表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
番外編1 三ヶ月の訓練期間
42/65

【番外編1-2】かくれんぼ

「これより、かくれんぼを行う!」

 いきなり素っ頓狂なことを聞いた俺たちは、固まった。いや正確にいうと俺は、多分ビルもだろうけど、今日はかくれんぼかあ・・・とか普通に考えていた。『剣の習い』がある生活がすっかり身になじんでいたようだ。

 ただ、あの日の朝咲き乱れていた花壇が、火にまみれて音をたてていた、その時にビルに思い知らされた事実が、遠い日のように思えるだけで。


「鬼は我々正騎士が行い、新兵諸君らには逃げてもらう役だ。範囲はこれより移動するリク城内で、やってもらう。朝食は後だ」

 どうやら俺の頭が正常に動き始めたのは、リク城についてからのようだった。

 初めて入った城というものが目に入ったおかげかな。

 新兵たちが、リク城で最も広い広間で緑の間というらしい(後で知った)ところに集まると、何段か高い中心の舞台で監督とディオン将軍の騎士が立っていた。そして手のひらサイズの小さなベルを高く上げ、鳴らしてみた。カラァン、軽い音がする。


「制限時間はディオン将軍が起床なされる午前八時までの三時間とする。時間を過ぎれば、城の鐘がなる。それまで見つからなければお前たちの勝ちだ」

 ディオン将軍の騎士はにやりと笑みを浮かべた。監督もその騎士と同じような表情で、新兵たちに問いかけた。

「質問なんてあるか?」


 質問? あやふやな部分が多くて困るぞ。

「監督ー、もし見つかったらどうするんですか」

 お、ビルが聞いてくれた。まずはそこだよな。

「見つかったら、この間に戻ってもらう。ああ、そうだからこの間に隠れることは禁止な」

「俺も質問です」

 そうして質問を新兵たちがそれぞれ質問をしてきた。


 質問で分かったことをまとめるとこんな感じになった。

 まず俺達は、リク城の緑の間と将軍が寝起きする部屋以外で隠れること。鬼の騎士や監督に見つかっても、逃げ撒いてまた隠れればよし。鬼に見つかってタッチされれば、脱落として緑の間に戻ることになる。

 それと、この城に仕えている侍従などに触れられても、脱落とはならないが鬼の騎士などに問われれば、侍従たちは素直に答えるので隠れていても無駄だということ。一人脱落するごとにベルが短く鳴らされるということ。また、全員脱落すれば俺達の負けらしい。


「抜け穴とかないよな?」

 ビルが俺に聞いてきた。抜け穴っていうのは、俺たちが見落としたルールがないかということだ。

「多分。あ、でも鬼がどれくらい待つか聞いてない」

「そりゃ、きついわ」

 かくれんぼが開始されたと同時に、俺たちは逃げるようにこの間から出て行くとして、鬼が同じように俺たちを追ってくれば直ぐに追いつかれてしまう。


「それで、これ以上質問はないな? じゃあ早速はじめようか。第一位騎士のウル殿、合図を」

 監督は、俺たちが聞いてないことがあることに気づいたのを知ってか知らずか、隣の騎士に合図を頼む。

 わっ、まずい。開始と同時に走れるように準備しとかなきゃやばいぞ。

 俺は近くのエリムとヘックに一応声をかけておいた。二人は頷いてくれたが、ビルは?

 お前はどうするんだよ。


 俺がビルに目を合わせると、ビルは“俺に構うな”とでもいうように、首を横に振った。

 は? どういう意味だよ?

「では・・・・・・始めっ!」

 叱声が耳に届く瞬間、新兵たちは緑の間唯一の出口である扉に向かって殺到した。

「ジアン、早く!」

 俺はエリムに手を引かれて人ごみの流れに巻き込まれていく。だけど、俺はビルから目が離せなかった。


 ぎゅうぎゅうに押し寄せる肩が、いくつもぶつかって痛い。エリムに手首をつかまれていたと思うが、八方が人人人な状態ではそれも定かではない。

「ビルっ!? お前はっどうするんだよ」

 後から後から押し寄せる人影の間から、見えたビルはただ微笑むだけだ。返答は返してこない。騒音がすべて消えたように、頭の中に軽い鈴の音が響く。

 リィンッ。

「ビル!!」

 そして扉が、鈴の音を掻き消すように、大きな音を立てて閉まった。


                                *


 ガシャガシャと鎧が音を立てた。

 俺たちは壁に張り付いて、直ぐ傍の廊下を走っていく騎士に見つからないように息を潜めた。音が遠ざかっていくのを感じると、緊張を解いた。

「はあ~、緊張すんなぁ。これ」

 ヘックが大きなため息をつきながら言う。

「それより、俺はなぜビルがあそこに残ったのか分からない。これも訓練の一部だろうに」


「でも、ジアンが一番付き合い長いんじゃないの?」

 エリムがちょっと痛いところをついてくる。

 はあ、ビルはこっちに来てから様変わりしてるんだよねー。といっても、俺は前のビルのことだって少ししか知らない。

「・・・まあ一応そうなんだけど。ここに来てから、よく分からない行動ばっかりなんだよ」


「まー、ビリーは不可解だからな。とりあえず逃げきらんと、どうにもらんとさ。移動してからにしようや」

「まあ、そうだよ。ここで止まって考えるよりはいいんじゃない? だって・・・」

 エリムが妙に声を潜めた。・・・そういえば人の気配が、おかしいほどしない。

 まずいっ!

「鬼が来てるんだしッ!」


 ダッ!

 俺たちはエリムの声を最後に、それぞれ絨毯のひかれた廊下へ走り出した。

 鬼に触れられればそのまま脱落――。ここの通路が十字路でよかった。

 俺はヘックと一緒にそのまま右の廊下へ、エリムはそのまままっすぐ進んでいった。

「エリムっ! 脱落すんなよー!!」

 ひとつ壁の向こうで、強く床を踏みしめる音が聞こえた。



 俺とヘックはさっき逃げた所から、階段を下り緑の間より小さめな広間に出ていた。小さなダンスホールのようだ。

 ホールという部屋の性質のせいで、支給された靴の足音がよく響いた。

 天井は普通の個室よりも高く、きらめくガラスでできた装飾の付いた、シャンデリアがかすかにゆれて透き通るような音をなびかせる。

 部屋の南側に白いレースのカーテンが取り付けられた窓があり、朝の心地よい空気をダンスホールの中に送り出していた。カーテンがゆっくりとはためき、俺の頬に涼しい風を送った。


 ダンスホールの四方には立派な柱がたっていて、そこからかすかな息遣いが聞こえたような気がした。

 そして不意に肩を叩かれたっ!?

「ッ?!」

 すばやく振り返るとそれが誰だか視認する前に、まぶたに触れられてその冷たい感触にヒヤリとした。咄嗟とっさに飛びのくとそこに――もう見れないと思っていた、顔が見えた。

 服装はずいぶん違うけど、間違えようがないほど似ていた。

「せん・・・せい?」

 呟くその声はかすれていた。


 その姿は微妙に薄く透き通っているようだったが、それはきっと勘違いだ。

 先生は、口を開いてぱくぱくと何か言っているようだった、けど何も聞こえない。

 そして、先生は「そうか!」とでもいうように手を打つと、俺のほうに手を伸ばした。

 え? せんせい・・・?


 思わず後ずさりしそうになったが、その顔が動かないでと言っているようで、動けなかった。

 先生の白い指が俺の耳に触れた。やっぱり先生の指は冷たかった。

「先生・・・? 先生なんですか?」

 先生は首を横に振った。その様子がどことなくビルに似ていて、脳裏にあの意味深な微笑がよみがえった。

<わたくしは、十四代目リオンのジュディアではありません。十五代目の使いでございます>


「・・・ビルの?」

 俺が半身半疑で尋ねると、彼女は上品にはいと答えた。

<わたくしのことは、お気軽にアポシオンとお呼び下さい。そして、貴方は十五代目との絆を持っていらっしゃるリオンジアス・フェブリーヤ様でよろしいでしょうか?>

 どうしたらいいか迷いながらも俺が頷くと、アポシオンは優しく笑みを見せた。

<返答は心の中でしていただいて構いません。そのほうが、あちらの方にも都合が良いでしょうし>


 あっ! ヘックのことをすっかり忘れていた。何か奇妙なものでも見るようにこちらをチラ見してきていた。

 あとで弁解しておかないと変人扱いだ! それはごめんこうむる。

 アポシオンが俺の心を読み取ったのか、声を上げて小さく笑った。

<うふふ、大丈夫です。彼にもわたくしがお会いしなければなりませんから>


 そういえば、あなたは一体・・・?

<あの時、村の武器庫で十五代目とお会いしましたでしょう? その時二振りの剣を持っていたと思います。その剣は代々リオンが受け継ぐもの。わたくしはその剣の片方に宿る、精霊なのです>

 そうなんですか。・・・って、それよりビルの使いで来たんでしょう? 何かあったんですか?

<いえ、十五代目に危険はありませんよ? 自ら投降いたしましたから。十五代目は、あなた方三人を脱落させないようにわたくしを使わせたのです>


 ・・・でも、エリムと分かれてしまったんですよ?

<ご心配は最もです。ですが、わたくしは二振りの剣のうち、一振りに宿る精霊。もう一方の剣にも宿っていると考えられませんでしょうか、精霊が?>

 なるほど! ありがとうございます。それで、ヘックはどうするんです?

 アポシオンはにっこりと笑った。やっぱり、先生に良く似ていた。


<これからご挨拶に向かいますわ。リオンジアス様、ご一緒いたしますか?>

 様って・・・。

 様がつぼで俺の笑いが止まらなかったのは、本当に封印したい話だ。

 そのときは鬼のこととか、かくれんぼとか、あまり考えずにケラケラ笑っていたかった。

 あ、ヘックが、どうびっくりするか楽しみであったりする。

週一を目指している笹沢です、どうも。

番外編書いていて思ったのですが、リブシア影薄っ!!

初登場で僕っ子はただ一人だったのですが(精霊なしで)、増えて、まずポルディノ、モデラン、エリム、(あとバロシオン)と僕っ子は意外に作者好みということになっています。すみません。

シェイも微妙に影薄いですね。はい、当初はブランとシェイとポルディノぐらいでお兄さんグループ的なものを作ってもらいたかった・・・


次回は、ちょっとエリム視点(三人称)で新キャラは登場しますよー。

リオンでは需要の少ない女の子です。ですけど、期待は過度にしないでくださいねー。

あとがきの口調が明らかにおかしいと思った方、すいません、微妙におかしくなってもスルーの方向で、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ