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ただ、君を応援したかった  作者: 新川さとし
春 3月~6月
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第2話 大きな愛で

 祐太は発想の転換をした。


 静香が何をどう思おうと、自分の気持ちだけは揺るがない。それは確かなのだと。


 自信はあった。


 それなら、後は簡単な話だ。愛されることを望むより、愛すれば良い。


『オレは静香を愛してる。愛って言うのは見返りがなくても相手を包めるからこそ愛なんだよな』


 わかったような、わからない理屈で強引に自分をねじ伏せた。だって、それしかなかったのだから。


 もちろん、マザーテレサの境地には、なかなかなれないのが男の子である。見返りを全く期待しないとまでは割り切れない。


 いつかは、カレカノ、恋人になりたいと思う気持ちはある。


 ただ、恋人だと思ってもらえないなら、側にいて笑い合え、《《頼られる人》》でいられればいいんじゃないかと思うことで、自分と折り合いを付けたのだ。


 別の言葉で言えば「覚悟を決めた」と言えるのかもしれない。


 静香が自分を恋の相手だとは思ってなくとも、必要な存在だと思っているのは確かなんだぞ、と自分に言い聞かた。


 今のところ「恋人」とは思ってもらえなくても、静香が頼りにし、好きな男性も祐太だけだと言うのも事実だ。間違いない。


 

 となれば、真面目路線で告白して傷つくよりも、小出しにしながら待てば良い。


 だから「今の関係を変える必要はないんだ」と考え方を変えたのだ。


 それが「告白をしない代わりに量とジョークでカバー」作戦となったわけだ。


 恋愛に疎い静香の言動に、いちいち悩んでも始まらない、とにかく静香を見守ろう。静香と楽しく過ごそう。だって、今のところ、自分がオンリーワンなのは確かだから。


 それが祐太にとって大切なことだ。


 だからこそ冗談だとわかりきったキス・ネタでも盛り上がれる。


 と言っても、同じネタでの往復もつまらない。


 ふと、口調を変えた。


「じゃあ、今度、手料理よろ」


 わざわざ言わなくても、一人暮らしの隣人・祐太のために、ちょくちょく作ってくれる静香だ。きっと、今日も来てくれるはず。


 それは二人の暗黙の了解だ。


「ふふふ。じゃあ、私のキスよりもお安い、鶏胸肉で何か作って上げる」

「おぉおお! やった」

「え? そこ喜ぶの?」


 大きな目を見開いてる。


『よし、ウケた」


 してやったり。


 なにしろ、鶏胸肉は祐太が唯一苦手にしている食材だ。もちろん、静香は、そんなことは先刻ご承知だ。


 びっくりしたままの顔の2秒後「やられた」と気が付いて、むぅ〜と唇を尖らせた。


 きっと他の肉で作ってくれるに決まっている。だから、素直に「静香の手料理」を喜んでみせただけのことだと気が付いたのだ。


 好きな人に作るのに、わざわざ嫌いな食材をつかうわけがないではないか。


 それを見抜かれての「やった!」だと気が付いたのだ。


 ウケたので、さらに調子に乗った。たたみかける攻撃というやつだ。


「あぁ、そりゃ、こーんなすごい美人に作ってもらえるなら、なんでも最高のごちそうですから」

「あら? 珍しく、褒められちゃったのかしら?」

「えええ! いっつも褒めてるじゃん」

「そうねぇ、どうせ、私のキスは鶏もも肉の値段ですものね~」

「いや、だから、それはトンコマで」

「まだ、言ってる!」

「それは、静香が!」


 クスクス


 クスクス


 お互いに笑い合う。


 最高にくだらない、最高に楽しい時間。


 そこで祐太は、また口調を変えた。


「ちゃんと勉強したんだろ?」

「うん。バッチリ」

 

 数学の小テストのこと。


 祐太の3組は昨日で、静香の4組は今日。自分のやった小テストの「情報」を送っておいた。1年の時からしてきたことだ。同じ問題は出なくても、予想は可能となる。


「いつも助かるぅ。おかげで小テスト、ず〜っと満点だよ」

「チッ。情報を渡した方の点数が低いってのはなんだか微妙だよなぁ」


 静香は真面目な性格だけにキッチリと点数を稼いでるんだろう。静香が目指す芸大受験のためには共通テストの数学は必須である。


「いーの、いーの。だって、結局2年生までの成績は祐太の方がぜんぜん上だったじゃない。模試だっていっつも学年上位なんだもん。凡人のワタクシといたしましては平常点くらい稼がないとね」

「け、何が凡人だよ」


 凡人どころか間違いなく「スター」だ。


 誰がどう見ても、間違いなく美人と言われるだろう。美紀さん譲りの彫りの深い顔立ちは、幼さと美しさを両立させながら、知的に輝く瞳のおかげで輝くばかりに美しい。


 二人で街を歩けば、すれ違う人がみんな振り返るのを実感してしまう。しかも単なる美形ではなくて、いわゆる「感じのいい子」というオーラまでまとっている。


『それに、こ〜っそり言っちまうとブレザーの下に隠れている推定Eカップの胸は、さすがに男子のウワサになってきたもんな』


 そのスゴさを、Tシャツ越しとは言え、モロに見ているのは自分だけだろうと祐太は思う。


 視線の煩わしさを感じてたのか、高校生になったくらいから、だんだんと胸元の目立たない服装が多くなったのを祐太だけは知っている。


 それに、と祐太は思う。


『静香のスゴさは見た目だけじゃないもんな』


 中身だって、すごい。


 真面目な努力家で、歌に対しての一生懸命さは誰にも知られている。熱中している分だけ「歌」の実力だって文句なし。合唱とは言え、どれだけ多くの人間と歌っても、祐太の耳には静香の声が一際ハリのある美声に聞こえてしまうのだ。


 カリスマ的な人望を集める合唱部のマドンナ部長は、さわやかな優しさを持っていると評判だ。


『一番うらやましいのは、誰とでも偏見なく話ができる抜群のコミュ力だけどさ』


 学校での人気は、まさしく「スター」だ。横にいると、なんだか邪魔してしまう気がして、少なくとも校内では近寄らないようにしているほどだ。


 モブを自認する祐太にとって、一緒にいられる朝のひと時は大好きな時間だった。




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