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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
番外編1 三ヶ月の訓練期間
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【番外編1-1】三ヶ月の訓練期間

 ビルは目の前にあるものを指差し、言った。

「こっこれで行くのか?」

 それはそうだ。だって目の前にあるもので移動するんだよ。ていうか、俺たちみたいな新兵が、もっと高級な乗り物に乗れると思ってたのか? そんなわけないよなあ?


「俺にコレは無理だ!」

「コレよわばりはに失礼だ!! いい加減慣れろ!」

「ジアン~!」

 ビルがすげえ怖がっているのは、そう馬だ。いたって普通の生き物だ。ビルもほかの生き物は普通に触れる。

 それなのに、なぜか馬を(?)怖がっている。俺はそれが不思議でたまらん。

 あとそれをいじるのが楽しくなっている。面白いから!


「お前が、性格変えればいいんじゃね?」

 俺は何気なくいったつもりで、そこにはなにも魂胆なんていうものはないのだが、ビルは「あ、そうか」といって表情と態度、それに声の調子を変えて馬に掴みかかった(?)。馬は必死の抵抗をしているようだ。

「馬! 噛むなよ、踏むなよ、動くなよ!? おい」


 くっくそぉっ! お、おもしれえええっ!

 俺は吹き出さないように口を押さえていたが、腹が九の字に曲がって痙攣けいれん(?)していたので笑っていることは、一目瞭然である。

「ジアン、何やってんだよ・・・」


 必死に笑いをおさえて、振り向くと俺の同室者、エリム・マドゥカが馬を連れていた。

「エリっぷははははっ!」

「言いかけながら、笑うのはやめてくれない!」

 エリムは俺に突っ込んでおいて、自分は連れていた馬の背にひらりと乗った。その姿勢は軽やかなもので、長年馬に乗ってきたことがわかる。

 馬がすきだ、ということは前から聞いていたから、そうだろうなとは思っていたけど、予想以上にきれいな動きだった。


「そろそろ出発らしい。荷物を乗せて、騎乗したまま門へ集合、だってさ」

「了解っと。あいつにも言っとかなきゃ、だな」

 エリムはここへ来た理由を言いながら、馬相手に悪戦苦闘しているビルに目を向けた。

 やべ。俺が見たら、またわらける。そういうことで俺は、目を向けなかった。

「向こうにいるのが、話してたビリー・ヘンリル?」

「うん、そう。あいつ、剣は上手いんだけどなあ・・・」


 エリムは騎乗したまま、馬をビルの方向へと向かせると、歩き出した。馬のひづめが地面の砂に跡を残す。

 俺も自分に割り当てられた馬の鼻面を撫でてやり、ぎこちない手つきであぶみへと足をかけくらの上へとのった。

 えーと、どうやって歩かせるんだっけ。マクシアン隊長に教えられたのを、思い出しながらエリムの後を追う。


「ビル、こっち振り向きやがれ」

 俺が声をかけてやると、ビルは面倒くさそうに振り向いた。

「なんだよ。こっちは忙しいんだ」

「俺の同室者、エリム・マドゥカだ。エリム、騎乗と進ませ方を教えてやってくれない?」

 エリムは「よろしく」といいながら、馬から降りた。彼の顔には実家のことでも思い出したのか、優しい笑みが浮かんでいた。いい友達になってくれそうだ。



『俺は、お前の言葉信じるよ』

 俺がビルに、リオンに、こう言われてから一ヶ月近く経っていた。そして、俺が父さんから無断で持ち出した『魔鈴ますずきずな』で絆を結んで一ヶ月――。

 ビルは、村を出る前の自分が思っていたのとは、全く違う人だった。努力家で、おおっぴらに自慢はあまりしない。実はあいつの周りは、とても近づきやすい。誰とでも仲良くなれるが、自身はそれに気づいていなくて、孤独だ。


 そしてさらっと俺が一番大切にするものを勝ち取った。

 俺はあの時、その言葉が心に響いた瞬間、生まれ変わったのかもしれない。そのとき気づかなかった深い青の瞳が、それにビル自身が変わっていたせいかもしれない。ただ俺が前と少しでも変われたことを、よかったと思っている。


 俺はビルが好きだ。友達として、人として、俺は尊敬したくなる。

 ただ、ビルはどうなのだろう?

 俺に『ビル』と呼んでもいいと言ってはくれたが、それはただの友達だ。はたから見るとあいつは誰にでも平等に接しているように見える。ただの友達なんて、沢山いるのかもしれない。



「ジアン」

 エリムの明るい炎のような髪が揺れる。エリムのほうを向くと、落ち着かない様子で馬の背にまたがるビルの姿が見えた。

「おー? やっと乗れたな、ビル」

「くそ・・・死ぬほど疲れた」

 エリムは笑いながら、馬の尻をペシンと叩いた。

「うん、これでいいよ。手綱、ちゃんと握っててよ」

「?」

 ビルは何かわからずエリムを見つめ返したが、すぐ何を意味したのかわかるようになる。

 馬はいきなり走り出した!


「ちょ、え!? エリム~~~!!」

 ビルは大きい声で叫んでいたが、馬はそれを問答無用完全無視で走り去っていった。

「あれでいいのかよ」

「うん、師匠直伝だよ?」

 エリムが馬に再び飛び乗ると、城のほうから一頭の馬が駆けてきた。馬の背には俺たちと同じような格好をした新兵が乗っている。


 新兵は俺たちの手前で馬を止めさせると、くちを開いた。

「おめーら、ビリー・ヘンリルって知らんか? 俺んとこの同室者なんだけどよ」

 そういえば、ビルの同室者って・・・

「もしかして、ビルの同室者の、ヘック・カーロン?」

 馬が少しいなないた。新兵、いやヘックは声を上げた。


「おお~? もしや、やっこさんが、ジアン・マクシア? そいでそちらさんが、エリム・マドゥカ? けったいなことやなー。おうよ、俺がヘック・カーロンさよ!」

 俺たちは互いに名乗りあって、ヘックがビルのいうとおり、人のいい性格だと思った。

 ヘックが思い出したように言う。

「あ、そうや。ビリー探さねいと」

「ビルなら、先に城門へ・・・って! 集合かかっているんじゃなかったか? エリム」

「えっああ! ごめん僕忘れてた! 急いで向かわなきゃ、間に合わない!」


 互いに大きく笑いながら、馬を急がせた。あとから、ビルにこんなことを言われそうだった。

『お前ら! 俺に馬のこと教えろよ!』


                                *


 新兵訓練の監督を務める中級騎馬隊第一班班長を先頭に、馬で俺たちは数時間西にただっぴろい道を走っていた。訓練場というのは、主城から俺とビルの村までの距離よりも遠いらしい。集合するのが遅かったせいで、俺たち四人は結構集団の後ろの方を走っていた。

 後ろというのは結構きつかったりする。集団が撒き散らす砂埃を直に受けてしまう。現に俺は咳がよくでてしまう。エリムは微妙に背が低いので、目にも入ってしまうようだ。

 それに見通しが悪い。人が多くて前になにがあるかわからない。


 先頭が、今まで一本道だったのにも分かれ道についたとき、前から歓声が伝わってきた。訓練場が見えてきたらしい。

「まだ遠いぞ~!」

 と、監督の声も聞こえてきてその歓声は、げんなりとした声になりかわった。正直、長い間馬の背で揺られているのは、とても疲れる。特に腰とか。


 分かれ道の片方をまた一時間半ほど行くと、後ろのほうの俺たちにも訓練場が見えてきた。訓練場はとある将軍の主城であるらしい。

 その将軍というのは貴族らしく、王家の恩寵を受けているらしく、それまた豪華絢爛な城であった。王城よりは勿論のこと控えめではあったけど、貴族というものは派手好きらしい。


 因みに、俺達新兵は王の住まれる王城内に入ったことはない。城門の内側といっても、兵士用に建設された宿舎と、文官たちが働く棟を行き来したぐらいだ。



 もう夕暮れに差し掛かったころ、俺たちはやっと訓練場の城についたのだ。門を城門に立つ見張りに一応礼儀として会釈をしながら、くぐった先にそびえ立つ城。最後の人が門をくぐると、門は見張りによって閉められる。それを確認した監督は声を上げた。

「お前ら、馬から降りろ」

 俺たちはそれに従う。ビルはなぜか降りるのが上手かった。


 馬の背という高い視線から降りて、見る城はとても大きく感じられた。

「でかいな」

 ビルが一言感想をのべた。うん、俺もおんなじ気持ちだ。ただビルの顔色が微妙に悪いような気がしたが。

「おうよ。王城ほど、とまではいかねえけど、結構でかいと思うぞ」

「僕の実家の近くにある城よりも大きいかも・・・」

 それぞれこの城に圧倒されているようだった。俺はされてたけどね。


 すると、城の影から何人かの騎士を連れた男が現れた。監督はその男に向かって深く礼をした。

「アドボワール・リク・ド・ディオン将軍様、この度は新兵訓練のためこのようなご立派なリク城の施設をご提供いただき誠にありがとうございます。これより三ヶ月間よろしくお願いします」

 そして最後に敬礼をした。俺達新兵もそれに習い、敬礼をする。


「いやいや、ザナイス・イ・ヒスタ中級騎馬隊第一班班長、この国の未来を担う新兵の訓練に力を貸すことができ、こちらも本望だよ。こちらこそよろしく。諸君、頑張ってくれたまえ」

 ディオン将軍は偉そうに早口にいうと、連れた騎士を残して何処かへ行ってしまった。

 ふうん、あれが貴族か。結局は血筋なんだよな。

 血筋といえばいやでも思い出す、フェブリーヤ一族。


 そうか、なんか見覚えというかそんなものを感じたのは、俺らフェブリーヤが同じことをやっていたからか。

 子供は生まれてくる場所や親を選べない。すべて偶然なのに、生まれた家が違うだけで扱いが違うのは不当だ。人間はすべて平等ではないのだろうか。

 生まれ持つ資質とか才能はたぶん、皆一緒なわけがない。だけど、生きるっていうことにおいては平等なはずじゃないのか? 生きたいから俺たちは呼吸をするわけで、食事をするわけで、その点においては血筋だろうが、関係ないんじゃないのか?


 ――そうか、俺が父さんに逆上したのは、これに気づいたからなのか。

 時間が目の前を通り過ぎていく風のように、流れていく。

 俺たちが寝泊りする宿舎に案内され、食堂で食事を食べ、それぞれの個室の寝室で布団を被っても、俺の頭はもんもんと働かなかった。


 俺の頭が正常に動き出したのは、翌朝日の出もままならない時間帯に起こされたときだ。これには『剣の習い』のおかげなのか、ぱっと目覚めることができた。『剣の習い』の集合時間は朝食の前だ。俺らの村では、その準備が日の出の頃に行われるので、これくらの時間に起こされるのが、しょっちゅうだった。

「え。なに? ・・・習い』なわけないよね」

「何寝ぼけてんの。集合がかかってるんだよ、ジアン。今すぐ着替えて食堂に下りて」


 起こしにきてくれたのはエリムだった。エリムはほかの人も起こさなきゃならないのか、じゃと手を上げて部屋から出て行った。

 急いで顔を洗って着替えて、帯剣をして食堂に下りていくとすでに沢山の新兵が集まっていた。たいていの新兵は眠そうだ。食堂の前には、ディオン将軍の騎士と監督。エリムがしばらくして帰ってきた時、監督は声を張り上げた。

「これより、かくれんぼを行う!」

この番外編はとても長くなると思います。それでもお付き合いください。

また、更新も不定期ですがなるべく早く書けるように、努力いたしますので、今後ともよろしくお願いします。

番外編が1-1となっているのは、違うバージョンもいつか書きたい、というか書かせてください、という願望が隠れているというのは、ここだけの話ですよ。頑張って完結を目指しておりますので、応援よろしくお願いします。

最後となりましたが、本編を楽しみにしていらっしゃる方(そのような方がいるのか不安ですが)、自分の身勝手のせいで本編が微妙なところで途切れてしまい、申し訳ありません。ですが、この番外編がこのさきの展開の伏線となるよう努力しますので、お読み続けてくださいませ。


それでは、このあたりで。

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