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ただ、君を応援したかった  作者: 新川さとし
冬 12月~3月
136/169

第21話 疑問符

だいたい、レイ視点です。

「ごめん。呼び出しちゃって」


 ランチタイムの混雑が引けた時間だけに、空席も目立つ。


 午後のファミレスにしずちゃんと待ち合わせした。


「いいえ。レイさんこそ忙しいのに。私なんかと会っていていいんですか?」

「気になることから、やっていかないとって思って。先に注文しちゃお?」

「あ、今、お昼を食べたばかりなんで。ドリンクバーだけで」

「あら、けっこう痩せちゃってるよ? ヘンなダイエットはダメだからね? 声が出なくなっちゃうんだから」

「はい。ダイエットはしてませんから」


 そういって、タブレットに注文したしずちゃんはミルクティーを持ってきた。元々ほっそりしているのに、さらに痩せちゃった。


『留学前だもん。ゆー君といろいろあっても当然だよ。ひょっとしたらケンカ中……って感じじゃないよね? でも、いろいろと気遣うことが多いんだろうなぁ。それに先生とのことがあれば、それなりにプレッシャーか。ま、そっちはすぐに馴染むからいいとして』


「日本にはいつまでの予定ですか?」

「そうね、まだ帰りの飛行機は予約してないけど。とりあえず一週間。クリスマスには向こうに戻りたいけど、ちょっとギリかなぁ」


 今日の話次第かも、と頭に浮かんだ。もちろん、それは伝えるべきことじゃない。 


「あなたも、もうすぐこっちに来るんでしょ?」

「卒業式が3月の初めで、そこでの卒業コンサートに出ることになったんです。だから、3月の10日過ぎになるって思ってます」

「そーなんだ。あ、飛行機は早めに予約した方が安くなるからね」

「たぶん、先生の移動に合わせることになるので」

「あ、そっか。介助だもんね」

「正式な介助の方はいらっしゃるんで、私は飛行機に乗っている間くらいです。その時には、両手も動かせるはずだし。私の役目は車椅子を押すくらいになってるそうです」

「へぇ~ 先生の回復は順調なんだ?」

「順調だったはずなんですけど、私のレッスンに熱を入れすぎただとかで……」


 肩を落とすしずちゃん。


「私のできが良くないから、ついボリュームが上がっちゃうらしくて。腕を振り回してるせいか、治りが悪いみたいです。年末にはギプスが外れるはずでしたけど、お医者様からストップが掛かりました。1月にずれ込むそうです」

「えー しずちゃんのできが悪いって事はないと思うけど。ご年齢もあるしね」


 ()()()のほうは年齢を感じさせなかったけど。しずちゃん、何度もレッスンに行ってるんでしょ? なのに、あんまりシてない感じだよね? やっぱり影響があるのかしら。


 もちろん、そんな露骨な話は口にしない。


「麻痺とかはないのかな?」

「感覚はあるって仰ってます。実際、力を入れない状態なら指も動いてます。けっこう細かい動きも」


 あれ? この顔つきは、乳首でもいじられてるってことかな? それとも、敏感なボタンとか? あのテクを使われちゃったら清純派もスマしてられないよね、きっと。


 さすがに、年下の子にそんな露骨なことは聞けないか。


「ギプスを付けたままリハビリも始まったんです。お医者様の話では半年くらいでピアノも弾けるようになるそうです。もちろん、先生のお望みのレベルに戻るのはもっともっと時間がかかるみたいですけど」

「良かったぁ~」


 そこから、様子を聞かせてもらった。さすがに、生の情報だと違うわ。


『これでひと安心ね。復帰は来年の前半あたりかしら? でも、その前に行き詰まった私達にアドバイスして頂けたらいいな』


 今度のレッスンの時、一緒に行かせてもらおうかと計算する。急な帰国だったから、アポは取ってないし、メールの返事はずっと来てない。あとで前沢さん経由で連絡すれば大丈夫だろう。

 

『そりゃさ、若い子の方が良いだろうけど、あの殺されちゃった人は、私より年上だったし。年齢だけじゃなくて、たまには私みたいなのだってツマミたくなるかもしれないもの』

 

 そうしたら、上手くアドバイスをもらえるかもしれない。


 ともかく、先生の生の情報をあれこれと聞けただけでも大収穫。コンサートをキャンセルしてでも帰国した甲斐があるってことでいい。


『先生がお元気だって話だけでも、どれだけの人が喜ぶかわからないもの』


 とりあえずルイを始め、メンバーは喜ぶに違いない。


『それにしても、久し振りに会っても、痩せた以外、ぜんぜん変わってないのねー』


 レッスンはしてもらってるって言ってたのに。


『カンでしかないけど、この話し方だと先生とシてないよね? してるとしても1回か2回? ぜんぜん身体を許しあった馴染み感がないもん。お怪我もあって手を出してない? でも、先生なら手脚の怪我くらいじゃめげないんじゃないかなぁ……ってことはしずちゃんは、やっぱり特別扱いということね』


 もしもそうだったら、正直、嫉妬が混ざるかもしれない。だからと言ってしずちゃんをどうにかしようだなんて思えないのも本当よ。


『先生とエッチしたのかどうか、後で、ちゃんと聞いてみようっと』


 単なる興味だけじゃない。興味以上の何かがあるんだよね。


 しかし、今日も本題は「それ」じゃなくて可愛い妹分への心配だ。


 向こうでの生活について少し話してから、私は「核心」に入ることにした。


「ね? ところでさ、文芸部で彼の後輩に佐藤さんって女の子いるでしょ? 知ってる?」

「えっと…… はい。知ってます。いっこ下の明るい感じの女の子です。成績優秀らしいです。えっと、佐藤さんが何か?」

「その後輩ちゃんって、ゆー君とのつながりは深いの? ハッキリ言うと浮気してない?」


 しずちゃんは、ずっと「守られて」来たせいか、案外、人間関係についてはにぶいところがある。「天然」と呼べるほどだ。


『ゆーくんのせいだよ? なんでも許して、思い通りになるようにさせて。こーんなに過保護に育ててきたから恋愛音痴になっちゃってる。それなのに、こんなギリギリのところで浮気だなんて、そんなひどいことはお姉さんが許さないよ』


 しずちゃんに恋愛関係の遠回しの聞き方なんてきかないから、ズバッと切り込むしかない。


「浮気って…… あの、佐藤さんとの関係は聞いてますよ。けっこう詳しく聞いてます。あの、でも、けっこう彼女の個人的なことなんで」

「お願い。聞かせて? 実は、兄の事件にも佐藤さんがけっこう深く関わってるの。できるだけ詳しく教えて。もちろん、あなたから聞いたなんで言わない。お願い! 私達って、酒井先生門下の姉妹みたいなもんじゃない、ね? お願い」


 あ、いけない。ひょっとしたら下品な意味での()()ってことは、思い浮かべないよね? 妹みたいに可愛いって思ってるということだからね。


「それは私だってレイさんを信頼してますけど」


 さすがに育ちの良いしずちゃんだ。「そっちの姉妹」は知らなかったらしい。


 よかったw


 少しためらった後で、周りを見渡した。


「お父さんがヘンな人らしくって、ゆーがすっごく面倒を見たんです。なんでも、フミ高は進学校だから退学させろだとかで学校にまで乗り込んできたそうです。それでゆーが……」


 去年、佐藤さんをかばって大立ち回りした話を教えてくれた。この口ぶりだと、しずちゃんは全く疑ってない。


 でも、今の段階では単なるカンに過ぎないけど、あの感じだと絶対になんかある。


『まだ間に合うはずよ。だけど、私が今のゆー君に言うだけじゃおそらく止まらないわ。浮気してないかって、しずちゃんに言わせれば、一発で止まるはずよ』


 少なくとも「浮気なんてしてないよ」とゆー君が言える状況にしてあげることが大事なはずだ。


『だって、3ヶ月で出発だもの。それまでに仲直りさせて、涙の見送りを演出してあげないと。しずちゃんは成功できないよ』


 ゆー君には、その後で楽しい大学生活を送ってもらえば良い。その後で、誰とくっついたって、それは自由でいいわ。でも、今はダメ。しずちゃんを見送ってあげる義務があるのよ。


 今は傷つくだろうけど、きっと、良い思い出になると思いながら、佐藤さんの話をじっくりと聞いていた。



・・・・・・・・・・・


 ええええ!


 浮気? 


 そんなはず、あるわけない。


 そんなことは、ありえない。


 そんなのあって良いはずない。


『でも……』


 私には、止める資格なんてないんだよ。


 自分が先に裏切ったんだもん。


 相手を責めるなんてできない。


 ううん。


 むしろ、私はここで身を引く方が良いんだよね?

 

 その方が、あなたは幸せになれるのだから。





 ゆう 

 



 

お互いがお互いを思うから

踏み出せなくなることってありますよね。


本話の最後に「。」がないのは、理由があります。

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