表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
番外編1 三ヶ月の訓練期間
48/65

【番外編1-8】ワイスvsヘック 決着

 言葉は必要でなかった。彼らは剣を交えることで、語り合い己をさらけ出す。

 長年、共に連れ添う伴侶にすら分からないことを、初対面の彼らは互いに知り合い、互いの技の連続に夢中になる。

 もう、周りの風景だとか境遇は頭からすっかり消え去る。全てはこの剣と腕だけ。

 まるで別世界に入ったように、一人の前には一人だけ。剣をもつ真正面の相手だけ。


(くっ! こんのぉ、アッチの奴らよりも強えぇ奴いんじゃんけ。どしたら、有利な位置につけっかな!)

 時間も忘れ、ヘックはただひたすらに剣をくりだす。時に蹴りやパンチ、フェイントもいれて互いが一瞬の隙をあらそう。それを続けていると、それが十分に思えてもじつは数十分だったりして、体力は徐々に削られていく。


 自分が肩で息をしているのに、気づいていないような素振りを見せるワイスは、動きを止めずにいう。

「自分が予想していた以上だ、君は。このような場で、手合わせできることはとてもよい機会だ。たたずまいからして、あちらの方も期待を裏切らんだろう」

 ヘックは喋っている間の隙を見つけようと、動き続けるワイスに目をはしらせたが無駄な隙がない。と、逆に隙をつかれワイスにわき腹を蹴り上げられた。


「ぐあっ!」

 体が宙に浮かび、手から剣が離れる。剣が弧を描いて離れた地面に転がり、ヘックは地面に音を立てて落ちる。

 一番、今が無防備であるはずなのに、ワイスは近寄りすらしない。地面に転がってしまっているヘックには見えないが、ワイスは一歩遠ざかりながらなにやら呟く。

 ヴォン、と不思議な音がしたかと思うと、ワイスの剣の溝に赤い光が灯る。


「ぁ?」

 口の中に入った土を吐き出しながら、体を起こしたヘックは自分の目がかすんでいるのかと思った。

「剣をとれ、ヘック・カーロン」

 ワイスはヘックの見開かれた目をすっと見つめた。つり上がり気味の鋭い目には何の感情が浮かんでいる?

 ヘックはふっと笑った。そして土にまみれた体をはたきながら立ち上がった。

「俺んトコのししょーとおんなじじゃねぇか。あんたも」


 本人は呟いただけだったが、非凡な聴力も持つワイスは顔を緩ませた。まだ剣は構えていない。

「そうか、それならば会って見たいものだ」

 ヘックの瞳にまだ戦意は残っている。いや、はじめよりも増した。息が絶え絶えになっても、戦意はなくしていない。

 一歩、剣の落ちた方向へ歩くと、さっき蹴り上げられたわき腹がジンジンする。微妙に蹴られたほうの足も引きつり気味だ。ヘックは体が悲鳴をあげたのを、無視する。わき腹を無意識にかばってしまうため、足取りが重くよたよたとなる。


 剣を拾うとき、わき腹がひどく痛むため腰を折って拾えない。仕方なくゆっくりとかがんで拾うと、かなりの痛みだったが我慢できないほどではない。

 もう一度立ちあがると、ぴくぴくとわき腹が麻痺し始めた。

「いってぇな・・・」

 思わずこぼれた一言に、ワイスは笑みを深くした。

「君はずいぶんとしたたかなものだ。自分の蹴りを受けて痛い、程度で済んだ者はほぼいない」

「ハッ、それは光栄なこって」


 二人は笑いあった。剣を持っていることを別に置けば、親しい友人のように思える。

「ふ、その強かさに敬意を示して自分は、この『紅血デモラッシュ白水ハクスイ』を起こさせよう。さてヘック・カーロン、そろそろ終わりにせねば」

 ヘックは聞きなれないめいをきいて、おやっと思ったが終わりという言葉で違和感を忘れた。にやっとしてヘックは剣を構えた。

「ああ、いいっすね。朝っぱらっていうのにさぁ、ぐだぐだ疲れんのも嫌だかんなぁ」


 赤く光る『紅血デモラッシュ白水ハクスイ』をワイスは顔の前にかざした。高い城壁から、ゆっくりと眩しい朝日がもれてきた。

 二人ともそれに気づかない。じっとただ相手を睨んだ。

「行くぞ」

「いつでも来い!」


 二人は刹那、駆け出し剣を大きく振りかぶった――――。

 常人には目で追えない神速の如き速さで、二人はすぐに交差し決着はつく。両者は苦しそうに息を吐き出し、そして片方。力抜けて剣が手からこぼれ落ち、どさりと体もつられるように地面へ落ちていく。

「ぁあ、・・・ちからが」

 それはどちらが発したのか。


                             *


 ビルは不敵に微笑んだ。ジアンに見せたのとは違う笑みだ。

「まずはそちらからお願いしますよ。アレ・・について教えていただけるんでしょう?」

「ふっ(ワイスの『ふっ』とは全然違うことに注意! by三人称の語り手)。いいだろう」

 騎士は偉そうに胸をそらせた。だが、ビルはそれを冷めた目で見る。

(俺にとって興味があるのは、アポシオンのいう変な鬼のことだけだ)


「アレ、とは普通の鬼とは違う鬼のことを指す。体の一部に赤いバンダナを巻いた鬼、なので赤鬼と呼んでいる」

(うわぁ・・・ネーミングセンス皆無!)

 ビルが内心でひどくけなしているのに、気づかない騎士は話を続ける。

「赤鬼に触れられても、その新兵が脱落になることはない。赤鬼とそれに会った新兵に、出会ったらルールが適用されるからだ。出会ったらルールは赤鬼個人が決めるが、その中に『脱落は鬼ごっこで決める』というルールを含むことはない。それを含んだら赤鬼が特別じゃなくなるからな」


「へー。じゃー、どーして残ってる人数が一定になると赤鬼さんとやらがー、投入されるんですかー」

 ビルの棒読み具合に騎士は気づかなかった。周りの新兵は、ビルがすでに興味を失っていることがありありと分かるのだが、会話相手の騎士だけにはそれが違うらしい。

「赤鬼が投入されることによって確実に脱落者が増え、残っている者が絞られるからだ」


「はー、そうなんですか。じゃ、約束どおり教えましょうか」

 なぜかビルは話の主導が自分に回ってくると、先とは打って変わった様子で話し始める。周りの新兵は、「こいつ、役者じゃね?」と思ってしまうほどである。

「俺が、ジアン・マクシアとヘック・カーロン、それにエリム・マドゥカと仲いいのは知ってますよね?」


「よく固まっているな。それがどうした?」

 (王城から使わされてきた)騎士が(リク城付きの)騎士とビルの会話に入ってきた。

「俺達、チームを組んでいるんですよ」

「チーム?」

「で、今回。かくれんぼで、このよく知らないリク城全体が範囲、それに新兵以外はほぼ敵のような状況からして、隠れることに特出した者か運のよい者しか勝ち残れない。でも、それは個人での話。チームで連絡する方法と、現在の状況や城の様子がわかる物でもあれば、攻略できることになる。

 そこで俺は諜報役として、最も状況が分かりやすいこの間にいるわけです。さて、これでいいですかね?」


 ビルは長く喋って疲れたのか、息をついた。自分が、緑の間で結構な注目を集めていることに気がつかずに。

 精霊の言葉が伝わったので、そちらに気をとられていたからだ。気配などには凡人より遥かに敏感なのだが、自分を(悪意あるもの以外が)見つめる視線には鈍感であった。

<十五代目、バロシオンです>

 いている様子のバロシオンが語りかける。


(バロシオン? ちゃんと伝わっています。どうかしたんですか?)

<エリムが、エーシャ・アデシヤの傍を離れています。ですが、僕には探せません>

 ビルは、これほどあせったようなバロシオンの声を聴いたのは初めてだった。さっき聞いたアポシオンの声も些か震えていたが、それは距離が遠い故だろうと考えていた。

(なぜ? バロシオンならそれ位の距離、気配を察知できるはずでは?)


<何者かが、気配を悟らせないように結界を張ったのかと思われます。そちらで探せませんか?>

(やってみます)

 急いでその場に座り込んで、円を描く。方角のしるしをかきいれて、(本人は意図していないが)魔方陣を作り出した。そして、まずはバロシオンを探索する。

「バロシオン・・・」


 反応はさっき二人分の反応しかなかった方角とは、違う方向に反応が返ってきた。次にエリムを探す。

「エリム・マドゥカ」

 バロシオンの反応があった近くを探してみる。が、どこも返ってこない。無反応というより、不思議な何かに反応の波が吸い取られたような・・・。

 違和感を解明するべく、細かく探ってみた。すると大体の方角がつかめてきた。だが、妨害する何かが詳しい位置を分からせない。


(バロシオン、やっぱりその類があるみたいです。方角しか分からないですが、エーシャを連れて行ってもらったほうがいいですね)

<彼女も? どうしてです?>

(きっと魔法に関係していると思いますから、そのほうがいいでしょう? それに、エリムは彼女を守りたいからそうしたんだと思いますし)


<なるほど・・・。分かりました>

 少し不服そうな声は途切れた。

 すぐにビルは魔法について、あの妨害された結界? とやらを考えてしまう。

 このヒーディオンは、魔法の能力がある者はネイロへ送るだけである。保護し、自国の戦力にしようとしない。ビルは、魔法は便利だから、いざという時に結構な戦力になると思っているが。話がずれたが。

 だから、ヒーディオン軍に魔法兵は存在しないはずである。

(それなのに、探索することを妨害する結界。どうみたって剣術とか武術の技じゃない)

 情報漏洩を防ぐ、いわば防御の技。魔法には、何かを防ぐ魔法が多くあった。


(やっぱり魔法かなー?)

 ビルの魔法は少しさわった程度。どうやっても知識が少ない。すると、あの書庫にもう一週間ほどいれば、と思ってしまっている。

 緑の間に日時計を見に行った騎士が帰ってくる。どうやらもうすぐ七時らしい。


                       かくれんぼ終了まで残り一時間――。



すみません、時間軸がぐちゃぐちゃです。

↓のようになっているつもりですが、どうでしょうか。略語が分からない場合は言ってください。(フリーメモよりコピペしました。)




 ビルがアポシオンに連絡 

   ↓     ↓

エリム倒す  ダンスホール

   ↓       ↓

バロ・エーシャ アポシオン

   ↓        ↓

        

バロ連絡              → 連絡と伝言を受け取る

エリム伝言

        変人・ワイス登場

         アポシオン    → 「何だって?」

         ↓     ↓

        

              変人問答→ 「教えてやるよ」


      ワイスvsヘッ          → 七時

              ツィードvsジア

               疾風の斬撃


姉さん      決着


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ