ! ぜったいしょやのほうがたいせつですから! フィーはクロエのへやでねますの! ですのでごゆっっっくりしょやをおすごしくださいませ」



 私の言葉に、ギョッと目を見開くお父様とお母様。その驚いた顔もたまりませんね!



「フィ、フィーナ? いいのよ、気を遣わなくても。私たちはあなたと早く本当の親子になりたいの。だから、ね? 一緒に寝ましょう?」


「いやでしゅ! フィーはクロエとねましゅ!」


「あっ、待って……!」



 なおも食い下がるアネットお母様にくるりと背を向けて、私はクロエの腕に絡みついてグイグイと扉に向かっていく。クロエも屋敷の主人夫婦を前に躊躇いが見えるが、二人の初夜を邪魔したくないという気持ちは同じはず。覚悟を決めた様子で私に同行してくれる。



「では、おやすみなさいませ〜! あちたのちょうしょくも、やしきのみんなとたべます。おきになさらず、ゆっくりからだをやすめてくださいね、おかあたま」


「え、ええ……」



 呆けたお顔もまた麗しい。私は二人を置いてさっさと部屋を出た。



「フィーナお嬢様……」


「しっ! 静かに!」



 部屋に二人きりにすることには成功した。けれど、二人のことだからこのままうまくいくとは限らない。少し様子を見守らなければならない。いいえ、決して覗き見だなんて悪趣味なことは致しませんよ。


 扉を閉め切らずに、中の音が聞こえる程度に少しだけ開けておき、耳をそば立てる。

 うーん、何やら会話をしているようだけど、よく聞こえないなあ。


 小声でクロエに止められつつ、扉のギリギリまで顔を寄せる。



「ひゃ、旦那様!?」


「アネット。愛している。今宵は君と夫婦になれた喜びを噛み締めさせてほしい」



 エンダァァァァァァ!!!!!


 やったわ! よくやったわクロヴィスお父様! これで白い結婚は免れたわ!


 辛うじて聞き取れた二人の言葉と、ベッドの軋む音。

 二人が無事に初夜を迎えられそうだと確認したところで、私は扉を閉め切って立ち上がった。



「もう大丈夫よ。さあ、私たちも戻って休みましょう」


「え、ええ……」



 未だ戸惑いが隠せないといった様子のクロエの手を引いて、私はスキップで自室へと戻った。


 ミッションコンプリート!!!

 私はこれからもフィーナとして、子供の特権を存分に活かしながら二人の仲を取り持つのよ!


 こうして私の推しカプ仲良し計画が始まったのだった。




 ◇◇◇



 無事に初夜を迎えた両親は、気恥ずかしそうにしながらも互いの気持ちを信じて関係を深めていっている。


 私はというと、ちょっとした援護射撃は日常茶飯事で、毎日萌えを浴びさせてもらっている。


 お父様を見送りに出た時に、少しの悪戯心もあって、口にチューすればいいのにって言ったら本当にしてくれて、耳を真っ赤にするお父様も、はわわと両頬を抑えて蹲るお母様も可愛すぎて心臓が潰れるかと思ったわ。


 膝をついて動けなくなった私を呆れたようにクロエが抱き抱えて部屋に運んでくれた。


 部屋に入るや否や、バタン、とベッドに仰向けに倒れた私をクロエが心配そうに覗き込んでくる。



「お嬢様。大丈夫ですか?」


「大丈夫よ。危うく尊死するところだったけど」


「尊死……?」


「ええ。尊すぎて死にそうってこと。お父様とお母様が幸せそうに微笑みあってるだけで……うっ、心臓が」



 先ほどの映像が脳内でフラッシュバックして心臓がギュッとなった。尊い。



「お嬢様は面白い表現をなさいますね」



 私の行動を咎めずに見守ってくれているクロエには、本当に感謝している。

 貴族令嬢にふさわしくないと厳しく躾けられてもおかしくない行動をしている自覚はある。

 あ、もちろん必要な勉強はしているわよ。両親の顔に泥を塗るわけにはいかないもの!!



「お嬢様の行動を咎めるつもりも止めるつもりもありませんが――」


「え? 何?」



 おっと、珍しくクロエが真剣な顔でこちらを見ている。

 そしてそっと差し出されたのは、鏡だった。

 何? 鏡がどうしたの? と目で訴えながらもとりあえず受け取った。


 そして促されるがままに鏡を覗き込むと――


 ……これはいかん。

 鏡の中にいたのは、だらしなく頬を緩ませてちょっぴり涎を垂らしている不審な幼女だった。


 うん。いくらフィーナが美少女だからって、ニヤニヤしながら涎垂らすのはいただけない。

 最愛のパパンとママンに余計な心配もかけたくない。



「よし。表情筋を鍛えるわよ」



 この日から私は朝昼晩と鏡に向かって、大きく口を開けたり、イーッと目一杯頬を伸ばしたり、とにかく心の声が顔に出ないように特訓を始めた。


 クロエは相変わらずスンとした顔で見守ってくれている。本当によくできたメイドだわ。




 ◇◇◇




 ある日、クロヴィスお父様が街の視察帰りにケーキを買って帰ってきた。

 中庭のガゼボで三人で遅めのおやつタイムを取ることになった。


 私は絶対に二人の間には座らない。対面に座る。

 少し寂しそうな顔をされるけれど、「フィーは、おとうたまとおかあたまがなかよしなところをみるのがしあわせなのです」と微笑むと、頬を染めながらも好きな席に座ることを許される。


 こうした時、極力私は気配を消すようにしている。

 二人が二人だけの世界に入り込めるようにだ。


 今も、お父様は美味しそうにケーキを食べるお母様に釘付けだ。

 私はそんな二人の様子に釘付けなんだけど。鍛え抜かれた表情筋で頬が緩みそうになるのを必死に防ぐ。



「ふ……アネット、クリームがついているぞ」


「えっ!? お、お恥ずかしい……取れましたか?」


「いや……失礼」



 夢中でケーキを食べていた無邪気なお母様の頬にクリームがついてしまったらしい。

 お父様は愛おしげに微笑むと、親指の腹でお母様の頬についたクリームを拭ってパクリと食べてしまった。

 お母様は「えっ!?」と真っ赤に顔を染めているけれど……



「ぐうう、そこは舌でぺろっと舐めるところでしょうが……!!」


「なっ!?」


「へっ!?」


「あっ……うふふ、なんちゃって?」



 思わず拳を握りしめながら漏らした本音が聞こえてしまったようだ。いけないいけない。

 お父様もお母様も顔を真っ赤にして視線を合わせては逸らしてを繰り返している。

 お父様って拳で照れ顔を隠す癖があって、たまらなく萌える。

 お母様は言わずもがな可愛いの塊で、お父様を前にした時に乙女の顔をするのが最高に萌える。



「くぅ、堪らん……」


「堪りませんね……」



 今度は二人に聞こえないように声を振り絞った。

 すると、背後から同意する声が落ちてきたので振り向くと、クロエが僅かに天を仰いで合掌していた。


 私とずっと一緒に過ごしているからか、最近のクロエはどうにも私の影響を如実に受けているように見える。萌えは万国共通だものね。分かるわ。こちら側へようこそ。




 ◇◇◇



 また別のある日のこと、私は二人が廊下で立ち話をしているところを発見した。

 耳に届く心地いい笑い声は、二人が着実に良好な関係を築いていることを表している。



「二人の関係は順調ね。うーん、でも……たまにまだよそよそしい時があるのよね」



 二人きりの時はピタリとくっつくように身を寄せ合っているけれど、今いる廊下や食堂といったように、人目につくところでは一定の距離を保っている。節度があって好ましく思えるけれど、私からしたら人前でももっとイチャつけ! と思ってしまう。使用人たちだって、屋敷の主人夫婦が仲良しこよしで嬉しいに決まっているもの。


 さてさて、今日も少しお節介を焼くとしますか。


 私はお母様の背後に回り込み、気配を殺してゆっくりと接近する。

 お母様にぶつかるふりをしてお父様に抱きとめさせる作戦よ!


 ハァ……ハァ……とこの後の展開を妄想して激る気持ちを抑えながら、ジリジリとお母様の背後に忍び寄る。



「……はっ!」



 よーし、と両手を引いたところで、二人の背後にヌッと現れたクロエとバチンと視線が交わった。


 うっ……ま、まずいわ!

 お母様を押そうものなら、流石にひどく叱られてしまうだろう。


 そう思って渋々両手を下げようとして――


 クロエがため息を吐きながら、フイと視線を逸らせた。


 こ、これは……!

 分かる。分かるわ!私には分かる!


 これは、(まったく……仕方がありませんね。文字通り目を瞑ってあげます)ということね、クロエ!!

 その証拠に、決定的瞬間を捉えるべくクロエは薄目を開けている。


 よーし、任せてちょうだい! 仕切り直して……



「おっとっとぉ〜、フィーちゃんつまづいちゃいましたわ!」


「きゃっ、フィ、フィー!? わっ」


「おっ、と……大丈夫か?」


「あ……す、すみませんっ」


「いや、いい。気にするな」



 私がぶつかったことでよろけたお母様をしっかとお父様が抱き留めた。

 見間違いじゃなければ、ちゃっかりお母様の腰を抱き寄せている。あまりの至近距離にお母様は頬を薔薇色に染めているし……お互いがお互いに釘付けになって瞳を潤ませている。二人の顔が近い。


 カーーーーッ!!! 尊いッ!!! ピュアかっ!!!

 やだもう!!! 好きっ!!!


 グッジョブ過ぎるわ、私。

 尊い尊い尊い!!! 今すぐ布団にダイブしてのたうち回りたい!!!


 悶えながら二人の後方にいるクロエに視線を向けると――


 クロエあなた……手で口元を隠しているけれど、肩が震えているじゃない。分かるわ〜〜〜!!!

 あまりの尊さに打ち震えているのね!! 後で存分に語り合いましょう。



「はっ! フィ、フィーナ? 大丈夫? どこかぶつけたのかしら……」


「ごほん。フィーナ、危ないだろう、気をつけなさい」


「ぐふ……はっ! は、はい。きをつけまちゅ」



 私がピュアピュアでラブラブな波動に耐えきれずに両手で顔を覆ってうずくまったから、お父様とお母様が心配して側に寄ってきた。



「問題ありません。萌えの過剰摂取による発作です」



 サッと素早く私の背後に立ったクロエが、ひょいと私を抱き上げて自室へと連れて行ってくれた。



「もえ……? 過剰摂取……?」



 後ろからは戸惑う両親二人の声が聞こえて来た。


 部屋に帰ってしばらくしてから心配した二人が様子を見に来てくれた。


 優しくて尊い両親に囲まれて、本当に毎日幸せだわっ!




 ◇◇◇



 お父様とお母様に連れられて街に出かけたある日の夜。

 私はすっかり日課となったクロアネ観察日記にペンを走らせている。


 さて、確かそろそろ王都での社交シーズンね。

 辺境伯領は王都からかなり遠いし、国境の警備があるから長期間この地を不在にすることはできない。

 けれど、王家主催の大きなパーティには参加するはずだ。


 そう、そのパーティで原作小説だとクロヴィスがヒロインと出会うのよね。王都まで連れ出すのは憚られると、アネットは留守番させられて。


 でも、今のクロヴィスお父様は、王都にアネットお母様を連れていくはず。

 二人の関係は気兼ねなく遠方のパーティへの同伴を頼めるほどにまでは発展している。



「うん、二人でいればヒロインがお父様に接近することはないでしょうね。でも、念には念を入れておかなきゃね」



 不測の事態が起こることだって考えられる。

 例えば、ヒロインも私のような転生者であるといった場合。原作通りにクロヴィスお父様を待ち構えている可能性だってある。



「よし! どうにかして私も王都に連れていってもらわないとね!」



 もし、本当にヒロインが現れたら?

 フフン、いくらヒロインとはいえ、もう私の推しカプの間に割って入る余地はないわ!!!

 むしろ二人の尊さをこれでもかと布教してあげる所存よ。実は、密かに発足を試みている推しカプ愛好会に引き込もうと思っているわ。メンバーはもちろん、私、クロエ、ヒロインね! メンバーは随時募集中よ!


 さあ、どこからでもかかってらっしゃい!!!





 ――こうして、推しカプ守り隊を自称するフィーナの目論見通り、いずれ現れるヒロインもアネットとクロヴィス夫婦の虜となる……のかもしれない。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

挙動がおかしい幼女サイドのお話でした!

フィーナサイドにするとぶっ飛んだ話になりますね笑

クロエがお気に入りですv


よろしければブクマや評価を入れていただけましたら、執筆の励みになります。本当に読者様の反応が創作活動の糧となっております。


ヒロイン登場後も書きたいけど、それなら短編2本をまとめていい感じに連載版にしたい気持ち( ˘ω˘ )

そう、気持ちはある。だが、余裕はない( ˘ω˘ )

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― 新着の感想 ―
[良い点] フィーナとクロエがコンビで活躍する話、読みたいです! お忍びデート編と、夜会か茶会編を!ぜひ!
[一言] クロエをこっちに転生させて 「ああ、お嬢様のあれはこれだったか」 って思わせたい
[一言] フィーちゃんとクロエさん好きです(o^^o) 本編読んでとても面白くて好きだったので、続編とても嬉しかったです。 またヒロイン登場のお話も読めると嬉しいです。
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