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ただ、君を応援したかった  作者: 新川さとし
春 3月~6月
11/169

第7話 父の名は SIDE:光輝


 カップルシートの狭い2人掛け。


 好きな人の匂いに満たされた空間は嬉しい。


 邪魔者もいない。


 幸せな空間のはずだ。


 けれども光輝はもどかしかった。


『もっとピッタリくっついても良いだろ』


 昨日、コンビを組んだ恵は肩が触れても膝がくっついても「普通でしょ?」と平然としていた。むしろ、光輝の方がドキドキしたほど。好きという感情を抜きにしても、季節に早いオフショルダーの素肌が触れてしまったシチュは男の子にたまらない。


 普通の友達でさえ刺激的だったのだ。今日は、恋しい静香と二人きり。


 それなのに……


 手が触れるどころか、目一杯、反対側に座られているのが哀しかった。


『やっぱり、あれでいくしかないか』


 昨日の「二人きり」を生かして、恵からアドバイスしてもらった作戦だ。


『あれは、マジで有意義だったよ』


 モテて当たり前の光輝にとって女の子とは勝手に向こうからやってくるモノだった。だから、自分からのアプローチの仕方がわかわからない。特に静香に対して、どうにも空回りし続けてきた2年間だった。


 現状を変えるにはアドバイスが必要だった。おメグは親身になって相談に乗ってくれた。


 相手が静香だとは打ち明けなかったが、恵はわかっていたはずだ。


『おメグの性格だから、誰かに喋るはずもない。悪いことなんて起きるはずない』


 多少バレても仕方ないと思った部分もある。おかげで、突っ込んだアドバイスを受けられたのは大きかった。


『静香のこともよく知ってるんだから、あのアドバイスを使えば、きっと上手くいくさ』


 今こそ、使う時だ。


 2曲ずつ歌ってから、わざと次の曲を入れなかった。声を落としてテーブルを見つめたまま「実は、さ」と切り出す。大丈夫、このやり方もおメグが練習させてくれたのだから。


「みんなの前では言えなかったんだけど」

「どうしたの?」


 静香の返事に緊張が含まれた。


 普段は忘れたふりをしてくれるが、光輝は「告白してきた男の子」なのである。警戒するのも当然だろう。


 しかし、それには気付かないふりをして紅茶ソーダを飲み干して「オレの親の話だよ」と声をさらに小さくした。


 え?


 怪訝な顔をしつつも微妙に身体を寄せてくれた。やっぱり静香は優しいよね。惚れ直してしまう。


 声を潜めた分だけ、込められた秘密のニオイを受けてのことだろう。それにしてもと思う。


『クソッ、やっぱり警戒心が強いな。おメグは、ここで体をベッタリくっつけてくれたのに』


 とは言え、それも想定の中。


 秘密にしていた自分の親の話を恵にしたら「それって、絶対に使えると思うよ! ご両親の話をしてみたら?」というアドバイスだったのだ。


 静香が中学の頃、お父さんが浮気して出ていったことも恵から聞き出している。だから「親の話」だと言えば、敏感になるのも当然らしい。


『おっ、話を聞こうとしてくれてるじゃん』


 つかみはOK。完璧に近い。恵に本気で感謝する。


 さて、ここからが本番だ。


「ね? ノエルって知ってる?」

「世界的なソリストの?」

「そ」

「それならもちろん知ってるけど」

「本名は知ってる?」

「えっと、ノエルは本名なんだよね。姓は確か、さかい…… え!」

「あれ、母さんなんだよ」

「えええ! そうなんだ! ビックリ! あ~ だから酒井君は音楽の世界に来たんだ」


 早熟の光輝は中学時代に180を越えていた。人並み外れた運動神経もあって、光輝はバスケ部のスタープレーヤーだったのだ。今でも体育の時間にバスケをすると、バスケ部員を翻弄(ほんろう)するほどのプレイヤーだというのは、よく知られている。


 それが、なぜ合唱部なのかというのはフミ高の七不思議とまで言われた。男子に興味が無い静香ですら、光輝のウワサは聞いたことがある。それが、なぜ合唱部に入ったのは謎だと思っていた。

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