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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
番外編1 三ヶ月の訓練期間
51/65

【番外編1-11】久しい人

 さくさくさく、と青々と短く茂った芝生の上を、二人の男が歩いていく。厳密にいえば、ひとりの方はまだ二十代を超えていないが、十五の成人は四年ほど過ぎている。つまり十九歳。その曖昧な年代の青年はわき腹をかばう様に、もう一人の男に肩をかりて歩いている。

 青年に肩をかす男は、典型的なヒーディオンの貴族らしい風貌であった。綺麗に整えられた短い金髪にやや細い青の目。外見だけを聞けば、貴族の令嬢達がうっとりとため息をつくほどである。しかし、その姿がワイス・ル・ヴォークだと聞けば、おしとやかである令嬢達は優雅な微笑を固めてしまう。


 ・・・コホン、失礼。わき道にそれてしまったようです。

 つまり、ヘックとワイスは豪華絢爛ごうかけんらんな中庭を歩いていたのだ。おそらくこのリク城の城主、アボドアール・リク・ド・ディオンの正妻やその娘などの為に作られたものだと思われる。

 実際、お茶会などを楽しむためなのか、丁度いい広さと場所のところにテラスがある。

 ワイスは口をぎゅっと引き締めると、その方向へ歩いてく。肩を貸してもらっているヘックからすれば、なぜ? である。


 それに気づいたワイスは、堅い声で言った。

「中に戻るには、近道だろう」

 なぜかヘックは背筋に恐怖を覚えた。気を緩めていれば、背中からグサッと剣にでもやられて、腹に穴が開いていそうだ。ワイスがそんなことをする人ではないと、わかってはいても。

「勝手に入ってええんすか? なんか場ぁ違いな気がすんのだけんど」

 ヘックの体を支えるワイスの肩が、ややこわばったような気がした。


 自分のなかにある迷いをも断ち切るように、ワイスはずんずんときらびやかなテラスに向かっていく。

 白いテーブルや椅子は清潔そのもので、毎日手入れされている物だった。野外においてあるとはいえ、屋根つきなのでさほど汚れはしない。

 ふと、ヘックは気づいた。室内の影に、侍女らしき人がいることに。ワイスも、気づいているが自ら近づいていっている。

「久しいな、マリ」

 テラスに一歩、足をかけた所でワイスは声を、侍女に向かって発していた。マリというめずらしいファーストネームで呼ばれた侍女は影から現れた。


 ヒーディオンではあまり珍しくも無い黒髪黒目だったが、いち将軍の城付き侍女としては若干めずらしい。王城などはもちろんだが、貴族の住まう城や屋敷では貴族の血を引くものが侍女として働いていることが多い。洗濯やところどころの掃除などをする下女・下男などは平民が多いが、主人専門の世話をしたり主人の婦人の部屋のみの専門だったりする侍女は上に挙げた通り、貴族多い。

 以上、閑話休題。

「ワイス・ル・ヴォーク・・・・・・」

 侍女らしからぬ、低い呟き。だが、それは自分にしか聞こえない。


「ここを通っても構わないな? マリ」

 ワイスの声が届いた途端、侍女のスカートが揺れた。侍女は胸元で手をきゅっと握り締めた。凛とした声で、ワイスに言った。

「ワイス様、そして新兵・・・の方ですね。我が主であるお嬢様が、お呼びで御座います。許可はすでに取ってあるとのことです。どうぞ、こちらへ」

 ワイスはおどろいた様子だったが、マリという侍女についていく。ヘックはワイスに肩をかしてもらっているので、嫌おうなしに行動を一緒にすることになる。


                           *


 バロシオンはエーシャをつれて、ビルから教えてもらった方角を目指していた。

<このあたりのはずですが・・・>

 『』をもつエーシャには、精霊の声が聞こえ精霊の姿が見え意図して精霊に触れられる。

(あの、バロシオンさん。時計ありますか?)

 おそるおそる、心配そうな目でエーシャがバロシオンを見上げるとバロシオンは少し頬をゆるめた。


<バロシオンでいいですよ。ええ、ありますよ>

 そういってふところから取り出したのは、リーディアの技術ではまだ到達できていない仕様の金時計。ぱちり、と音をたてて時計のふたが跳ね上がった。バロシオンは時計盤をみて眉をよせる。

 エーシャはその様子をみて、時計をのぞきこんだ。

(なにこれ!)

 文字らしきものがゆがんで、白い時計盤ににじみ出ていたり、あざやかな色が時計盤をうめつくしていた。針はぐにゃりと折れ曲がり、狂ったようにまわり続けている。


<狂っている・・・。体感時間をも妨害されているようです>

(でも、方向は間違っていないということになります。進みましょう)

<はい>

 ひたすらその方向をめざして、二人(いや一人と精霊一体)は歩き出した。ときどき曲がるたびに感じる、歩いていると突然床が無いような一瞬の恐怖がエーシャを不安にさせた。しかし、その不安を顔にだすような真似はしなかった。ただ、きゅっと手を握り締めた。


 それからどれくらい経ったであろうか。バロシオンは時計を覗き込んだ。時計盤の色はもはや芸術並みに意味がわからないほどごちゃごちゃしているし、時計の針はひねられて直角に折れてまわる速さが尋常でなくなった。

 バロシオンが時計を見ているとき、エーシャはなんともいえない空気の動きに気づいた。

(何かくる?)

 心の声を聞いたバロシオンが振り返ったときには、廊下の壁から黒い火花が散っていた。バチバチィっとものすごい音でエーシャは驚いて倒れる体のバランスが取れなくなっていた。


 後ろへ体勢が倒れていくエーシャを支えたのは魔力。しかし、それはエーシャが発したものではない。

<あなたは・・・・・・>

 エーシャを支えた魔力の持ち主は二人の目の前にいた。壁に三次元の制約を無視してぽっかり開いた穴。箒に腰掛ける全身ピンクな少女。宙に浮くキラッキラになった(現代的に言えばデコられた)ステッキ。

「やっほー、オン君。久しぶりだよね」

<何年経っても、あなたも僕も変わらないようだ、アデシヤ>


 バロシオンがピンクの少女に言ったアデシヤの名。それを聞いて立ち上がったエーシャの肩がぴくんとはねた。

 それを赤銅色の目で捉えていた全身ピンクの少女は、見なかったというように無邪気に笑った。

「なんで、そんなあっさり教えちゃうのかなぁ。おかげでワタシの台詞減っちゃったじゃん」

(え? アデシヤ? 私の家名?)

 名前についての疑問がエーシャの頭を埋め尽くしていたので、次の会話についてははっきりとした記憶が無い。


<シャスール。シャスール・アデシヤ、この時代に現れたということは始まるのか? 『下人昇華ディデフィアールの月』が、僕らの闇が>

「大げさだよ、オン君。ところでさぁ、シオちゃんもこの城にいるんでしょ? 二人のご主人サマも一緒、でしょ?」

 シャスールと呼んだ少女の言葉を聞いて、バロシオンはぐっとつまった。きれいに弧を描いたシャスール・アデシヤの口元は乾いた笑い声を発していた。

<僕が答える必要性はない。シャスール、あなたはエーシャの母親か?>


 自分の名前ばかりに反応するエーシャは、顔をあげた。ふと、宙に浮くステッキをいじくりまわして遊んでいる少女を見つめた。

「あはは、そうだと思うよ。目なんかそっくりじゃない?」

 そして呆気あっけにとられた。どうみても同年代の少女が自分の母親である訳がない、と。

(確かに目はそっくり。だけど、私にはちゃんと両親がいたわ)

<そうか。ではエーシャを預かるために?>

 バロシオンはエーシャの声が聞こえているはずだが、突っ込むと話がややこしくなるので、アイコンタクトで後で答える、という意味の合図をしていた。


「まあ、自分の娘がどんな子か興味はあったけど引き取るためだけに、現れたりなんかしないよ。ワタシがこの時期に現れたのは、ワタシの主人が現れたからだよ。立ち位置的には、今度はワタシとオン君たちが敵対するみたいだけどねっ♪」

 箒からおりたシャスールはピンクのとんがった三角帽に触れた。すると、ショッキングピンクが穏やかな黒に様変わりした。

「今回だけ、昔の仲間だったよしみで、忠告してあげる。ワタシのご主人サマは、ここにいないからぁ黒幕を倒そうにも倒せないからねっ☆ じゃあ、オン君。この城でもう会わないことを祈るねっ」


 バイバ~イ、と少女さながらの笑み。箒とステッキを持ったほぼピンク(帽子だけ黒)の少女は穴に飛び込んで消えた。ピンクのスカートのすそが見えなくなったと同時に、また黒い火花を散らせ穴は壁から消えた。

「なんか、いいたいことだけ言って帰っちゃった」

<そういう人です。仕方ありません>

 エーシャにとってあの少女の登場は無くてもいいような気がしたのだ。


「はぁ、あの。今の話はどういうことなんですか?」

 エーシャが唯一興味を持ったのは、シャスールが自分の母親だという話だけだ。あとの話はほとんどシャスールとバロシオンの間で、交わされたことで意味のわからないことばかりだった。

<・・・彼女は古くからの知人です。僕たちに教えてくれた話によると、彼女とその主人の間にできた子供をとある夫婦に預けたらしく。それがおそらくエーシャさんが今、両親と慕う方たちではないでしょうか?>


 今日は厄日だ、と思わざるを得ないエーシャであった。

「あの、エリムさんを探しません?」

 現実逃避のためか、動いていたほうがいいと思い、声をかけた。

<そうですね・・・>

 前を向いたら、見えなくなった。バロシオンの伏せがちな金色の眼が。

 歩き出したら、見えなくなった。小刻みに震えている私の指先が。

 目をつぶったら、見えなくなった。頬つたう一筋の涙が。

 ああああ。

すみません、イレギュラーがなんと三人も! 女性陣を増やそうと思いまして、マリちゃんを登場させたところ、マリcが侍女ならば仕えた人も必要だー、ということでお嬢様もやむをえず登場。こら、マリ! 勝手に動くんじゃない!!

そして全身ピンクのシャスール・アデシヤ。姿は、某少女アニメ(?漫画)の魔法少女を想像していただければ、です。

 暴走しすぎだわ、シャスール。


やっと伏線だせたーと思ったら、思いもよらぬ方向へ!? 

癖を直さなきゃですね。

では、暑い日が続いていますが、来週を楽しみにしていただき。来週も見てくださることを楽しみに思いながら、あとがきとさせたいと思います。


7/29

アクセス数がきりのいいところを超えたのでご報告します(あらすじ部分にもありますが・・・)。

ユニーク数10000人、PV35000ヒットをいただきました!!

ありがとう御座います! 約一万人もの人がここを、(少しだけでも)覗いてくださったということに驚きました! インターネットすげぇな、とあらためて思いました。ほんの少しの暇つぶしにでもなってくれればと思い、この物語を完結するべく頑張りますのでよろしくお願いします。

「ちりも積もれば山となる」、これって本当だったんですね。誰もいなかった初投稿頃が懐かしいです。


6章以上になりそうですね。このかくれんぼ編。番外編1の分だけで、初回~6章終わりまでの分になりそうという脅威! 道筋は決まっていますが、どこに内容をつめるか、というところが決まっていないのでなんとも言えない限りです。7章の後の、番外編は「太陽vs月(仮)」編と称することにします。7章同様に楽しみにしてらしてください。

※期待に添えない場合もありますので、ほんのり期待してください。

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