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リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
第六章 『葬式の儀』に哀愁を
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【第6章14】出会い

 涼しげな風が、己の髪を撫でていく。冷たく澄み切った夜空ではかなく瞬きを繰り返す星たちが、隙間なく空を覆いつくしている。月は出ていなかった。今夜は新月だろうか。時折、空よりも黒い雲が、風に流れていく。時刻はまだ、その日を四月二十日としていた。だが、日付が変わるのは、それほど遠い時間ではない。


ポルディノはそっとまとめあげた荷物と、矢筒と弓を手に持ってテントから出た。そして誰も外を出歩いていないか見渡すと、ポツンとひとつだけ、光っているランプの光を目指して歩き出した。


ランプの近くへ行くと、だんだんそれを持っている人影が見え始めた。

(オゥン様・・・)

その人の顔がはっきりと見えるほど近づくと、オゥンは驚くほどやつれていた。

オゥンは時折、咳をしていた。


オゥンは擦れ声でいった。

「はやく来れ。ポルディノよ」

オゥンはランプを持って木立の中へと入っていった。ポルディノは駆け足交じりにオゥンについていく。静かな夜の中、足音がよけいに響く。木立の中は常葉樹でもあるのか、落ち葉が落ちていた。

落ち葉を踏むたび音がする。


ランプの光が急に振り向いた。わずかな星明りも木々にさえぎられて、さっきよりもオゥンの顔が青白く見える。

「ポルディノ、何の話かわかっておるな」

「はい」

オレンジ色の光は現実味がしない。ポルディノの身体からも、熱がさぁっと冷めていく。


「この話は時期をみて話せ。よいな」

「承知しています。オゥン様」

ポルディノはその場に片膝をついてひざまずいた。木から散った葉がちくりと膝を刺す。

オゥンは身じろぎひとつせず、ポルディノを見つめた。


「ルテーナに時期よりも早く知られた場合は、包み隠さず全て話すのだ」

「そうします」

風が吹き付けてくる。

「のちに出会う旅人らには一足早く話しておくべきだろう」

「肝に銘じておきます」

大きい雲が星を隠してしまった。ほとんど自然に存在する灯りはもう二人の所から見えなかった。


                                  *


“ 木曜日

それにしてもやはり不思議だと思う。我らの一族にも一応は、魔術師ウィザードの血は流れているが、かなり前のことだ。親戚であり我が友、(本人の希望によりイニシャルを記すだけにする)L・Fは両親ともに魔法とあまり干渉しない家に生まれている。それなのに、Lはなぜ魔法を使えるのであろうか。

Lと共に、リーディアを旅するあいだとても不思議思うことである。Lによると、血筋は関係ないという。だがネイロを訪れた時、親戚のほぼが魔法を使える、という人と会ったこともあった。Lにそれをいえば頭から反論されることだろうから、これは言わないでおくに限る。

一度、魔法が使える者とそうでない者の違いを聞いたとき、彼は素質と努力だ、と答えた。詳細は俺のような者にいってもわからぬから、いわぬと言っていた。Lの答えを聞く限りでは、我々戦士と同じではないか。詳細とはなんのことであるのか、俺にはあまり関係がないのだが、気になるのは変わらん。


そういえば、Lには子がいたな。その子にも魔法が使えるようになるのだろうか。今後も気になることだ。”


リオンは十三代目の記述をみて口をパクパクとさせた。まるで魚のようだ。

<・・・あのぉ? 十五代目、口に出さずとも思念で伝わるのですよ?>

<十五代目、のちの名がバカな魚剣士となって知られてたらどうするんですか>

真面目なコメントとツッコミが混じったコメントを受けて、リオンは我に返った。


(わ、悪い。このL・Fってもしかして・・・・・・親父かも)

<<十五代目の父親ッ!?>>

(いや、はもるな。耳・・・じゃなくて頭が痛い)


リオンは指先が震えるのを押さえられなかった。どうして震えるのか自分でもわからなかった。

(俺の親父は、ロドニゲ・フェブリーヤ。話によれば、この記述が書かれていた頃も放浪していたらしい。イニシャルもあってるし。魔法が使えたかとかは知らないけど)

<それではまさしく、彼ではありませんか!>


仮定として考えて当てはめれば、ぴったりとはまる。まだ不可解な部分も残るが。

不可解な部分というのは、例えば実際に十三代目とリオンの父親が一緒に行動していたのかということ。例えばL=ロドニゲならば家庭内で魔法を使わなかったのはなぜか。

などと挙げられる。

「そもそも、親父は今度また何処へ行ったんだ?」


                                *


 アーリア。そこでは細い三日月が見えていた。黒い雲も空の隅や山の向こうに追いやられて、あまり見えない。レベッカは薄っぺらい毛布の中で唯、空を見つめていた。目線を少し下げれば火がまだついている焚き火の向こうに、見張りとして座っているグレイが見えた。グレイは身じろぎひとつしないが、寝息も立てていない。レベッカの奥、つまり野宿している洞窟の奥のほうに、規則正しい寝息を立てるニィラが転がっていた。


互いに遭遇しあってから名乗った後、ほとんど警戒されることなく、レベッカはグレイとニィラと共に、夜を過ごすこととなった。グレイは半ば注意をレベッカに向けていたが、ニィラが何やら話すとその注意はこの場の外へと向けられていた。

グレイにとってすでにニィラは信頼を勝ち得ていた。




レベッカは思う。こんな幼い子供がなぜ、と。

(せいぜい十歳くらいの女の子を連れた、よわいの不明な男。どうみたって親子でも血縁でもない。なのにどうして・・・)

幼いころの自分に重なる。ニィラがたった一つの選択を、今のレベッカと違う選択肢を選んだような、不思議な感覚がした。


容姿はもちろん、物言いや性格が違うのに――。

呟きは火花がはじけて飛ぶように、流れ星が尾をひいて空駆けるように、暗闇へと消えていく。


 レベッカはとりわけ普通の家庭に生まれた。ただ、隣に仲のよい夫婦が住んでいただけだ。

――悲劇なんかじゃない。ただ、人間のさがゆえ起きたことであるだけ。

レベッカが物心つくようになるまでは、ただの幸せだった。

――記憶がないのが少し残念に思うだけ。正気でなんかいたくない時ほど、『残念』が『残酷』にきこえるだけ。


その夫婦はよくレベッカの家へ遊びに来ていた。そのたびに自分たちに子供がいないのを寂しがる。

――あのね、おじさん。わたしはね、おじさんの子供じゃないんだよ。

そして家にきてはレベッカを可愛がった。

――あのね、おばさん。わたしはね、おばさんの子供じゃないんだよ。


レベッカの両親とその夫婦はとても仲がよくて、レベッカの両親が一日ばかり家を離れることになったときは、レベッカを夫婦に預けたりもした。恐怖の念がレベッカに色濃くうつっているにもかかわらず。

――わたし、ここに居たくないよ・・・・・・?


レベッカは首を振った。無理やり疼く胸を抑えて、目を固くつぶった。

(ただ、今を――――)


                                 *


 静かに動く時計の針が、十二を指し示した。

今この瞬間から、四月二十一日が始まった。リオンがホールの開いた扉を見やると、思ったとおり人数分の人影が立っている。

「よう」

ジアスの家に行っていた三人だ。

「遅れてない、よな?」

「さっきなったばかりだよ。さあ入ろう」


三人が入ると、わずかに床にかかれたルーンの環が瞬く。

「今更だけど、ちゃんと装備は整えてあるよな?」

シェイが人の悪い笑みを浮かべた。リブシアが長いため息と共に呟く。

「さっき何回も確認したくせに」


「俺なら大丈夫だ。・・・そろそろトワンからお呼びがかかるだろうな」

リオンが笑いながら準備済みのリュックと、二振りの剣が腰に帯びているのを見せた。

しばらくして床にかかれた環が光り始めた。それにあわせて環の中心にあるマークが回転を始め、一周するたびに光の環が天井へと昇っていく。

そしてトワンの低い声が響く。

われが其処へ呼ばん。我が名を呼ばん。我が名はトワン。其処の者よ、我がルーンに触れよ』


「およっ!?」

ジアスが素っ頓狂な声を出した。ほかの二人もぎょっとした顔をしている。きっと魔法なんてものにはあまり縁がなかったせいだろう。

リオンは苦笑しながらルーン文字にひとつひとつ触れていった。そして最後のマークに触れる前に、忠告をしておいた。

「目をつぶっておいたほうがいいぞ? まあ見たいなら勝手だが」

「「「?」」」


三人は意味がわからないというように、首をかしげたがすぐに光の柱ができた。そして、何も見えなくなった。



 きっと三人は目をつぶらなかったらしい。光がはじけて、目がくらんでいるようだった。リオンたちはただっぴろい丘の真ん中に突っ立っていた。そして脇に立つトワンを見つけた。すそがぼろぼろに切れたドレスをなおも着ているトワンは、王女という地位を失っても気品があふれていた。

「これから、どうするんだ?」

「汝には関係あらぬ。帝国から追っ手が来ぬのならば、自由にするのみ」

「そうか」


丘の南側にはテントが幾つも置いてあった。そして北側には木立があった。先ほどまで室内にいたリオン(ほかの三人は無反応なので除外)にとっては風が冷たく感じられた。

「じゃあな。また会おう、リオンよ」

「ああ」

トワンはリオンを一瞥すると、高く飛び上がって自分の行きたい所へ、と飛んでいった。


しばらくリオンが余韻に浸っていると、三人の目くらまし(?)が解けた。

リオンが口を開いた途端、木立のほうから足音がした。木立を抜けてくる人影がする。

「嘘だ・・・ろ?」

赤い宝石がはめ込まれた剣の柄を強く握ってしまう。木立から出てきた人影は、小柄な老人を抱えていた。

「バロシオン――?」





                                      続

やっと6章を終わることができました。

ということで、すぐあとの更新は前に予告しましたように、番外編としてちょっとした話を書きたいと思います。番外編は長くなると思います。そのあいだ、本編はちっとも進みません(過去の話ですからw)。ですが、今まで読んでいただいた間、その片鱗さえもでなかったような感覚を覚えてくださるといいと思います。


ちょっとした次回予告をさせていただきたいと思います。

本編【第6章7】語る者 の冒頭でジアスが何か話していました。その話をジアスの一人称でお送りしたいと思います。戦闘シーンになると三人称になるかも、ですが今まで見えなかった二人(ビルとジアスですよ?)の成長と新しき仲間達の友情を少しでも感じていただけましたら、私の喜びとなりましょう。

軍に入ってから一ヶ月が経ち、文官の見習い仕事が終わった新人の軍兵らとビル達。その後の所属を決める三ヶ月の訓練期間が始まろうとしていた。


4章の魔法講座あたりを読み返していただけますといいかと思います。

では、今日はこのあたりで失礼させていただきたいと思います。このあとも、リオンのことをご愛読していただけることを願いつつ。

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