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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
番外編1 三ヶ月の訓練期間
53/65

【番外編1-13】八時の鐘3

 マリという侍女についていくと、テラスとつながっていた部屋の向こうに、彼女が侍女として仕えるあるじがいるようだった。

 いま、通っている部屋の全ての家具に白いシーツのようなものが、かぶせられていた。元々は気高い純白だったのかも知れないが、埃や踏みつけられた跡でくすんでいる。おそらく、あのテラスもこのつながった部屋も、使われていないのだろう。

 日が低いところでも入るようにして作られた部屋であるのか、手垢や雨粒で汚れた窓から柔らかな光が僅かに差し込んでいた。だが、窓枠の角には蜘蛛の巣があり、糸をたれて揺れる蜘蛛が妙に浮いていた。


「こちらで、お嬢様はお待ちです。新兵・・・さん、わたくしがお支えしましょう」

 二人を呼び出した人が待っているという扉の前で、ヘックは腕をワイスの肩からどかした。ワイスは、ヘックがマリに支えられるのを確認してから、扉を叩いた。

「失礼致します、ディオン将軍令嬢様。ワイス・ル・ヴォークです」

 開かれた扉のさきに、金髪緑目の少女がいた。そばに見た目麗しい侍女を従えさせているが、ひときわ輝く存在感を放つその少女は、聞く者を釘付けにするような声で微笑を浮かべた。


「ようこそお越しくださいました。ワイス・ル・ヴォーク様、ヘック・カーロン様」

 優しい微笑みになにも感じなかったワイスは、顔の筋肉をあまり使わないように言葉をつむいだ。

「いえ、我々のようなしがない者に様など必要ありません。ディオン将軍、侯爵令嬢カトレア様」

 口元に可愛らしく手を添えたカトレア・ド・ディオンは、わざとらしく「まあ」となどと言って見せた。貴族なんて見る機会が無かったヘックには、そのやり取りがただのくだらない茶番のように感じた。ヘックを支えるマリも、苦い顔をしていたので、同じことを考えているんだろうな、とヘックは思う。


「では、お言葉に甘えさせていただきますわ。それよりも、お二方の怪我の手当てが先でしたわね。どうぞ、お入りになって」

(二方? 自分は怪我などしていないはずだが・・・)

 ワイスはカトレアの言葉に疑問に抱きつつも、言われるままに部屋の中に入った。侍女が用意した椅子にヘックは座らせられ、ワイスは部屋の中央にある机の傍にあるソファーに座らせられた。

 傷に当てると思われる清潔な布と、消毒液を侍女が運んできたのをみてワイスは思わず言った。


「自分は、何処に怪我をしているというのでしょう?」

 目の真剣さに気づいたカトレアが、上品に驚いた。その様子に、ワイスの眉がひそめられたが。

「お気づきになられていなかったのですか? その首筋に血が流れているではありませんか」

 脳裏に鮮やかによみがえった、一瞬の鋭利な刃のきらめきが、今更ながらぞっとした。首元に手を当てて、そこに乾きかけた血が僅かについているのを認識した。

 視界の隅に掠めた、鈍いきらめきの正体はこれだったのだ。


 二人の姿が交差した、その刹那。

 ワイスは『紅血デモラッシュ白水ハクスイ』を起こさせることで、軽量化と刃の無力化をはかった。そしてそのまま、紅く光っていた剣は、その時地面についていた足のすねに直撃。

 目がそれを捉える寸前に、視界の端でかすめたきらめきは、遠ざかりそして、二人の距離が離れヘックが膝をつき、漏れでた一言。

『ぁあ・・・。力が』

 服を侍女にめくられ、ワイスの膝蹴りを受けたわき腹があらわになっていたヘックをみて、ワイスは少しの焦燥といったものを感じる。


(力が足りない? 力があれば? それはもしや自分のことかもやしれぬ。これが、もし。このような遊びでなければ、自分は――)

 自分の無意識によるおごりを恨みながら、優秀な人材がヒーディオン軍に入ったことを嬉しく思った。

 ヘックの蹴られたわき腹はあざになっていて、見ると「痛そう・・・」と思ってしまうほど、痛々しかった。どのような状態か調べるために、侍女にあざをつつかれているのだが、痛そうな声を上げることは無かった。

 そのようすを見ると、彼がいう『師匠』にワイスは会いたくなった。


 一方のヘックは、わき腹の痛々しいあざよりも、足のすねの方が痛いと感じていた。だが、痛がる様子がないため気づいてもらえない。そのうち、侍女の一人が湿布をもってきてあざの部分に貼ってくれた。ひやっとした感触が腹のあたりにじわじわと広がっていく。

 足の方もみてほしい、と口を開きかける前にマリがいった。

「そちらの方は足にも怪我をしています。見せてもらえますか?」


 ヘックがズボンのすそを膝のあたりまでたくしあげた。一瞬、マリがすねの部分をみて顔をしかめたが、きっと注視していたヘック以外は気づいていないだろう。

 マリは優しくすねの部分に手のひらを当てた。ヘックの目が大きく見開かれる。ずきずきいっていた痛みが嘘のように消えてしまったのだ。

「聖女・・・?」

 マリはヘックの呟きにもっと顔をしかめてぼそっと言った。

「そんな厨二病全開な呼び名なんてごめんだわ・・・」


 ちゅうにびょう? 病気なのか? と疑問に思ったヘックだったが、癒してもらったお礼を言わなければ、と思い当たって気にならなくなっていた。

「ありがとうございます」

「いえ、仕事ですから」

 と、しかめ面から普段の表情に戻ったマリは、当てた手を離した。普段の表情といっても、ほぼ無表情だ。

 ふと、ヘックがワイスの方を見ると、ワイスの首元にあるうっすらと付いた傷の消毒をしている。その様子をみてなんとも言えない嬉しさが、心のなかに広がった。

(今回は、動けないような負傷のせいで俺の負けになっちまったけンどよォ、次さァやるときゃ俺が勝てるっちゃア勝てるね)


 再戦の勝ち宣言を心の中でしていたヘックだった。宣言が終わる頃にはワイスの手当ても終わっていたのだった。

 手当てをしてもらった侍女に、静かに礼を言ったワイスは居住まいを直した。姿勢をピンッとはって肩こりについて色々心配されそうなほど肩に力が入っている。

「それで・・・カトレア様。わざわざ、許可をおとりくださって自分との時間を作ってくださったのですが、そろそろ本題を申し上げてくださいませんか?」

 よどみない声に、カトレアはレモン色の長めの髪に触れた。「そうでしたわね」と笑顔をつくったカトレアは、仮面をかぶって言った。


「わたくし、あなたのご活躍は人よりも知っておりますの。だから、新兵訓練などという低レベルなお仕事など、ワイス殿には役不足という感じがいなめませんの。ですから、お父様に掛け合ってもっとワイス殿にふさわしいお仕事をおすすめしたかったのですわ」

 声色と表情をすこしずつ変えていくカトレアに、ヘックは本気で憧れる(?)ワイスを気遣っているような印象をもった。

 だが、ワイスはあまりというか全く表情を変えなかった。無表情の割合で言うとマリと同じ割合だ。

 ワイスは予想通りだ、とでもいうように反応が単調であった。言葉に隠れた意味でも探すように、ゆっくりと頷く。


「それでは、まだディオン将軍にお話されていらっしゃらないのですね?」

 カトレアはワイスの言葉に肯定し、本当の色が見えない海のような瞳でワイスの顔を覗き込んだ。

「はい、ワイス殿のお言葉を聞いてから、お父様にお話しようかと思っておりましたの」

(つまり、自分が二つ返事で了承する、とこの傲慢女はいう訳か?)

 カトレアの言葉の意味を汲み取ったワイスは眉間に力をいれることとなった。


「失礼ですが、カトレア様。自分はこの仕事を役不足などと思っておりません。今の自分にふさわしいのはこのような戦地の前線から一歩はなれた所のようですから」

 自分の意見を軽く払われたカトレアは鋭い目つきで、立ち上がったワイスをじっとにらんだ。ヘックも、今度は誰の手も借りずに椅子から立ち上がれた。

「わざわざ、この時間にお呼びくださったのか、意図ははかりかねますが、手当てについてお礼申し上げます。カトレア様、そのお話はまたいつかにいたしましょう。では、失礼いたします」


 二人がカトレアのいる部屋をあとにすると、マリも部屋から出てきた。

「方向音痴のワイス様」

 さっきの無表情っぷりは何処へやら、驚くほど生き生きとした表情でワイスに話しかけた。ワイスも方向音痴と聞いて、驚くほど怖い顔で振り返った。

「その声は他人に冷酷無慈悲だというマリ殿。何か?」

「来たばかりの城で場所がわかりませんでしょう? 方向音痴ゆえ、一年ほどでたどり着くかと思われますよ。数十分で戻りたいのであれば、わたくしをお使い下さいませ?」


 戻るので一年とはひどいいいようですな、とワイスが目以外笑って言うまえに、音がさえぎった。このリク城全体が震えているように感じるほど、とてつもなく大きい音。頭に直接響いてくるかのような、胸を打つ鐘の音。

 両手で耳をふさぎながら、ふっとマリは不敵に笑った。

「タイミングが悪かったですね、分かりましたご案内いたしましょう」

 このところ黙ってやり取りを聞いていたヘックは、二人の間に根強い絆があることを感じ取っていた。マリさんの笑みとワイスさんの笑みが似てンなぁとのんびり思いながら。

 ワイスは、初対面の第一印象ぶち壊しな感じで、噛みもせずに敵意むき出しで言い放った。

「自分は頼んでなどいないのだが、まあタダで・・・案内してくれるというのならば案内されよう」

「あら、有料ですよ。ワイス様? わたくしへのチップくらい、蚊のようなものですものね」

「自分の年収を知っているとは驚きですな、マリ殿。さすがは侍女のコネ、とでもいいましょうか?」

「ただの情報収集の人脈ですわ。コネだなんて、嫌味なことをおっしゃりますのね。もしかしてそれがご趣味とか?」

「趣味だんて、そんなことをいうあなたの方がそのような悪趣味をお持ちなのでは?」

「それをいうのならばあなただって・・・」


 ヘックは勝負事以外であまり、こだわることはないようで、のんきに二人の言い合いを歩きながら見ていたのだ。



 二人とも初登場時のイメージを、誰かさんの右手でぶち壊されたような気がするのは私(作者)だけだろうか?

・・・この一文の、誰かさんの右手。知らない人はスルーをお奨めします。

え? 知りたい? そんな方がいるなら、「とある」でぐぐれ!! いえ、ぐぐってください。

すみません、誰か。わたくしめに文才をーー!


8/8

・・・あれ? もうすぐこのかくれんぼ編が終わるはずなんですが、全然かくれてねぇえええええええええええ!!

もはやただの鬼ごっこwww


すみません。とりみだし(??)ました。

お気に入り件数が2つ増えていたので、とても嬉しかったです。未知の四十pt突入!、なんてね。

なるべく週一更新を目指しますので、どうか見捨てないでくださいね。作者のメンタルは、卵よりもろいです!


・・・駄文失礼致しました。

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