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ただ、君を応援したかった  作者: 新川さとし
春 3月~6月
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第5話 その2

「相変わらずシズってすごいって思う。新入生だけじゃなくて、ウチの新歓コンはよそからも見に来るんでしょ? 軽く見ても千人をこすって言ってたけど。そんな大観衆を前にソロなんて、もう、プロ歌手じゃん」

「あ、それは吹部すいぶと一緒だからね。ふふ。恥ずかしいし、緊張しちゃうけど、挑戦できるのは嬉しいかな」


 確かに難しい。でも難しいことに挑戦するのは楽しみでもある。ただ、見えない壁に突き当たって、今はそれが心配なだけ。


「シズなら、絶対に大丈夫だからね。自信を持って」

「だといいんだけど、実際に練習してみると、足らないところだらけで嫌になっちゃう」

「シズは歌のことになると夢中だもんね。ふふふ、古川ッチもたいへ~ん」

「え? なんで、そこで彼が出てくるの?」


 突然、アイツの名前が出るなんて。純粋にビックリした。


「あ、ごめん、余計なお世話だったよね。たださ、横から見てると大変そうだなって思ったから」

「ううん、驚いただけだけど。何か大変そうなの?」


 確かに佳奈と三人で遊んだこともあるけど、普段は、アイツと佳奈ってあんまり交流してないよね?


「ウチら、一応、男バスとも仲が良いいんだ。それで、男子は、3年生にもなって、まだある人の勧誘を諦めてないの。そこまで言えばわかる?」


 ピンときた。


「酒井君が何か言ったの?」


 バスパート・リーダーの酒井君は、いまだに男バスに誘われているらしい。身長が185もあるし、スポーツ万能みたいだから、それはわかるんだけど。


 その人は、1年生の時に告白してきた人でもある。もちろん、その場で断ったけど、お互いに忘れたフリをしてきた。それなのに一体何を言ってるんだろ?


「聞いたよ。一緒にカラオケに行ったんでしょ、何度も。《《サカッち》》、すごく幸せそうだってさ」

「だって、それって合唱部の交流会だよ? それに、なんで、その話で彼が大変になるの?」


 今ひとつ、佳奈が何を言いたいのかわからない。皮肉やウワサだけを持ち出す人じゃないのは知ってるんだけど。


「だって土日は部活メインがウチらのデフォじゃん? たまの休みや空いた時間に交流会とかでしょ? で、サカッちは大喜び。これで古川ッチに同情しない子はいないと思うよ」

「え? なんで? 彼に同情?」


 言ってる意味がわからない。


 疑問符だらけで佳奈を見たら、マジマジと見つめ返された。

 

「シズ、それマジで言ってる? ……みたいだね」


 はぁ~ と佳奈は大きくため息をついた。これは本格的に心配されている感じだ。


「カナ? 私、何か悪いこと言った?」

「ううん。シズは悪くないよ。きっと本気で気付いてないのだろうから。でもさ」


 その時、階段の上から「カナ、ネット張るから!」と声がかかった。


「わかった!」

 

 返事をした佳奈は「とにかく、少しは古川ッチのことも見てあげなさいってこと。余計な口出ししてごめんね! じゃ、行くから」と階段を駆け上っていってしまった。


 むぅ~ 私は思わず口をとがらせてた。


 へんなの。


 アイツの何が大変なんだろ? そりゃ、さ、合唱部の幹部会を優先させてるから、アイツと二人のお出かけも初詣以来だけど、ほぼ毎日、会ってるし。


 デートに誘ってくれるんなら優先しちゃうけど、誘われるのは《《お出かけ》》だけだよ? それなら合唱部が優先。それはアイツも「そうしろ」って賛成してくれてるんだもん。


 アイツは無理なんてしてない。第一、無理するとか言う前に、告白もしてくれてないもんね。


 いつまでも放っておいた幼なじみちゃんが、毎晩のようにお部屋に行ってるんだよ? その気があったら、いつでも簡単に告白できちゃうし。そうしたら、キスだってできちゃうんだよ? 何だったら、その先だって……


 まさか私の方から迫るワケにもいかないし。そのくらいは待っても良いよね?


 アイツは私のオンリーワンだし、たぶん、私もアイツのオンリーワン。お互いに信頼しているんだから、何の無理もしてないはず。


 そのあたりの感覚は、他の人にはわからないんだろうな。


 でも、こういう忠告をしてくれる友人は大事にしなくちゃいけないよね。これからも頼りにしてるね、カナ。


自分で自分を納得させてから、準備の手伝いをしに階段を駆け上がった。

カクヨム様にて先行公開中です。

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