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ただ、君を応援したかった  作者: 新川さとし
冬 12月~3月
148/169

第33話 片恋

 許せない、許せない、許せない!


 クソ女め!


 ちょっと歌がうまいからって。

 ちょっと顔がいいからって。

 ちょっと胸がデカいからと言って。

 

 海外留学? 世界のトップを目指す? しかも特待生扱いにしてもらえる上に、住むところもタダだって?


 なに、その待遇!


 しかも、留学先では世界の巨匠の愛人になりながら、ちゃっかり、日本には一途に思ってくれる幼なじみがいる?


 ありえない!


 なんで、アンタばっかり、そんなに良い思いをしてるんだよ! このメスブタ!


 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死んじまえ!


 ハア ハア ハア


 私は、ちっとも上手くない息子に浮気されまくって、病気までうつされたんだよ? 

 

 アイツと付き合って良かったのは、女バスを中心とした、名前も知らない後輩達から羨ましがられただけじゃん。しかも、最後は「浮気したロリコンに捨てられた」ってウワサされて蔑まれたんだ。


 何よ、この差は!


 何とかして引きずり落としてやらないと。


 一生懸命努力してる私が、こんな嫌な思いをしてるんだよ?


 アンタは何にもしてないじゃん! ただ、のほほーんとしてただけ。


 運が良かっただけでしょ。


 とっても優しくて、一途な幼なじみに庇われて、楽しいことばっかりやって過ごしてたら、大物に見こまれてのシンデレラストーリー。


 日本中のアイドル? 


 JK歌姫だぁ?


 そんなの許されるわけないじゃん。


 絶対に何とかしてやる!


 どうしたらいい? 考えるのよ、私。このまま良い思いばっかりさせたらダメ。だって、こんな不公平は許されたらダメだもん。


 私は、前の席に座る黒髪を見つめながら、そればかりを考えていた。


 ちょっと待って。留学の件は手が出せないけど、一つくらいは壊せるんじゃないの?

 

 そうよ。


 あのメスブタの弱み。


 ()()との仲を壊せば、うまく行くと留学だって失敗するかも。


 ああああ! それよ! それなんだわ!


 でも、どうしたらいい? あのお人好しを、どうやって裏切らせるの?


 やっぱりあれよね。寝取られ。


 いくらアイツでも、ネトラレを突きつけられたら捨てるわ。少なくともケンカくらいはする。


 さっきの雰囲気だと、あの大物の家に住むことは喋っても、()()()()()ってことことは言ってないわけでしょ? まあ、喋れるわけがないわね。


 だから、そこをハッキリさせてあげればいいのよ。お前の彼女は、あのオヤジの愛人になりに行くんだぞって。


 外国でヤリまくりだけど、良いの? って、誰よりも《《心配してあげよう》》!


 待って、待って、待って。


 じゃあ、どうしたらいい?


 古川と私は、話したこともないのに、いきなり話を持ちだしても信じないかもしれないだろうし。


 私は、問題を解答するよりも、どうやってあの男に渡りを付けるかばかりを考えていた。


 そして、国語の時間が終わったときに、明確なプランができあがっていた。


 ふふふ。


 チャンス(くるしみ)は平等にね? 


 シズ。私の い と し い 人。


 

・・・・・・・・・・・

   


 教室がうちの生徒ばかりだったんで、最初からアガらなかったし、全力は出せたかな?


 気になるって言えば、何人かの欠席者。まあ、フミ高と言えども「義務としての受験」だけだとモチベが上がらないヤツは、なんだかんだと理由を付けて受けに来ないのは知っている。ただ、休んだ中に広田佳奈がいた。


『アイツは、ガチ勢だったはずなのにな』


 推薦を選ばなかった。学芸大の中学、理科を狙っていたから絶対に受けると思っていたんだけど。


 まあ、とりあえず今日の試験が終わった。


 ふぅ~


 群れに交ざって校門を出ると、そこには怪しいバイクがいて、帰る受験生達はチラチラと視線を送りながら、関わらないようにしていた。


「待たせた」

「いや、終わる時間はわかってたからな。メットはこれを使え」

「あぁ、わかった」


 渡されたヘルメットは、ジェット型とか言うヤツだった。被った途端に、思わぬほど明瞭な声が聞こえた。


「あ~ あ~ 古川、聞こえるか?」


 ヘルメットの中だ。


「なんだよ。ヘッドセット付かよ」

「あぁ。こうしないと聞こえないからな。じゃ、行くぞ」


 走り出すと同時に「どうだった」と宗一郎。


「まあまあだったかな。ただ、広田さんが休んでたのが気になった」

「……」


 どうやら、いきなりピンポイントだったらしい。しかも宗一郎の反応が珍しいほどに悪い。


「何か知ってるんだな? それに絡んだ話か?」


 宗一郎が悩むのであれば、どっちみちややっこしい話に決まっていた。


「古川。すまん」

「どうしたんだよ」

「お前しか頼れない」


 ビックリした。知恵者の宗一郎が、そんな言い方をするのは珍しい。


「広田さん関連か? ってことは女バスがらみ…… なわけはないな」

「実は女バスが絡んでることは絡んでる。雷漢と迷ったんだが、ヤツは広田さんとのつながりがないし、キャラ的に説得役には向かない」

 

 ん? 説得役? で、雷漢を呼ぶか、オレを呼ぶかで迷った? 


 女バス絡み…… 

 

 まてよ、それって、どこかであったぞ。


「こんな時に貧乏くじを引かせてしまってすまん」

「いや、お前との仲だろ。オレにできることなら手伝わせてくれ。それにしても、お前も東京に戻ってくるそうそう、大変だな」

「偶然って言うよりも、必然だったかもな」


 走りながら、衝撃の話を聞いた。


 広田さんが妊娠したということ。しかも、自殺未遂。


 それだけでもお腹いっぱいなのに、()()は酒井光輝だという。


「なんでそうなった?」

「茉莉ちゃんの時に、偶然、女バスの2年生がバスケマンの家に行くところを見たのは覚えてるか?」


 あ、それか!


「思いだしたよ。確か2年の中心になった子だろ?」

「ああ。広田さんの後で、ガードをやっていた子だ。結局、こっそり付き合っていたらしい」


 やれやれ、手広いことだ。


「しかし、それと広田さんとは関係が?」

「どうやら、後輩ちゃん…… 山川さんって言うんだけど。ま、要するに『後輩に手を出すな』ってなことを佳奈が交渉しようとしたらしい」


 ふうと小さなため息。


 小さな違和感を、オレは感じた。


「ミイラ取りがミイラになったってことか?」

「もとから、女バスにはバスケマンのファンが多いんだよ。佳奈も中学時代からヤツのことを知っていたんだ。片思いしていたんだぞ」

「それにしたってなぁ」


 その時、ふと気が付いた。宗一郎が「佳奈」呼びをしている。しかも何でそんなに詳しいんだ?


 迷った。


 でも、確かめずにいられなかった。おそらく、そこにオレが呼ばれたカギがあるに違いないのだ。


「なあ、なんで、そこまで詳しいんだ? お前にしては珍しくないか? クラスメイトの中学時代の片思いだなんて事情を知ってるのは」


 バイクが、多摩地域中央病院の駐車場に入ったところだった。


 エンジンを止めた宗一郎は、オレに真っ直ぐ向き合ったんだ。


「広田佳奈は、オレの幼なじみなんだ」

「え? マジ?」


 そして、その辛そうな顔でオレも察したんだ。


「まさか、おい?」


 それは、オレが見る初めての、宗一郎の涙だったかも。


「あぁ。そうだよ」


 ふっと見上げた病院の窓からは、光がまぶしいほどだ。


「佳奈は、オレの初恋で、そして…… 今も、好きなんだ」


 オレは言葉が出なかった。





宗一郎君は「風が恋人」でしたが、初恋をずっと背負っていたせいです。

もちろん、それを告白したことはないです。

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