【番外編1-5】出会ったのは・・・
「魔力が枯渇して死ぬ・・・?」
エーシャの顔はさっきと相反して青くなっていた。怖くなって膝がかすかに震え始めた。エリムはそっと椅子から立ち上がって、エーシャの肩を掴んだ。バロシオンを見上げると、バロシオンは目を伏せていた。
<やはり、あなたは知りませんでしたか。はやく決めたほうが良いですよ。――僕らと違って、あなたには選択肢が与えられたのだから>
「僕ら?」
エリムが意味がわからないというように、聞き返すとバロシオンは首を振った。聞くな、という意味なのだろう。
「・・・・・・でも、あなたはビリーの使いって言ってましたよね? ビリーはどうなんですか」
<ああ、彼ですか。僕達はビルの剣に宿っている精霊です。正式な所有者であるビルなら僕とアポシオンを呼び出せます。そこに魔法云々は関係有りません>
「なるほど」
エリムはバロシオンの答えに相槌を打つと、震えがひどくなったエーシャを先の椅子に座らせた。
「バロシオン・・・さん、」
ためらいがちに開いたエリムの口を、バロシオンは和やかにさえぎった。
「呼び捨てで結構ですよ」
「じゃあ、バロシオン。精霊が人間に触れるとその箇所が、精霊の多くを普通の人間でも感じ取ることができる、解釈はこれであっていますか?」
バロシオンは目をぱちくりさせたが、エリムの質問の意図に気づいて頷いた。
<はい>
「では、剣の所有者であるビリーに話しかけることはできますか?」
<距離が少し遠いですが、十分に話せます。先ほども話していましたし>
エリムはそれに少し驚きながらも、うんうんと相槌を打つ。
「それなら、しばらく僕達はここに留まる、と伝えてくれませんか? 彼女、動けそうにないので」
<わかりました。・・・それにしても、あなたの頭の回転のよさに舌を巻きます。アポシオンと話があいそうだ>
そういいながら、バロシオンはまた蹴り飛ばした扉の向こうへ行ってしまった。
エリムは、静かに震えながら自分をかき抱いたエーシャの頭を撫でた。涙をこぼす音、ひとつひとつに耳を凝らしながら、ゆっくり目を閉じた。
*
開け放たれた窓からさわやかな風が入ってきた。音もなく風は空の香りを運んだ。カーテンが少し揺れ、俺達の間に緊張の糸がはりめぐらされる。
<鬼のようです。柱の影に隠れたほうがよいでしょう>
見えないことをいいことにアポシオンが堂々とダンスホールの真ん中に立っている。音を立てないように俺とヘックが言われたとおりにする。
俺はアポシオンに言われる前から複数の鬼が近づいていることに気づいていた。、確か前に『剣術の習い』生徒と合同で隠れ鬼ごっこをやったことがあった。そのとき、どちらの役もやったけど、あの頃の生徒の気配の消し方に比べたら、こっちの鬼は気配だだもれだと思う。
やっぱり質が違うのかな。
やがて、かすかなきしむ音と共に扉が開いた。それと同時に叫ばれた第一声。
「ど~~~もっ!!」
<プハッ!>
挨拶とも奇声ともとれる大声に、アポシオンは(鬼達に)聞こえないことをいいことに吹き出した。誰かが思わず吹き出すと、やっぱりつられて笑いたくなると思う。うん、ほんとに。
「気づいていると思うけど~うん、自分達は鬼役の騎士だよう。だけど、ちょっと普通の鬼とは違うんだよねぇ」
アポシオンはさっと顔をくもらせた。たぶんビルから連絡? が来てなかったんだと思う。
叫んだ風変わりな騎士は後ろにもう一人の騎士を従えながら、ダンスホール内に立つ柱に目を走らせた。
「出会ったらルール、っていうんだよ。自分達、赤いバンダナを身体に巻いた鬼はその出会ったらルールが適用される。それでさあ、出会ったらルール? 何のことか知りたくないかい?」
そしてその変ちくりんな騎士は宙に向かって手を差し出した。
「自分は普通の鬼じゃないよ、ジアン・マクシア君? それにヘック・カーロン君、出会ったらルールは自分と、自分に出会った新兵全てに適応されるからね」
ッ!?
あそこの妙な騎士はここに誰がいるか分かっているのか?
アポシオンの顔を見ると、静かに返してきた。
<どうやら、それは嘘ではないようです。大人しく出て行くことをお奨めします。わたくしは、ビルに連絡しておきますゆえ>
ヘックもそれでいいか、という意味をこめて見やると、満面の笑みで返してきやがった・・・失礼。返してきた、だな。
俺らが大人しく、二人の騎士にも見える場所へと歩いていくと、精霊は俺達からも見えない位置へ移動していた。
「よかった! 気配の消し方の独特さで君らは特出しているからね。見つけやすかったよ、そうだろうワイス?」
「いえ、副班長の嗅覚が犬以上にあるだけです」
「答えにならないじゃないか、ワイス」
「十分な応答だと自分では思っていますが、何か不足しているというのならば補足をどうぞ」
「まあ、いいけど」
・・・ちょっと変わりすぎだ。村にこんな個性的な人間というか人種いたか? いやいない! 世界は宏、ちがっ広しとはいえ、変わりすぎではないだろうか。
「すまんのだけど、鬼さんよぉ」
おっ、ヘックは冷静に話し戻してくれるのか。
「出会ったらルールっとや何のことですかいな」
よかった。期待を裏切らんかったヘック、よくやった。
ワイスと呼ばれた堅そうな騎士が事務的に答えた。
「我々赤いバンダナを体の一部に巻いた鬼と、その鬼に遭遇したかくれんぼをしている人物全てに適応されるルールだ。簡潔に述べると、出会ったら、鬼の決めた決まりに基づいて脱落か否かを二人だけで争うということだ」
「鬼が決めた決まり?」
出会ったらルール、やっぱり分かりにくい。
「そう! 自分が決めたのは、『自分に出会った人物はこのルールに従うこと』と『決着がつくまで、鬼が触れたら脱落という法則を無効にすること』、それに『脱落は両者の同意を得た対決によって決める』、そして『このルールを相手に理解させること』この四つだ」
『決着がつくまで、鬼が触れたら脱落という法則を無効にすること』? つまり、対決が何であろうと鬼に触れられても、脱落にはならないってことだな。それに『両者の同意を得た対決』、ってことはこっちにとって不利な条件を出してきても、俺達には拒否する権利があるということ。
「そのルールは取り決める鬼によって違うんですか?」
俺が聞くと、副班長と呼ばれた頭のおかしい騎士は嬉々として答えた。
「もちろんだよー、ジアン君。ただ、すでに設定されているルールを適応させるわけにはいかないけどね~」
なんか、そう言われるとムカつく。暴言を吐きたくなったが、すんでのところで押し留まった。
「じゃああなたの名前は?」
「えー、自分? 男の名前聞いて楽しい?」
「・・・前言撤回」
「は?」
「黙れ、この糞へんちくりんクルクルパー」
「せめて副班長だよ~、ジアン君。おさえておさえて」
「なにが、ジアン君だ。気持ちわるいわ、しまいには吐くぞコラッ!」
口をポカーンと開けたヘックは驚いたようすで言った。
「ジアンってこんなキャラだったかんな! 人は見かけによらんねえ!」
それってどういうことだよ。なんか外見で判断されてるんですけど!
「すまんな。君達が新兵の割に少々骨がありそうなんで、副班長は浮かれすぎている。――まあ、それは自分とて同じこと。問答無用に脱落、などという無粋な真似はさせん。故、自分は対決に決闘を望む。負けたほうが緑の間へ戻る、そういうことでお相手所望する、ヘック・カーロン」
あれ、なんか堅そうなワイスさん。実に悠長におしゃべりなさいますね~。で、それでヘックはワイスさんとやると。じゃ、俺は?
あの鬼畜馬鹿騎士? 断固拒否する!
「いいっすよ。何処でやるんでぇ?」
うわあああああああっ! 何実にテンポよく話が進んでんじゃー!!
「そうなると、自分とジアン君でやるんだね」
「そうなりますね、副班長」
「そうなるなァ、ジアン」
三者三様で認めてるー!! 認められたくねえー!!
「では、ヘック・カーロン、離れた場所へ移動しますか」
「おう」
があああああああああ! 俺の意見を聞いてくれーーーー!!
「さてどうするか、ジアン君」
自然に俺の肩に手を置いた変人騎士。
どうするかだって? それじゃあ、とりあえず。
「とりあえず、ジアン君は止めろ。気持ち悪い」
「じゃーアンちゃん?」
「気色悪いわ!」
なんというか条件反射で、きもい変な趣味有りそうな騎士の顔に渾身の一発を叩き込んでいた。
パシッ。軽い衝突音、耳に届いたのは顔の鼻やらが、折れる醜い音ではなくて。
しっかりと握っていた拳は誰かの大きい手に掴まれていた。状況を把握しようと顔を上げると、変人美形の騎士が満面の笑みで、俺の拳を片手で捕らえていた。その目とあった途端、言われようのない威圧感というのか圧迫感? が俺に向かってびっしりと突き刺さった。
強い・・・、もしかしたら先生よりも。でも、先生の本気は見たことがないから、わからない。
「驚いた・・・」
ぽつんと呟いたのは鬼畜眼鏡・・・って眼鏡って何だよ、鬼畜変人野郎だった。
「ジアン・マクシア、自分に拳を受けさせるとは・・・」
すみませーん、やっぱり脳ミソ逝っちゃってますかー。ちょっと殺気にピリッときて、いいこと思ってたのに。更に意味わかんないし。
「いいだろう! 今のは宣戦布告としておこう。自分達も対決といこうじゃないか。こっちも決闘、剣で一本勝負! どちらかが参ったというか、将軍の起床時間になるまでだ」
はい、すみませーん。モニターの前に座っているあなた、小さい機械の画面を見ているあなた、誰かー此処の席と代わってくださーい!
なんというか、ヒアの語りだった頃よりもテンションがおかしいです。
来週は、私事で更新ができないかもしれません。今週といってもあとわずかですが、土日を使って書き溜めておきます。なんか最近、うぇぶ上が(自分の周りだけですけど)寂しい気がします。
批評(内容が荒らしではない物)でも全然かまいません。ちょっぴりとげが刺さっても、抜ける程度ならがんばりますので、応援よろしくおねがいします。
(あ、でもこれは鬱陶しいのかな?)