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ただ、君を応援したかった  作者: 新川さとし
秋 10~11月
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第16話 恐怖を味わえ


長谷川家のリビングに男が一人。


・・・・・・・・・・・


 一人暮らしが長かったせいか、独り言を言うのはクセになっている。


「もう9時を回ったじゃねぇか。ババァ()のやつ、連絡無しとは、いー度胸だな」


 後で、しっかりと怒鳴りつけてやらないといけない。


「二、三発ひっぱたくのもアリだな」


 わかってねーよな。誰のおかげで、この家に居られるんだ。ババアには帰る時間をしっかり連絡しろと躾けてあるはずだ。


「なんつっても、茉莉とヤッてる時に帰ってこられちゃ、さすがにまずいからな。よーく、躾けとかないとヤバい。シツケがすげぇ大事だぜ」


 ぐふぐふと笑って、腕時計を確認する。


「そろそろ時間か」


 ちょっと早めに呼んで、途中にある公園の駐車場で一発抜かせるにはギリだろう。


「そろそろ出るとするか」


 もう一度、アプリから「遅くなるのか?」と送ったが、返事どころか既読も付かなかった。 


「そもそも、ババアがこんなに遅くなるってわかってりゃ、茉莉を早く帰らせたのにな。この時間まであるんだったら、久し振りにベッドで一発できたじゃネェかよ」


 せっかく、だいぶ覚えてきたところだ。こういう時に、徹底的にわからせてやった方が、女はずっと言うことを聞くのだ。


「ネットで読んだエロ小説では、全部、そういう話になっているからな。きっとそうに違いないんだ。パパの味を徹底的にわからせるってヤツだ」


 自然と、ぐふぐふ笑い声が出てしまう。


 40を越えて素人DTだった自分が、やっと掴んだ幸運に感謝しつつ「もっと調教が必要だぞ」と気合いを入れ直す。


「お楽しみは、これからだぜ。ぐふぐふぐふ。そう言えば同じ予備校の彼氏ってヤツがいたな。あの間抜け面した野郎の目の前で、パンティーでも脱がしたら、どんな顔をすっか見て見たいもんだ」


 流行のNTRとかいうやつだ。


 若造が絶望する顔を想像すると心から楽しくなる。


「写真も動画もだいぶたまってきたが、今はクラウドに保管すると、児童ポルノだのなんだのと勝手にチェックを入れてくるって話だ。セキュリティが逆にヤバいかもだから、やっぱ一番信頼できるのは物理的に外付けに入れておくのが一番だな」


 専用のSSDを買っておいた。今度そっちに移しておこう。


「なあに、普段見る分は残しておけば良いし、まだまだ、これからも思う存分、ハメ撮りしまくれるんだしな」


 スマホの画像フォルダを開いて「獲物まつり」のハメ撮りを鑑賞しながら、コーヒーを飲む。


「そろそろ行くかぁ。今日も帰りに、濃ゆーいのを一発飲ませてやるぜ」


 ぐふぐふと笑いながら男が立ち上がろうとしたときだった。


 バン! 


 いきなりドアが開いた。


 茉莉とババア()だ。


「なんだ。こんな乱暴な開け方しやがって!」


 茉莉は、挑戦的な目で真っ直ぐこっちを見、ババア(母親)は、こっちの顔を見た瞬間に泣き崩れた。


 この雰囲気はヤバいかもとビクついたが、なあに、女二人くらい丸め込むのはワケはない。大事なのは強気を崩さないことだ。


「おぃ、一家の主人に、なんか文句でもあるのかよ! おい! ん? なんだ、オマエは」


 知らない男が後ろから現れた。いや、覚えてるぞ。コイツは茉莉の彼氏とかいう男だ。なんだよ、たかだか高校生がでしゃばってきやがったのか?


「てめえ、なんのマネだ。ぶっ殺されてぇのかよ」


 生意気なことに、自分の脅しなど聞く耳も持たぬげに、その男はプイッと後ろを向いた。


 ドカドカドカっと、男達が突入してきた。いや、女もいる?


「なんだ、お前達!」

「長谷川豪太だな?」

「なんだって言ってるんだろうがよ! 勝手に入って来やがって!」

「児童ポルノ製造・所持の容疑で逮捕する。直接の容疑は、未成年であることを知りながら、自分が保護すべき長谷川茉莉さんのワイセツ画像を作り、メールで送りつけた罪だ。既に、送られた画像は全て確保したから、覚悟しろ」

「ええええ! 逮捕だ?」


 逮捕令状を突きつけた男の横から若い刑事が手錠を掛ける。その瞬間、後ろの男が「21時34分だ」と宣告する。


 逮捕令状をしまいながら、さっきの男が言う。


「弁護士を呼びたいなら署に着いてからだぞ。黙秘権は認められるが、余罪がたっぷりありそうだし、証拠は十分にある。黙秘のままでも、し~っかり有罪に持っていってやるから安心しろ。後で『不同意性交罪』も『傷害罪』でもなんでも付けて、最低でも15年、いや20年は出られないようにしてやるからな?」


 すぐ脇に回り込んできた若い警察官にスマホをもぎ取られる。


「あ、返せ! オレんだぞ!」

「おっと、自分のモノだと認めたな? この携帯電話は証拠品として押収する。パソコンは、お前の部屋か? ともかく徹底的に調べさせてもらうぞ」


 年かさの男がポンと肩に手を置いて「まぁ、サッサと吐いた方が身のためだよ? お前の態度も裁判で判断されるからな?」と優しげな言葉とは裏腹に冷たい目だ。


 怒濤のように寄ってきた刑事達に豪太は押さえられ、腰紐が回された。身の回りの物が次々と段ボールに入れて運び出されていく。


 それを見て豪太は、アワアワとするだけで歯の根が合わなくなっていたのである。

 

 警察官達は少しだけ配慮を見せた。と言っても「犯人」に対してではない。


 被害者の彼氏だという、今回告発してきた少年の前で豪太を立ち止まらせたのだ。


 犯罪者に対して鬼になる刑事達も人の子だ。涙ながらに恋人の深刻な被害を訴えた少年を見ているだけに、心から同情していた。その結果だった。


 そもそも、逮捕状執行の瞬間に立ち合わせたこと自体が珍しいということも豪太は知らない。


 グッと両腕を抱えられ、少年の方に顔を向けられた。


「てめぇ、一体何を」


 少年は怒りも恐れも見せない冷静さで「今回の告発をしたのは僕です」と言った。


 コイツがオレのことをハメたっていうのか? こんなガキにやられた?


「当たり前ですが、茉莉ちゃんのお母さんは、あなたの一方的な有責で離婚の意向です。そりゃ娘に手を出した男と婚姻を継続するのは不可能ですからね。このケースなら裁判所もすぐに認めます。一方で、養子縁組をした関係上、茉莉ちゃんの養育費も支払う義務があります。刑務所に長くなるのでしょうから、全額前払いでお願いしますよ? まあ、婚姻後に手に入れた資産は夫婦平等に所有権があるんだし、離婚に伴う財産分与や二人に対する慰謝料を軽く見積もっても、この家や不動産、それに資産を全部、いただくことになりますね。あぁ、あなたが拘置所にいる間にも、弁護士から追って連絡が行くと思いますから」


 少年は流れるような調子で、法律用語も交えた言葉を一気に口にした。それは「雷漢の無口」を知らない人間ですら、圧倒される勢いだ。


 逮捕されたという事実への恐怖で混乱している男では、なおさら理解不能となる。ただ、目の前の少年によって、自分の幸福が奪われたことだけは理解したのである。


「てめぇ! わかったようなことを言うんじゃねぇ! まだ高校生だろうが!」

「はい。お嬢さんと同じ文川高校3年の神田雷漢と言います。将来は弁護士を目指しています」

「こ、高校生の分際で! 弁護士のマネゴトか!」

「え? たかだか高校生の私が、そんなことをするわけないじゃないですか」


 その言葉は、明らかに挑発だ。おまえはたかだか高校生にハメられたのだと。目の奥に嘲笑の光が明確だった。


「私も身の程はわきまえてますので。この場にはお呼びしていませんが、父にお願いして、あなたの全財産を全力で奪いにいくことは、弁護士さんに正式な依頼済みです」

「嘘だ! 高校生に、そんなことできるわけが!」


 思わず、食ってかかろうとして、警察官によって押さえられた。その顔に、雷漢はニヤリと顔を近づけてみせる。計算し尽くした挑発の姿だ。


「嘘かホントかは、すぐわかりますよ」


 笑顔すら浮かべて見せる嘲笑の姿から、一転して、ドスの効いた声となる。


「お前は犯罪者として全てを失うんだ。刑務所から出てきたら全ての財産と人生を喪っているという恐怖を味わえ。20年後、刑務所から出られても、誰もアンタを相手にしない。金もない、寄る辺もない惨めさを」


 ほんの一拍の間を取った。


「ご自身でじっくりとお確かめください」


 ペコリと頭を下げたのは、もちろん、トドメの慇懃無礼。


 にこやかな顔を見せつけた後、横の刑事に目礼した。


「来い!」


 乱暴に引っ立てられる男を見送りながら、茉莉が目で「先輩、そんなに喋れたんですね?」と驚きを伝えている。


 肩をホンの少しだけすくめて見せて、温かな笑みを返すと、守るべき恋人を黙って抱き寄せた雷漢であった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 余計な情報


 警察が逮捕する場合、一番確実で、立証しやすい犯罪事実を使うことが多いです。

 その後は、取り調べの過程で次々と犯罪事実を積み上げて、逮捕を重ねていく手法は、確実に犯罪者を追い込みます。(色々と問題はあるんですが)

 今回は「ネットに被害者の画像を拡散させないために急いで身柄を拘束する」ことを優先しました。逮捕し、物証を確保するとともに、ネットに流出させることを防ぐわけです。

 なお「長谷川」姓になっているため(養子縁組成立済み)、離婚後は連れ子であっても茉莉ちゃんに養育費を払う義務があります。

 また、慰謝料や損害賠償、その他により資産のほとんどが、茉莉ちゃん母子のものになるということも弁護士に確かめてから、母親に打ち明け、雷管が警察に告発しました。さすがフミ高のトップグループだけある行動力です。

 雷漢のお父さんは、関西から「雷山亭」という名跡を東京に持ってきたため訴訟を起こされました。そのため弁護士に知り合いがいます。今回は、その弁護士さんからアドバイスをもらって警視庁に駆け込みました。なお、雷漢はかねてより文一からの司法試験か、父親のような落語家になることを目指していました。



  


 プラス情報

 雷漢先輩は、可愛い彼女に、新しい手帳を渡したそうです。

 

 ダブル・プラス情報

 茉莉ちゃんは、新しい手帳に、さっそく「本物の♡シール」を貼っていっているそうです。このあとも、いっぱい増えると良いですね。

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