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ただ、君を応援したかった  作者: 新川さとし
冬 12月~3月
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第18話 ひみつ

 ドライヤーが終わった後、いそいそと行動開始。


 排水口に脱衣場の床も入念に掃除。それにタオルに絡んだ髪を入念にチェックした後で、他の洗濯物と一緒に洗濯機に放り込んだ。


『ショートヘアはすぐに乾くのが利点ですよね。あぁ、先輩の家のドライヤーは使いやすかったです。さすがですね。まあ、新井田先輩が選んだんでしょうけど』


 ドライヤーは元の通り壁に掛けた。ノズルの向きもちゃんとチェックしてある。


 シャンプーに、トリートメント、あらゆるモノを、最初に撮っておいた写真を使って寸分違わぬ位置に置いたか確認する。


「チェック終了で~す」


 小さく声を出して珠恵はガッツポーズ。


 思ってもみなかったラッキーな事態だった。


 心が弾む。


 後はリビングに戻るだけ。


『ここまで来ちゃいましたよ。いよいよです。でも、先輩にご迷惑をおかけするのだけはダメですからね。慎重にしないと』


 ふぅ~


 ため息だ。


 不満や不安のため息ではない。むしろ、ワクワクしすぎる自分を抑えるためのため息だった。


『ふふふ。()()()()の本拠地で不倫だなんて、タマちゃん、だいた~ん』


 正面にある鏡の中の自分に向かって、そんな風につぶやいてみた。


『今日は手を出してくれませんよね』


 いくら苦しくても、ゆー先輩はそういう人だ。だからこそ抱いてほしい相手なわけだから、不満ではない。


『抱いてもらえなくても、お風呂は絶対に必要なんです』


 セックスはしてもらえなくても、抱きしめてもらうつもりだ。そこまではしてもらえる。そのための準備。


 心の中で「新井田先輩、ごめんなさい」と言ってから基礎化粧品も容赦なく使う。


 以前来た時は、何日も本妻が帰ってこないのがわかっていたから手抜きもした。しかし、今回は違う。


 最悪の場合、今夜にでも戻ってくると思っておいた方が良い。


「他人のニオイはすぐわかっちゃいますものね」


 男性は絶対に気付かないが、女はちょっとした残り香、微妙なモノの配置で他人の存在に気付いてしまうもの。まして、ここは「本妻」の本拠地である。侵入者の痕跡は些細なことであっても感じるに違いない。


 だから「チカンに(けが)された肌を洗わせて」とおねだりして見せた。


 もう、それだけで先輩がドキドキした顔をしてくれた。「ごちそうさま」って感じだ。


 チカンに触られたのは正直言ってショックだった。直に触られた時の身の毛もよだつ感覚。あのヘンタイストーカーにされたことまで思いだしてしまうほど。


 普段なら反撃してはずだ。


 身体がすくんで助けを求めてしまったのも、いきなりスカートに手を入れられたショックだった。ここまで激しいチカンは初めてだった。


『触られてしまったモノは仕方がないんです。どうせなら上書きしてもらいましょうか』


 あの気持ち悪い感触は残っているが割り切ることにした。だって、十分以上に良いことが起きるのだから。


『ただ、いつもお風呂を使わせていただくわけにもいきません。今後はこれを揃えた方が良さそうですね』


 決して同じ匂いになれるわけではないのはわかっている。でも、ボディーソープから基礎化粧品まで、肌につけるモノは今後、同じものを買いそろえておこうと思った。同じ匂いのモノならバレにくくなるだろう。


『これで、いつでも、来られるようになりますね』


 ニヒヒと声を出さずに笑う珠恵だ。


 自分のせいで新井田先輩と揉められたら、何よりも珠恵自身がいたたまれなくなるのだから、慎重すぎるにこしたことはない。


 さて、と着ていた服を見下ろした。


to be(やるべき) or() not to be(やらざるべきか)ってやつですよ」


 答は決まっている。こんなチャンスは二度と来ないかもしれない。


「さあて、果たしてどこまで教えてもらえますかね?」


 バスタオルをギリの高さに巻く。膨らみは半ばこぼれでているし、ちょっと良く見れば、下側は見えてしまうだろう。


『う~ん。ちょっと、これじゃあ、痴女ですよぉ』


 さすがに恥ずかしい。

 

 見てもらえるのは純粋に嬉しいけれど、こんな姿で迫るエッチな子だと思われるのが恥ずかしいのだ。


『でも、こうでもしないと、先輩のバリアは硬そうですから』


 夏のあの日。


 泊めてもらって、普通のオトコなら絶対に手を出してくれるシチュを何度も作ったのに、結局、自制されてしまった。

 

『今回も、してもらえそうにないけど、今は「ひみつ」の方が優先です。そこから何をしてあげられるのか、考えましょうか』


 珠恵は、鏡をもう一度覗き込んでからバスルームの扉を開いたのだ。


 


・・・・・・・・・・・


「せんぱーい。ありがとうございました」

「あ、いや」


 シャワーの後の匂いがいきなり部屋に広がった。


『やべっ、思わず反応しちゃいそうだったよ。同じ匂いだからかな?』


 そんな反省をしながら振り返った祐太は、慌てて顔を元に戻す。見てはいけないカッコウだ。


「あ、えっと、もしも、同じモノを着るのが嫌なら、ジャージくらいならあるけど」

「ふふふ。相変わらず、優しいですね」


 机に向かっている祐太に、迷いのない足取りで近づいてきたバスタオル姿。


「ん、あの、えっと、シュガー?」

「はい。なんですか」

 

 柔らかな手が、祐太の肩に巻き付いてきた。


「せんぱい。大丈夫ですよ。ちゃんとタオルを巻いてますから。それとも、取っちゃった方がお好みですか?」

「大丈夫の基準が違くない? バスタオル一枚で、これは、ちょっと、あの……」

「ぜんぜんだいじょーぶですよ。何だったら手を出してくれてもいーんですけどぉ。優しい先輩をちょっと脅すために、このカッコをしてるだけですから」

「脅すためって」


 やわらかな膨らみがタオル越しに頭に押しつけられている。


「一応言っておきますけど、私だって痴女じゃないんで。先輩以外には絶対にこんなカッコできませんからね? でも、先輩のためなら、このタオルは取っちゃいますから」


 相変わらずの好意全開な言葉だが、祐太は気付いてしまったのである。


『あ~ シュガーは、全部話させようとしてるんだ』


 一つ年下の女の子に、祐太は大きな借りを作らねばならないらしい。


 でも、心のどこかで、それが嬉しいんだなと感じる自分がいるのも事実ではあった。


「シュガーには敵わないなぁ」


 そう言って、イスごと向き直った時には、覚悟をしていた。


 これだけの好意に返せるのは、自分の全てを打ち明けることだけだと。


 それから間もなくのことである。


 腕の中で号泣する、一糸まとわぬ女の子をどうしたら良いのか。


 途方に暮れることになった祐太である。




シュガーが、全てを知った時、何が起きるんでしょうね。

でも、明日は登場しません。


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