【第6章3】見えてきた光
「何の魔法だよ?」
<何かが召喚される喚環魔法・・・でしょうか>
<ルーン文字の並びから、環の中心に描かれたマークからしてそうですね>
「何が召喚されるんだ・・・・・・」
リオンたちはホールの床いっぱいに描かれたルーンの環の端に移動した。何がここに呼び出されようとも、それに真っ向から立ち向かう気なのだ。
環の中心のマークがくるくると廻り始め、それにあわせるかのようにリオンが持っていたエヴァーシオソードの光は点滅を繰り返す。段々剣の光は輝きを失い、それ自体がもつ魔力が薄れていく。
「魔力を吸収してるのか?」
そのうち、剣は鈍い金属音を響かせながら2振りの剣として分かれた。リオンはそのまま剣を鞘に収めた。
マークが廻るスピードが上がり、一周するごとに光が環となって天井へ昇る。そして厳かな呟き。
『我が其処へ呼ばん。我が名を呼ばん。我が名はトワン。其処の者よ、我がルーンに触れよ』
「何が来ても驚かないように・・・」
誰にいうとでもなく、リオンは言うと腰をすっとかがめてルーン文字のひとつひとつに触れていき、ホールを一周し最後に中心のマークに触れるとすぐに精霊が居る所まで戻った。すると光の環が光の柱となり、まぶしい光でその場に居た全ての者の目に覆われ見えなくなった――――。
*
「へ?」
それはリオンが目が見えるようになってから初めての第一声だった。
「どうして・・・って俺らが呼び出された!?」
そこは村の広場。
「・・・っ!って、それはどういうことだよ!?」
「あれ、シェイさん?それに・・・マクシアン隊長?」
「あれ・・・じゃないし!」
もともと広場に居たほとんどが静かに笑った。
コツと高い、靴の音が地に響き笑いがピタリと止んだ。リオンはそちらの方へ目線を向ける前に肩に担いでいた彼女の体をそっと横たわらせた。
「わたくしが呼び出しましたの」
ウェナことトワンはドレスのすそをつまみながら立ち上がった。美しい金髪に碧眼の生粋の貴族のような顔をしている彼女だが、邪悪な笑みは絶えず心に闇を隠していた。
「これはこれは、精霊であるはずのウェナ王女様。殿下自らここにおいでになられましたか」
リオンは相手を苛立たせるほど卑屈な態度で恭しくお辞儀をした。
「なっ!?」
「それともトワン、とお呼びしましょうか?」
「あなた、どうしてそれを・・・!?」
(なぜ我が精霊だと分かったのだ・・・?人間の姿になる魔法は完璧であるはずなのに!?)
「おー、すげえ。その魔法がかけてあってもちゃんと見えて聞こえるんだな」
「なんですって!?」
*
(さて、そろそろ気づくかな。あいつは・・・)
リスベス帝国ヴェルターラ城のある一室。ウォリス・エンドラーは連絡が入るのを待ちながら、愛用している剣を砥石で研いでいた。ときどき灯りに照らして刃の具合を見たり、そっと指でなぞったりした。ウォリスは机の上に開かれている手帳の何も書かれてないページを、ビリッと破りとると剣の刃に当ててすっとそのまま下に下げる。紙が真っ二つに切れると、ひとつ頷いて剣を鞘に収めた。
そのとき、頭に慣れない声が響く。
『エンドラー様、こちら操り人形486です。リストNo,1のグレイ・アーナスを発見いたしました。現在地はヒーディオン王国南部、アーリオ公国北東部にありますポールレ山脈地帯ふもとのアーリオの小村です。目標は小村の農家に宿を借りております』
『発見時はいつだ?』
『本日4月20日の正午前です。そのとき私が木々に紛れて周囲を見張っておりました所、小村のほうからかすかに騒がしくなったので様子を見てみますと、旅人が村に着いた途端倒れてしまっていたようで私はその旅人の風貌と顔、基本的装備を確認した所グレイ・アーナスと一致したためしばらく動きがないか見張りをしてから、今に至るまでです』
『ご苦労。村人に知れぬようそいつを連れて山脈に入れ。成功次第報告しろ。途中で目覚めたら気絶させろ。以上だ』
乱雑にそれを遮りきらせた。ウォリスは疲れ気味にため息をついた。
(皇帝に計画のトップにしてもらったのは有り難いが、これじゃロクに二人月について調べられないな。・・・・・・ッ!わざとか?これ以上当事者では無い者に知る必要はないと・・・・・・?)
*
リブシアは家一軒一軒まわりながら、ゆっくり協会のほうへ向かっていた。
すると、協会のほうから広場に向かって複数の人が歩いてきた。
「おや、リブシア君じゃないか?」
「ジアスのところのおじさん、おばさん?あれ、それに・・・」
「さっきの揺れが何か知ってる?」
「広場にとりあえず行ってください。15代目が何とか説明してくれますから」
「そうかね?じゃあ、行くか」
と、そのグループは来た時と同じように広場へ向かった。だが1組の夫婦はそれについていかず、リブシアと同じように見送っていた。その夫婦はジアスの両親だった。
「リブシア君、さっき揺れがしたあとにあの子の声が聞こえたんだが、それについて何か知っていることはないか?」
「え?聞こえたんですか、ジアスの声が?」
そのときガラガラと大きな音と馬の小さい鳴き声が協会のある方向から聞こえ、3人は音のするほうに注目した。そこからやってきたのは豪華な装飾の施された馬車、綺麗な身なりをした従者、美しい毛並みの馬、そして先頭の従者に何処かを指差して何か言っている村人のような質素な服装をした者。
「あれ、(先頭の従者に付き添っている村人のような者を指差して)ジアス?何やってるの?」
「おー?リブシアいいところに来た・・・って父さんと母さんッ!?」
「・・・今は何も言わんが、全て後で説明するというのなら文句は言わん」
「ちゃんと説明してくれるのなら・・・ね?」
「――分かった。ありがと、父さん、母さん。リブシア全部聞いたか?」
「うん。シェイさんから大体聞いてきたから大丈夫。だけど、その馬車とか・・・は聞いてないような気がするけど?」
「この一行は、王御一家とその直属の従者さんと下僕さんと侍女さんと護衛の人、あと広場に行く村人の皆さん」
首を伸ばせば馬車との間を少し空けて村人が興味津々と言った様子でこちらを伺っていたのが見える。
「へぇ~・・・って!?」
「もう一回繰り返すか?」
「いや、いいよ。ちょっと驚いただけだから。じゃあここから向こうに住んでる人皆来てるの?」
「ああ。ついでに元『剣の習い』生徒を先に反対側へ向かわせたけど?」
「よかった。じゃあ僕達は広場に行けばいいんですね」
「少し失礼」
いきなりエゴーシスが2人の会話にわって入った。
「・・・?このヒトは?」
「えっと、お名前伺ってませんでしたっけ?」
「私の名はオデュ・エゴーシス。我が国王の側近だ。そちらは?」
「僕は・・・」
リブシアはためらった。
(どうしよう・・・。コイツ絶対僕の事を知ってる。間接的にだとは思うけど、僕がやった事は全て知っているに違いない)
リブシアは助けを求めるようにジアスを見た。ジアスはリブシアの顔を見て何かがあったと悟った。
「こいつは俺と同い年の友達、リブシアです。何か御用でもあったんですか?」
「いや何、少し興味があっただけだ。気にするな」
馬車がガラガラと道を行く。ジアスとリブシアは馬車の先頭よりも前を行き、声が漏れないようにひそひそと話をしていた。
「どういうことだよ、リブシア。アイツと何か接点でもあるのか?」
「僕の父親がね・・・帝国のスパイなんだよ」
「それは・・・・・・知っている」
「父さんに影響されてスパイを手伝ってた。それをヤツは知ってるんだ。実際会ったのは初めてだけど、僕らの存在は確実に把握していた・・・。僕の名前を全部知れば、ヤツは絶対に僕に何らかの方法でコンタクトしようとする。だから・・・だめなんだ」
「やっぱり、アイツも帝国の一味か」
沈黙が2人の間に広がる。ただただ馬車の歯車の機械的な音がする。さっきまで早く感じていた時間が、とても遅く鈍く長く薄く引き伸ばされたようだった。
ついにリブシアが広場が見えてきた頃に口を開いた。
「シェイさんはね・・・、2人が居なくなってからわかったんだけど、自分で人を『殺し』てもその記憶がショックによって消えるんだ」
「えっ――――?そうなのか、・・・。そういえばブランさんは?」
「2人が居なくなってから・・・丁度今頃の去年にシェイさんと2人で、一緒に近くの村を漁りまわってた盗賊を懲らしめに行った時に・・・・・・何があったのかは分からないけど、盗賊は倒されてシェイさんは記憶を失いブランさんは居なくなった。その当時、村に帰ってくる予定日よりあまりにも遅れてて帰ってきてなかったから、元『剣術の習い』生徒が何人か行ったんだけど、シェイさんは気絶して倒れてて盗賊もその近くで気を失ってたんだけど出血による気絶じゃなかったらしい。シェイさんの剣と手は血に汚れてて、ブランさんらしき血の痕が点々と落ちていたそうだよ」
「悪い、今する話じゃなかったな」
「ううん、いいんだ。僕は・・・・・・」
リブシアが言葉を続ける前にジアスが立ち止まってそれを止めた。
「何かが広場で起こってるぞ。魔法とかに関係ありそうだ」
遅くなりましたが、明けましておめでとう御座います。本年も昨年と変わらず・・・いえ昨年よりも深く読んで頂ければありがたく思います。
サブタイトルは書き終わってから、
(あぁ、やっと見えてきたな~)
と思ったからつけた、まさしく今の心です。