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第7話 魔女サイナと魔女バスキ前編

「お、ようやく揃ったな」


 真守とコトネが校門の来たときには英太とアオナが既に来ていた。


「ごめん、遅くなった」

「おそーい!アオナ、待ったんだから!」


 コトネは二人を見ると不機嫌そうにしていた。

 とりあえず真守はアオナに対して自己紹介することにした。


「改めて、俺は村上真守。こっちがコトネ。よろしく」

「おこさまと一緒に魔女と戦うなんて、できるのかしら?」

「なにをー!」


 真守は、この二人で大丈夫かと心配になっていたところで英太が目を閉じ、アオナがふと静かになった。

 おそらくテレパシーを送っているのだろう。他魔道士や、魔道士の管理する魔女にテレパシーを送ることは御法度なのでテレパシーの内容はわからないが、キハナは頬を膨らませた。


「いいじゃん!英太もきてよぉ」

「ここ女子高で女子だけしか入れないから…悪いけどコトネちゃんと行ってもらうことになるんだよ」

「俺と英太で魔女の位置を探して君たちに送るから探して欲しい」


 アオナはブーブーいいながら、コトネは不満そうにしながらも渋々門を抜けて、高校へと入っていた。


「俺たちは、中には入れない分、周辺をぐるっとして魔女の探索をしよう」

「おっけー」


 真守たちは機関から送られてきた高校の地図ファイルを確認し、高校の回りを歩きながら精神感応をはじめた。


「あっちだな。女子寮の2階あたりに魔女が二人いる」

「まもちゃんほんと?確かにその方向にはありそうだけど…」」


 英太はうんん、と唸って「アオナに伝えてみる」と言った。真守もコトネへと伝えると、コトネとアオナが女子寮2階に向かうイメージが伝わってきた。真守はさらに意識を集中させると、魔女ふたりは姉妹、という割には二人の思考は異なっていて融和し得ないような異質さがあった。


「(コトネ、2階は既に魔界になっているとおもう。用心してくれ)」

「(わかったわ)」

「(大丈夫、ずっとコトネを見守ってるよ)


 真守が近くにいない不安と緊張を伴うコトネのを落ち着かせる。コトネとアオナが2階に到達した時には、女子寮の2階廊下は異様な雰囲気となっていた。廊下に置いてある傘立てやバケツ、消火器が宙に浮いており、廊下は重力がないかのような現象が起きていた。


「また来たのね…魔女!私の超能力サイコキネシス、驚いた?」


 教室から出てきた少女は怪しく笑った。魔女姉妹の妹にあたる少女、魔女サイネが、手に持っていたシャープペンシルを手放すと、シャープペンシルは落ちることなく手元で浮いていた。

 真守は少女にも同時に意識を集中させる。英太が隣で深呼吸する気配がした、アオナを見ながら様子を伺うことがかなり難しいのかもしれないのだろう。実質この場で指示を出せるのは自分だけだ。 


「英太、俺が他の魔女を探すからアオナへの指示に集中してくれ」

「おーけーまもちゃん、助かる」


 集中を緩めて英太を見ると、汗を浮かべて息を整えていた。真守は英太の様子から、長くもたないと判断し、早期決着をするべく魔女同士の対決の指示ともうひとりの魔女を捜すために意識を集中する。普通、魔道士は1人を読むのが精一杯なので、魔女探しかアオナへの指示のどちらかとなる。

 複数の人間の心を同時に読めるのは魔道士の中でも数少ないので、英太が疲労するのも致し方なかった。

 魔女サイナは魔界で戦えるのが嬉しいようだった。魔女サイネは過去にも機関の送り込んだ魔女と戦い勝利しているようでコトネやアオナは自分を倒そうとしている魔女であることは理解しているようだった。

 そして、サイネはどこか芝居がかったようにビシリと指をコトネにつきつける。


「アンタも悪者の魔女ね!覚悟しなさい!」

「あ、貴方も魔女の癖に…!」

「くらえ!サイコアタック!!」


 サイネが叫ぶとあたりに浮いていたバケツと消化器がコトネとアオナを狙って飛んでくる。


「(コトネ、魔女サイネのただの魔界攻撃だ。音をトリガーにして音の振動で防いでくれ。前方11時と2時の方向から消火器とバケツを飛ばしてくる)」

「(わかった)」


 コトネに指示を飛ばして意識を探索させると、2階廊下の奥あたりにもう一つの意識を発見した。魔女姉妹の姉の意識に触れると体育館とバスケットボールのイメージと併せて、どこか悲しげだった。そして、妹に対してふたりで攻撃を行っているにも関わらず、この魔女バスキは攻撃の意思も加勢する様子もなかった。

 コトネに一度意識を戻すとコトネは音波の意識で飛んでくるものを弾き飛ばし、消化器やバケツの形がわからないほどべこべこに凹ませていた。魔女サイネはたじろぎながらもどこか楽しそうだった。魔女サイネは中二病チックな考え方が根底にあり、その思考から魔界が生まれているようだ。

 姉妹の魔界は完全に別物なので、姉である魔女バスキが戦意のないうちに各個撃破しようと考えた。


「英太、もうひとりの魔女を見つけた。恐らく魔女サイネの姉だろう。けど、どうやらその魔女は、今のところ妹と合流する意思はないらしいから目の前の魔女が片付き次第もうひとりに行こう」

「見つけるの早いな…りょーかい」


 真守が意識をコトネに移す。


「(コトネ、魔女バスキを見つけたからある程度サイネを制圧したら廊下の奥に向かってくれ)」

「(わかったわ)」


 真守はコトネに指示を送り、魔女バスキの位置のイメージを送って魔女サイネ戦に意識を戻す。


「物を投げつけるにもそろそろ限界があるんじゃない?」

「ぐぐぐ…!これは体力を使うけど…!」


 コトネの身体がふわりと浮く。コトネの体をそのまま操作してダメージを与えるためだろう。真守が指示を出す前に、廊下から植物の蔓が出現し、コトネの両足首に絡みついた。キハナの両足首にも蔓が絡みついており、アオナは笑っていた。


「これで、自由に浮かせられないよ!」


 英太の指示だろうか。英太はアオナに、魔界での植物操作を集中して訓練させていたのだろう。廊下の床は一面植物の蔓で覆い尽くさえれていた。


「(コトネ、音波を相手にぶつけて失神させよう)」


 コトネが力を込めると、廊下の窓が震えるような振動が置き、魔女サイネが仰け反った。


「ぐ…、…なんの!」


 魔女サイネがなんとか態勢を立て直そうとしている間、アオナが目を閉じた。すると、青い蕾の付いた茎が下から伸びてきて、腰のあたりまで茎を伸ばすと人の顔程もある一輪の青い薔薇が咲いた。まるでサファイヤのように輝く青いバラはコトネの意識を通して見ても息を呑むほどで、アオナは手を広げうっとりさせた。


「青い薔薇…神の祝福」


 ふわりと廊下一面に薔薇の香りが漂った。


「神が私の味方をしてくれるの。ねえ?貴方が攻撃できそうなものはもうないよ?」


 青い薔薇はおそらく、アオナに運を引き寄せるような架空の薔薇なのだろう。サイネが攻撃に使えそうな物はもうなく、魔女2人は足元を茎でしっかりと固定している。


「真守、あとは俺達でやれるから他の魔女のところに向かってくれ」

「わかった」


 英太の意見を受け、コトネを廊下の奥に行くよう指示すると、コトネの足元の茎が解かれた。

 コトネは魔女サイネの方へ走り、横をすり抜けて魔女バスキの元に向かった。


「ちょっと!お姉ちゃんのところに生かせない私との勝負は!…んにゃぁ!?」

「私が相手!」


 魔女サイネがコトネを行かすまいとして念動力を使おうとしたところ、サイネ自身が足を滑らせて尻餅をついていた。青い薔薇の運補正効果と、廊下一面の蔓のおかげだろう。

 コトネは場をアオナに任せてそのまま廊下の奥へと向かった。

 アオナと魔女サイナと二人きり。

 アオナは対魔女との戦いは初めてで、機関に保護されてから英太と出会い、魔界についてのある程度の知識と魔界の創り方は聞いたものの、不安は拭えない。


「私が、相手なんだから…!」


 アオナはふぅと息をついて目を閉じ、英太から教えられた青い薔薇を思い浮かべる。英太は、アオナに青い薔薇というものはこの世に存在しないのと言った。だから、青い薔薇には神の祝福や奇跡を意味し、青い薔薇を咲かせられるアオナは奇跡なのだと言ってくれた。

 そして、この薔薇は奇跡を起こすのだと。

 英太は、アオナの家族の誰よりも自分を褒めてくれて自分の隣にいてくれる暖かくて、優しい人だ。アオナは英太のためにも頑張りたいと思っていた。


「ぐぬぬ、魔女を倒してお姉ちゃんを助けに行くんだから!」


 そういうと魔女サイナは自分の体を浮かせてアオナに肉薄する。


「ひゃぁ!」


 英太の助言を聞いて、慌てて床一面の蔓をアオナと魔女サイナの壁にして防御する。


「いたっ!刺が刺さっちゃった!…うう、こんな蔓!」


 蔓は薔薇の蔓なので、棘がついており、魔女サイナのそれ以上の肉薄を許さない。

 魔女サイナが手のひらをアオナに向けて力を込めると、薔薇の蔓が音を立てて切れていく。


「あ、ぅ…!切れる!」


 ミチミチと音がして蔓の壁が剥がれていく。剥がされまいと集中しても蔓は薄くなっていく。薔薇の蔓が完全に破けてしまいそうなその時、魔女サイナが呻き声を上げて頭を抑えた。


「い、いったぁ…」


 魔女サイナの超能力は弱くなる。英太のテレパシーによると、コトネの音圧で超能力の使用に影響を及ぼしたのではないかとのことだった。

 アオナは、心がモヤモヤとした。すると、英太が、アオナの青い薔薇が奇跡を起こしたんだよと言う。ああ、やっぱり英太は自分のことを考えてくれているのだとアオナは心が満たされているのを感じた。

 いつのまにか、薔薇や蔓は消えていて、超能力で投げられたモノはもうなくなっていた。目の前にはただの廊下が広がっていた。

 魔界が消えたのだと英太がアオナに言った。

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