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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
第七章 ついに現る、平和の綻び
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【第7章3】ゆるやかな降下

「それでは、最後の詩は・・・・・・誰も知らない歌姫ヴィデルタの詩にしましょうか」

 男はそういうと、口を開いた。地声とはかけ離れた美しく響く声が、おかしな格好をした詩人の口から流れ出た。この酒場中にいるほとんどの人間が、その声に魅了された。

 詩人は、何も楽器を手にしていない。それなのに最高の楽師達の伴奏つきで、聞いているかのような不思議な感覚に包まれる。

 ただ一人、レベッカだけはその魅了の力に取り込まれておらず、体が凍るような思いをしていた。テーブルの下で握られたこぶしは小刻みに震え、そのこぶしに触れているニィラを現実に引き戻した。


  美しきヴィデルタ 愚かな歌姫 さあ手をおとりになって

  わたくしを選んで くださるのでしょう?


  かつて栄えた魔法の王国 歌に魔力をこめ 誰にそれを伝えましょう

  歌姫と噂される そんな美女がひとり 歌を歌って暮らしていました

  ヴィデルタ、あぁ ヴィデルタよ。 どうしてそんなに愚かになったのか。


  歌姫には友がいた 可憐で優雅なベルマージュ 上位の女魔術師

  二人はとても仲がよく 共にひとつの家で 暮らすほど

  ヴィデルタ、あぁ ヴィデルタよ。 みにくき己をよくみたのか。


  愚かな歌姫を慕う者 数多あまたの男がいたが 彼女が恋するは 無鉄砲な傭兵

  傭兵によく似た流浪の剣士に 恋した乙女はベルマージュ 二人の思いはつらぬかれる

  グレイ、あぁ グレイよ。 なぜ気づかないのか。


 今までテーブルに視線を向け、じっと男の声を聞いていたグレイは、ガバッと顔を上げてその男をみた。自分の名が呼ばれた驚き以上の表情を、顔のはしばしににじませながら。

 舞台で酒場中の視線を集めている詩人は、グレイの目をずっと直視していた。視線が交差して、詩人の口元に笑みが浮かぶ。その笑みは、ほかの誰かに気づかれないうちに消え、また続きを詠み始める。

 グレイはギリッと奥歯を噛み締めた。もうグレイはまともに、男の美声を聞くことが出来なくなった。


  古く生きた魔法の王国 傭兵は国を去る その後姿をみるは ベルマージュ

  ヴィデルタは見つける ベルマージュの恋した 流浪の剣士の居場所

  あぁ、運命、そうだった。 いずれ思いはすれ違い 夢見た心は地に堕ちる。


  勘違いしたベルマージュ 哀れな彼女は 友人の恨みをかう

  醜きヴィデルタ 憎しみに覆われる 呪いを紡ぎだす

  呪いの歌は傭兵を襲う 突然居合わせた剣士は ベルマージュ救い国の外

  愚かで醜いヴィデルタはやがて 正気を取り戻し自分の過ちに気づく


  どうしてですか? あなたはわたしを選んでくださらないの?

  呪いをかけたそんな者 伴侶に選ぶことなど ありえようか。


  呪いが解けない傭兵は 国を去り すべてを忘れた

  もっとも愚かな歌姫は 黒をまとい恨みの矛先を 剣士へと向けて

  憎しみのウタを 悲しみのタネを 広げた


  これが話というのなら 私の苦労も水の泡

  先人の詩を あなたの道選びに お役立てを


 詩人独特の決まった台詞を口にし、深々と礼をした男に酒場中の温度がぐっと上がった。中には立ち上がって、大げさに拍手をするものもいる。顔を上げた詩人は袖の中に手をいれ、袋を前に出した。多くの客が思い思いのお金を入れに、舞台の前へ行列をなした。ときどき投げ入れるものもいて、微笑みながら彼はそれを掴んでみせた。

 その行列がまばらになる頃には、さきの詩についての話題で酒場中が盛り上がった。自分なりの解釈を大っぴらにいう者もいれば、自分のテーブルで静かに酒や料理で口をみたす者もいた。

 そういった盛り上がりが一定以上になる頃には、舞台に立っていたおかしな格好の詩人は消えていた。何人かそれに気づいたものがいたが、誰もそれを声高に叫ぶような真似をせず、酒場の賑わいはまだ消えることはなかった。


 ニィラは空腹を訴えるお腹の声にハッと顔を上げた。周りの騒ぎようで、グレイとレベッカには聞こえていないみたいだった。二人の様子をみてニィラは、二人が何か深く考え込んでいるようだった。それぞれに触れながら、気づいたように声をかけてみると、二人ともニィラに気づいた。

「ねぇ、お料理頼まないの?」

 本心だったがやっと気づいた二人は、まだなにか気をとられつつも返事を返した。

「あっ、そうか。だから、お腹すいてるのね。ここ、何の料理があるのかしら」

「悪いな・・・。呼べば、メニューぐらいくれるであろう。給仕の者を呼ぶか」

 手を挙げて給仕係を呼ぶと、さっとメニューを渡してくれた。だけど二人はさらっと目をやっただけで、ニィラにメニューを手渡した。そして、注文を待っている給仕に言った。

「とりあえず三人分のお水をくれないかしら」

「適当に頼む」


 心ここにあらずといった様子の二人に、給仕は愛想よく返事をして厨房の方へ駆け戻る。そして直ぐに二人は自分だけの世界にもぐりこんだ。

 ニィラは、二人のおかしさに首をかしげながら、手元のメニューに目をやる。ニィラには難解な文字が書き連ねてある。かろうじて数個の単語や数字が読めたが、一つの料理の名前すら完全に分からない。

 農家で育ったニィラは、ほとんど文字は習わずに過ごしてきた。だから、ほとんど知らない文字ばかりだった。二人のどちらかに聞こうと思ったが、二人とも自分のなかの深いところに入り込んでいて、声をかけづらかった。

(面白くないなぁ・・・)

 しょうがないので、ぷくっと頬をふくらませてテーブルにうつ伏せになった。


                                *


 食事を済ませそれぞれの部屋に戻った三人は、夜を過ごしていた。ニィラは寝台に入るなりすぐに寝入ったが、他の二人はそういうわけにはいかなかった。

 グレイは、部屋の窓を乱暴に閉めた。木が悲鳴を上げたが、グレイはそんなことを気にもせずに、また乱暴に椅子を蹴った。椅子は入り口の扉に当たって大きく音を立てた。

 グレイの苛立ちはまだおさまらず、汚く誰に当てるでもなく罵った。

「くそっ!」

 己の名を呼ぶ詩人の声や、何もかも知っているという満悦した笑みが、脳裏に浮かんでもっとグレイの顔はゆがんだ。

(あいつは、の何を知っているというのだっ!?)

 不機嫌なまま寝台に座り込んで、そしてはっとなった。無意識のうちに片手が頭へ動いていく。

 自分の手が、顔をすべってなぞっていく。指が覚えたあきらかな違和感。もう片方の手も顔へ伸びていった。どちらの手もはっきりとした変異を感じた。


 立ち上がって、グレイは壁にかけられた鏡に近寄る。窓も閉められ、明かりの一つもついていない部屋の中は、闇に限りなく近かったが、グレイにはありありと見えた。鏡の中でぼんやりと浮かび上がるようにうつる自分の顔をみて、ささやくような言葉が口から出てきた。

「どうなっている? この顔は・・・?!」

 思わず視線は手の方にも向けられた。さっき、顔に触れていた指には、沢山のしわがない。それどころか、怪我をした腕がなんともないし、腕の筋肉のつき方や指の節の大きさからみて、昔の若きしり頃とほとんど同じ状態なのだ。口の周りを覆っていた髭も、多くの白髪もなくなって、背も幾分か伸びたような錯覚におちいる。

 これは幻か、とグレイは動揺した様子でランプに火をともした。


 あたたかな光が部屋いっぱいに広がって、またグレイは鏡を覗き込むがさっきよりも明確に顔が見える。間違えようが無い。顔が、手が、体が、そして精神までもが、若い頃に戻ったのだ。

 もうひとつ。あの詩を聞いた後に、いくらか記憶が戻ってきたのだ。特に、あの詩人が詠った詩についての記憶が。

(あの詩人は、俺と会った事がある・・・というのか?)

 謎が深まるばかりだった。グレイは深くため息をついて、ランプの火を吹き消した。眠れそうにないと、グレイは閉めていた窓をぐいっと押し開けた。一気に夜の風が入り込んでくる。窓のへりに足をかけたグレイは、その身を窓の外へ投げ出した。数ポア(一ポア=約五十センチ)の高さから飛び降りたグレイは、足が地面につく前に目の前の木に飛び移る。木がグレイの体重でたゆんだが、その反動で宿の屋根に飛び込んだ。あきらかに、身体能力も若返った。陰り気味の表情で、グレイは屋根に腰掛けた。夜が長そうだった。



 眠れない人がとなりの部屋にも、もう一人。すやすやと静かな寝息を立てて眠るニィラを見ながら、レベッカは椅子に座って考え込む。防音設備が皆無に等しい為、隣の部屋の物音も聞こえるのだが、自分だけの世界に浸りきっている彼女には聞こえていない。

 癖で、左腕に巻かれた黒いバンダナの結び目をいじってしまう。それに、このバンダナがあればあのひとが傍にいてくれると思える。

 あの女性ひと、といって記憶がパッとよみがえる。あのひとの美しい紫色の目。色合いが昔栄えた芸術を思わせた。家族のもとを出てから出合った、彼女の大切な恩師。

「あなたは今、何処にいらっしゃるんでしょうか」


 ぽつりと呟かれた言葉に答えるものはいない。そして聞くものもいない。レベッカが目を静かに閉じれば、師と過ごしたかけがえのない日々が幾つも浮かんでくる。だけど、必ず。いい思い出ばかりじゃなくて、最後に師とすごした時間はよかったとお世辞にもいえるほどではなく。

(あのとき、すごくおかしかった・・・・・・)

 レベッカはそう確信する。毎度毎度、師を最後に見た時を思い返すたびに確信し、そして最後に投げつけられた凍てつくような冷たい言葉が心を貫いた。

『あたしの憎しみはあなたには理解できない。必要ないわ、あんたみたいな馬鹿なんて』

 また、体が冷たくなってぎゅっと自分の体をかき抱いた。左腕の黒いバンダナがしわくちゃになるくらいに握り締めていた。


 気づくとレベッカは椅子の上で三角座りをして、小さな幼子のように顔をうずめていた。肩が震える。気を緩めたら、嗚咽が口から漏れでそうだった。だから、ぐっと口を引き結んで、涙であふれないように目をかたくつぶっていた。

(誰もこないで・・・)

 必死にニィラを起こさないように、ひとりの世界に沈んでいく。ぐるぐると、おなじ問いが頭の中を駆け巡った。もがくように問いに答えをだそうとしても、新たな問いが生まれ元の根源の問いにたどり着く無限ループ。

 また日が出れば、元の陽気な自分に戻れるのだと、早く夜が終わって欲しいと、椅子の上でうずくまり縮こまり殻の中にこもった。


 はい、どうも。笹沢です。この三人の話もシリアスっぽくなってきました。

グレイ、なぜ若返ったし・・・。老人キャラ一人減ったよ、まったく。


 というより、正直詩について自信が無いです。なんかキャラがひどいこといってくるんです↓。

グ「普通、酒場で憎しみ云々の暗い歌をやるか?」

レベ(盗)「もうお祭りも近いからね、明るくて元気いっぱいな方が人気あるはずよねぇ」

ニィ「うーん・・・。よく、わかんないけど。さくしゃさんイジめちゃだめだよぉ」


うぅっ、ニィラちゃん。なんて君は天使なんだ! あの子と大違い!

とっても優しくて、おねぇちゃん。涙が出そうだよ。あぁなんて、いい子なんだ!


決めた! ニィラちゃん、おねえちゃんのおうちで預かるよ。危険な旅に出させた自分が馬鹿だったわ。「可愛い子には旅をさせよ」っていうけど、ニィラちゃんの場合はかんっぜんに間違ってるもの。

可愛い子は自分のものにせよ、だよ! 


※作者の人格を疑った方、正常です。自分は友人に多重人格といわれました。今日はエラーしているようです。スルーの方向でお願いします。

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