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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
第七章 ついに現る、平和の綻び
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【第7章10】孤独な者の依存

 鳥はまだ鳴かない。

 新たな一日の始まりといえば、柔らかな朝日を受けて飛び立つ小鳥だろう。互いに朝の挨拶を交わしながら、小さき翼を動かして空を目指す。そんな姿は、まだ見られない。

 今、ちょうど太陽が地平線から顔を出したところなのだ。鳥たちはおろか、早起きの農家でさえ起きたかそうでないかの具合である。それが大きな街で見られるものか。


 建ってからろくに手入れのされていなかったであろう、建物の壁。雨や泥などで汚れ、もとは白いはずなのに灰色がかっていた。

 そこにもたれかかる青年はフードを深くかぶり、目を閉じていた。わずかな無音の世界。壊してしまわないために、身じろぎひとつしないでたたずんでいた。

 ただ青年はぼうっとしているわけではない。頭の中はこれからの計画でいっぱいになっている。


 考えをまとめるには何も見ないに限る。人というのは動くものに注意がひきつけられる。真剣に思案したいならば、真っ暗な中でいるのがいい。沈黙の中にいるのがいい。

 グレイはこの町の領主の城を調べに行くつもりだった。そうすればひとまずやることは見つかるし、人の活動時間になる。調べたあと、宿屋に書きおきでも残せば、文字の読めるレベッカが理解してくれると思ったからである。

 計画が大筋どおりにいかなくなってもいいよう、あらゆる可能性を挙げようとし、青年の目が開いた。同時にすれる複数の靴と石畳。


「おや?」

 その声まで聞こえてきた途端、グレイに警戒の色が現れ、すぐにこの場を去らなかったことを後悔した。

「さっき質問にいらした旅人さんじゃあ、ありませんか」

 門番の仕事に就いていたはずの二人が、グレイの前に立ちふさがっていたのだ。とっさに青年の演技を始めるグレイ。気の抜けるようなあくびが、そのひげのない口からやってきた。


「うーん……よく寝たなあ」

 物腰柔らかな衛兵に声をかけられてから、目が覚めた素振りで青年は大きくのびをした。それからやっと今の場所に気づいたのか、きょろきょろと辺りを見回す。途中に人の足を見つけて、ようやく二人の衛兵と顔を合わせる。

「あれ、なんで衛兵の方が? というより、ここはどこでしょう? 私、宿屋に戻って寝るはずだったんだけどなぁ。うーん、昨日は宿を出て門のところまで行って、そのあたりから眠気がひどくて……。いやあ、何にも覚えてないなあ」


 相変わらずののん気な青年を演じるグレイに、何を思ったのか口がよく動く衛兵はこんなことを言い出した。

「よければ旅人さんの宿までご案内しましょうか? 宿までの道、わかりますか」

 衛兵の瞳の奥で秘められたたものが見えかくれする。

 こわばった顔のままグレイが首を横に振ると、後ろに控える無口な衛兵が、口元に笑いをひっつけた気がした。


「それなら、コイツの方に任せましょう。私は行かなければならない所がありますので。ミルクス、報告を頼む」

 今まで会話が滑らかに成立していた衛兵が、不吉な笑みをまだ続ける相方の方をチラッと見た。表情が変わらないままに無言の衛兵がうなずくと、飛ぶような勢いで去っていった。

 ミルクス、とあのしゃべる衛兵は呼んでいたが、グレイはその名が本名だとは思わなかった。あの・・声の持ち主が、そう簡単に自分のことをさらすようには、考えられなかったのだ。


 グレイがゆっくりと立ち上がる。砂ぼこりをはらいながら、前の衛兵に警戒を続けた。

「なぜ……」

 グレイの口から、思わずといった様子で疑問詞が現れる。絵に描いたままのような顔で衛兵は、グレイの声にあのとうとうと響く低音で重ねた。

「なぜ詩人は衛兵であるのか。衛兵は詩人であるのか」

 衛兵の口調は不可思議な雰囲気を演出する魅力にあふれていた。声のみを聞いていれば、詩人の問いに。


 きっちりとした装備に身を固めた衛兵は、いつのまにかグレイから目をはずし明後日の方向を見た。口から紡がれる詩的な自立語と支える付属語。

「それは声。世界を紡ぐ者から与えられた、不死のこの身のなんとわずらわしきことか。顔は何度でも変えられよう、だがこの声! 不変であることを願った私の声よ、だから私は私なのだ」

 言葉では不便さを嘆きながら、詩人であり衛兵でもある人物は顔を輝かせているように見えた。


 困惑のままグレイは後半部分に首をかしげながらも、彼が詩人とも衛兵とも同じ人だということは理解する。ただなぜそれを自身に明かすのか分かりえなかった。そして詩人と同一人物なら、なぜグレイの心身が若返ったのか、それが知りたがった。

「お主はに何をした?」

 詩人たる者にグレイは一歩つめよる。


「便宜上、私をミルクスと呼ぶといい」

 そう仮の名を告げ、彼はグレイに顔を見せた。続きは歩きながら、というように体をひねらせて。

 グレイはミルクスに、宿への案内が必要ないことを 言おうとした。だったのが、有無を言わせぬミルクスについていく他なかった。問いの答えを聞き出すためにも。


 路地裏を通る。

 思いの外狭い、細い道を行く。自称ミルクスという者は、衛兵姿のまま慣れた様子で通り抜けていく。あとを追うグレイも、猫のような身軽さですりぬけていく。

 こんな道は宿屋が多くあるところに繋がっているのだろうか?

 ごく当たり前な疑問を振り払い、グレイは前のミルクスに呼びかけた。


「いつ()の問いに答えてくれるんだ?」

「……私は解くために、呪いを完全なものにしたまでだというのに」

 歩く速さはそのままに、衛兵は片手を挙げる。その手は人差し指と中指以外立っていない。

「貴方があの愚かな歌姫にかけられた呪いは、二つの要素があった。一つは上位魔術師だった、ベルマージュについての記憶を消去すること」

 低い塀を前の詩人がよじ登って乗り越えたから、グレイもそれにならう。体を動かしながら、彼の言葉を聞き取っていた。


(ベルマージュ、確かこやつが昨晩詠った詞にでてきた女だったか……?)

 次の要素の言葉が落ちてきたのは、ちょうどグレイが塀から降りたところだった。

「二つめは肉体の不老」

 ふらりと住宅の角をまがる前に聞いた内容は、現在心身ともに若いときに逆戻り中のグレイを、ためらわせる。ミルクスの示す道をたどり、反射で突き出た自身の手は、余分なしわがなく剣だこが目立つ。


 追いついた曲がり角では、混乱顔を当然のように受け止める声が待っていた。

「対象者が予期せぬ貴方だったから、呪いも全てがかかるわけではなかった。一つ目はヴィデルタも望むところ、だが二つ目はかの剣士を苦しませるだけにすぎない」

 もはや目的地が不明なまま、グレイは歩き続けた。

 ひとつ建物を通り過ぎるたび、大きく見える城。はるかな高さを誇っていた。


「術者の意にそぐわない呪いは、中途半端だったのだよ。ただし、呪いは完全でなければ解かれない」

 つかずはなれず、常に適度な距離を保つのには双方の協力がいる。二人の距離は伸び縮みせず、一定なまま先へ進む。

「これが普通だった、というわけか。しかしなぜそんなことをしたのだ、お主の目的はなんだ」

 不意に光す。

 天の巨大な射手は、的確に青年の瞳を刺し貫く。建物の影から飛び出したそこに、いつの間にか上った太陽があった。


 開けた先には白い石を積み上げた壁。どうやらこの町には、巨大な町全体を囲む外壁と城自体を囲う二重構想らしい。

 朝日を受けて眩しそうに目を細めるグレイ。一方内壁の影に身を隠すミルクス。二人ともふと、立ち止まっていた。

「私に物語の介入は許されぬ。かろうじて許されるのは、策者の意思を反映させるためにすぎない。どのような行動も私の目的など、存在しない」


 謎めいたせりふを吐くミルクスを、グレイは不可解なものとして見ていた。その目を何だと思ったのか、衛兵姿は声のトーンを落として更につぶやく。

「哀れなのは私ではない。私につきしたがうあの少女こそが哀れなのだ。自分の意思を手放して預けた者が、自らの目的さえ取り上げられているなど、ただの道化」

 続く理解不能な言葉に、グレイは首を振った。そして日のあたる場所から、日陰へと歩き出す。彼にはミルクスの目的が分からなかったが、何処へ導いてきたのかははっきりとした。


 動き始めたグレイに気づき、衛兵の格好をした者は内壁の門を指した。自身も近づきながら行くと、閉じられていた門が開き始める。

「ようこそ我らがリロイ領主様の城へ。アーリア騎士団レルルーア・シェスタ様のご親類の方ですね、シェスタ様は城内にいらっしゃいます。お会いになる部屋まで案内いたしましょう――」

 開いた厚い門の向こう側に、侍女らしい格好をした(ただし至るところにもピンク)少女が立っていた。

「ねえねえっ、ご主人サマ! これでカンペキでしょっ?」


 元気一杯少女らしさのかたまりが、大きく首を傾ける。その満面の笑みは、衛兵姿に向けられていた。

 彼女のまわりの地面には、出勤したての門番が全員のびていた。

 やがて青年に気づくと、ふうーんと女の子特有の高い声で

「これがレベちゃんの片思い相手かぁ~。レイ君、ワタシご主人サマの従僕、シャスール・アデシヤ。よろしくね☆」

 言ってのけた。


 サブタイ、孤独な者は正確にいうとグレイではありません。正直に言えば詩人(またの名を無口な衛兵、便宜上ミルクス)と、お久しぶりなピンク大好き魔女っ娘シャスールです。グレイも依存しているところはありますけど、今回ではあまり表面に出てきませんでした。

 どうしても思いつかなかったから、えいやっと……。ごめんなさい、巻きでいきます次話から。もう巻きです。まきますか、まきませんか、でいったら巻きます。(話の展開スピードを上げるんです)


 毎回の如く遅くて申し訳ないです。三月は余裕あるかな、と思いましたが、去年安全な場所にいた私には敵わないと悟りました。更新ができる個人用端末を手に入れたおかげで、これから少しはさっと書き上げられるかな……という希望です。あくまで希望です。


 どうやらこの七章、番外編1と大きな関わりがあるようですね。そして、番外編の方には拾わなくてはいけない伏線がありました。ちゃんと確認しながらやっていきます。


 さて、次回は改稿ですが、十五歳にして重たい感情をもつビル君はやりづら(ry

 いっそのことヒア君をいれてやろうk(ry


 最後まで読んでくださりありがとうございます。続く物語をよろしくお願いします。

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