第1話 その2
高校生になった4月。二人でお出かけした時のこと。もう、丸2年も前になる。
市の美術館に行って現代アート展を見た。
静香はいつにも増して可愛かったし、自然な形で手もつないだ。
最高に楽しかった。嬉しかった。
好きな女の子とのデートに浮かれないオトコなんているわけがない。
『今日の静香は、いつもよりもずっと綺麗だ!』
春向きのライムグリーンのブラウスが、細い身体と肩までの漆黒の黒髪によく似合っている。あまりにも可愛かった。
朝からの高いテンションが、つい「静香は、ホントに可愛いね」と口走らせた。
一瞬、キョトンとしてから、それがほめ言葉だと理解した静香は、真っ赤になった。
自分の言葉で、こんなに可愛い反応をしてくれたのだ。嬉しさで有頂天となるのは男の子である。
ついつい、言うに言えなかった本音を口走ってしまった。
「今日のデートを、すごく楽しみにしていたんだよ!」
しかし「私もよ」と言うセリフを期待した目に映ったのは、笑いころげる静香だったのだ!
「祐太ってばぁ! デート? クスクスクス それ最高よ!」
精一杯の想いを込めたセリフは、その日に一番ウケたジョークになってしまった。
静香に悪意のないことを祐太が一番よく知っている。二人で出かけることは受け入れても、それが「デート」として認識されてないだけなのだ。
そこに気付いたときの絶望感たるやない。
『これって、いくら頑張っても、自分は恋人になれないってことなんじゃね?』
二人っきりのお出かけを嫌がるなんて考えもしないほどに自然な関係だ。誘えばどこだって来てくれる。
やったこともないし、するつもりもないけど、《《大人の場所》》に入ろうって言ったら、断られない自信があるくらいだ。
まあ、普段から一人暮らしの祐太の部屋で二人っきりになっているから、もしも《《その気》》になったなら、改めて、そういう場所に行く必要は無いのだが。
ともかくとして、信頼関係がバッチリなのは確かだ。
デートして、いー雰囲気を作って、キス。
男の子が考えるオーソドックスなんて、こんなものだ。けれども、せっかく二人で出かけているのに「デート」だと思ってもらえないなら、どうしたらいいのか。
途方に暮れた。
これが、まだ「嫌い」と言われるなら考えようもある。好きになってもらえる努力をすれば良い。はたまた、どれだけ辛くても「失恋」なら立ち直れる日は必ずやってくる。
しかし、これは、どうにもならない。
静香は、自分の「好き」と「それ以外」がハッキリしている。祐太のことは「好き」なのだ。確かなこと。
しかし、それが「恋愛」なのかと言えば、違うらしいのだ。
何をどうすれば良いのか、わからない。だから、せめて応援しようとした。
子どもの頃から歌が好きな静香だ。実際、静香の歌は素晴らしい。今は合唱部に全てを捧げている感じだ。
だから、どんなにイケメンだろうと、カッコ良かろうと、はたまた、どんなにスポーツ万能だろうと、男達の告白は、全て、1ミリのためらいもなく断ってきた。
幼なじみである祐太以外の男が近づける気配はなかった。
祐太だけは特別なのである。
二人でお出かけもするし、なんだったら、毎晩のように会ってもいる。なんでも話せて、お互いがお互いを知り尽くしている関係。
あまりにも仲が良いから、二人はカレカノだと思っている人間も多かった。
それだけ、二人の関係は密接だったのだ。
だが、二人のお出かけが「デート」と認識されないようでは恋愛にもならない。恋とは、相手に認識されてから始まる…… あるいは終わるのだから。
『オレは最も近くにいて、そして最も「恋人」から遠い存在ってことか』
どうにも、気持ちの持って行きようがなかった。
そこから、発想したのが、今のやり方だったのだ。
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