【番外編1-7】疾風の斬撃
嗚呼、なんと言うか将来同じことになりそう。
今俺は、自称変人なわけがあるか! 騎士のとんでもない勘違いの真っ最中です。
「君の宣戦布告は痺れるねェ~。それに免じて、特別に自分の本当の名を教えてやんよ♪」
な~にが、痺れるねェ~だ! やんよ♪っとか、聞いたことのない言葉だっつーの。
というか、もう名前なんか、興味失せた。どうでもいいんすけど。
「自分は――ツィード・半田。リーディアに生まれた人ではないんだ」
わお! って驚くかっ。ハンダってきいたことのない苗字だけど、それはきっと冗談であるはず。
「・・・・・・あ、そ」
「うん、それで」
にっこにこと、城下街を女を口説くのに使うような笑みで、自称ツィード・ハンダ副班長は俺に一歩近づく。俺は一歩後ずさる。
この声は届くだろうか 何か託された鐘のもとへ
突然、老いた人みたいにしゃがれた声が、詩を紡いだ。不思議なことに、目の前にいる喜色満面の男に聞こえていないみたいだった。だけどその声は、精霊の体の芯を震わせるような声と違い、『魔鈴の絆』の鈴の指先に雷がはしるような音でもなく。
この音は響くだろうか 何か告げられた歌姫のもとへ
「君も隠しているんだろう? 自分に本名、教えてくんない?」
笑みの意味が違う。さっき、眼前の馬鹿野郎の笑みが、女たらしみたいなじゃなくなった。どうしてそう感じたのか、分からないけど。変な詩のせいかもしれない。
この詩は届くだろうか 何か沈んだ友垣のもとへ
「ペラペラと他人に喋りそうだから、拒否っとくわ」
瞬きをするたびのしかかる、しゃがれ声の詩によって。頭の上におもりでもくくりつけたように、クラクラする。特にさっきの二つの詩よりもこの三つ目、そのクラクラ具合がひどい。
この水は響くだろうか 何か埋もれた土のもとへ
「そっかあ~、残念。あっ、でも自分が勝ったら教えるんだぞ♪」
とりあえず、このどうしようもない阿呆の戯言は聞き流す。
今は何とかこの不思議なクラクラ、我慢していられるけど、もっとひどくなれば決闘なんてもってのほか。
この風は届くだろうか 何か消えた燭台のもとへ
「ハンっ、誰がやるか」
この環は響くだろうか 何か途切れた夜のもとへ
急に声のトーンを低めた頭の逝かれた野郎は、表情がさっと消えると真面目な奴に見える。声を高らかに上げたりしなきゃ、俺もんな態度とらなかったっていうのにさ。
「いや、君に逆らうことはできないよ」
この命は届くだろうか 何か失った月のもとへ
そんな訳がない。俺に弱みなんて・・・・・・ってアレ?
「君は何のためにここへ来たというんだ? 思い出しな、君がここに来るためのきっかけ」
この時は響くだろうか 何か狂った悪魔のもとへ
俺は何のために――? 俺は詩を謡うしゃがれ声が途切れたことに気づかず、馬鹿の言葉について考えてしまっていた。
最初は、行くあてなくてどうしようか正直迷ってたところを、丁度ビルに出会ってなんか勢いでついてきてた。だけど今は、いやビルの独り言を聞いて以来、俺は『魔鈴の絆』を結んだことを後悔していないし、むしろ俺達が特別な絆でつながっているってことが、心底うれしい・・・。
『ジアスがいてくれて、よかったよ――』
俺は、あいつに必要とされる限り、ずっと強くいたいと思う。あいつに頼りにされるように、強くありたい。
思ううち自然に、手に力が入り無意識に剣を掴んでしまう。新兵として採用されたときに渡された剣は、一ヶ月の文官見習い期間の合間で慣れ親しんでしまっている。夜などを寝室を抜け出して、屋上でビルと二人で素振りを行ったり、剣が持ち出せなかったときは素手で取っ組み合ったりして、常に身体を動かしていた。
もう、何度も抜いた剣が、すらりと鞘から刃を見せた。久しぶりに日がでてるうちに抜いたと思う。手入れ以外であまりださなかったから、余計にそう思える。
「そうそう。君が、そう率直でいてくれてよかったよ! さ、始めようか」
頭の中だけ爆発する実でも入れられて、からっぽになった馬鹿な天パーは、不思議な剣を抜いた(天パーって何だろ)。
正直、それを構えた銀色の自然にカールした髪をした騎士は、大戦争時代の伝説からひょっこり現れたように、絵になっていた。
漆黒に染まって、傷一つすら見当たらない刀身に、朝方のまだ薄暗い光が丁度当たって、髪とともに輝く。リオンのような色を思い出させる好戦的な蒼い瞳。
今の自称ツィード・ハンダはさっきみたいな馬鹿阿呆とは呼べそうにない。キャラが違う。もしかして性格が二つあるとか!
「自分は・・・・・・ツィード・ジョーエル。神よ、仮名を名乗ることをお許しください。ジアン・マクシア、自分の決意を受けよ」
俺は遠いようで近い、先生の講義を思い出しながら、『決闘の言』を自分なりにいってみる。
「俺ジアン・マクシアは、ツィード・ジョーエルの決意を身をもってして受け止めん!」
「「ペディア・アゴーリヴ神のご加護において、俺(自分)の勝利に祝福をっ!」」
俺達は駆け出した。同じように疾駆する眼前の騎士を、目から離さないようにしながら剣を振り上げる。もう何にも考えられねぇ。
ギンッ! 黒い刃と銀の刃が交差し、互いの純粋な力がせめぎあう。ここはダンスホールであるはずなのに、草原の風を感じた。青々しい草の香り、何処までも続いている広大な空。
「君に言っておこう。自分は魔法使いではない」
「は?」
やっぱり戻ったのか? 阿呆面が。
『人間の感覚は、およそ五つと言われている。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。もっとも敏感とネイロの学者達が考えるのは触覚であり、もっともだましやすいのは視覚だと思われている。付与能力は魔術師の扱う魔術に良く似ており、第六感をもつものには効かない。これからして、今の相手である少年は第六感を持たないと考えられる・・・』
え? 今のは何、詩でも鈴でも精霊でもない。強いて言えば精霊の声に似ている。
うん、なんでかな。俺の頭の中、他人の声でいっぱいだね。
でも、オプショルってなんだ? あ゛~もう! どうでもいい、俺は俺だ。他人の声やら音やらに頭の中を占領されようと、心の奥までは入り込めない。
「典型的なヒーディオン国の平民、黒髪黒目。だが、みなぎるこのエネルギーは・・・?」
俺は、今はジアンって名乗っているけど、リオンジアス・フェブリーヤ。大戦争を平和へ導いたリオン・フェブリーヤの子孫で、卑しくもその名をもらっている。
どれだけ時が経とうとも、性格が変わったとしてもそれだけは変わらない。過去だけは変えられなくて、未来は絶対に変えることができるはずだ。今の俺が望むのは、関係のない奴に影響されずに、ただ思い通りに。
ただ思い通りに。その為ならば、どんな――――どんなギセイもいとわナい。
頭の中に浮かぶのは、細い青草が茂る草原。ただ、それは俺の記憶にないもの。隅や端っこを意識すれば、一枚の絵を描くと途中で風景が切れるように、鮮やかなニセモノはほころびがある。
「意味がわかんねぇよ。あんたがいうオプショルやら、ミネルギだとか」
対抗しあっていた刃が、離れ再び距離を置く。
俺は静かに手首を下に向けさせる。だけど、構えは中段のままで下段に下ろさない。
「オプシェル、エネルギーだよ。って、君、付与能力の自動整理が聞こえている? だったら第六感をもっているということになるはずだ。付与能力の自動整理が間違えたなんて初めてだね」
「黙りやがれ、俺にとって魔法とかは興味ない。始まった以上手早く終わらせる、それだけだ!」
俺は静かに二重人格野郎を見つめる。目の前のおかしい奴は、へらりと笑いながら横に漆黒の剣を薙ぐ。
奴の剣を俺は軽く飛んでかわす。奴の目が無意識のうちに動いた俺を追う。俺の着地先を見計らって奴が深く踏み込み、俺はその肩を蹴って後ろに飛ぶ。
「そういえば、君。さっきからその剣、動かさないね」
「いやでも動かしてやるよ」
俺は奴から遠ざかるように、三つ飛ぶ。そしてその三つ目で剣をひらめかせ、下から上へ切り上げた。
俺が飛んだ先には大きく開いた窓がある。丁度良く風が入り込んでくる。
「疾風の斬撃!」
見えない斬撃が空気を切り裂いて、空気が悲鳴を上げる。キィルルルルゥ。
奴は青空のような瞳をおおきく見開き、切り裂かれた空気が奴の顔にかかった髪を横へ払わせ、奴の動きが完了される前に、斬撃が整った鼻先に迫る。
一瞬の本能で脇に飛びのいた奴は息を荒立たせながら、こちらを見つめた。
俺のほうも息が絶え絶えになっている。
え? 今のテンプレ技はなんだって?
俺と立場変わってくれなかったのに、答えろとあなたはおっしゃるんですか! あの馬鹿より、鬼畜ですね。
え? いますぐブラウザ切る? んなこといわないいわない。創造主である作者が悲しむだろうが!
はぁ? 俺が答えればそんなことはしない? ・・・はあ、モニター越しにも弱みにぎられてるしねえ。はいはい、わかりましたよ。ちゃんと奴に聞こえないようにしますから。
今のは、その名も「疾風の斬撃」。
俺は魔法なんて扱えない。剣術の応用だ。
ああ、剣術でそんなことができるのかって? モニター越しじゃできないでしょ。次元違うからね。
でも、こっちは気を利用することによって、一見すると魔法のような技ができるんだ。だけど、ビルの「上空越え」はちがう。剣術、というより自己流の技だ。
これ以上教えて欲しかったら、来週もまたチェックしに来いよな!
はい、すみませんすみません・・・。
勢いに乗る、というのは心地がいいのですが、書き終わった後すっきりするのですが。
よくよく後で見直したときに「やりすぎだよなぁ」と後悔するものなのです。
そういえば丁度一年前、いえ正確には明日で丁度一年になるのですが。
このリオンのモトを書き始めた日です。とある別サイトであの序章をアップしていた・・・。
そのころは、学園物語が書きたかったのですが学園、というと今の平和すぎる日本しか思い浮かべられず、中途半端な設定しか作れませんでした。
やがて、視点を少しずらして教えられる、という点は学校ではなくてもできるということに気づき、塾にたどり着きました。
塾。My magicはその頃、構想を立てていたモノの片鱗です、ぐしゃぐしゃですけど。
そのうち、私の好むジャンルがファンタジーと定まってきて、欠かせない物は剣と魔法。
考えたばかりの頃は普通に最強系主人公でした。あの村の『剣の習い』とフェブリーヤ一族、そしてちょっぴり魔法。それだけしか関わる予定じゃありませんでした。
だけど、今も直らない『思いついたら直ぐ入力』によって物語はどんどんリーディアの狭い大地に手を伸ばしてしまい、いつのまにか早一年!
これほど長くなるとは思いもしなかった物語は、今も留まることを知らず頭のなかで動き続けます。
――いつかくる、最後の一文字まで応援して頂ける事を心から願いつつ。
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一部、1-10で更新される部分と矛盾してしまうところを修正しました。