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ただ、君を応援したかった  作者: 新川さとし
冬 12月~3月

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第25話 ラプソディ・イン・ラブ(ホ)

本日は実質3話構成のお買い得。

悲喜こもごものシーンをお楽しみください。


 新宿歌舞伎町


 ラブホの入り口で若いカップルが、しぶる相手をなだめながら入ろうとしている。


 さんざん説得して、やっと連れ込むことに成功したのだ。とは言え、まだ相手は納得をしてないのだろう。足が止まりがちなのを、肩を抱くようにして逃さぬ動き。


 こんなカップルは、ときどきいる。


「へへへ。先っちょだけ、先っちょだけからね~「ペシ!」ぶへっ」

「いい加減にしろ」 

「いけず~ ホントなのにぃ」

「先っちょも何も、なんにもしない約束だぞ」

「なんにもしませんってば~ 嫌がることはね。ぐへへへ 嫌よ嫌よと言っても下の口は正直だの「ペシペシ!」ぶへぇ」


 再び、チョップ。


 がびーんとのけ反って白目になるのはオヤクソク。


 しかし、ここまで来たらゴチャゴチャしない方が良いという危機管理意識が強かったのも事実だ。


 知り合いに見られる可能性はゼロに近いが、万が一、怪しまれて職質を受けるとシュガーの年齢がネックとなりかねない。


 それは避けないとダメだ。

 

 サッサとパネルで部屋を選んで、サッサと部屋に行く。そこに情緒とか恥じらいとか、ましてためらいなど微塵もない。


 とにかく部屋に入ってしまおう。


 それだけが頭にある。


 逆に、部屋が近づくにつれて、オドオドしだしたのが珠恵である。


「ん? あ、ちゃんと言っただろ? そういうことをするつもりはないって。心配するなって」


 ドアを開けながら優しく言った。何がどうであれ女の子に無理やりすることだけはない。その程度には自分を信じてもいる。


「いえ。あの、あのぉ、していただくのは大歓迎なんですけど、っていうか尊い」

「いや、しないから」

「そんなぁ。タマちゃん、準備バッチリなのに」


 珠恵の言うことは本当だ。まさかの時用にヘアのお手入れもバッチリしてきたし、下着も勝負モノにしてある。


『後は、ケダモノになってくれれば最高ですよ。初めては痛いって言いますけど、そんなのいくらでも我慢して見せますから』


「準備も何も、オレは準備してないぞ。持ってきてるわけないだろ?」


 避妊具なんて持ち歩くはずが無い。


「え? 何を準備するんですか?」


 真顔で尋ねられて、今度は祐太が答えに困った。


 こういうホテルには備え付けられているのを祐太は知らなかった。珠恵は知っていたとしても知らん顔をしたはずだ。


「先輩がしたい時は、いつだって安全期ですからね。無責任中出しで、したい放題出してくれればいーんです」

「いや、それはダメでしょ」

「でも、安全期なのはホントですよ?」


 せっかくのチャンスだ。何かに隔てられるなんてごめんだし、自分の身体で最高に気持ち良くなってほしいというのが珠恵の正直な気持ちなのである。


『先輩がためてるものを、ぜーんぶ、私にぶつけてください。それで良いんです』


 だから、セックス自体には何の不安もない。


『問題は、私を使()()()()()()後なんですよねぇ』

 

 この感じだと、今日だけで終わりそうにない気がする。いや、何回使ってもらっても嬉しい。電話一本ですぐにどこにでも行くし、望まれるだけ何度でもOKだ。


 しかし、それは「使い捨て」が前提だった。せいぜいセフレにしてもらえれば良い。


『私を彼女にするのだけはダメですからね!』


 それが不安なだけ。このシチュは嬉しくて嬉しくて跳ね回ってしまいたいほどだ。


 珠恵は「オドオドのワクワク」なのである。


 一方で、迷いがないように見えて、超ビビっているのは祐太だ。


 もともとは、シュガーの「どうしても」を受け入れた形だったが、そこに祐太なりの「寂しさを埋めたい」という気持ちがあったのは否定できない。


 一度は月曜日のお弁当で決着した話を蒸し返して、夜遅くにメッセを入れたのは祐太の方だった。


 その微妙な気持ちを察した珠恵が「会っていただけませんか?」と提案した結果が、今なのである。


 昨夜の祐太は、朝が怖かったのだ。


 起きた後、来るはずの人が来るのか来ないのかを考えるのが辛かった。


 そして、さらに辛いのは、部屋に来た人に「昨日は」と言葉に出すことだった。


 だから逃げた。


 最初は近所のファミレスでと思った。しかし珠恵が「誰かに見られたらダメですから」と新宿での待ち合わせを提案してきた。


「こういう時って、ウワサになって聞こえてくると女は気にするんですよ? 新宿なら、よほどの偶然以外、誰にも見つかりませんから」


 そんな風に言われると、断るほどの意見は祐太にはない。


 会うなり珠恵は攻勢に出た。


「さっき、同じクラスの子を見かけちゃったんです。よっぽどの偶然が起きる前に、見つからない場所へ行きましょう!」


 手を引っ張られた祐太。


 一人で逃げるわけにもいかない。


 なんだかんだと丸め込まれてホテルに来たが、やっぱりここは「そういう場所」だ。


 静香という存在があるのに、他の女の子とするのは気が咎める。そのつもりはないと思っても、今の自分を信じ切れない。


 だから、祐太は「サバサバのビクビク」なのである。


 そんな祐太の気持ちを知ってか知らずか「ほら、こんなところで服を着てる方が無粋ですよぉ」といきなり服を脱ぎ捨ててしまった。


「ばかっ! 明るいんだぞ!」


 つい見とれていて、以前はエプロンに隠されていた部分までモロに見てしまった。見ておいてこんなことを言うのは、我ながら卑怯だと思ったが仕方ない。


「も~っちろん、わかってますよぉ。見ていただけるチャンスですから」

「なんにもしないって言ったじゃん」

「え? もちろんですよ。なんにもしませんよ? 私はただ脱ぐだけですから。あ、先輩も早く脱いでくださいね? 私にだけ恥ずかしい思いをさせるなんて、先輩らしくないと思いまーす」

 

 自分を置いてホテルから出て行けるような人ではない。珠恵自身が脱いでしまえば、後はやり放題だと見抜いて素早く実行したわけだ。


『今日の先輩はヘンだから、とにかく脱いじゃえば、ワンチャンありですよね』


 後がどうなってもいい。


 これを見逃す珠恵ではなかったのだ。


 それから30分後。


 最後までしてもらうのは諦めたが、お互いの素肌を重ねて腕の中にすっぽりと収まることに成功した。


 緊張していたはずの先輩は、いつの間にか寝てしまったのも嬉しい。


 こうして、自分の温もりで癒やされてくれるんだという思いは、珠恵を心から喜ばせていた。


 珠恵は思った。


『あ~ この寝顔、何時間でも見ていられますよぉ』


 とても、幸せだったのだ。





・・・・・・・・・・・


 渋谷円山町


 

 ラブホの入り口で若いカップルが、しぶる相手をなだめながら入ろうとしている。


 さんざん説得して、やっと連れ込むことに成功したのだ。とは言え、まだ相手は納得をしてないのだろう。足が止まりがちなのを、肩を抱くようにして逃さぬ動き。


 こんなカップルは、ときどきいる。


 ふたりは高3と中2だった。女の子は化粧をしてると言っても年齢差はデカい。


 このカップル以外にも、入ろうかどうかを迷っているとおぼしきカップルもいたから、男は余計に焦っているのだろう。


「な? いいだろ? 先っちょしか入れないから。嫌だって言ったら、途中でもすぐやめるからさ」

「酒井先輩って色々な人と付き合ってるってバスケ部の友達から聞いたんですけど」

「いや、それはウワサだけだよ」

「でもぉ」

「ほら、ね? それに中に入っても、()()()()()()()()()。経験だと思ってさ」


 必死である。相手は母校の後輩に「将来フミ高を受けたいって言う後輩がいるんです」と紹介された子だ。


 なかなかの美少女である。


 この子が小学生時代に憧れていた先輩というのが光輝だった。


 紹介されてからSNSでやりとりして、ついこの間、告白してきた。中2とは言え身長もそこそこあるし胸もデカい。


 光輝も、つい年齢差を忘れてその気になってしまった。


 とはいえ、顔立ちも服装も中学生らしい幼さが残っている。自宅に連れ込むと、さすがに家政婦がうるさいと危惧したから、こうして渋谷に連れ出したのだ。


 ここでホテルに連れ込めないと二度目のチャンスはないだろう。


「せめて、高校生になってからなら」

「いや、いや、いや、今ならクラスでも一番早く経験できるよ? みんなに自慢できるから! ね? 試してみようよ」

「試すんですか? でもぉ、あの、ホントに、シたら彼女にしてくれるんですか?」

「もちろんさ! 初めてをもらっておいて、それで捨てるなんて、オレはしないからさ」

「ホントに? 嫌って言ったら途中でやめてくれますか?」

「もちろん、もちろん、ぜーったいにやめるから。な?」

「それなら……」


 ホテルの入り口に入りかけた二人。


 突然、男が立ち塞がった。さっき後ろにいたカップルの片割れだ。


「ちょっと君たち良いかな?」

「なんですか、急に」


 後ろから挟み込むように、女の方が身分証をかざしてきた。


「警察の者です。ちょっと話を聞かせてもらえるかな? あなた中学生よね? こういうところって来ちゃダメだって知ってるかな?」


 ええええ!


 その日、父のマネージャーである前沢は、休日にもかかわらず渋谷まで呼び出されたのであった。

 

 


・・・・・・・・・・・


  徳島県松茂町 ホテル「ナイン・ナイン・ナイン」



 ラブホの入り口で()()()()が、しぶる相手をなだめながら入ろうとしている。 


 さんざん説得して、やっと連れ込むことに成功したのだ。とは言え、まだ相手は納得をしてないのだろう。足が止まりがちなのを、肩を抱くようにして逃さぬ動き。


 こんなカップルは、ときどきいる。


 しかし年の差が大きかった上に外見の差がある。若い方は人目を引くような派手系の美女。男は中年過ぎの、真面目そうなタイプだった。


 穿(うが)った見方をすると「出会い系の援交を決めたのに、ギリギリで日和ったオッサン」を連れ込んでいるヤバい女の姿にも見えるだろう。


 しかし女を良く見れば、髪も染めず爪も伸ばしてない。化粧とアクセで派手系になりすましているだけだった。


「とーんかく、こんなところでゴチャゴチャしとれんよ。中にはいりぃ」


 押し切られて部屋に入っても、オッサンはモジモジしている。


「さんざん言って納得してもらったじゃないですか。ほら、収入役。もう、決めぇよ? わっ、ひろーいきに。自由にしとぉせぇ」


 テキパキと男のコートを脱がせて、自分のコートと一緒にして掛ける場所を探す。ちょっと戸惑って「普段、こんないーとこ、よーつかわんからよ」と照れ笑い。


 まるで「覚悟を決めろ」とでも言いたげに、セーターにシャツブラウスをどんどん脱いでいく。


「ちょっと、石田さん!」


 そこに返事もせず、スカートもストン。


 パッパと脱いでいく手つきに迷いはない。


「わりと、プロポーションよかろ? み~んなにけっこう褒められる胸じゃき」


 パープルのブラは下とセットになったフランス製。いかにも、男に見せつけ慣れているといわんばかりに、腕を後ろに組んで小首をかしげてみせる。


 しかし、実は緊張のあまり標準語どころか阿波弁ですら怪しげになっていることに、自分では気付いてない。


『とにかく、私を抱かせるには、こっちがエッチに慣れた経験者だって思わせないとダメ。もしも()()()だなんてバレたら、ぜーったい、このお人好しさんは承知してくれないもん』


 グラビアで研究した、胸の谷間を見せつけるポーズ。


「た~いしたことをするわけじゃないんよ? 仲良しエッチなんて、み~んなしてるんだもん」


 せっかくここまで連れ込めたのだ。こんなチャンスを見逃すわけにはいかない。


「でもなぁ、ほら、やっぱり仕事の上のこともあるし。部下とだなんてマズいよ」

「まぁだ、そんなこと言うとる。もう一度言うとぉ? ここいらだと世間が狭いきに、風俗の子達の情報がすぐに村に入ってくるんじょ。だから収入役が、そんなお店に行ったら、すーぐに村のウワサになっちゃいますきに」

「元々風俗の店なんて行かないし。例えそうでも、石田さんが犠牲にならなくても!」

「もう~ 犠牲、なんて大げさなモンじゃ無かろうと? ちゃんと避妊してさえいれば、ちょっとした娯楽とよ? 一緒に楽しまんと。この辺りだと、みんな中学生くらいから普通だきに。奥さんのことを愛しとるのはわかるじゃき、ほぉら、ちょっとしたゲームだと思ぉてよ。パーッと入れて、パーッと出して。お互いが気持ちよぅ~ならんとぉ。それに、ウチは高校時代に何十人も経験しとるんだから、今さら古川さんとするくらい、なーんも、なかぁよ」

「いや、だけどさ」

「もう~ ここまで来てそんなこと言うなら、ほら、これ!」


 いつの間に取り出したのだろう。パッと抱きつかれて、パシャッと一枚。


「え?」

「これで、このまま出られんよ? ここを出る時、消すんじょ。ほら、素直に、私を抱きとぉよ?」


 ブラ姿の部下とのツーショットだ。こんなものを持ち出されたら()()となってしまう。


「あ? それとも、立たんくらいウチはブサイク? ヤル気も起きない? 顔にタオルでも載せましょか?」


 ブサイクどころではない。紗奈だって自分の顔評価くらいは知っている。これまで告白されたことだって数え切れない。ただ、同世代だと頼りなさ過ぎて、その気になれなかっただけなのだ。


 クスクスッと笑いながら、ブラを外した。


 持ち重りのしそうに豊かな胸がプルンと揺れる。一瞬だけど視線が届いて、紗奈は嬉しい。


「君は綺麗だと思うけど。オレはこんなオジサンだよ?」


 ちょっと困った顔をしてみせる浩太の前で、サッとショーツを脱ぎ下ろした。無毛にしてある部分に一瞬視線が来て、慌てて逸らされたのはしっかりチェック。


 手応えあり。


「ほら、恥かしいんじょ? 一緒にゲームするみたぁなことだきに、よう嫌がらんとぉ」

「いや。あっ、え~っと、ごめん」


 女の子が一糸まとわぬ姿で、腰に手を当てて堂々としているのだ。


『紗奈ちゃんが、そんなに経験してるなんて、ちょっと意外だったけど、娯楽の少ない田舎だとそっちの方が案外お盛んだっていうしなぁ。数十人としている子が「ゲームみたいなモノだ」と言っている以上、これを断ったら失礼かもだよな』


 その程度のことは理解できる。ここまで来たら覚悟を決めよう。


「わかった。そこまで言うんなら」


 セーターを自分で脱ぎ始めた古川を見て、紗奈は密かに安堵した。


『やったぁ。初めては絶対に収入役とするって決めてたけん。その夢、かなうんだ! あ~ でも、がんばってギリギリまでバレないようにしないと』


 初めて人の目にさらした身体だ。いくら好きな人が相手でも恥ずかしすぎる。だけど「数十人と経験した子」なら、この程度を恥ずかしがるわけないのだから我慢する。いや、もっともっと見せつけないとダメかもしれない。


 あと一息だ。


『古川さんは、私が何十人も経験して、エッチなんてご飯を食べるのと同じだくらいに感じてるって思わせない限り絶対にしてくれないもんね』


 恥ずかしいという気持ちを目一杯押し殺して、逆にベッドに寝そべり脚を広げてみせる。


 奔放な姿。


「ほらほら、はようせんと。もう、私は準備できとうよ。今日は安全日だきに、そおのままでよかぁよ」


 くぱぁ~


『あぁああ、はずかしすぎぃ、こんなの、後で思いだしても死んじゃうよぉ』


 しかし、そこが本当に「準備OK」の状態だったのは自分でも意外なこと。指先に、かつてないほどの感触がある。


「え? でも、それは」

「大丈夫ぃうてるよ? 今まで何百回も大丈夫だったんせ? 部下を信じるって普段から言うとんじょ?」

「それは信じるけどぉ」

「あ、病気はないからね。安心しとうせ? 就職してからは、もう、ほーんとに良い子でいたから。あんまり久し振りすぎて緊張しとぅくらいだきに」


 本当に緊張していた。なにせ初めて見る男の人の身体だ。


 そして初体験だ。


『わっ、男の人って、ああなってるんだ! おっきい。あ、でも、ああなってるってことは、ちゃんと私のことを見て、気分を出してくれてるってことだよね』


 嬉しかった。


 目を丸くして、初めての男性を見つめてから、努力して目を逸らす。


「それは心配してないけど。ホントに、いいのかい?」

「いーっぱい楽しませてくれなきゃ、泣いちゃいますから」


 そのセリフは、あらかじめ考えてきてあったから、やっと標準語で喋れた。


 緊張がバレないと良いけれども。


 手の届く距離で、まだためらってる。


「さ、待ちきれんきに。もう、来とうせ」


 下から抱きついた。初めてのキス。


『あ~ 幸せ~』


 それからわずかに10分後。


 浩太だって子持ちである。


 そこが「使い慣れた場所」どころか、ハッキリと狭い場所を押し破ってしまったことくらいは、さすがに悟る。


「途中なんてダメぇえええ!」


 慌てて抜こうとしたところを、だいしゅきホールドで動けなくされて、困惑するしかなかったのである。


「と~っても幸せじゃきに、な~んも気にせんでよかとよ?」


  ♫ジャン♫





ちなみに、紗奈ちゃんは「家族もいなくて寂しいからお誕生日のお祝いをしてください」とおねだりして連れ出しました。ホントは賑やかな大家族です。家に帰った紗奈ちゃんを見て、バアちゃんが黙ってお赤飯を炊いてくれました。色々とお目出たかった石田家です。


祐太のお父さんは、ラブラブの祐太・静香しか知りませんし、留学の件も知らされていません。


ラプソディー 狂詩曲とも呼ばれる。

・異なる曲調をメドレーのようにつないだり、既成のメロディを引用したりすることが多い。


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