【第6章10】隊長と先生 3
「ジュディアー、ヒア君のタイプわかった?」
タイプ? なんだそれ。
ドラントが俺の疑問に答えてくれた。ていうか俺、顔に出やすい?
「ヒア、お前分かってて状況を言えって催促したんじゃないのか? タイプっていうのは、戦闘における攻防タイプのことだ。どのような攻撃と防御が戦いやすいかっていうのを区別したもんだよ」
「はあ・・・」
「ん~とヒアのタイプは、主君に仕える忠実な騎士だね!」
ジュディーがキラッキラの笑顔でいう。ナイト? 詳しく説明を求む。
「騎士っていうのは、主君(仲間)を守るためだけに実力を発揮するタイプだよ。どんな状況もペアで組ませた方が力を発揮しやすいみたいだね」
疑問一。そんな簡単な動作だけで診断できるのか?
「答え一。ジュディアは特別だから。だって次期リオンだし」
モデランが当然のように俺の疑問に答えた。
疑問二。俺の心が皆に読まれてるのは何故か?
「答え二。自分で声に出してるんだよ」
「何気に、さっき大きな事言わなかった?」
「ん? ジュディアが次期リオンだってこと?」
・・・思考ガフリーズシマス。
えっと、ジュディーがフェブリーヤって名乗ってた時点で分かるべきなんだろう。つまり、さっきから村村いってたのはかの有名なフェブリーヤ一族が揃って住んでいる、大規模の村。で、この三人はその村の住人?
「ちなみに俺とモデランは、一族の血をひいてはいないぞ? 俺の嫁が一族の者だけど」
「ちなみにボクとジョウ君は親戚なんだよ」
「いやモデラン、それ関係ないし!」
でどうすんの?
「夜になったら突撃ぃー! するだけ」
「・・・はい?!」
*
「ほかにもやりようがあるって? 例えば?」
「闇討ち・・とか」
「暗殺業じゃあるまいし。そもそも、ギルドを全部をぶっ潰すならギルド員全員いたほうがいいじゃん」
うぐっ。それもそうだが、真正面からやらなくてもよくね?
「ほら、もうヒア君特有の面倒くさいがでてる」
「オヤジの加齢臭みたくいうな!」
「ホラ、もうすぐ向こうがくるみたいだから、警戒強めて」
上手く話をずらされたような感じがするけど、さすが一流戦士。俺は全然気配読むの上手くないからなー。
モデランが腰に差している二つの鞘を見て、俺はいった。
「あれ、モデラン二刀流だったの?」
「意外?」
モデランのニカッと笑った顔は、男らしくみえた。
「いや意外っていうか、刀はまだ存在してたのか」
「まあ剣のほうが量産できるっていう理由で、刀は一時期激減したけど、刀鍛冶にこだわる人は幸いまだいてね。それに剣より刀の方が軽いからボクに扱いやすいし」
だんだん沈んでいく太陽を見ながら、モデランは目を輝かせながら語る。
でもその肩は微妙にこわばっていた。のん気に語っていても、常に緊張して気を張っている。
すげえな。
これが一流か。
本当の一流ってのは、公私混同しないヒトじゃなきゃなれない。
常に狙われる事を覚悟し、日々の日常を目一杯楽しみ、戦いにおいて理性を保ち、身勝手な理由を持ち込まない。決して揺るがぬ決意を胸に秘め、一心に自分の信念を貫く。優しさと同情の境界線を常に理解し、憎しみと愛を取り違えることのなき心で、敵に慈愛をもち悲しむ。
一流だな・・・
「ほらヒア君、団体さんの到着だよ」
「はあ・・・、いっちょやりますか」
*
「なにしてるの? ルテーナ」
ポルディノが、竪琴をポロンポロンならしているルテーナに近づいた。
「荷物のなかに入れる前に調律したくて」
ポルディノを見上げる彼女は、さきほどまで泣いていたとは思えないほどにこやかだった。
「ねえ、ルテーナ。今日さ町に行かない?」
「町?」
「そう。ちょっとした『青鷺団』お別れ会でもしない?」
腰掛けていた椅子から立ち上がったルテーナはいった。
「二人だけで?」
「ほかのみんなに知られちゃいけないみたいだからね」
「そっか。じゃあ行くよ」
二人ともラフな格好で野営地を離れた。ルテーナは小さい袋に竪琴を入れて、ポルディノは財布と護身用の短剣を手に町へ出掛けていった。
町へ着くころにはもう完全に、空が夜の色に包まれていた。
街灯がちらほらと立っていて、夜の町を照らしているが、空の明かりたちも輝いていた。
「それでどこに行くの? 兄様」
「ん~、どこか行きたい所ある?」
「決めてないんじゃない」
クスクス。そうやって笑うルテーナが、ポルディノにとってとても愛おしかった。
「そうねえ、じゃあ適当な宿でルテーナの演奏会開いちゃおっか」
「演奏って言っても竪琴しかないよ」
「リュートでもあれば最高なんだけど」
「エーシャが居ればよかった?」
「うん!」
エーシャとは団員の名前だ。彼女はリュート弾きと作曲に秀でた才能をもつ。
二人の兄妹は一番に目に入った宿屋に入っていった。
夜の早い時間だが、扉を開けると酒のにおいがした。年明けの祝祭が近いという事で、みなが浮かれている気分なのだろう。
二人はカウンターの宿主の所へ歩いていった。
「宿泊かね?」
「いえ、僕たちこの宿で歌わせてもらいたいんですけど」
ポルディノが営業で身につけた笑顔で宿主に言う。
「・・・あんたらの申し出はありがたいが、実力とか名声のないやつならここに五万といるからねえ」
「名声ですか・・・、私達理由があって所属の団体はいえません。だけど、実力ならあると思います。そうですね、ひとつ聞いてください」
ルテーナは宿主の声を挟ませずに、一通りいうと、声を静かに響かせた。それは一階のたまり場になっている部屋全体に響いた。
全能の神が愛でし赤子 神と人の間に生まれし英雄は
十二の冒険へと出掛けん 後に生まれし武勇伝
永久に詩人にて 語り継がれん
最後の言葉を歌い終えると、満足そうな顔をしたルテーナは、宿主に聞いてみる。
「どうです? 私の歌は」
宿主は救いを求めるように客の顔を見回したが、誰もルテーナの歌を聞きたいと顔にかいてあった。
「うぐぐ・・・。いいでしょう、御願いしますよ」
*
「貴様らだな? あんのふざけた紙を貼り付けやがったのは」
頭らしき男が無駄にでかい声を出す。耳がキンキンするぞ。
「そう、といったら? どうするの」
・・・?
あれ、モデラン。女声で何を言ってるんだ。いやいや、それほどまでに女顔で細身だからって騙せるわけが
「女なんかに倒される気になられるとは、こっちも舐められたもんだなあ!」
なっ! あったのかよッ!
「フフン」
ちょい? モデラーン、かえってこーい。いや今はモーラか! (←いまさっき命名した)
なぜ俺の顔をみて笑う? 口元が上がりすぎて怖いんだけど!
「まあ、連れのほうは弱っちぃガキみたいだな!」
むかッ! あんな髭ボウボウに言われたかねえわ!
「やれるもんなら、やってみなさいよ。結構強いんだから」
「やってやろうじゃねぇかっ! お前ら、やってやれ!」
「「おおおぉおっ!」」
ああ、むさくるしい。
敵が脇目もふらずこちらへ全速力で走ってくる。にこやかなモーラは(いやもうモデランか)隙のない様子で刀を二振りとも鞘から引き抜いた。
「ボクのタイプはね」
なぜか唐突にモデランが話を振る。今そんなのん気な状況!?
「孤高の賢人だって」
「なんだその賢人って。よく出てくる昔話のアレか?」
くすりと笑いながらモデランは続ける。
「そ。ジュディアも言ってたけど、珍しいタイプなんだって」
敵がモデランにむかって大きく振りかぶってサーベルを振り下ろす。モデランはそれを手を振り払うかのように軽くあしらう。
ガッ!
「だいたいの賢人ってのは魔法使えそうだけど」
そういっている俺にも敵が向かってくる。敵はブーメランのような形をした小さな金属を幾つも投げてきた。俺の目にとってそれは全然遅い。俺の腕でも弾き返せる!
ガキンッ キンッ キンッ
「でも、見掛け倒しなんだよね。魔法が使えそう、だけど武器を扱う」
くるりと一回転して、モデランは二刀流を生かす。あとからあとから来る新手に、前の敵と共に斬りつける。
「そうか、あんたのタイプは、奇術師と、いっても差し支えないってこと?」
俺も足手まといにならぬよう、近づいてくる敵共を斬りつける。
「そういうこと! でも本業の奇術師に真正面からいっちゃダメだよ」
「誰が言うかっ!」
「「お前ら! 覚悟しやがれ! お前達のギルドはぶっ潰す!」」
この台詞、言いたかったんだよねえ、とモデランがのん気そうに笑う。だけど、あいつらに挑発って。
力を増させるだけじゃねえか!
しっかし強いな。そろそろ疲れてきてもいいころ、っつっても疲れてるのはこっちの方だけど。
はあ、やっぱりモデラン強いな。なんか健康のために運動をしてるみたいな笑顔なんだけど。実は戦闘狂?
「あ、ヒア君まだいける?」
「忘れてたみたいに、言うな! まだいけるって」
俺は汗ダラダラでとても余裕とはいえない。
「だけど、ほんっと騎士だねっ!」
「誰が騎士じゃあ!」
ああ、早くこいつら逃げてくれ! そうしないと俺の体力は持たん!
それに事実上、俺とモデランでギルドをつぶしたことになる。あの二人が向こうに居る意味がない!
「くそおっ! こいつら化け物だぞ」
「多数でやっても倒れないとか、ありえねえ!」
「おいっ、逃げるぞ!!」
ああよかった!
頭がそう叫びながら尻尾をまいて逃げていく。そっちにはジュディーとドラントがいる。二人なら余裕で殲滅できそうだ。
「はあ、疲れた!」
俺は疲労の末、その場にしゃがみこんだ。
「おつかれー。ヒア君、充分な素質だね。これなら、他の討伐系の依頼が来てもボクらと一緒でだいじょう「誰が好きこのんで、あんたらについていくかあッ!」
本当に疲れた・・・。体力の半分は、この厄介なお客人らに突っ込むことで消費された気がする。
ああ、厄介だ!