表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リオン -剣術使い-  作者: 笹沢 莉瑠
第六章 『葬式の儀』に哀愁を
31/65

【第6章6】グレイとニィラ

グレイとニィラ中心にまわっております。

リオンたちは全然出てません。長いこと更新してなかったわりに内容は薄いですのであしからず。

 「どうしてグレイおじさんは、言葉知ってるの? みぃんな知らなかったのに」

ニィラが自分の顔に添えられたグレイの手をきゅっと握った。

「この言葉は、わしの国の言葉だ。今の時代でいう古代語ではないぞ。それよりも古い言葉だ」

「えぇっ! じゃあ、どうしてあたしは知ってるの?」


「それは、お主にわしの国がまだあった頃の民の血が濃く流れ着いておるからだ。本当は今のリーディアには、お主の様な者が沢山おるが、自らが気づいておらんだけだ。ただそのような者は、魔力の度合いが濃いことが多くてな、精霊魔術師フェアラウィズとなるから、気づかないのだ」

「ふぇあら・・・いず? 何、それ?」


グレイは口元がもじゃもじゃのひげに覆われているのを知らないように、笑った。だが、ニィラにはただ目を細めているようにしかみえなかった。

「精霊とあって話をしたりする事ができる魔術師ウィザードだ。ただし、お主はなれんぞ」

「えぇ~。どうして?」

「魔力が体外にでることがない体質だからだ。その証拠に『生命の源ロディーヨフ』が見えるのだろう? お主は『』の代わりに『生命の根源ロディーヨフィラ』を持つのだから」


 『生命の源ロディーヨフ』とは全ての生きとし生きようとする者、植物、動物、さらには特殊な道具ルーンアイテムなどにある、急所であり強みでもあるものだ。例えば、人間の『生命の源ロディーヨフ』は頭と心臓だ。どちらも剣で一刺しされれば、致命傷・死傷を負う。だが、頭を使って、剣を持って向かい来る剣をなぎ払い、多少の行動で苦しくならない心臓となれば、弱点であり長所ともなるのだ。


そしてこの『生命の源ロディーヨフ』を見る事が出来る目を『生命の根源ロディーヨフィラ』という。今のリーディアにはこの目を持つ者はとても稀少だが、グレイの母国が存在していた頃はそれほど珍しいことではなかった。そしてこの目に見つめられた病人や怪我人は、その前よりも治癒力が増し治りが早くなるのだ。


』とは精霊を見ることのできる目のことをさす。グレイの母国が存在していた頃は生きる民全てが『』を持っていたが、今は魔力の度合いが濃い者の中でも一部しか持つ者がいない。『』を持つ者は、精霊に触れてもらう必要なしに、言葉を交わしたり触れ合う事ができる。


 「ついでに言っておくが、ニィラ。お主、治してくれぬか? この腕を」

そういって差し出した腕は、外傷は見えない。だがニィラは顔を真っ青にした。

「おじさん・・・・・・、何やったの!」

「ちょっとばかし、木から落ちてな」

「もうすぐ真っ赤に腫れちゃうよ! 貸してっ!」

ニィラはグレイの怪我していない方の腕を手に取ると、怪我している方の腕の下に置いて交差させた。そして、カッと目を見開いた。その目にはドクドクと鼓動と共に波打つ血管が映っている。


 皮膚の内側では、時間を早送りしたような速さで損傷した筋肉や神経がつなぎ合わされていく。

ふいにニィラが目をそらした。と共にため息をついた。

「大丈夫か・・・?」

「あたしはね。おじさん、折れた小さな骨が筋肉に刺さっちゃってる。あたしの治癒力じゃ治しようがないの。お医者さんとか呼ばないと」

「だが、それは無理だ」

「え? どうして?」

「ここをすぐさま出なければ、この村にも被害が及ぶ」



 「おい、いいのか?」

「いいんだもん。だってあたし、孤児みなしごだからおじさん達がしかたなく引き取ったのよ」

「せめて、書置きでも残しておく方がよいのでは?」

「ううん。そうしたくないの」

静かに首を振るニィラの頭にそっと手を置いた。小さな顔がグレイを見上げた。

「いくぞ」

こくっと頷いたニィラの手を取り、グレイは村をこっそりと抜け出した。



 グレイは忌々しげに布で巻かれた右腕を見た。怪我しているほうの腕だ。本当は木から落ちたのではなく、敵の蹴りを急所から庇うために受けたものだ。

(あの操り人形ベクトーラと呼ばれる奴らは、なぜわしを追う? なんとしてもこの子だけは――――守りきらなければ)

左手は利き手なので特に戦うときは武器を持てるが、ニィラを庇うとなると右手は痛い弱点だ。一人きりで戦うとしても、右半身が隙だらけになるだろう。戦いで勝負を決めるのは間違いなく、この隙をグレイがカバーできるか否かにかかっている。


突然、ニィラが声を上げた。

「おじさんっ!」

「どうした?」

「『生命の源ロディーヨフ』がおかしな人がすごい勢いで来るよ!」

「ニィラ、下がっていろ」

「ううん。できない! だって、おじさんその腕じゃまともに戦えないよ!」

「まともに戦う必要はない。逃げる事ができればそれでよい」

「あたしだって! あたしだって、『生命の源ロディーヨフ』の働きを弱らせる事ぐらい、できるもん」

ニィラのぱっちりした目が二重に訴えかける。

そして、わずかなグレイの記憶が蘇える。


 『できんのだ、お前を連れて行くことなど・・・』

グレイのまだ若き頃の思い出だ。声がしゃがれていた。

『どうして!? わたしだって・・・役に立ちはしないけど、力になれるわ!』

相手の女性の顔はおぼろげだった。霧がかかったようにぼやけている。

『どうして、俺なんかに・・・』

『好きだからに決まってるじゃない! 一緒に居て欲しいのよ! 幸せなんかいらない。一分一秒どれだけのじかんだっていい。あなたと一緒に居られればいいのよ!』

女性にしがみつかれて、揺さぶられて――それで記憶は途切れていた。


 「おじさん!」

ニィラの叫び声が聞こえた。思い出に浸っていたグレイはハッと顔を上げた。もう『』に見えるほど近くに、操り人形ベクトーラは迫ってきていた。

「止まれ!」

「既に止まっているさ」

操り人形ベクトーラは単調に切り替えした。

「さて、そこにいるお譲ちゃんはどうしたのかな?」

「そんなことどうでもいい。それよりも教えろ。なぜわしをつけねらう?」

「それはご主人に聞いて欲しいもんだな」

「なぜ精霊がそのような格好をしているのだ?」

「普通だろう? 不自然か?」


「・・・・・・ねぇ、おじさんはなんていう名前なの?」

ニィラは二人の間に割って入った。

「は? 名前? シェ・・・ってなぜ教えなければならない?」

「だって呼ぶときに、精霊さんって呼ぶのもおかしいでしょ?」

操り人形ベクトーラは少し大きく目を見開いた。

「このお譲ちゃんも本当の姿が見えるらしい!」

「ううん。違うよ。あたしがみえ・・・」

ニィラが言い終わる前に、操り人形ベクトーラ(以下シェロン)はニィラの手首を掴んで引き寄せた。そして、どこからか短剣をとりだし、ニィラの白い首筋に当てた。


「大人しく、わが主の前に来い」

「それは脅迫か」

「お前の受け答えしだいによるな」

「どうすれば、彼女が解放される?」

シェロンは肩をすくめた。

「主人による。お前を従わせる為に彼女は必要だ、と思うかもしれないな」

「なぜわしなんだ?」

「主人に聞いてくれ。私はただグレイ・アーナスを連れて来いと命令されただけだ。ほかは何も知らない」


 「グレイおじさん、言う通りにして」

「っ!?」

「ティオ・アルバタゥ・セルディー・ウーヴァ・ユエド」

「・・・・・・クオーラ」

「レディオ! レノ・ロディーヨフ・グネ。ミィエ・フィーラ・ディケ・アラミル」

「ジョイ。・・・ウェイ・アン・ドゥーツ」

「おじさん――。ごめんっ!」

ニィラは短剣で傷が出来ても無視して、シェロンの『生命の源ロディーヨフ』に向かって瞳の力を流し込んだ。


突然シェロンは肩を痙攣させた。ニィラはその隙に短剣の届かない場所まで走った。だけど、その行動の間も目をシェロンから離すことはない。

「アドル!」

ニィラが大声で叫ぶとシェロンは、わずかな砂が舞い上がって、消えた。

「ニィラ!」

ニィラはがくりと膝をついた。地面に体が横たわった。


グレイはニィラの顔を見て思った。

(なぜニィラは、あやつと重なる・・・? そもそも、あやつは一体なんという名前だったのか?)

柔らかく艶のある長い髪をしたニィラの頬を、グレイはそっとなでた。

そのとき、かすかにニィラがうめいた。グレイは静かに空を見上げた。もうすぐ春が過ぎる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ